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双子兄妹の悪魔学園記  作者: 黒雨みつき
 第4章 亡霊の足音
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2年目9月「修学旅行」


 学校が始まって早々、俺たちのクラスは休み時間ごとに非常に騒がしくなっていた。


 いや。

 正確には俺たちのクラスだけではなく、風見学園の2年生全体が、である。


 そしてこの日の昼休みも。


(……ゆっくり寝られやしない)


 休み時間のひとときの睡眠というささやかな幸せさえ奪われてしまった俺は、その騒がしさの原因について思考を働かせることにした。


 まず一番に考えられるのは、睡眠妨害によって俺を衰弱死させようという国家の陰謀説だろうか。


「優希さんー」


 ノーテンキそうな声に顔を上げると、そこにはやはりノーテンキそうな歩の笑顔があった。


「よぅ、歩。今日も相変わらずちみっこいな」

「そんな急に伸びたりしないよー」


 この前の身体測定では1センチ伸びてたけどね、と、しょーもないことを、さもスゴイことであるかのように報告してくる歩。


 そんな話は適当にスルーして、


「で?」

「あ、そうそう。優希さんは班とか決まったのかなと思って」

「班?」


 決まったもなにも、席替えは始業式の日に済ませたはずだ。


 怪訝な顔をすると、歩はすぐに察したらしい。


「その班じゃなくて。修学旅行の自由行動の班だよ」

「しゅうがくりょこう?」


 なにやら重要そうなイベントである。


「……あー」


 そして俺はようやく、クラスが騒々しい理由に気づくことができた。

 2年生は9月の中旬から下旬にかけて3泊4日の修学旅行というイベントが控えているのである。


「修学旅行ねぇ」

「うん。修学旅行ー」


 と、歩が嬉しそうに言う。


 こいつは体が弱いクセにそういうアウトドアなイベントが結構好きなのだ。

 俺もそういうのは決して嫌いではないのだが、3泊4日の旅行なんて夏休みに行ったばかりだったので、いまいち心は躍ってこなかった。


「で、自由行動の班だっけ?」

「そうそう」


 ホテルでの部屋は適当に割り振られてしまうが、2日目と3日目にある自由行動は好きな人間同士、5人の班を組むことになっている。

 歩が言っているのはそのことなのだ。


「あのねー」


 と、歩はちょっと姿勢を低くして、机に突っ伏したままの俺と視線を合わせると、


「私、まだ決まってないし、できれば優希さんのところに入れて欲しいなーって」

「あん? まあ別に構わんぞ。ってか俺、なにも決まってねーし」


 40人のクラスで5人ずつの班だから、基本的に余るようなことはない。

 なんなら余りもの同士の組み合わせでもいいかと思っていたところだ。


(けど、歩が一緒ってんならそういうわけにもいかんか)


 ということで、俺は残る3人を誰にすべきか考えることにした。


「おい、歩。とりあえず直斗をキープしてこい」

「いえっさー」


 ビシッと敬礼して歩が直斗の席まで小走りに駆け寄っていく。

 これでまず、行き先の計画とかを練ってくれる優秀な参謀役もゲットした。


 あとは歩のために女子をひとりキープしたほうがいいだろう。


 となると、由香だ。

 こっちは俺が直々に出向くことにした。


「……え? 私?」


 その旨を伝えるなり、由香はビックリしたように目を大きく見開いた。


「なんだよ。そんなに驚くことか?」

「う、うん。だって優希くん、学校の行事だと私を避けること多かったから……」

「そんなもんか?」


 俺はとぼけたが、若干そういう傾向がなかったとも言い切れない。

 ただ、今回は夏休みの旅行と同じで5人という団体行動だから別に問題はないのだ。


「で?」


 改めてそう聞くと、由香は少し残念そうな顔をした。


「ごめんなさい。私、もうお友だちと班作っちゃって。……あの、直斗くんはなにも言ってなかったし、優希くんが誘ってくれるなんて思わなかったから」

「あー、いいよいいよ。んな顔すんなって」


 なんだかいじめているみたいな構図になってきた。

 俺は気にするなと手を振って、


「もし仲間はずれにされてしょぼくれてたら誘ってやろうと思っただけだ。悪いことねーって」

「う、うん」


 由香はそれでも少し申し訳なさそうだった。


 そうして俺は彼女の席を離れる。


(……まあ、予想どおりっちゃ予想どおりか)


 あいつはもともと友だちが多いから仲間はずれにされるわけもないし、売約済みってのは充分に予測できたことだ。


 しかし、これで女子のアテがなくなった。


(……さて、どうしたもんか)


