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N.E.E.Tの冒険  作者: 勇者王ああああ
こっちの世界のお話
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偏差値で大切なのは標準偏差の導出である

1 「偏差値で大切なのは標準偏差の導出である」


 俺の家は豪邸だ。それに金もたくさんある。

「いやだぁぁぁ! 出たくないんだってぇぇ!」

「い・い・か・ら、諦めなさいーー!」

 必死で家の柱につかまり抵抗する。

 俺を連れ出そうと引っ張るのは俺の姉、マリー・フロー。肩まで届く赤い髪を真っ直ぐに下しており、透き通るような青い目はつい見とれてしまう程に美しい。

 竜の血が強ければ強いほど、目は青く澄み渡るらしい。自慢じゃないが、俺の目もまるで海のような深い青で彩られている。俺の場合は藍に近い色合いだが、竜の素質を感じさせるには十分すぎる色彩だ。

「マリ姉! なにか欲しいものないの? 俺の力でなんでも取り揃えてあげるよ?」

「買収しようとしたって無駄よ! アンタは竜人としての誇りはないの!?」

「これっぽっちねぇよそんなもん!」

「自信満々で言うな! 少しは誇りを持ちなさい!」

 ちぃっ! どうやらこの真面目一辺倒の姉上には物欲は働かないらしい。

 しかもよく見ると、今日のマリ姉は赤魔道師らしく真紅のローブに身を包んでいる。これはマリ姉の正装だ。ということはマリ姉も父上に今日の旅立ちをかなり強く言われているのだろうか。

「あ、マリ姉! 勇者の直筆サインなんてどう?」

 と俺が言った瞬間少しマリ姉の力が緩むのを感じた。マリ姉は勇者の大ファンである事は先刻承知だ。部屋に何枚も壁紙を張っていることも知っている。

「それは魅力的な提案だけど…………、ダメ!」

 と少し逡巡したと思うと、一気に力を込め、俺を引っ張った。

「ちょ、ちょ、ちょ! ダメだって! あ、お腹痛いお腹痛い! 頭も痛い! 今日は無理だわー。明日にしようぜー」

「往生際が悪いよリック! さっさと行くのー!」

 もともとのステータスが違うのだ。マリ姉が少し本気を出したら俺はなすすべもなく引きはがされた。


                     ☆


「太陽がまぶしい」

 外。肌を優しく刺激する日の光。鼻腔をくすぐる様々な香り。一面見渡せる素晴らしい眺望。

 もともと竜人の里は山の上にあり、その中でも特に我が家は頂上付近にあるため、玄関から出ると下界が一望できてとても眺めがいい。

 だが、全て俺にとっては毒だ。つらい。家帰りたい。

「リック、あなた最後に日の光を浴びたのいつなの?」

 と、顔を下に向けている俺に対してわざわざ下から覗き込みつつ聞いてくるマリ姉。

「うーん、これほどがっつり浴びたのは……一年ぶりくらい?」

 といっても前回も家から追い出される形で無理やり浴びせられたってのが正しいけど。

 さらに背中に装備した黒刀、黒雲母が重い。もともとは脇差に差すものだが、腰が砕けるかと思ったのでとりあえず背中で背負うような形で落ち着いた。

「マリ姉ー。この刀重いよー。持ってくれよー」

「それじゃあ何の意味もないでしょ!? ていうかその刀全然重たくないわよ? むしろ軽いくらい」

 と、いけしゃあしゃあと述べるマリ姉。ふざけんな。化け物か貴様は。

「リック……、あなた≪媒介変数ステータス≫見せてみなさいよ」

「いや」

「なんで!? いやこれから旅に出るんだったら≪媒介変数ステータス≫の確認は当然でしょ」

 ちなみに≪媒介変数ステータス≫というのは人間が開発した魔法だと言われている。≪媒介変数≫を使える生物を母集団として、能力値の平均をとる。そしてそこからバラつきを表す[分散]を求めて[標準偏差]を求める。そして自身の能力値と比較して能力値の[偏差値]を出す、という魔法だ。

 まぁ早い話が自分の力量を数値で表しますぜ。という迷惑極まりない魔法効果になる。

『赤爆龍よ。私の力を≪媒介変数≫で表せ!』

 と、マリ姉が呪文を唱えるとパッと30cm四方くらいの枠が現れ、中に数字が表示された。


 マリー・フロー 竜人 赤魔道師

 力 89

 魔力 208

 体力 88

 知力 132

 精神力 102


 はっ!? なにこれ? これ偏差値だぞ? 50が平均だぞ? なんだ魔力208って。


 この50という数字は、母集団の関係からほぼ人間の平均と言ってもいい。そのため大体竜人の平均は75前後くらいになるのだが……。 

 なんだよ208って。

「さあ次はリックの番よ。あなたの≪媒介変数≫見せて」

 と、若干誇らしそうにフン! と鼻を鳴らしながら言う。

 はぁ。溜息。

 えーっと。呪文どんな感じだっけな? ていうか自分の≪媒介変数≫なんてもうここ何年も開いていないからどんな数値を表すのか想像もつかない。

 というか魔法自体を使うのも本当に久しぶりだったりする。

 体内の魔力を練り上げ、呪文で命令を与える、ってのが魔法の基本だが、果たして俺にできるのか。


『我が≪媒介変数≫よ、その数値をここに示せ!』

 俺は≪赤爆龍≫の加護を受けれるかどうかわからないので、呪文に入れるのはやめた。

 すると、マリ姉のようにハッキリとした枠は出てこないものの、まぁそれっぽいモヤモヤしたものが俺の前に出現した。


 リック・フロー 竜人 N.E.E.T

 力 8

 魔力 16

 体力 21

 知力 53

 精神力 224


 俺の数値を見たマリ姉が突然笑い出す。 

「N.E.E.TってなによN.E.E.Tって。 力8に魔力16!? アハハハハ! なにこれ? こんな数字ってありえるの? これ偏差値よ? って、え? 精神力224!?」


