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7.

 総合の時間は憂鬱だ。

 協調性を強制されるし、どんな天候であろうと外に連れ出されるから。いっそのこと総合の時間なんてなくなってしまえ。

 真夏に相応しくカンカン照りの太陽を一睨みしてからグラウンド兼校舎裏庭に向かう。

 化粧が崩れるから嫌だと言った子か、日焼け止めを何重にも塗りたくる子か、誰か分からないが「げっ」と言った。

 はしたないな、なんて顔を上げて「げっ」と、顔を下げた。


「おぅい。チンチラ歩くな。今日の草刈りは長いぞ」


 教師が鎌を持って仁王立ちしている姿が見えた。アレを見ると夏を迎えた気になる。

 ため息をつきながら彼に視線をずらす。相変わらずブレザー着用の彼は、無表情だった。

 毎年夏になると、総合の授業の一貫として草むしりが行われる。袋を持って、与えられた土地の草を揃える。それだけ。

 先生方は面倒事を生徒に任せているとしか思えない行事だ。

 不満気な表情を見せるクラスメートを他所に、袋を持って輪から離れた。

 ぎゃあぎゃあ文句を言う生徒に混じるつもりはない。草むしりは面倒だけど、嫌いじゃないし。抗議に時間を費やす方が嫌。


 ぶちり、ぎちぎち。

 植物の断末魔の叫びは何とも呆気ない。それが良い。罪悪感なく命を奪えるから、死が匂わない。

 握って、入れて、千切って、入れて、大分重くなった。握って、入れて、千切って「うぎゃー」。

 振り返ると、彼がいた。


「……どうしたの?」

「草の気持ちを代弁しただけ」


 それで、あの悲鳴ね。


「草は喜んでるかもしれないでしょ。千切られて良かったって」

「そんなの、僕の知ったことじゃない」


 まあ、確かに。

 認めてしまうと負けた気分になるので、数回頷いて無視を決め込んだ。


「君は、友達を殺すのを躊躇わない?」

「…………」


 無視を決め込める、はず、ない。

 私が死なないならどうでも良い。そう思ってきた筈なのに、すぐに肯定出来ない自分がいた。彼と関わったからか。


「何故、その質問をするの?」

「先に僕が質問したはずだけど。答えは?」

「……理解出来ない」


 死だってマトモに理解してないのに、殺すなんて実感ない。それも、友達なんて……いないし。微生物くらいしか。


「じゃあ、君の質問に答えるけど。僕も意味が分からない。自分でも理解出来てない」

「へ?」

「じゃあ。別の場所に移動するよ」

「いやいや、ちょっと待て。話の途中でしょ。何で逃げようとするの」

「何でって」


 彼は目を丸くして、チロリと明後日の方向を見た。苦笑いして、何かを隠しているみたいだ。


「何さ……あ」


 無言で間合いを詰める先生と目が合った。普段なら、『友達いないんでサボらずやってますけど、なにか』と一蹴出来たがこれじゃあマズイ。

 現に離れようとした彼に私が突っかかろうとした構図になってるし。

 つーか、先生に気付いたなら分かりやすい反応で教えてくれたら良かったのに。


「杉野、川瀬。仲が良くて何よりだなあ。仲を深める為に特別授業をもうけてやろう」


 あーあ。築き上げてきた先生からの信頼が崩れてしまう。なんて、気にするタチではないけど。


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