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N.E.E.Tの冒険  作者: 勇者王ああああ
こっちの世界のお話
3/61

働かないなら食うしかない

 

 ここは竜人の里で最も大きな広場『キャライン広場』。集合場所と出発場所として多くの竜人に利用されている。

 白い石が敷き詰められた広場には、真ん中に大きな噴水が置かれてある。里の入り口からも近いので、

待ち合わせに適しているそうだ。なんせこんなとこくる機会がないからな。全てマリ姉からのお話だ。 

 そしてその中に、明らかに異質で目立っている集団がいる。人間だ。


 迷彩服に身を包んだ屈強そうな男達に囲まれながら、その子は待っていた。

 肩まで届くか届かないかの茶色の髪、くりくりっとしたこげ茶色の瞳。人間特有の柔らかそうな素肌は、きめ細かくてツヤがある。

 だぼだぼの赤い軍服を着ていて、背中にはなにやら大仰な銃を背負っている。腰には大き目のベルトが巻かれており、黒いハンドガンがそれに備え付けてある。

 足は太ももまで届く黒のタイツで保護されており、軍服との間にわずかな素肌が顔を覗かせている。

 さすがは人間。俺たちとは服装がまったく違う。

 俺なんてごわごわした黒い皮の服だぜ。まぁ父上が着るような鎧なんて着た日には、重過ぎて一歩たりとも歩けないんだけどな。

 

 

「はじめまして。私はマリー・フロー。こっちは弟のリックよ。よろしくねユミーカさん」

 赤い髪とローブを風になびかせながら、マリ姉は目の前の少女に自己紹介をした。

 世間を知らなさそうなその子の視線には、恐怖と好奇心が入り混じっているような気がする。


「はっ、はっ、はじめまして!! ユ、ユミーカ・ダヴィンです! 16歳です! よろしくお願いします!」


 迷彩の男に背中を押されつつ、その子は早口で答える。緊張しているのだろう。

 ビシッと敬礼をするユミーカ。そんな文化こちらにはないぞ。

 マリ姉とは違い成熟しきってないその子の声は、これから先一緒にパーティーを組む事に少し不安を感じさせた。


「あら。16歳だって、よかったわねリック。あなたの好きな年下じゃない」

 年下っても一つしか変わらないじゃないか。そんな差ないに等しい。

「ほらリックも挨拶しなさい」

 と、俺を前に押し出しつつ言う。

 うわ、同年代の人と話すのいつぶりだろう? まぁ相手は人間だけど。

「初めまして、リック・フローです。今年17になります」

 と、当たり障りのない挨拶をしておく。

「は、はい! これからよろしくお願いします!」

 ユミーカは元気よく返事を返してくれる。

 ていうかこの子そんなに問題あるのか? 第一印象では引きこもっている印象は全く見えない。

 明るくて、かわいらしい子じゃないのか?

 これなら俺の方がよっぽどダメな子に思えてくる。


「リックさんは、どんな魔法銃が好きです?」

「は?」

「あたしはこのAJ-47アサルトライフルです! 見てください機能性に特化したこの造形美! かっこいいでしょう?」


 前言撤回。なんだこいつは。

 背中に装備していた銃を突然俺に見せつけてくる。

 魔法銃を竜人で使う人なんてほとんどいないぞ?


「ユミーカ! それをやめろと言ってるだろう!」

「た、隊長!」

「隊長ではない、おじい様と呼べ!」


 と、屈強な男達の後ろから黒スーツの白髪の老人が出てきた。おじい様ってことはユミーカの祖父だろうか。


「あなた方がジョナサン将軍のご子息ですかな?」

 口元に笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。ちなみにジョナサンというのは俺のくそ親父の名前だ。

「はい、そうですわ。ダヴィンさん。初めまして」

 とマリ姉が事務的な笑顔で応対する。

「おぉ! 君が噂のマリー君か! 君の実力は聞き及んでおる。なんでも美しいのにその実力は龍そのものだとか!」

「いえいえ、そんな大層なものではございませんわ」

「いやいや謙遜する事はない。ユミーカはこんな感じの変な孫だが、よろしく頼む」

「はい。精一杯サポートさせていただきますわ」

 と、握手する二人。なぜかマリ姉がとても大人に見えて少しつらい。


「さて、君が問題児のリック君だな?」

 マリ姉の時とは打って変わって、威圧的な態度で俺の方に向きなおる。

「愛しの孫を預ける私にとって、正直君は不安要素でしかない。それはわかるな?」

 とふてぶてしく俺の事を睨みながら言ってくる。その瞬間、まるでその老人を取り囲むオーラが変わったかように、ダヴィンの醸す雰囲気が変化した。

 その瞳は歴戦の猛者のそれで、父上とはまた違った威圧感が辺りを包み込む。

 これは≪威嚇≫だ。

 マリ姉の顔が険しくなる。

 なんで俺がいきなり≪威嚇≫されなきゃならんのだ。


「ひとつ君に聞きたい事がある」

「なんでしょう」

 神妙な空気が辺りを包み込む。なにかピリピリしたものが肌を刺激する。

 孫を守りたいから、得体のしれない俺の素性を知りたいってのはわかる。が、何も≪威嚇≫することはないだろう。



「君はお尻か胸かどっち派だ?」

「は?」


 は? 今なに言ったこのじじい? 胸かお尻? 聞き間違いか?


