日常《デイリー・ストーリー》
ほのぼのかどうかは、ご自身の目で
「とにもかくにも、とにかくだ。まずは状況を整理しよう」
「整理できるの?この状況を」
愛しのマイシスターが、ちょっと諦めた目で俺を見る。
「まぁ・・・・・・ムリだな」
「ですよね~」
読者の皆様に対しては、まったく付いて来れないでしょうから、ここらで簡単に説明しましょう。
俺たちは今、大量のモンスターに囲まれているのです!
はい、説明おーわり!
え?全然わからないって?
大丈夫!そのうちなんとかなるさ!
「さて、お兄ちゃん。とりあえず、この状況を、なんとかしようか」
「そりゃ、まぁ・・・・・・・・・逃げるしかないでしょ!」
その言葉とともに、俺は妹の手を引いて走り出す。
「ちょ!ちょっと待ってお兄ちゃん!速いよ!」
「バカ野郎!そんなこと言っても、時間は待ってくれねぇぞ!そして、モンスターも待ってくれねぇぞ!」
スタコラスタコラ、という音は、多分出てませんが、俺たちは草原を全力で駆けています。後ろを振り替える余裕もありません。
「ていうかお兄ちゃん!その剣はなんのために持ってるの!?」
その剣、というのはきっと、俺が腰の後ろに回して挿してる剣のことだろう。普通に邪魔なんだけどね!
「使わないなら、どうして持ってきたの!?」
「フリーマーケットで大安売りのレッテルが張ってあったから思わず買っただけなんだよ!今はもう取っちまったけど、鞘の上にさらに包帯も巻いてあって、なんか禍々しいオーラが滲み出てたんだ!ほら!見た目もカッコいいだろ!?」
「それだけかよ!払い戻してきなよお兄ちゃん!」
これは。そろって異世界に移住した、ある兄妹の話である。
◆
日本の、とある未開発の地方で発見された、謎の歪み。
それは、異世界と繋がる歪みであった。
以上、説明終わり。
え?足りない?まあまあ。細かくは追々ってことで、気にしないでね。
「は~、疲れた」
「お兄ちゃんが散歩に行こうって言ったから、こうなったんでしょ」
「そうだっけ」
ようやくモンスターから逃げ切れた俺たちは、少し休憩するために、木陰に座り込んでいる。
空を見上げれば、ずぅっと遠くまで、世界を覆う青空が広がり、照りつける太陽が眩しい。いい天気だ。
「・・・・・・少し、寝るわ」
「うん、わかった。私も、ちょっと疲れた」
そういって2人で、緑色の芝生の上に寝転がる。あぁ・・・・・・本当に寝てしまいそうだ。
あぁ。じゃあ、寝ている時間が勿体無いので、その間に回想シーンとか終わらせておくか。
それじゃあ、おやすみ。
◆
「は?転勤?」
それは、突然だった。いや、どんな知らせも突然来るのだから、別段驚くこともないか。事前に知らされている、という時点で、じゃあその知らせはどうやって知った?ということになる。世の中は、突然の出来事しかないのである。
話が逸れたか。まあ、とにかくである。
「どういうことだよ、父さん」
「あぁ。いや、上からのお達しでな。別に強制の話でもないから、とりあえず意識調査ってところか?まあとにかく、とある計画の第一号に、我が家が選ばれた」
「・・・・・・悪い。意味的にも文法的にも、なに言ってるのかわからない」
そこへ、母さんが横から会話に入ってきた。いや、ずっといたけど。
「つまり、どこかに引っ越すことになるの?家族全員?」
おぉ、さすが母さん。物事の理解よりもまず、知りたい部分から聞いていくとは。テンパって立ち止まる俺とは違うぜ。
「そうだな。・・・・・・あぁ、えぇとだな。ここからは一応、国家機密ってことになるから、他言無用で頼むぞ?いや本気で。これが外に漏れると、最悪戦争とかになりかねんからな」
「う、うん・・・。それで?どういうことなの?」
妹である詩織は緊張した面持ちで、父さんを促す。え~。この家族、肝が据わりすぎでしょう。
とか考えていると父さんは、曰く国家機密とやらを話し始める。
「実はな・・・・・・・・・異世界なんだ」
「は?異世界?」
どうした父さん。漫画の読みすぎか?しっかりしろよ。
「おい深琴。そんな目で父さんを見るな。今、真面目な話をしているんだ。それでだな。う~ん、最初から話すか」
父さんのお話。
「今から10年前。日本の、とある未開発地域で、地元の地方警察により、ある謎の歪みが発見された。そして、潜ってみるとそこには、ここではない別の世界が広がっていた」
「よくありそうな話だな。テンプレっつーか」
「あぁ、そうだ。その手の話はあまりにも有名すぎて、逆に信憑性にかけるが、しかし実在したんだよ。事実、存在するのだから疑いようが無い。そこで政府は、調査隊を派遣。するとそこには、われわれと似た人間が生活していた。まあ、私たちと違う部分も存在するがな。政府はその世界を【彼の地】と名付け、そこに存在する国も、1つの国家とし、互いに交流を開始した。まあ、そこまでに紆余曲折あったがな。そして、最初に接触した国家【エダール】との交流が始まって10年となる今年だ。若い世代、つまり子供たち同士を交流させようという案が挙がってね。あちらさんも乗り気でな。そこで、じゃあ一体誰にする?最初は関係者がいいだろう。ということでお鉢が回ってきたのが、我が家だ」
とのこと。そして俺たちは、これを了承した。まあもちろん、何の問題もなかったわけではないんだがな。
あぁ。ここまでの話で、なんとなく察していただけただろうか。そう、つまり俺の父さんは、政府関係の人間で、外務公務員とかそういうやつである。で、今回は他国に滞在するわけだから、やっぱり外交官ということになるんだろうか?