 考えながら自分の席まで戻ってくると、歩と直斗に加え、サッカー部の斉藤まで集まっていた。


「由香、他の子と一緒だったでしょ?」


 と、直斗。


「ああ。つか、お前は?」


 そう言って斉藤を見ると、


「神薙に誘われてな。ちょうど決まってなかったからお邪魔しようかと思って」

「へぇ、珍しいな」


 こいつも友だちが多いはずだが、と、不思議に思っていると、直斗が補足した。


「決まってなかったというか、集めたら6人になっちゃったみたいだったから引っ張ってきたんだよ」

「ああ、なるほど」


 そういうことなら納得だ。


「けど、あとひとりどうすっかな。このクラスに由香以外の知り合いの女なんて……」

「私、男の人ばっかりでいいよー」

「ん。まぁ、そうだなぁ」


 最終的にはそうなる可能性もあるだろう。……と思ったところで、


「あ」


 思い出した。

 そう。このクラスにはもうひとり知り合いの女子がいるのだった。


「優希? どこ行くの?」

「最後のひとりを誘いにな」


 先ほども言ったようにこのクラスは40人で、5人ずつのグループを作るのだから余りは出ない。

 男女自由の組み合わせなので、その兼ね合いだったりでなかなか決まらないヤツが出ることはあるが、最終的には先生が強制的にグループを作ることになる。


 そして俺がこれから誘いに行く生徒は、まず間違いなくその最終手段の対象になるだろう人物だった。


「と、いうわけで」


 俺は彼女の席の前まで来てそう切り出した。


「神村さんは俺たちの班に組み込まれることとなった」

「……」


 窓から外を眺めていた神村さんが、無言でこっちに視線を移動させる。


 なんというか、この人の行動はひとつひとつがすべて見事な無音だ。

 普段からそういう動きを心がけているのだとしたら気の休まるときがないだろうな、と、俺は勝手にそんなことを想像した。


「直斗もいるし、歩もいるぜ。あとは俺と斉藤。斉藤のことは知ってたっけ?」

「同じクラスの人の名前と顔は覚えています」

「そっか」


 まあ中3のときに同じクラスだっただけで言葉を交わしたことのない俺を覚えていたぐらいだ。

 当然といえば当然だろう。


 神村さんは視線を外し、俺の席に集まっている連中をチラッと横目で見ると、


「わかりました」


 とだけ、言った。


 おそらく選択肢なんてなかったのだろうし、彼女にしてみればきっとどうでもいいことだったのだろう。






「いま帰ったぞー」


 仕事帰りの親父みたいなことを言いながら家の玄関に入る。

 鍵がかかっていなかったので、先に誰か帰っているのは間違いなかった。


 一瞬の間があって。


「はーい。おかえりなさいー」


 そう言いながら歩が新妻のよう――ではなく、主人の帰りを出迎える子犬のようにスリッパをパタパタさせながら出てきた。


「おすわり」

「わんわんっ」


 すかさず犬のように両手をついてしゃがみ込む歩。

 本当にノリのいいやつだ。


「お手」

「わんわんっ」

「おかわり」

「わんわんっ」

「さかだち」

「わん――うっ」


 ピタッと勢いが止まり、歩が困ったような上目遣いでこっちを見る。


「さかだち」


 俺がもう一度そう言うと、


「……できません」

「なんだ。使えねーな」

「しくしく」

「また……なにバカなことやってんの」


 気づくと、いつの間に帰ってきたのか、瑞希が玄関のドアを開けた状態で呆れ顔をしていた。


「歩。あなたもこんなのに律儀に付き合ってあげなくていいのよ。せっかくの頭がバカになっちゃうわ」

「なんだ、瑞希。お前もやって欲しいのか?」

「なんで私があんたに飼われなきゃならないのよ。あんたが逆に犬でもごめんだわ」


 バカバカしい、と、俺の横を抜けて靴を脱ぐ瑞希。


「ノリの悪いやつだなぁ」

「素直に従ったほうが自然だとでも?」

「……」


 想像して、悪寒が走った。


「逆に怖いな、それ」

「でしょ。わかりきったこと言わないの」


 もう一度呆れ顔をして階段を上っていく瑞希。


「仕方ない。間をとって雪にやってみるか」

「……やめときなさいよ。きっとシャレで済まなくなるから」


 階段の途中で振り返った瑞希が眉をひそめる。


「ふーむ、そういうもんか。まぁ確かに冗談ならともかく実際にやっちゃまずいよな。人として」

「……私、実際にやったんですがー」


 無惨にも、そんな歩の主張は、俺、瑞希ともに完全無視と相成った。


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