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1.いきなり異世界!

20150501:ちょっと誤字脱字修正。

20150510:はじめの部分をプロローグへ移動し、内容追加しました。

 私の名前は清水しみず めい、30歳独身の、ごくごく普通のOLだ。

 容姿はよくも悪くもなく、取り立てて気立てがいいとか凄い特技があったりとかいう要素もなく、普通の家に育った普通の娘で、自慢といえば背中の中ほどまで伸ばした黒髪だが、人によっては重そうだとかじゃまそうだとか言われる程度のもの。マイペースでてきとうで、人の期待の斜め45度を行くと言われたことはあるけれど、本当に、ごくごく普通の人間だ。

 とうとう三十路となってしまったショックはともかく、子どもの頃は大人だと思っていたおばさん年齢は、なってみると子どもの延長戦でしかなく、何がかわったのかと問われれば、困ってしまうほど。誰でもなれると思っていた花嫁さんにはまだなれず、適当に入った会社の営業事務として、日々机にかじりついている。

 子どもの頃には、花屋さんにケーキ屋さん、お茶の先生に保母さん……なりたいものはわんさとあったはずなのに、実際に手の届いたものといえば、何の技術もいらない事務員さん。そういえば、歌手やピアニストになりたいなんて、無謀なことを考えていたこともあったけど……絶望的なほど音感能力のなさを実感し、断念したっけ。

 何の技術もいらぬとはいえ、日々の業務はそれなりに忙しく、同僚と愚痴をとばしながらにバタバタ働いている毎日。それなりに充実していて、それなりに大変で、それなりに退屈で……通勤時間短縮のためにした一人暮らしも、寂しさが増しただけだった。

 そんな日々を彩るのは、以前から好きだった小説で、手軽さが嬉しくてラノベばかりを買い漁っては、年甲斐もな夢見ていたりもして……最近好んで読んでいる、異世界ものを手にしては、こんな幸運ないものかと、ため息なんてついていた。

 本当に、そんなことになる可能性など、皆無だったからこそのため息。現実になった今、そのため息の分だけ喜べるかといえば、そうではないのは当然のこと。どうやって帰るのか、そもそも帰ることが可能なのか、不安は山ほどあるものの、来ちゃったものはしょうがない。泣いたりわめいたりしても、誰一人周りにいない状況では、ただ虚しいだけだ。

 当然ながら何の準備もなく放り出された異世界旅行に、持ってこれたものと言えば、ポケットの中の携帯電話と財布と鍵……携帯電話は電波が通じないだろうし、財布のお金が使えるとは思えない、鍵を使おうにも鍵穴は元の世界だ。つまりは、すべてがじゃまなだけの無用の長物となっている。着ているものだって、近所に買い物に行くだけのつもりだったから、GパンTシャツにスニーカー、辛うじて帽子はかぶっていたが、それだけでは心もとないにもほどがある。せめて、アパートに戻って上着だけでも持ってくればよかったなんて、思ってみてももう遅い。

 異世界に来た時に、世界を救うような特殊能力が開花してたりするか……なんてことを期待してみたが、そんな気配はさらさらなく、チート能力も魔法能力も、私には縁がなかったようだ。

 これからどうすればいいのやら、この現象の解説をしてくれるような人物もないし、帰れるあても当然ない。ないない尽くしの冒険の始まりに、でも、ちょっとだけ、わくわくしちゃっていたりするのは、のんき過ぎだと叱られかねないしょうがなさ。明日の仕事の心配をしなくていいやという解放感と、物語みたいだと実感のわかない現実への期待感。

 本来なら元の世界に戻りたいと、悲壮感でも漂わせておくべきなのかもしれないけど、そんなことより何よりも、直近で心配なのは、ごはんと寝る場所と身の安全だ。そんな年ではないけれど、パパママと泣きたいなら、とりあえずベッドの中にもぐりこめるようになってからだ。この世界のヒトが私と同じくした人間ではないかもしれない、リザードマンとかオークとか、ちょっと怖い姿をしているかもしれないけれど、なんとかすがって生き延びて、ある程度安全確保ができて……それからだ。