そういった経緯で、俺たち家族は【彼の地】へと移住。そして、子供たち。つまり俺と詩織は、家族とは別の家で2人暮しということに相成った。いや、なんでも子供だけでのデータがうんたらかんたら。御偉い様のことはよくわからんよワシ。
はい、回想終了~!
◆
「ふう。よく寝たー」
ググッと伸びをする。おぉ、気持ちえぇ~。
伸びをし終わって横を見ると、未だに気持ちよさそうに眠っている詩織の、可愛らしい寝顔があった。
「・・・・・・くぅ~」
寝息まで可愛いとは、反則ナリ。しかし、本当に熟睡するとはな。
まあ、疲れているのだろう。かなり走り回ったしな。ならばお兄ちゃんが、詩織が起きるまでしっかり付き合いましょう。
・・・・・・起きない。
全然起きない。結構待った気がするが、全く起きる気配が無い。頬をつついてみたり、脇をつついてみたり腹をつついてみたりしたんだが・・・・・・。
「・・・・・・は~。ちょっと横になってるか」
そのうち勝手に起きるだろうし。
そうと決まれば早速と、とりあえず寝転がる。うーん、最高。
3分後。俺は爆睡していた。あじゃぱー。
◆
それから数時間後。結局熟睡してしまった俺たちは、夕日に背を向けて帰路についた。
「ふ、ふわあぁあああ~・・・・・・。うーん、寝すぎた」
大きく欠伸をする詩織を横目に、ついさっきまで枕にしていた剣(めちゃくちゃ寝心地が悪かった)に手を沿え、引き抜いた。
沈む夕日を浴びて、オレンジに染まるその刀身は、素人目にも分かるほどに研ぎ澄まされている。おそらく、この国の一般的な騎士が腰に差す剣と比べても、勝ることはなくとも引けを取ることもないだろう。
どうしてフリーマーケットに出されてしまったのか分からないほどに洗練された刃を見つめながら、俺は呟く。
「・・・・・・返品しようかな、マジで」
だって俺、別に騎士じゃないし。剣の使い方なんて知らないし。俺に使える武器なんて、せいぜい鉄パイプくらいのもんですよ。
「いや、もう終わってるでしょ、フリマ」
「・・・・・・あ、そうだ。あークッソ、あそこで昼寝なんかしなければなー!」
さすがに、夕方には終わってしまっているだろうと思い至ってしまった俺は、思わず頭を抱えた。剣?放り投げたよ邪魔だもん。
ひとしきり後悔の念に打ちひしがれていると、綺麗に地面に刺さっていた剣を拾おうと、詩織がテケテケと近付く。
「ダメじゃない、お兄ちゃん。刃物を投げたら。もし人がいたらどうするの」
「いや・・・・・・見渡す限り誰もいないから放り投げたんだけど」
ちゃんと考えているのだ、これでも。
ふっ。全ては俺の掌の上よ。
・・・・・・全ては俺の計算どおりって、かっけー。
「いや、私がいるじゃない。すぐ後ろにいたじゃない」
「仲間およびパーティーはノーカンだ」
「同じ意味じゃない」
「・・・・・・・・・・・・ホントだ・・・・・・!?」
そうだよ、同じじゃん。これはもう、頭痛が痛いっていってるのと同じじゃん!うっわ恥ずかしっ!特に、若干決め顔を意識したのも相まってスゲー恥ずかしい!なんだろう・・・・・・穴があったら入りたいっていうか、顔を合わせられないっていうか・・・・・・死にたい。穴があったらっていうのは多分、埋めてくださいってメッセージなんだろうな。
「それに、視界に移らないからってやっていいって理由にはならないわよ。見落としてる可能性もあるし、そうじゃなくたって、目で見える範囲だけが世界の全てじゃないんだから」
う・・・・・・うぜぇー!
