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N.E.E.Tの冒険  作者: 勇者王ああああ
こっちの世界のお話
9/61

『戦わない』ことに対して戦う時、人はニートになることができるのだ

「全く、てこずらせおって」

 肩で息をしながら魔王がうんざりと言う。

 よく見ると魔王はボロボロだ。立派なマントはもはや原型がわからない程に破れ、きれいな純白だった髪も土で汚れている。

 それに比べると、膝をついて魔王に屈している勇者とマリ姉の二人の装備はきれいだ。マリ姉なんてほとんど汚れてすらいない。

 

「リ、リック君どうする!? マリーちゃんが捕まっちゃうよ!」


 ユミーカが悲痛な声を漏らす。


「どうしようか? そうだ!」

「何かいい手でもあるの?」

「見捨てて逃げよう!」

「逃げちゃダメだよ!? 助けなきゃ!」

「どうやって助けるんだよ! 俺らじゃ魔王相手だとこれっぽっちも歯が立たないぞ!?」


 魔王とマリ姉の戦闘の余波だけで死にそうになっている俺達が、魔王相手に戦えるはずがない。

 しかし、マリ姉がいないとこの草原を抜ける事もままならないのも事実だ。たぶん一番近い街まででも、あと丸一日は歩かないと着かないだろう。

 こんな凶悪な魔物が出る場所を、ユミーカと二人で歩くなんて命がいくつあっても足りない。

 

「あたしに案があるよ!」


 ユミーカが自信にあふれる表情で言う。


「なんだよ」

「この閃光弾フラッシュ・バンで、敵の目をくらませてるうちにマリーちゃんを連れて逃げるの!」

「却下」

「なんで!」

「こんなの奴に効くわけないだろ!? しかも前回は俺達の目の前にそれ落としたよな!?」

「あ、あれは手が滑ったの!」


 ぷーっと頬を膨らませて抗議してくるが、ダメなものはダメ。


「しょうがない」

「え? やっぱりなにか案があるの?」

「謝ろう」

「は?」

「誠心誠意謝れば魔王も許してくれるだろう」

「いやいやそれは流石に無理じゃないかな……?」


 俺達がうじうじと悩んでいる間に、魔王はマリ姉達との距離を詰めている。そして頭を垂れている彼女の頭に手を当てた。


「ひ、卑怯よ。束縛魔法を使うなんて……」

「ふん。二対一で戦う貴様らに言われたくはないな」

 

 マリ姉が絞り出すように言った言葉に対して、魔王は見下すような視線を送る。

 ていうかマリ姉今『束縛魔法』って言った? ということは……!


「ユミーカ、やっぱり閃光弾フラッシュ・バン貸して!」

「え?」


 言うが早いか、ユミーカの手から閃光弾フラッシュ・バンを奪い取る。そして前回ユミーカがやっていたようにピンを抜き、投げる。


『魔神よ、この者たちの自由を奪い、我に絶対の服従を誓わせ……』


 ちょうど、魔王が呪文を唱えようとしたその時、魔王とマリ姉の間に爆弾が落ちる。

「な、なんだこれは?」

 魔王が訝しげに筒状の爆弾を見つめる。

 そして訪れる強烈な閃光が、魔王の目を一瞬くらませる。


「リック!? あんたたまにはいいことするじゃない!」


 何かから解放されたマリ姉と勇者が突如動きだし、魔王との距離をとる。


「三人目だと? 勇者、貴様はどれだけ下劣なのだ」

「それを魔王に言われたくありませんが、私はこの人達は知りません!」

「ほざけ!」


 若干まばたきをしながら魔王が怒ったように言う。

 げ。魔王がこっちを見てくる。鋭い眼光が俺達を冷たく突き刺す。


『魔神よ、荒れ狂う力を我が右腕うわんに!』

 

 魔王の右腕が怪しく光り、一気に俺達の方へ駆け出してくる。

 うわぁぁぁぁ! こっちくんな! 

『光神よ、闇を阻む壁を!』


 勇者がそう唱えると、俺達の真ん前に大きな光の壁が現れる。


「フン!!!!」


 しかし魔王が右腕を振りぬくと、その壁は一瞬で吹き飛ばされる。弱い! 勇者の壁弱いよ!

「一斉射撃だくらえーーー!」

 ユミーカが横で魔王に銃を乱射するも、魔王は全く意に介する様子もなく俺へ突っ込んでくる。

「こ、こっちくんな! マリ姉ヘルーープ!!」


『赤爆龍よ、その業火をもって敵を焼き尽くせ!』

 途端、マリ姉の前に小さな赤い魔法陣が現れ、真っ赤に燃える炎の龍が飛び出してくる。

 魔王の拳が俺に届く寸前で、炎龍が魔王に噛みつき横方向へと運ぶ。

「ちぃ、うっとおしい!」

 魔王は右手で龍を殴りつけると、龍は瞬く間に霧散する。

「やはり、三体一は分が悪いか……。ならば!」

 そう言ったと思うと、突然魔王の体から闇のオーラが噴き出す。


 いや待てよ。三体一ってなんだよ。なんで俺も入ってるんだよ。おかしいだろ。


『深淵の魔王城に住まえる我が最愛のつわものよ。魔神グレッシブの使いとなりて、いまこの場に参上せよ!』


 空気が震え、頭上に大きな魔法陣が現れる。これは、勇者と魔王が突然ここに姿を現したのと同じ魔法陣だ。

 大きさは先程のそれと比べると小さいが、強烈な紫電は俺の目をくらませる。

「何を呼ぼうとしているのかは知りませんが、させません!」


 勇者が魔王に切りかかる。が、やすやすと魔王はその斬撃を躱す。

 勇者弱いな……。マリ姉の方が強いんじゃないか?


 勇者の抵抗もまるで虚しく、空から一人の人影がゆっくりと降りてくる。魔王に比べると大きさはかなり小さく、まるで女性のような体つきをしている。

 次第に魔方陣が消え、その人の姿がはっきりと見えてくる。

 きれいな女の子だ。魔王と同じく髪の毛は純白で、それを真っ直ぐ降ろしている。内気そうな瞳は、今のこの光景に驚いているかのように感じる。

 やはり暗めの服装をしているが、どう考えても戦闘向きじゃない。

 なんで魔王はこんな子を呼んだんだ? 間違えたとか?

 



 

 

 

 


 


 

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