「さて、どうしたものか……」

見上げてみても、木々の間に青空が見えるばかり。

 この世界に来る前は、宵の口だったことを考えれば、時間の経過が異なるのかもしれない。もしかしたら、元の世界に戻れたところで、浦島太郎状態になっている可能性すらある。その場合、暮らしていたアパートは家賃滞納で引き払われているだろうし、荷物は実家に送られるか、最悪処分されちゃっているかも知れない。私自身も行方不明者として捜索されていたり、足がかりを探そうと、パソコンの中まで探られている可能性もある……っは、ある意味絶体絶命のピーンチ……まぁ、それ以前に、帰れるかどうかも分からないのだから、それを心配してもしょうがないか。

 周りを見回しても、ただ木々が見えるばかりで、建造物らしきものもない……と思いきや、後ろの木々の向こう側、にょきっと塔のようなものが生えていた。おそらくちょっと歩くことにはなろうが、少なくともどでかい森のど真ん中で遭難寸前という事態にはならぬよう。そこに衣食住まかなえる場所があるのか……っていうか、そもそもここの世界のお金なんて持っていないんだから、どうしたものか……いやいや、それ以前に、人がいるかどうかすらわからない。とはいえ、木々しかないよりも幾分ましというものか。

 ふと見ると、私がバキバキ枝を折ってしまった木の中ほど、頭よりちょっと高い位置に、コインと同じ女性の横顔が刻まれていた。このコインとこの木とが引かれ合ってなんちゃらかんちゃらとかいう理由があったりするのかもしれない。そんな可能性を考えれば、この場所は覚えておいたほうがいいのだろう。致命的なほどの方向音痴の私に、それが可能かどうかはさておいて、大きく動き回るのは得策ではないのだから、近くに建造物があるのは御の字だ。

 塔のある方向へ向かおうと、その木の裏側に回り込んだところで、足先に何かがあたった。何かと思って拾い上げてみると、それは、刃渡り15cmほどのナイフだった。よく見れば、その木の根元にも三本ほど刺さっている。

 とりあえず、この森を抜けるにあたってのサバイバルで、素手よりナイフ一本でもあるというのは心強い。別にモンスターを倒すという気概があるのではなく、枝を断ったり蔦を切ったり、木の実を取るにも便利だろう。刃こぼれする可能性を考えれば、予備はさらにありがたい。なんでこんなところに刺さっているのかとか、そんなことはおいといて、ほくほくとそれを引っこ抜いた。

「明は、ナイフを装備した!」

くだらないことを言いつつ、とりあえず一本は手に持っておくとしても、残り三本どう持っていこうか……ちょっと困ってしまった。ポケットに入れるには大きすぎるし、鞘もない状態では穴を開けてしまいかねない。とりあえず急場しのぎでいいやと、蔦を三本切り取って、三つ編みにして腰に巻き、そこにナイフを突き立てておいた。

 人間欲深いもので、二匹目のドジョウというのはついつい探してしまうもの。他にも、なんかいいもん落ちてないかなぁなんて木の周りを一周し、何もないなと納得した。とりあえず、結構な時間ここで過ごしてきたものの、解説おじさんなり私を召喚した魔法使いなりというのはやっぱり出てこないものらしい。結構鈍感なもので、会社の同僚に後つけられ自宅チェックされてたり、休憩時間に読んでいた本を後ろから覗き見されてたりという間抜けなことがあったりするので、こっそり覗き見されてる可能性もなきにしもあらずだけれど……まぁ、出てこないものをどうこうできる能力はないし、危害を加えてこないのならどうでもいいや。

 とりあえず、さて改めてと、塔へと向かうことにしますか。

財産:財布&携帯電話&鍵(元の世界のもの)/謎のコイン(帰るためのアイテムかもしれないので売れない)/ナイフ×4

装備:帽子/Tシャツ/Gパン/スニーカー

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