やがて終わる永遠の夏空
第104回フリーワンライ
お題:
一粒の水
嘘つきの空
壊れた玩具
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
私がそれを一振りすると、雪が舞い散る。
私がそれを下ろすと、雪がはらはら降り積もる。にんじんの鼻を高々と突き出し、真っ赤な帽子の雪だるまが嬉しげに受け止めた。
そこはごくごく小さな空間だった。半球形に区切られた雪国の情景。
私はこの世界を自由にすることが出来た。
勿論本物ではない。
子どものころの私は、高価で複雑な仕組みの玩具よりも、こんな他愛ないスノードームを好んだ。飽きもせず、いつまでも雪を降らせたものだ。
「……ふう」
ため息と共にロッキングチェアに背をもたせ、空を振り仰ぐ。西の空に鰯雲がかかっているが、まずまずの快晴だった。強い日差しが容赦なく目を灼く。
しかし、暑くはなかった。
スノードームを頭上に掲げる。半球形の世界で雪が舞う。どれだけ長く触れていても、ガラスの表面は熱くも冷たくもない。
それが本物の雪国ではなく、偽物だからだ。
あるいは、この世界と雪だるまの世界が、完全に断絶しているからかも知れない。
ガラスは作り物の世界を封じる容れ物などではなく、異次元を仕切る小窓なのかも知れない。
不思議なほど、熱を感じなかった。
私がそれを振り下ろすと、ガラス容器は砕け散って、透明の液体とまがい物の雪片を飛び散らせた。
ずぶ濡れの雪だるまが私の足下に転がる。初めて触れる草原に頬を埋めている。
見ると、雪だるまの鼻が折れていた。ちょうどいい。この雪だるまは私だ。永遠に冬の世界を謳歌出来ると思い違えていた私だ。
子どものころ、世界には果てがないと思っていた。
今は、違う。
この世界には果てがある。
――スノードームと同じように。
かつて水の星と言われたあの惑星に比べれば、一粒の水にも満たない小さな世界だ。
空はいつまでも晴天で、私に嘘をつき続ける。
しかし、それもいずれ、終わる。
――スノードームと同じように。
『やがて終わる永遠の夏空』了
示唆だけするシリーズ。たぶん二作目。
どうも終末的な話になる傾向が多いなぁ自分。もう少し明るい話を書きましょう。明るく。楽しく。朗らか。
そういう系統はオチつけるの大変なんよね……