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千歳の魔導事務所  作者: こでみや
一章 猫騒動
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探索 格好良いは褒め言葉

 次の日。私は夏の街を駆け抜けていた。


 夏休みに入ってからというもの、外出といえばクーラーの効いた事務所か三駅離れた街へ買い物に行く程度しかしていなかった為、それじゃあまりにも不健康だろうということで、殊勝な私は自らの体の健康を想いまだ午前中だというのに気温三十度を越えようかというこんなクソ暑い中カッコイイ自転車でこんな事をする羽目になったのよこんちくしょう。


 もちろんそんな自身の健康などという酔狂な理由でここにいるわけではない。文明の利器に頼り切った現代っ子をなめるな。


 昨日事務所で話し合った結果、先ずは現状把握をすることが第一ということだったので、私の目下の担当として被害範囲の調査があてられた。その為私は(所長の)自転車を駆り舞樫市を奔走することと相成ったのだった。


 調査の仕方は至ってシンプルで、私は例の『かけると魔力が視えるメガネ』をかけて舞樫市内を中心に自転車で流していき、街の人々の魔力の残量をさりげなく見ていくというもので所長曰く、このメガネで魔力が見えなければそれは今回の被害者と見ていいらしかった。


 そしてとりあえず市内を見回ってみてそれ以上広範囲に及ぶようだったら、後はできる範囲で構わないとのお達しだ。まぁ軽い運動気分で回ってくれと。


 沈む気分とは裏腹にこのカゴがついてない、ハンドルが横一直線になっている完全なスポーツタイプの、所長愛用の自転車は軽快に生ぬるい風を切る。所長の苗字よろしくタイヤ以外のほとんどの部位が赤く、それなりのスタイルの人が乗っていれば格好のつきそうなものなのだが、いかんせん私がそうであるかは疑問なところではあった事はどうでもいいですけどね別に。


 この舞樫市は駅前こそショッピングモールを中心にそれなりに都会的に栄えた光景も見受けられるのだが、そこから自転車で二十分も行ってしまえば茶畑や管理林、何年も前から変化の無い更地やまさかの田園風景まで広がるステキな街だ。都会と自然とが共存する、ある意味恵まれた環境とはこのことを言うのかもしれない、私はこんな地元が割りと好きだった。


 だからこの地元で一体何が起ころうとしているのか、それが良いことなのか悪いことなのかさえもわからない現状は気持ちが悪く、何一つ日常と変わらないはずのこの風景もなぜか危うい、絵に描かれたような儚さをどこかで感じるのだった。


 しばらく街を流し、途中休憩がてらさりげなく公園に立ち寄ることにした。人々魔力は大体無し。どこいってもそんなに変わらなかったので一呼吸入れたかったのだ。私は入り口付近に自転車を留め、日陰になっているベンチに腰を下ろす。公園内では小さな子供達が汗だくになりながら楽しそうに駆け回っていた。別の日陰になっているベンチのところにはこの子達のお母さん達だろうか、三人の女性が談笑していた。


 見るからに微笑ましい光景だった。だけどこのメガネ越しにそれを見ていた私は複雑な心境でその光景を見ることしかできなかったのだった。


 時刻はそろそろお昼ごはんを食べるに丁度いい頃合に差し掛かる。談笑していたお母さん達も気づいたのかそれぞれに子供達に声をかけた。


 時間にして十五分もいなかった私だったが、丁度いいのでそろそろ行こうかと自転車の後輪の止め具を足で跳ね上げた。そして最後にもう一度、公園を出ようとしている親子達に目をやると、些細な事かも知れないがある事に気づいた。


 親子達は手をつないで歩き出したところだった。その親子達は親一人につき子一人、全員で六人いてそれぞれ一人ずつ手をつないでいて、見たところその内の四人が魔力が無くなっていた。


 そして無くなっていない残りの二人というのが親子だったのだ。つまり四人が親子共々魔力が無くなっていて、無事の二人が親子関係にあるということだった。


 確かに、そういえば昨日ショッピングモールで見たときも沢山魔力が無くなっている人達がいる中で丸々被害を免れた家族が何組かいた気がする。その時は気にはしなかったが、もしかしたら何か意味があるのかもしれない。

 

 つまり魔力が無くなる事は家庭環境に少なからず関係があるということか、それともたまたま被害に遭わずに済んだだけか。


 今の時点では何もわからない。情報が少なすぎた。






 公園を後にし、お昼は駅前のファストフード店で済ませた。夏休みということもあってか同年代の男子高校生やまだまだ垢抜けない女子中学生といったグループが見受けられた。彼らが騒いでる横で我関せずといった様子のサラリーマンのおじ様やOLのお姉さま方が黙々と本を読んだりコーヒーぽいものを飲んでいるといった様子だった。


