対戦
高速道路を降り少し走ると景色が田畑ばかりになり、たまに家や小さな店が見えるくらいになった。
「はぁ……」
もうすぐいとこの家に着くと思うと少し憂鬱になり、思わずため息が出てた。
だってだだでさえ短い冬休みを自由に使えないなんて……私は家で最近はまってるRPGをやり込みたかったのにぃ……。
そんなことを行く前に母に愚痴ると「いとこの家に行ってもどうせゲームするでしょ? だったら同じじゃない」と言われた。
いや、全然同じじゃないし! いとこを前にしてRPGを平然とやれるわけないじゃない!
と、本音を言いたかったけど、ゲームをしない母には理解してもらえないのは分かっていたから言わないでおいた。
私のため息の原因はもう1つある。それは今がお正月だということ。
私は社会人だからってことでいとこにお年玉をあげなきゃならない。はぁ、私の数少ない収入が……。
そんなことをボヤいていると、姉に「私よりお金もってる人が何言ってんの?」と言われた。
いや、交友関係が広いお陰でよく出歩くあなたと違って、ぼっちな私はほとんど家にいるから出費が少なく済んでるだけだから。
そう言いかえそうと思ったけど言ったら悲しくなるからやめておいた。……はぁ。
「よし、着いたぞ!」
父が嬉しさを滲ませながら言う。いとこの家には父方の祖父母が一緒に住んでいるから、久しぶりに祖父母に会えるのが嬉しくて仕方ないようだ。
車を降り、荷物を下ろしていとこの家へあがる。
荷物を運び終え、私達家族といとこ家族、そして祖父母がリビングに集まり新年の挨拶をした。
いとこは高二の絵里と高一の健、小五の翔の3人だ。
現在、絵里は友達と有名男性アイドルに夢中、健はバンドと彼女に夢中。――部活に忙殺されていた私にはできなかった羨ましい高校生活を送っている。
ちなみに翔はゲームやトレカにはまっている。
しばらく近況報告や世間話をして空気が和んできたので、私と姉はいとこ3人にお年玉を渡した。あぁ、さよなら私の給料……。
3人は嬉しそうにお年玉を受け取り、お金をしまいにリビングを出た。
再びリビングに戻って来た3人。高校生2人は元の席に戻ったが、翔は私のもとへやって来た。
「ねぇねぇ、勝負しよ?」
そう言って翔は携帯ゲーム機を取り出した。
「え? 何の勝負?」
薄々気付いているけどあえて聞く。
「これだよ」
翔はソフトを取り出し、満面の笑みを浮かべながら見せてきた。
……はぁ、またか。
私は心の中で深いため息をついた。
翔が見せてきたのは育てたモンスターを戦わせる某有名ソフトだった。
私も某有名ソフトを持っているけど、遊ばなくなってから軽く2、3年は経ってるし、四天王をクリアしてからろくにレベル上げしてないんだよね。そんな状態で100レベルのモンスター、しかも伝説クラスのモンスターを持つ翔と勝負するなんて自殺行為なんだよねぇ……。
まぁ、翔は勝てるから楽しいんだろうけどさ。
新年早々、負けの決まった勝負なんて正直したくないけど、それを理由にやらないのは流石に大人げないから勝負を受けることにした。
部屋を移動し、ゲーム機にソフトを差し込み通信対戦の準備をする。
前に勝負した記憶を掘り起こし、とりあえず素早さの高いモンスターを先頭にし、あとは適当に並べる。
素早さの高いモンスターを先頭にしたのは唯一先制攻撃ができる&そこそこ攻撃力があるから。
「準備できた?」
翔はニコニコしながら聞いてくる。
「うん、できたよ」
「じゃあ、始めよう! 今回は弱いやつも入れたからね」
翔はハンデありの主張をしてきた。
ぐぬぬ、年下にハンデありの勝負を挑まれるとは……なんとしてでも勝ってやるぞ!
私は大人げないけど本気で勝つ為に知識と経験を総動員した。
××××××
結果は――私の負けに終わった。
いや、だってレベル差30だよ! なんとか数の暴力と属性の弱点をついて1体は倒すことはできたけどさ……弱いやつ入ってるとか言いながら私の持ってるモンスターより15レベルも上のモンスターだったんだけど。くっそぉー。
翔は勝負に勝ってご満悦の様子。それがまた一層、私を悔しい気持ちにする。
「ねぇねぇ、今度は違うやつやろうよ! ソフト持ってきてくれた?」
「あー、持ってきたよ」
私はテレビゲームのソフトを鞄から取り出し見せる。
「よっしゃ! テレビとゲーム機はリビングにあるからリビングでやろ! おれ、準備してくるね」
翔は駆け足でリビングへ向かった。
やれやれ、と翔の後ろ姿を見送りながら私はコントローラーの準備し、リビングへ向かった。