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千歳の魔導事務所  作者: こでみや
一章 猫騒動
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疑惑 猫からの猫

「こんにちわー。ミキー、いるー?」


 しかしそこにいた人物はミキではなく。将来は淑女と呼ぶに相応しい女性になるであろう雰囲気を纏った、見るからにお淑やかなお嬢様だった。


 それこそ休日は必ずお屋敷のお庭でティータイムでも嗜んであそばせられるような。


 昼食中のようであまり似合わない小さめのお弁当箱はこれまた意外にもかわいらしい色どりをしていたが、それを口に運ぶ動作はお嬢様のそれだった。


 だがその指は所々鈍く汚れている。せっかく綺麗な手なのにもったいないと思ったのが私の第一印象だった事を思い出す。


 その人物は私を見てメガネの奥の切れ目を少し見開いて言った。


「ああ、久しぶりじゃないか。ミキなら飯買いに行くって言って出てったよ。そろそろ帰ってくると思うけど、多分そこのマックュだから」


 あちゃ、入れ違いだったか。


 金曜日。(だったか? 夏休みは曜日感覚が狂う)ミキと遊んでから二日後のお昼時の時間。私は自身の通う学校の、ガラクタ同好会の部室でもある技術室に訪れていた。


 学校に用があり、そのついでに同同好会部長である櫻井祥子(さくらいしょうこ)さんを訪ねてきたのだ。同好会なのに部長とはこれいかに。まあ正式には部なのだから正しいのだけれども。ちなみに二年生。


 とにかく。櫻井部長とは面識がある。というのも私自身この同好会にはそれなりに出入りしていて他の部員との親交もあった。


 いつもは部長やミキほか数人が各々の担当を黙々と、時に和気合い合いと作業をこなしていたりするのだが今日は部長と、今昼食を買いに外に出ているミキ以外には部員はいないようだった。


 技術室の一番後ろの多人数作業用の机、それの櫻井部長の正面に座る私に彼女は親しげに話しかける。


「今日はどうした? ミキと遊びに行く感じか? あ、もしかしてまた手伝いにきてくれたのか? だが今は特に手伝ってもらう作業もないぞ」


 時々遊びに来る関係で手伝ったりすることもある。


「いやちょっと様子見に寄っただけです。別で学校に用事もあったもんで」


 そうか、と櫻井部長はお淑やかに食事を続ける。私も極力食事の邪魔にならないように、それでいてきまずくならない程度に取り留めの無い話をしたりしていた。


 それにしても――。


『相変わらず細いなお前は。……にしても少し細すぎないか? ちゃんと食ってるのか? 夏だからって抜いてないか? ほら卵焼き食いなさい。ほらほら』


『暑いな。ちょっと窓開けるか。――いや自分でやるからいい、お前は座ってろ。ついでに扇風機もつけるか、うんそうしよう』


『もう宿題終わったか? あんなのは八月になる前に終わらせられるものだからな、さっさとやってしまえ、なんなら私が見てやってもいいぞ』


 相変わらずの世話焼きっぷりだった。卵焼きは甘めで美味しかった。


 この人はお嬢様なのは見た目だけで、実は中身はちょっと口の悪く面倒見のいいお姉さんなだったりする。あ、でも実際にお家はお金持ちなんだっけ。


 そろそろお弁当を食べ終えるかというところで私は本題を切り出した。


「そういえば部長、この前なんか変な猫見たらしいじゃないですか。ミキから聞きましたよ」


 私がわざわざここにきた理由はそれだった。ミキはついでに会えれば別にそれはそれで。


「あの猫達か、あれからまた稀に見るぞ、だいたいいつも暗くなってからだけどな、新しく流れ着いた猫もいたな」


「新しい猫? また増えたんですかね……結構いますよねこの学校」


「今は多分七、八匹くらいだな」


 この学校の敷地は無駄に広い。土地が安いからなのか余っているからなのか余っているから安いのか、知らないが。とにかく市の大自然ゾーンに位置するこの学校は動物達にとっては過ごしやすい環境のようだ。


「変というか……あれはどこか動物離れしてる感じだったな。まるで何か目的があって、そこに向かって歩いているようだった、全然こちらに気づかなかったしな」


 櫻井部長にそこまで聞いて――まさか本当にそうなのかと、期待や焦燥に似た感情が心に浮かぶ。


「あぁでもそういえばその後柏木先生が触ってるの見たな、あの人隠れて餌やってるからあの猫にも、もしかしたらやってるのかもな」


「柏木先生がですか? 意外ですね、結構真面目そうなのに」


 柏木先生――確か下の名前はユキヒコ……だったか。今年からの赴任してきた国語教師で歳も二十代中頃と若く、人のよさそうな雰囲気は一部の女子から人気だったりする。なんでも柏木先生はネコっぽいらしい、私にはとてもそうは見えないが。あの人はどちらかといえば子犬だろう。


