9.
翌朝。
登校すると、教室が変に騒がしかった。裏山が綺麗になっているとかお幸せなニュースが騒ぎの中心じゃないことは、すぐに察知した。
それ所か、険悪で峻厳な雰囲気。胸ぐらを掴んで罵倒し合う男子や、泣き出す女子達。
このクラスで王様ゲームでも始まったのだろうか。携帯を所持してない私には関係ないので、部外者の立場にいるが。
「お前が最後に高島と一緒に帰ったんだぞ!? 何で変だと思わなかったんだよ!!」
「俺と別れた時はいつも通りの愛里だったんだよ!! まじで、意味分かんねぇ……」
「にしても、一週間も彼女が学校を休んでたのに不審に思わなかったよな!!」
「……っ。つーか、大体俺と愛里の問題にお前には関係ないだろ!! 突っかかんなよ!!」
「うっせーよ!! 俺の方が先に愛里を好きだったんだよ!! それを、後からお前が奪いやがって……愛里ぃぃぃいいいい!!」
「嘘、嘘だよね……愛里が、愛里が……」
「うっ。ひっく、あたし、愛里と一緒に住もうねって約束してたのにぃ……」
「やだよ……嘘だよ……あんなに優しくて、皆の人気者が殺されるはずないもん……」
「でも、昨日。あんなに警察来てたじゃん……なのに、救急車は動いてなくって……」
「愛里が、五人目の……被害者……」
参加してなくても、状況を把握した。
こんな離島の一高校が抱えるには余りに大きい複雑な問題事があったらしい。
「…………誰が殺したんだよ」
教室が水を打ったようにシン、と静まり返った。発言をした男子に視線が集まる。
死んだ少女の事が好きだったが、彼氏になれなかった男。Bとしよう。Bが発する不穏な空気に、誰もが口をつぐんだ。
「お前かよ?」
Bは胸ぐらを掴んでいた男を突き飛ばした。男は首を振りながら、怯えた目でやっていないと訴える。
「じゃあ、お前か? それとも、お前?」
教室をぐるりと見渡し、手当たり次第に犯人扱いをするB。そう簡単に犯人はいないだろう。Bが刑事になったら冤罪まみれになりそうだ。
そして、Bは止まった。
「お前だろ、なあ?」
イヤホンを装着して教科書を読む、彼……ラギの前で。
「お前が愛里を殺したんだろぉあああああああ!!」
Bはイヤホンを奪い取り、その先に繋がる細長い機器を地面に投げつけた。激しい音と共に破片が散らばる。
彼はようやく顔を上げた。
「だとしたら、どうするの?」
子供みたいな純粋な質問。Bがラギを犯人に仕立て上げるのには十分過ぎる材料となった。
奇声とも悲鳴とも似つかない声を荒げながら、Bはラギに突進した。Bの視界には机も椅子も入らないらしい。それとも、ソレに意識を払えない程ラギへの思いが強いのか。
「ぶっ殺してやる!! お前を!! ぎったぎたにして、切り刻んで、殺してやる!! 何で愛里を殺したんだよ!! お前が死ねば良かったんだ!!」
「何でって言われても」
「殺してない」
シン、と教室が静まり返った。
様々な視線が私に集まったのを感じるが、それよりもラギが私を見てくれた事に驚いていた。
「ラギは殺してない」
「殺人が起こり始めたのはこいつが転校してきてからだろうが!! それともお前か!? お前ら二人で俺の愛里を殺したのかぁああ!??」
「そう言えば、アンタも転校生だったね」
「うるせぇええええ!! 黙れ!! 愛里を返せ!!」
「うるさいのはアンタでしょうが」
静まり返った教室にざわざわと騒がしさが返ってくる。私への非難、Bへの擁護。
うるさい。何も知らないクセに。ラギに関わろうとしなかったクセに、勝手に推測するな。ラギは殺してない。ラギは異常じゃない。
アンタらが、異常なんだ。




