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7.こんなキスはいけません

 お化けダコは食べるのかなぁ~、焼いてくれるかなぁ~なんて、そんな期待がむくむくむく、わかっているけどもったいない気がするのはしょうがないこと。大きすぎると大味でおいしくないかもしれないけれど、こんだけぷりっぷりの肉を見て、ほっとくのはちょっともったいない気もする。刺身にしたっていいし、皮は湯引きして酢味噌和えしましょうよ。醤油や酢や味噌は、あるのだろうか……なさそうな気がするけれど、それでも塩でいいから食べたいところ。

 キャルの張ったガード魔法に片手をついたまま、くだらぬことを考えている間に、ジェンはさも嫌そうにナイフを拭い、拭い切れないべとべとを嫌がるように撫でた後、小川の水で洗い流した。あの様子では、捌いてくれたりしないだろう。ぶつ切りにして炙って食べよ~よぅとか言いたいところだけれど、ぶつ切りってなんて言うんだろう、炙るってなんて言うんだろう……残念ながら、言葉の壁が高くそびえ立っているようだ。

 キャルはといえば、投げたナイフを回収し、なにやら粉のようなものをふりかけ拭っただけで鞘に収め、ナイフを必死に洗っているジェンのほうへと近づいていく。そして、なにやらからかうように言いながら、その背中をポンッと叩いた。あれ、なんか、振り向いたジェンが、すっごく嫌そうな顔をしているよ。本当に、なんであんなに嫌がっているのやら……肩に軽く置かれただけの手すら、叩いて落としてそっぽを向いた。

 はっきり言って、キャルは美人だ。男の姿でも中々の美丈夫なのだが、女の姿ではさらに美しさが倍増している気がする。それなのに、ジェンの態度はあまりにも頑なで、疑問を禁じえない。とはいえ、なんでと聞けないのがもどかしく……私にはこんなに優しいのに、なんでなんで、疑問ばかりが頭をめぐる。

 キャルも、その態度をなんとかしたいと思うのか、少し考えるような仕草の後に、なにやら言っているよう。そう遠くはないのだけれど、音量抑えて語る言葉は、ここまで聞こえてこなかった。まぁ、聞こえたところで理解できるとは思えないけどね。

「ノッシー」

ジェンがいら立つように言い放ち、キャルを見上げたところで、キャルはその頭を柔らかく両手で包み込み、その端整な顔をほころばせた。そうして、ジェンの顔にずずいと近づけ……って言うには近すぎの状況で、こちらからはジェンの頭の影になっているからはっきりとは見えないものの、明らかに口付けしているらしきことが見てとれた。

「う、うわっ」

思わず声を上げたけれど、2人は全く気づいていないようなのが幸いか。これはまずいと背中を向けて、今の情景を振り払った。なんですか、あれは。戦闘を終えて、仲良くなろうとかそういうヤツですか、濡れ場ですか、修羅場ですか、いや、人前でしちゃだめでしょう。

 両手で顔を隠して頭を振りたててみたものの、今見た生々しい光景は、中々頭から消えてくれない。なにやら背後で声がするけれど、聞いちゃいけないと思って耳までふさいでしゃがみこんでいると、ガンッとけたたましい音がした。そういえば、さっき、お化けダコがガード魔法に当たったときも、そんな音がしたなぁなんて、思わず振り返って見ると、ジェンが、ガード魔法にこぶしをぶつけて、こちらを睨みつけていた。

 何事ですか! 思わず言いたくなるのはしょうがあるまい。この状況、いったいなんなのだ。痴話喧嘩が、もつれにもつれて飛び火した? なんでこちらに攻撃の矛先が向けられているのかわからないけど、必死の形相でガード魔法に手をついたジェンの姿は、なんだかちょっと怖かった。

 まぁ、それでも、お化けダコの触腕があたっても問題なかったこのガード魔法、ちょっとやそっとでこちらに来れるわけがないね、キャルさん、ちょっとジェンが落ち着くまで、このガード魔法を解かないでねとか思っていたら、バリンという軽い音とともに、何かが砕け散り、ジェンの手がこちらに伸びてきた。

 見れば、キャルもまた、珍しいものを見たとばかりにまん丸に目を丸め、こちらを呆然と見ている。ガード魔法が解けたというか砕けたというか、突破されてしまったらしいことに、キャルもまた驚いているようだ。そう、目の前で、あのお化けダコの攻撃にも耐えうるガード魔法が、ジェンの手であっけなく壊された。