 と、噂をしている女友達に言ってみたがどうやらそういうことではないらしかった。それ以上は聞き出せなかったが、多分主観の問題なのだろう。


 ご馳走様、と行儀良く手を合わせる櫻井部長。一つ一つの振る舞いからこの人の育ちの良さが伺える。


「さて、では私は作業の続きでもしますかね。それにしてもミキのやつどこまで行ってんだか」


 そういえば遅いなミキ。別に待っているわけでもないけど……ちょっと電話してみようか。


 三回ほどコールの後、携帯の向こうからいつものような明るい声が聞こえてきた。


『やほー! どうしたのー? え、いるの? なんだー早く言ってよー! 今ー? 中庭で猫とご飯食べてるのー! 来る? わかったー! 待ってるー!』


 いいテンションだ。安心。


「ミキ中庭にいるみたいです。ちょっと行ってきますね」


「そうか? ……んーじゃあ私も行こうかな。実は割と暇なんだ」


 というわけで二人で中庭に向かうことにした。


 それにしても柏木先生か……あとで一度、会ってみようか。


 私がわざわざ学校に来た目的の一つが、追加された。






「結論から言うと、実行犯は大量にいる」


 私は自分の部屋のベッドの上にいながらにしてそんな嫌な事実を聞いた。


 それは私がガラクタ同好会を訪ねる前の日の夜の事。私が晩御飯を食べ終えて部屋に戻り続き物のライトノベルを読んでいたところ、ベランダに続く窓を叩く音が聞こえたのだった。


 私の部屋は二階にある。普通は強盗や変質者などを警戒すべきなのだろうが、やはり興味というか好奇心というか、そういうものが先行するのが人情というものだ。


 窓はカーテンで覆われていたので私は少しだけ慎重にカーテンをスライドさせた。すると、そこにいたのは綺麗な金色といって差し支えない毛並みの猫だった。


「……レオ?」


 疑問符がつくのはその猫が本当にどうみても普通の猫にしか見えなかったからだ。つまり、レオだとしたらいつも着ているような人形用の服を着ていなかった。


「こんばんわ孤都。良ければ中に入れてもらえないか?」


 喋った。確定。


 そして私はレオを部屋に招き入れたのだった。



「大量って……それじゃなんとかするならその犯人全部をなんとかしなきゃってこと?」


「まだなんとも言えないが……おそらくその必要はないだろ……お、なんだこれ、手帳か」


 私の机の上で落ち着きなく物を物色する黄金の毛並みの猫は呟く。やめろ、乙女の部屋を漁るんじゃない。手帳を取り返す、別にたいした事は書いてないけど。


 取り上げた手帳の代わりに疑問を私は投げかける。


「どういうこと? 犯人なんでしょ? なんとかしなくてもいいの?」


「そういうわけじゃない……そうだな、孤都は使い魔って知ってるか?」


 机を物色することをやめたレオは私の顔を見ながら言った。


「んーなんとなくなら」


 使い魔……それが正しくどんな定義のものを指すのかは知らないが、なんとなくどういうものかはわかる。


 私が今読んでいる本にもそれらしき存在は登場している。そこでは主人公の勇者が道中に出遭った魔物の犬と契約を結んで共に戦う……といった具合だ。この物語では裏切るらしいけど。


 ペット……ではないけれど。主がなにかの代償に、他の生物を自分の僕として使役する。その使役される生物の事を使い魔というらしい。


「そうか、なら説明はいいか。それでその使い魔だが、その使い魔こそが、今回魔力を人から奪っている張本人で間違いない」


「それで……それがいっぱい?」


「そして市内全域に無数に」


 うわぁ……。でも私もそれなりにこの一週間この街を見てきたがそんなような存在は見なかったような。レオが見てるものは私とは違うのだろうか。


「俺だってただ置物してたわけじゃないからな。この数日色々調べてたんだよ、お前とは違う見方でな。それで本当に使い魔が動いているならばその使役者をなんとかすればいいというわけだ」


 聞けばレオも私のように舞樫駅周辺を中心に調査を行っていたらしい。それも私のようにただ周っていたわけではなく、ある程度アタリ(・・・)をつけてそれに沿って行っていたという。


「事前情報があるなら私にも教えてくれててもよかったんじゃない?」


 ほうれんそうは基本だよ?


「その情報というか前知識が多すぎるんだ。下手な事言って混乱させてもかわいそうだからな。千歳も大体の予想はついてるみたいだったしな」


「なんだか仲間はずれにされたみたいな気分なんだけど……」


「まあそう言うな。できることならお前をあまり巻き込みたくないんだよ千歳は」


 大切に思われてるってことなのだろうか。その気持ちはまあ私でもわかる。


「それで、その使い魔が原因ってんならこれからどうするの?」


「今のところはどうもしない。いくつか方法はあるが、まあやるとしても千歳が帰ってきてからだな」


 そういえばそろそろ帰ってくる頃か、結局何処に何しに行ったのかもわからないが、レオの口ぶりを聞く限りは相当遠いところであるようだった。


「ちなみにさ、その使い魔ってどんなのなの? 私にも見える?」


「ああ、見えるとも、こんな姿だ」

女子の手帳はプライバシーの塊。

覗くなんてとんでもない。

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