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N.E.E.Tの冒険  作者: 勇者王ああああ
こっちの世界のお話
5/61

種族がなんであれ、働きたくないという観点では皆平等だ。

「マリ姉ぇぇぇぇぇ! 早くぎでぇぇぇぇ!」


 身長およそ4メートルのゴーレムが、俺を追いかけてくる。茶色の石で造られた大きな体から繰り出される攻撃は、やすやすと地面を抉りとった。


「いやマジで死ぬって! もうこれだから家から出たくないんだよ!」

 しかもゴーレムは意外と足が早く、俺の全力ダッシュにも平気でついてくる。この背中のお荷物がなかったらもっと早く走れるのに。

 ……こんな刀捨ててやろうかな。しかし、その瞬間俺が素晴らしきニート生活に戻る事は不可能になる。

 この刀を自分の力で折らないと、二度と家に入れてもらえないからだ。

 それは困る。働くくらいなら死んだ方がマシだ。

『赤爆龍よ、その身を炎として体現し、悪鬼を焼き尽くせ!』

 その瞬間、辺り一面が赤く光ったと思うと、爆風が後ろから俺に吹き付ける。

 おそるおそる後ろを振り返る。するとそこには焼け焦げた地面と、ドロドロに溶けたゴーレムらしきものが転がっていた。

 やっと、来た。俺の愛しの姉(仮)が……!

「リックー。大丈夫?」

「おせーよバカ姉貴! こ、こっちは死ぬかと思ったんだぞ!?」

 声が裏返る。

「何涙目になってんのー? あれー? もしかして怖かったとかぁ?」

 きれいな水色の瞳をわざとらしくパチパチしながら、空からゆっくりと舞い降りてくる。その腕には、ユミーカをお姫様のように抱えている。が、肝心の彼女は目をぎゅっと瞑ったまま、必死でマリ姉にしがみついている。


「そんなわけねーし! でも守ってくれなきゃ俺すぐ死ぬからな!?」

「素直なのか素直じゃないのかどっちなのよ……」

 マリ姉が呆れたように言う。そしておずおずとユミーカが手を挙げる。 

「あの……降りてもいい?」

「あ、そうね。はいどうぞ」

 そっとユミーカが地面に降りる。と、それと同時にへなへなと地面に座り込んでしまう。


「こ、怖かったぁぁ! マリーちゃん怖すぎだよぉ! 例えるなら敵戦地でフラッシュ・バンに目を奪われるくらい怖いよ」

「いや意味わかんねえよ! なんだその例え!?」

「わかんない? フラッシュ・バンって言うのは、蓄えてある魔力を光エネルギーとして一気に放出して敵の目をくらませる武器の事だよ?」

「いやうんそういう問題じゃないんだけどね!?」


 なんだこいつは。武器がそんなに好きなのか? 

