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2.

「また、高校生が殺されたんだって」


 総人口十万人にも満たないが、面積だけある離島。

 かつては栄えていた名残だけが残るこの町には相応しくない言葉が飛び交う様になったのは、彼が転校してきてからだ。


「ねえ、聞いてるの? 早恵さえちゃん」

「ああ。うん。あの、例の殺人事件の話でしょ?」

「そうそう。もう四人目だよ。全員高校生なんだから、愛莉あいりも早恵も危ないんだよ」


 恐いね、と薄い返事を返しながら斜め前に座る男の子を見た。

 杉野柊すぎのひいらぎ。自然的な名前だが、見た目はTHE内向的だ。森ボーイ要素はない。

 常に季節外れのブレザーを着ている。今年の六月に転校してきて以来、一度もワイシャツ姿の彼を見たことはない。


 高校には珍しい転校生。しかも、東京からこんな田舎に越してくるなんて余計珍しい。

 苛めか、病気か。彼にナニかあると思い込んだクラスメートは彼と距離を置いている。怪しきは近付かない。私もその一人だ。

 苛められてはいないが、友達もいない。

 そんな彼を何故把握しているのかと言えば、私も孤立している側の人間だからだ。話しかけられたら返すが、基本は単独行動。

 一匹狼だね、と言われたことがある。けれど、狼だって群れを作る。なら、私は何になるのだろう。


「頭に顔にお腹に胸に、所構わず滅多刺しなんだけど、凶器は包丁とかナイフじゃないんだって」

「へぇ。不思議」

「だよねー。私はやだなぁ。死ぬなら、老衰が良いのに」

「死ぬ、なんて考えたこともない」


 まだ、十七歳。何もしていない。何も残せていない。どう生きるか考えるだけでも大変なのに、死ぬことなんて。


「物騒な時代になったんだよ。死は遠くない話なんだから考えとかないと」

「そうだね」


 金髪、カラコン、時代錯誤のルーズソックス。生を謳歌する彼女の口からは似つかわない発言だ。

 そんな現代になってしまったということか。侘しいね。なんて。


 自分勝手に喋り倒したら、彼女は別の対象者へと移動した。また、例の殺人事件を話の種にしているみたいだ。

 どうでも良い。殺人事件なんて。殺されてる子達は皆、素行不良者だった。その他大勢の私が、殺される筈がない。

 私が殺されないなら、興味ない。

 群がる蟻の一匹が踏み潰されて絶えたからって悲しまない様に、他人の死は私の心に響かない。


『アンタは異常だよ』


 響けない。

 私がワタシを手に入れた代償に失ったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれないし、私にも分からない。

 私自身私が分からない。そんなもんでしょ。


 今日もまた一日が始まる。

 人生八十年とすれば二万九千二百二十日の一日。七十万千二百八十時間の二十四時間。四千二百七万六千八百分の千四百四十分。二十五億二千四百六十万八千秒の八万六千四百秒。

 長い、長い一日。

 刻々と死へと近付くための一日。

 ああ、なんとなく。死への意識が沸いてきた気がする。

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