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転移したからにはやるこたぁやるよ

 チャンスは意外にも早く訪れた。


 四時限目の授業は体育。

 教室で着替えを済まし、準備のできた生徒たちが校庭に向かっていく。このタイミングがチャンスだと踏んだ。


 推測通り、彩坂はスクールカーストの下位に属している。

 圧倒的な美貌の持ち主に関わらず、なぜそうなったのかは不明だが、とにもかくにも、彼女は常にひとりである。それを利用すれば、あるいは二人きりで接触するのも可能かもしれない。


 そうでなくても、向こうからなにか打ち明けてくれるだろうという希望もあった。


 すべての始まりは彼女なのだ。彼女からなにか言ってくるのが筋というものだろう。


 しかしながら、彩坂はなにもしてこない。俺に目を合わせるどころか、せっかくの休み時間を無為に読書で過ごし、俺をモヤモヤさせた。


 そう、まるで赤の他人のような。

 俺を異世界に招待したことなど綺麗さっぱり忘れているような。


 そんな予感を抱かせるほどの圧倒的な壁が、彼女にはあった。なんとなく近づきづらいのだ。


 であれば、俺から接触するしかない。


 着替えを終えた彩坂が、ひとり教室から出ていく。それを見届け、怪しまれないように数秒置いてから、俺も教室を出た。


 思わず苦笑する。

 自分から女子に近づくなんて、過去の俺ならひっくり返ってもできないことだった。これもリア充になった恩恵なのかもしれない。


 性別が違うだけで、俺たちは同じ人間なのだ。それほど萎縮する相手でもないのだ。この歳にして、俺もすこしずつそれがわかってーー


 ふいに俺は足を止めた。

 教室を出たところで、彩坂の姿がなくなっていたからだ。


 馬鹿な。

 あんぐり口を開け、俺は周囲を見渡す。

 なんの変哲もない学校の廊下。何人かの生徒が歩きまわっている。なにもおかしいところはない。


 いや。

 ひとつだけ、考えうる場所があった。女子トイレ。

 なんだ、用を足しにいっただけかーーと安堵することはできなかった。トイレから妙な音が聞こえたからだ。パシン、パシン、という、弾かれるような乾いた音が。


 ある直感に打たれ、俺はトイレの扉近くにまで歩を進めた。下手すれば妙な噂が立つ可能性もあるが、この際構っていられない。俺の予覚が正しければ、この状況は……


 瞬間。

 ーーやべっ。

 心臓が飛び跳ねるかと思った。

 トイレから高城絵美が姿を現したからだ。


 彼女は俺と目が合って驚愕の表情を浮かべていたが、数秒ののち、怪訝そうに口を歪めた。


「吉岡くん……なにしてんのこんなところで」


 言い訳しても仕方あるまい。覚悟を決め、俺も強気で言い放った。

「いや、変な音がしたもんでな。おまえこそ、トイレんなかで何してたよ」


「なに言ってるの? トイレに行く用事なんて決まってーー」


 パタン、と。

 高城に続き、トイレの扉が開く音がした。


 彩坂育美だった。

 しかしながら、彼女にいつもの可憐な風格はない。

 頭から水でも被せられたか、長い髪がしっとりと湿っており、肌に貼り付いている。片方の頬が赤く腫れているさまは、まるでさっきまで虐待を受けていたようだ。


「え……?」

 彩坂は小さい声を発し、俺と高城を交互に見つめた。


「もう一回聞くぞ。高城、おまえさっきまでトイレで何してた」

「ぐ……!」


 高城はすさまじい形相で歯ぎしりをすると、彩坂をきっと睨みつけ、逃げるように走り出していった。


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