「確かユミーカちゃんの家って、一大武器商社を経営してるのよね?」

 マリ姉が若干首を傾げつつ聞く。

「うん! そうだよ! 『ダヴィン魔法武器』って聞いたことない?」 

「『ダヴィン魔法武器』!? ってあの有名な!?」

「あら、リック知ってるの?」

「知ってるも何も、人間屈指の大企業じゃねえか! 人間軍の武器のほとんどは『ダヴィン魔法武器』から買ってるとかなんとか……」

 竜人である姉が知らないのも無理はないが、多分人間界ではその名を知らない人はいないだろう。重火器や小銃はもちろん、大型の輸送機の製造も手掛けている。

「ふーん? 何かよくわからないけどすごいんだー」

「いやいやそんなことないよー! あたしからしたら竜人の方がよっぽどすごいよ!」

 と、ぶんぶん手を振って謙遜するユミーカ。


「まぁ、竜人ってもリックは全然すごくないけどねー」

「いや俺はすごいから」

「毎回毎回その自信はどこから出てくるの!? ゴーレムごときに追いかけ回されて涙目になってる人が言うセリフじゃないわね!」

「なってねえし! あれは目にゴミが入っただけだし!」


 全く。マリ姉は本当に俺のこと舐めてるな。

「まぁいいわ。それよりユミーカちゃん」

「はい!」

「正直どのくらい戦えるの? どこに行くにしても魔物は出るから、あなたがどのくらい戦えるか知っておきたいの。リックはこんなだしね」

「こんなってなんだ失礼な!」

「え? あたし? あたしは……。えっと……」

「その背負ってる銃があればそれなりに支援とかはできるのかしら?」

「俺は本気出せばできる子なんだよ!」

「……リロードできない……」

「え? リロード? なにそれ?」

「ま、本気は出さないけどな!!」

「いばって言うな! 無視してんだから少しは心折れなさいよ!?」


 そんな俺たちをお構いなしに、ユミーカは後ろの銃からマガジンを取り出す。そして親指をそれの頂点に当て、ぐっと力を入れる。

 一瞬、マガジンが光る。

「二発入った」

「二発?」

「あたしじゃ魔力が弱すぎてこれだけしか込められないの!」

 どうやら魔力をマガジンに注入する行為を『リロード』と言うようだ。こんな連射式の銃で二発だけ込めても仕方ないだろう。

「そうだ! リック君弾込めてみてよ! 竜人だしたくさん入れられるでしょ?」

 と、ユミーカが満面の笑みで黒いマガジンを俺に差し出してくる。

 いやいや頼む相手間違ってるだろ。

「ね?」

 いや、『ね?』、じゃねーよ。そんな顔しても込めませんよリック君は。


「いいじゃない、やってみなさいよリック」

 と、マリ姉がにやつきながら催促する。こいつ楽しんでやがる。

「ここに親指をあてて、魔力を流し込むだけでいいから!」

 ユミーカがご丁寧にも注入口の場所まで教えてくれる。

 いやいやながら、とりあえず指を添える。

「このまま魔力を入れるんだよな?」

「うん!」

 ハァ。やってみるか。


「ハァァァァァァ!」


 と、その瞬間、俺が持っているマガジンが大きく金色に輝く。


「おぉすごいすごい!」

「ふぅ。まぁこんなもんかな?」

 と言ってユミーカにマガジンを返す。意外と光ったからかなり込められたんじゃないか? やっぱり人間とは種族が違うからな。これくらいお茶の子さいさいだ。

 ユミーカがマガジンの側面を覗き込む。大方そこらに残弾数が表示されているんだろう。


「三発……? リック君一発しか増えてないよ!? それでも竜人!?」

「う、うるさい! 俺にはそれが限界なの!」

「全然足りないよ! あたし以下だよ!?」

 くっくっく、と笑うマリ姉。うぜえ。

「貸して?」

 笑いを堪えながら、マリ姉がユミーカからマガジンを受け取る。そして俺と同じように魔力を注ぐ。柔らかな青い光がマリ姉の手を包む。

 一瞬後、マリ姉は満足したようにユミーカにマガジンを返す。

「え? もう終わり?」

 と、マガジンを受け取りつつユミーカが言う。

「え!? 200発!? すごい!!」

 200発だと? やはりこの姉化けものだろ……? 俺一発しか入れられなかったのに……。

「じゃあこれで大丈夫ね? よし、それじゃあ出発しましょうか!」

 嬉しそうな笑顔を見せるマリ姉。そんなに早く出発したいのだろうか? こちとら早く帰りたいのに……。


「200発一斉射撃ぃぃーーー!」

「いや何やってんのユミーカ!?」

 ゴーレムの残骸に向かっていきなりフルオートで発砲するユミーカ。目がとてもイキイキしている。

 銃弾を受けたゴーレムの破片は、どんどん小さく砕かれていく。

「敵の排除を確認! クリア! ミッションコンプリート!」

「いやただ細かくしただけだからな!?」

「リロードをお願いします隊長!」

 さっそく空になったマガジンを抜き、マリ姉へと投げてよこすユミーカ。マリ姉は戸惑いつつも、律儀にリロードをする。

「おおお! また200発入ってる! よし、次弾装填完了! 撃てーーー!」

「撃てじゃねえよやめろ!」

 ビシっとユミーカの額にチョップを入れる。

「あぅ! なにするんだよー」

「無駄使いするなよ!」

「リック君に言われたくないもーん。せめて二発以上はリロードできないとねぇ?」

 と、人差し指を立てつつ言う。目線は下にあるのに見下されている。

「なっ……!? ば、バーカバーカ!」

「子供!?」

 とその時パンパンと手を叩く音が聞こえる。

「ほらほらケンカしないの。さっさと行くわよー」

 マリ姉が呆れたように言う。行くってどこに行くんだろうか。


「目的地はあるのか?」

「あったりまえよー。まずは人間界の首都カットフィルへ向かうわ!」

「断る!」

「なんで!?」


 カットフィルはここから遥か北へと向かわなければたどり着けない。歩いて旅をするには遠すぎる。たぶん数か月はかかるだろう。そんな悠長な旅をするつもりはない。俺は一刻も早く家に帰りたいんだ。


「じゃあリック行くあてでもあるの? あんたその刀は一朝一夕で折れたりしないんだからね?」

「そんなことわかってる」

「だったらカットフィルでいいじゃない! ユミーカちゃんもいるし、何より勇者様がもうちょっとであそこに帰還されるらしいし!」

 マリ姉の勇者好きには困ったもんだ。なんでも若いのに、魔王に立ち向かう姿勢にあこがれるのだとかなんとか。

「シキルマウンテンへ向かう!」

「シキルマウンテン? あぁ、『酸の山』ね。なんでそんな危険な所に行きたがるの。頭でも打った? 病院行く? お薬飲む?」

「ひどい言いようだなおい!」

「でもなんでわざわざそんなところに行きたがるのよ……」


「そんな事決まってるだろ。この刀を溶かしてボロボロにするんだよ!」


 マリ姉だけでなく、ユミーカも憐みの視線を俺に向けた。

  


 



 読んでくれてありがとうございます。

 一話書き上げるのに二時間はかかってしまいます。みなさんはどのくらいかかるのか気になりますね笑

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