「二度も言わせるんじゃない!! 君はお尻か胸かどっちが好きか聞いているのだ! 返答しだいでは殺す!」

「いきなり何言ってんのこのじじい!? それで殺されるのは流石に理不尽だろ!?」

 と俺が言い返した瞬間、ダヴィンはいきなり銃を取り出し、俺の頭に突き付けてくる。

 それを受けてマリ姉がダヴィンに向けて杖を向ける。


「銃を下してくださいダヴィンさん」

 しかしマリ姉の忠告などは意に介する様子もなく、じじいは言葉を紡ぐ。


「さぁ! どっちだ!」

 どっちだ……って。どっちでもいいよそんなもん。

「まぁ、強いていうなら……髪型ですかねえ? 別に胸とか尻とかはどうでもいいです」


 と、俺が言うとダヴィンは少し驚いた表情をし、銃を下げた。そして大きく息を吸い、言う。


「よし! 許す!」

「なにが!?」

 マジで大丈夫かこのじじい。会話全く成り立ってなかったぞ今?

「お前ら! 酒を持ってこい! 行くぞ!」

 と言うが早いか、さっさとどこかへ歩き去ってしまった。方向的に俺の家か。たぶん父上に会いにいったんだろう。

 部下達はあわてて大きな箱を持って走りだす。主人があれだと大変だろうなー。


「マジでなんだったんだあのじじい……?」


 と、ぼそっと呟くと顔を真っ赤にしたユミーカがおずおずと近づいてくる。

「えっと……、ごめんね? おじいちゃんいつもあんな感じなの……」

「いつも……? ていうかあれで一体なにを納得したんだ……?」

 この子が外に出れなくなったのはもしかすると奴のせいかも知れないな……。

「あれで、『胸』って答える男の人をいつも追い払っちゃうの」

「なんで?」

「えぇ!? えっと……あたし他の人より胸大きいらしいから……」

 と、もじもじと恥ずかしそうに言うユミーカ。

 大きいか? 正直だぼだぼの服を着てるからあまりわからない。


「ほらほら会ってすぐセクハラしないのリック」

「セク……!? そんなんじゃねーよ!」

 と、マリ姉がからかってくる。

「ごめんねユミーカちゃん。こんな気持ち悪いのと一緒に旅することになって」

 気持ち悪いってなんだよ失礼だな。

「そ、そんなことないよ? 目が青い人なんて周りにいないし、かっこいい……!」

 いい子だ……。

 まぁ確かに全人型種族の中でも、竜人はずば抜けて数が少ないから、珍しく思うのは不思議な事ではない。さらに、竜人の目が青いってのは割とよく知られているから、実際遭遇したらレア度は高いのだろう。

「ふーん? まぁいいけど」

 と、マリ姉が若干つまらなさそうに言う。なんでがっかりしてんだよ。

「さてと、それじゃあそろそろ出発しましょうか!」

 と、マリ姉が拳を突き上げながら嬉しそうにしている。

「マリ姉も来てくれるのか?」

「ん? そーよ? うれしいでしょ」

「いやべっつに!!」

 

 とは言いったものの、実はかなり嬉しい。マリ姉がいたら道中魔物がいても一瞬で蹴散らしてくれるし、金も持ってそうだから宿にも困らなそうだし。

「じゃあ≪飛翔≫するから、ユミーカちゃんは私につかまっててね!」

「え? あたし? ひ、飛翔? なんの話?」

 優しくユミーカの手を取ると、マリ姉は広場の隅にある大きな門まで彼女を引っ張っていく。

 そこは断崖絶壁で、眼下に広がる土地は俺たちを吸い込むかのように、広くどこまでも続いている。

「待ってマリ姉! 俺が≪飛翔≫できると思うか?」

「何言ってんの。あんたも竜人の端くれでしょ? あたしに付いてくるくらいできるでしょ? ほら! 行くよ!」

 マリ姉の体を水色のオーラが優しく包む。そして、フワリ、と重力の力を無視して浮かびあがる。

 ≪飛翔≫だ。竜人が使うことを許された龍の力。

「じゃあユミーカちゃん準備はいい?」

「よ、よくないですよくないです!」


「いっくよー! それー」

「いやぁぁぁぁ!」


 ユミーカを抱きかかえたマリ姉が、門をから飛び降りた。あわてて近寄ってみると、はるか下にうっすらと青い点が浮いているのがわかった。


 …………え? もしかして俺一人で飛ぶの??




 


 

  

 読んでくれてありがとうございます。

 久しぶりの投稿です。つい短編にいっちゃいますね。

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