 ジェンの手が私の手をつかみ、強引に引き寄せてく。まぁ、ついさっきまでだって、彼の手につかまれていたのだけれども、今回はかなりその力の入れ具合が違う。というか、加減も容赦もないその手の力に、手の骨が砕けてしまいそうだ。

「痛い痛い痛いーっ!」

さっきまで、どれほど加減して握っていてくれたのか、思い知らされるほどの握力、これって、あれだよ、リンゴが手の中で砕けちゃうどころか、指先で五百円玉が曲げられちゃうレベルだよ。

 その胸にぎゅうぎゅうと抱きしめられるけれど、キャッドキッドキーッなんてやっている余裕はさらさらない。むしろ抱きつぶされちゃうんじゃってぐらいにぎゅうっと抱きしめられ、頭から背中からジェンの手が這い回り、首筋に顔が埋められているこの状況、どう考えてもまっとうじゃない。

「やっ、何? ジェン、ジェン、何? ワッツ、ワッツ、キャル、何? 何? 何ーっ?」

とりあえずその手から逃れようともがいていたら、首筋がぬるりと濡れて柔らかな舌が這い回ってくる感触、抱きしめていた手があらぬところも撫で回してきて、乱れた衣服の隙間から、中に入ろうと探っている。ジェンの顔は見えないし怖いし、あきれ顔のキャルがまじまじとこちらを見ているし、はっきり言ってなんの拷問なのかと聞きたいところだ。

「あ~ぁ、ごめんね、怖がらせちゃって……いやぁ、失敗失敗、3人で楽しむのもーって思ってたけど、コレは失敗だねぇ」

不意に、キャルの声でのんきな言葉が紡がれたと同時に、ジェンの肩がぽんっと叩かれ、その力が一気に抜ける。その体を支え切れずに崩れると、苦しそうに荒い息を繰り返すジェンの顔がやっとこ見えた。さっきの切羽詰ったような恐ろしい感じは全くなく、酷く疲弊しているよう。お化けダコと戦っても平然としていたのに、何に苦しめられたのか……ってか、この状況、明らかにキャルがなんかしましたねっ感じだ。

「ってか、日本語ーっ!」

思わずキャルを指差して言うと、悪びれもせずに、キャルはこくこくと頷いた。

「カタコトだけど、しゃべれますよ。よろしくね、メイちゃん」

どこがカタコトだよと突っ込みたくてしょうがないぐらい流暢な言葉で、キャルはニコニコとそう言った。

「よろしくじゃないでしょ、何よこの状況……なんでジェンが変になっちゃってるのよ、何があったのよ、何したのよ、ってか、あんたなんなのよ」

こいつ、信用できないな、せっかく日本語がわかる相手が出来たというのに、残念ながらキャルへの印象は今回の件で地に落ちた。

「まぁ、仲良くやろうよってつもりだったんだけどねぇ~、失敗しちゃった」

「失敗しちゃったじゃないだろーっ」

「ソリー、ソリー、ソリー、ルゥ ワス バット、ユォ キャノッツ フィニッツ  セッペウィング フィールニン、ソリー」

「ジェンが悪いんじゃない! 確実にこいつだろ。キャル、今後こんなことするようなら、ぶった切ってやるからね」

「へぇ、今回の件は許してくれるんだ、ありがたいねぇ」

「……ゆ、許すなんて、誰も言ってなーい」

「ソリー、ソリー、メイ、ソリー」

繰り返し謝るジェンの頭を撫でてやると、顔を上げたジェンが、いきなり顔を近づけてきて……あろうことか、その唇しっかりと重ねてきた。かぶりつくような口付け、柔らかな感触……なんて言っている場合じゃありませんよ。

「ソーリーソーリー言いながら、襲ってくんじゃなーい!」

思わずその頭を叩いて立ち上がると、ジェンは突っ伏したまま動かなくなった。

財産:財布&携帯電話&鍵(元の世界のもの)/謎コイン(帰るためのアイテムかもしれない)/ナイフ×3/銀貨×5/シャコ虫の殻/手ぬぐい

装備:帽子/Tシャツ/Gパン/スニーカー

交流:ジェンシス(黒騎士)/キャルドリーン(金髪さん)

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