「なんだよ!それってさ、『例え車が来ていなくても信号は守りましょう』って言ってるのと同じだろ?来ねーもんは来ねーんだよ。数キロの距離を一瞬で詰められる車なんて一般道走らねぇってサーキットじゃないんだから!地平線の先まで車がいないんだったら赤信号でも渡っていいと思う!」
「くっ。実は私も同意見だから、強く否定できない・・・・・・!」
よし、狙い通りだ。俺だって1人の兄だ。妹の事だって、よく知っているさ。お兄ちゃんだからな。
悔しそうに拳を握り締める詩織だが、しばらくしたら、拳は解かれた。口元を歪め、嘆息。
「はぁ。まあ、もういいわ。なんか、どうでもよくなった」
うん、そうだよね。こういうのって、一瞬でも冷静になったらどうでもよくなってくるよね。
で。気持ちの落ち着いた俺を確認すると、詩織は、突き立った剣の柄に手を添える。
「へぇ。意外としっかりしてるのね。・・・・・・よいしょっと――――――ぉお?」
剣を引き抜こうと力を込めて、しかし詩織は、それを抜き放つことはなかった。
「なにしてんの?」
パントマイムの練習かな?と思って尋ねるが、しかし詩織の表情は、リアクションを待つ者のそれではなかった。
驚愕と、不審と・・・・・・そして、恐怖。
口が僅かに開かれ、閉じることはない。どころか、動かしもしない。
明らかな、異常。
背筋が、凍る。
言葉では表現できないような違和感を感じ取った俺は、無言のまま下を向き続ける詩織に近付く。
「お、おい、詩織?どうしたんだ?」
俺の声に。ようやく意識が覚醒したかのようにハッと顔を上げこちらを振り向く。
「・・・・・・あ、あ・・・・・・・・・お兄ちゃん――――――」
震える身体を必死に押さえ、恐怖に溺れそうな口元は、まるで空気を求めて水面を漂う者のように、意味もなく声もなく、パクパクと動く。
そして、ようやく、言葉を紡ぐ。
「良い、良いぞ。ふ、ふふふふふふ・・・・・・ふはははははははははは!!!!!!」
一息で抜き放った剣とともに、高らかに笑う。
直感的に、理解する。
それは。詩織の声であっても、詩織の姿であっても。
決して、詩織ではなかった。
「人の体というのは久しぶりだな。しかし、再び覚醒したのだ。今度こそは・・・・・・世界を我が手中に!」
・・・・・・俺は、ただ呆然と、暴走する詩織の身体を見ていた。
今の俺の気持ちを、簡潔に表すのなら。
そう。これが適当だろう。
――――――超展開過ぎてワロタ
まだ5000文字いってねぇぞ?なのにいきなり展開変えるなよ。バトル物に路線変更するなら教えてくれよ。
なんて、場違いな感想を抱いていると、笑いを収めた詩織が俺の存在に気付く。
「なんだ貴様は?まぁいい。ちょうどこの身体で試してみたいことがあったのだ。少し、斬られてもらおうか」
「え?」
振り上げた剣は、すでに下ろされはじめていた。
視界が、スローになる。
躱せるはずもない。もう、どうしようもない距離にまで、刃は迫っているのだ。
反応も出来ない速度で振るわれる剣が、俺の身体に近付き――――――
――――――地面に突き刺さった。
「・・・・・・へ?」
剣は、俺を切り裂くことなく、すぐ横を通り過ぎた。
あまりの恐怖に、リアクションを取ることができない俺を見上げた詩織の口元が・・・・・・動く。
「いやー・・・・・・お兄ちゃん、怯えすぎだから」
「オマエ元気か!!!」
はっ!ツッコミ入れたら覚醒できた!動く、俺の身体が、自由に動く!