 私も普段なら騒がしいグループの方に属するわけだが今日は残念ながら単独行動、若い子達を客観的に見てなんだかちょっとだけ羨ましいような気もする一方で、同属嫌悪なのかただ単に騒がしいのが目障りなのか、そんな気持ちにもなってしまった。


 せっかくの夏休みだし今度友達のミキでも誘って遊びに行こう、そういえば今年は海にも行ってないなぁ、今回の事がひと段落したら残りの夏休みは思いっきり遊ぼう。なんて事を楽しそうに騒いでいる彼らを横目に思ったりした夏の午後だった。


 


 早々にジャンクフードを食べきった私は、自転車を引いて少し大きめの駅前には必ずあるような、あの駅周辺の地図が書いてある案内板の前に来ていた。今日調査した範囲と、これから回るべき範囲を確認するためだ。と言っても午前中のうちに市内のめぼしいところはほとんど回りきっていて、後はちょっと一駅、二駅先まで足をのばした市外まで見てみるだけだった。


 距離にしたら割と相当な距離を走っているはずだが、不思議と疲れはほとんど感じなかった。やはり走る事に特化してる自転車はペダルも軽い。最初は日を分けて調査することも視野に入れていたのだがこの分なら夕方までには余裕をもって終わりそうで、調子に乗って本当にサイクリングなんかしてしまおうかなんていうことを考えていたら――。


「あの、すいませんちょっといいかな」


 右手の方から声がした。見るとそこにいたのは若い女性だった。真新しいスラックスに胸の開いたブラウス、正に初々しい新社会人といった格好で、所長も数年前だったらきっとこんな感じだったのだろうかな。


 ショートヘアの前髪が数本汗で額にくっついているのがみえる。


 良くみると薄い水色のブラウスも汗で下着がうっすらと透けて見えてしまっていた。わあ。


 私が気が付いたことに気が付くと親しげにその人は続けた。


「南大和高校ってわかるかな?」


 ちょっと疲れたような笑顔でその人は聞いてきた。


「南大和高校、ですか? 知ってますよ」


 なるほど南大和高校(ナンコー)に行きたいのか、確かに最寄り駅はここで合っているのだがあくまで『一番高校から近い駅』がここなだけであの高校、半径二キロ以内に線路が通っていないという都内のはずなのに現代っ子に優しくないまさかの立地なのだった。それは市の端に位置し、しかしこの辺りではそこそこの公立校なのでそんな立地にも関わらず割と人気の学校だった。


 私がすぐ目の前のバス停から一本で行ける事を教えると女性は驚きながらも嬉しそうに笑った。特徴的な八重歯がちらりと見えて、なんだかすごくかわいらしかった。


 私の手を取ってぶんぶんと振りながらその人は子供のように言う。


「ホントありがとう! いや私今日ここに来たばっかりでね、携帯の充電も切れるし……暑いし……もう帰ろうかと思っちゃったけどそんなわけにもいかないしでさー。でも市の端って! なんでそんな不便な所に建てたんだろうね」


 それに関しては同意である。女性はお礼を言って回れ右をしようとしたのだろうが、視界に入ったソレを見て興味を持ったようで不思議そうな表情をして、それから再び私の方を向いて――。


「そのバイク……カッコイイね!」


 それじゃ! と言い放ち親指を立てて颯爽とバス停へ向かっていった。


 かあっとなぜか私の顔に熱がこもった。それこそ夏に吹く爽やかな風のようなあの人がこの自転車に乗ったほうがものすごくカッコよさそうだとか思いつつ、私は自転車に跨りペダルに乗せた足に力をこめた。


 このまま線路沿いを行けば十五分ほどで隣の市の中心街に着くだろう、そこで昨日みたいに駅前調査をすればもう後は本当にサイクリングでもしてしまうのもいいかもしれない。


 後は事務所に行って今日の事を報告して終わりだ。所長は別に何日か懸かってもいいと言っていたけれど、できることはさっさとやっておきたい性分だし、早いほうがいいだろう。


 そんな事を考えながら線路沿いの道をひた走る内に、不意にさっきの女性の事が頭に浮かんだ。


(そういえばあの人、私の高校に一体何の用だったんだろう……?)


 生ぬるい風は、それでも汗をかいた身体には涼しかった。

たまに食べると美味しいですよね。ハンバーガー。

テリヤキばっか食べてた気がする。

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