 俺の≪媒介変数≫を見てひとしきり笑ったあとに驚愕の声を上げる姉。


「え? なんで? なんでこんな奴が精神力224なんてだせるの??」

 信じられないようで、訝しげな表情で俺の数字を見つめるマリ姉。

 ていうか俺自身なんでこんな数字が出たのかわからない。何かの間違いか?

 確か精神力は、意志や心の強さを表す数値のはず。大きいほどプレッシャーにも強くなるし精神的な魔法や攻撃も跳ね除けることができる。

「信じられないわ。あれほど厳しい修行を積んだ私がリックに負ける……? ウソでしょ?」

 おお。あのマリ姉がショックを受けている。こんな顔初めて見た。いつも俺に対しては見下したような視線しか送らないのに、今は悔しそうな顔を俺に向けている。

 その表情を見ていると、少し申し訳ない気持ちになってくる。

 マリ姉が自分を向上させるためにこの上ない努力をしているのは、俺自身よく知っている。なんの努力もしていない俺がここまで圧倒的な数値を出すのはマリ姉に対しては少し理不尽というものだろう。

「なんでよ……。なんでこんな奴がここまでの数値をだせるの……?」

 青い目に少し涙を貯めつつ、マリ姉は絞り出すように言った。

 なんと声をかけたらいいのかわからない。

 だからとりあえず素直に思ったことを口にすることにした。


「才能じゃね!? ざまぁぁぁ!!」


 渾身のドヤ顔とともに、最高の言葉をマリ姉に送る。

 申し訳ない? まあそんなこと知ったこっちゃないけどな! 気分いいーー!

「リックアンタねーーー! 調子に乗るのもいい加減に……」

 マリ姉がワナワナと震えている。やばい……。怒らせてしまった。何とか怒りを鎮めないと、焼き殺されてしまう。

 どうしようかと思った矢先、突然マリ姉の顔から怒気が消えた。

「…………って思ったけどそういえばリック最近いつもお父様と喧嘩していたわね」

 と、いきなり突拍子もないことを言い始める。

「?? それがどうかしたのか?」

 まあ確かに成人の儀が近づくにつれて父上と衝突することは多々あった気がする。

「あぁ。納得だわ。そりゃあそんな数値も出るわよ」

「?? 何言ってるんだ??」

 全く理解できない。父上と喧嘩したら精神力は強くなるのか?

「アンタは慣れっこかもしれないけどね、父上の≪威嚇≫は他のどんな戦士よりも怖いのよ。たぶん父上とあそこまでまともに言い合えるのは世界でも数えるくらいしかいないはずよ」

 ……あぁ、なるほど。そう言われてみればそうかもしれない。

 父上は、竜人で最強と呼ばれる「竜騎士」の職業だ。しかも竜人軍の将軍も務めている真の猛者だ。

 その父上を激怒させるということは≪威嚇≫を知らず知らずのうちに使わせているはず。

 そういえば俺は昔、父上の≪威嚇≫が怖くて何度も学校に行きそうになる事はあった。

 だが俺はそれを必死に耐えて行かなかったのだ! 鉄の精神で! 

 これが大方俺の精神力が強い理由だろう。

「あたしは無理ね。あんな≪威嚇≫をされたら1秒ももたないわ」

「ちっ。才能じゃないのか」

 くそ。マリ姉にもっと威張れるかと思ったのに。

「それにしたって力8は逆にすごいわねー。子供でももう少しいくよー? 黒雲母も重たいはずよ」

 と、妙にスッキリした表情をしたマリ姉が感心したように言う。

「こちとらコントローラーより重たいものは持っていないからな。ましてや刀なんて持てるわけないだろ!!」

「いばって言うな!」

 あぁ、コントローラーなんて単語を使うともう家が恋しくなってきた。魔法ネットでのオンライン対戦はもうできないのだろうか。

「ま、いいわ。じゃあリック、とりあえずユミーカさんって人と合流しに行きましょうか」

 マリ姉は自身の≪媒介変数≫を消しながら言った。俺もそれに倣い自分の≪媒介変数≫を閉じる。

「は? ユミーカさん? 誰それ?」

「あれ? お父様から聞いてないの? ”人間”であなたの旅のパーティーに加わる人よ!」

 マリ姉はニコっと白い歯を出して笑うと、テクテクと歩き出す。

「いや待ってマリ姉! いま”人間”って言った?」

「言ったわよー。わざわざこんなところにまで来れる人間なんてそうそういないから、かなりお金持ちなんでしょうね」

 そういえば父上も[異種種族交流の旅]って言ってたような気がする。

 え。マジで人間と組むの?

「ちょ、マリ姉待ってってば!」

 一縷の不安を胸に抱きつつ、すでに先にいる姉に追いつくために俺は地面を蹴った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 





懲りずに書いてみました。読んでくれた方は本当にありがとうございます。まだ続く予定です。

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