「っていうか!なんだったんだよさっきのは!世界を我が手中にーとかほざいてたアレは!なに、演技?ワクワク日常系にしていくつもりだったのに、いきなりバトル展開持ち込むんじゃねえよ!!!」
感情が爆発した俺は、溜め込んでいた不満をぶちまける。
そんな俺の様子をひとしきり見続け、ようやく詩織が、剣を手放す。
「はー・・・・・・。わかってないわー、コイツ、全っ然分かってないわー」
まるでオーバーなリアクションを取る外国人のように、両手を開いて首を左右に振る。え、なに。俺が悪いの?俺以外、みんな理解できてるの?このカオスな展開を?
「お兄ちゃん。お兄ちゃんは外から見てただけだから知らないんでしょうけど。ついさっきまで、私がどんな戦いを繰り広げていたか、分かる?」
「分かるかそんなもん」
「じゃあ、説明してあげるから、ちょっとそこに座ってくれる?正座で」
「あぁ、たっぷり説明してもらおうか・・・・・・え、正座?」
◆
「まず。お兄ちゃんがフリマで購入したあの剣は、ただの剣じゃないわ。多分、魔王とか、伝説の勇者とか、世界最強の傭兵とか・・・・・・そういうのが使ってた剣だと思う。あの剣には、その、元々の持ち主の魂、怨念。そんなようなものが宿っているの。理解できる?」
「・・・・・・妖刀的な?」
「的な。魔剣かもだけど。その、宿った何かが、封印を解いてから最初に剣を握った者の身体を乗っ取ろうとするのよ。アーユーアンダースタン?」
「ねぇ。なんでいちいちそーいうこと言うの?俺のことバカにしてるの?」
「私が、お兄ちゃんを?せっかくだから言っておくけれど、私はね。自分より下だと思った相手でも、滅多に見下すことはないのよ?人っていうのは、総合力で比べていいものではないの。なにか一つでも秀でていれば、いえ。なにもいい所が見当たらなくても、それでも、見下していい人間なんていないのよ」
「お、おぉ、そうか・・・・・・。疑って悪かったな」
コイツが、そこまで高尚なことを言うとは。なんかこう・・・・・・、ちょっと尊敬した。
「ま、お兄ちゃんは特例で格下だと思ってるけど」
「俺の気持ちを返せ!!!」
じゃあ今までの話、全部いらねえじゃん!カットすんぞチクショウめ!
「まぁ、そんなお兄ちゃんでも、私のお兄ちゃんだから仕方ない。で、話を戻すけど」
「戻す前に俺の気持ちのケアをしやがれ」
「・・・・・・で。話を戻すけど」
聞けよ。あ、聞いた上で無視してるのか。ツライわー。
「あの剣に篭っていた何かは、もう問題ないわ。お兄ちゃんが殺されそうになったギリギリのところで、なんとか大人しくさせられたから」
「へー。ちなみに、どうやったの?」
除霊的な?カッケーな、いつの間にそんなスキルを磨いていたんだ?
俺が興味を示したことで気分をよくしたらしい詩織は、上機嫌で答えた。
「そんの簡単よ。『貴様ごときが私を操るか?笑止!今すぐ身体を返してもらおうか!』っていったら、なんかゴチャゴチャ文句つけてきたから『うるさい!』って言ってやったわ」
「・・・・・・へー」
「『あ、すいません・・・・・・』だってさ。笑っちゃうわよね」
「そうだねー。最高に面白いよ。抱腹絶倒とはまさにこの事だ」
楽しそうなことしてたのね。俺が死に掛けてるその目の前で。
これからは、なるべく詩織の気に触ることはしないようにしようと、心からそう思えた。
その剣はのちに、我が家の空き倉庫に放り込まれることとなった。
「そういえば。どうして俺は乗っ取られなかったんだろ。すげー触ってたのに」
「あぁ。それはね、たいした理由じゃないわ。基本は誰でも良かったんだけど、お兄ちゃんだけは嫌だったんだってさ」
「俺にとっては結構な理由なんですけど」
剣に嫌われてたんだ、俺。
えー、どうも。かわまさです。
今回は、ただの日常モノ、を書こうと思っています。基本ファンタジーな日常ですが、ときどき迷走することも・・・・・・うん。ときどきじゃなく、多々あります。
自分の別作品のほうも全然進んでいないので、こちらの小説もどうなるか分かりません(調子が出なかったら更新しないし、飽きたら放り出すかも)が、頑張っていこうと思います!
ので、気長に、のんびりと更新をお待ちくだされば幸いです。
フッとサイトに入ったら、『あれ?めずらしく更新してやがらぁ』みたいなノリで覗いてみてください。
それでは皆様。これからも末永く、よろしくお願い申し上げます<(_)>