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双子兄妹の悪魔学園記  作者: 黒雨みつき
 第3章 続・海に行こう
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2年目8月「エンターテイナー」


 将太が昼間のうちに探してきたらしい肝試しスポット(ビーチバレーのときはそれで姿を見かけなかったようだ)は、俺たちが例の事件の駐車場へ向かうときに使用した山道のすぐ近くだった。


 その山道は駐車場へと続く道のほか、入り口付近で近くの小さな鎮守社へ向かう道へと分岐していて、そこはひと気も明かりも少ないが一本道なので迷う心配はなく、しかもぐるっと回って戻ってくる形になっていて、いかにも肝試しをやるのに向いた場所だった。


 ルールは非常に簡単。

 将太があらかじめ鎮守社のそばに置いてきたおはじきをひとつ取り、元の場所に帰ってくるというものだ。


 そして今、将太の号令によって集められたメンバー全員が、そのスタート地点に立っていた。


「さて、問題の組み合わせだが」


 さっそく将太は何本かの割り箸を全員の前に出した。

 その端っこは手で握って見えないようにしている。


「ここに6本の割り箸がある。で、俺が握ってる部分には男どもの名前が書いてあるから、これを女性陣に引いてもらうってわけだ」

「そりゃいいけど人数合わないだろ?」


 俺が突っ込みを入れると、将太は小さくうなずいて、


「ああ。実はハズレが2本入ってる」

「ハズレ?」

「そう。ハズレを引いた女の子は、悪いけど3人で行ってもらうことになる」

「3人? どういうことだ?」

「いや。だから俺とハズレを引いたふたりで」

「……」


 その場にいる何人かが微妙な反応をした。

 だが、将太は心外そうな顔をして、


「お前ら、なんだよその顔! 俺は主催者として、女の子とふたりっきりのチャンスをあえて捨ててこういう提案してんだぜ!? それともなにか? ハズレ引いた子にはひとりで行ってもらうほうがいいってのか?」


 と、必死になって主張する。


 その態度はどうも気になったが、言っていることはもっともらしかった。

 確かに男ひとり、女ふたりの組み合わせだと将太的にはおいしくないだろう。そもそも女子ふたりで話しこんでしまい、仲間ハズレにされる危険さえあるのだ。


 そう考えると、将太の提案は確かに身を削ったものといえるかもしれない。


「けど、お前が言うと他の企みがあるように聞こえちまうんだよな……」

「失敬な! いいから、ほら! クジ引こうぜ!」


 問答無用と言わんばかりに、一番近くにいた真柚をうながす。

 それでみんな一応は納得したのか、異論は出なかった。


「じゃあ、まずは私が引くよっ」


 真柚がそう宣言して手を伸ばす。


「おおっと! 待った!」


 だが、真柚が割り箸を選ぼうとしたところで、将太はパッと手を引っ込めた。


「引く前に誰を当てたいか宣言してからにしようぜ。そのほうが面白いだろ? あ、言うのが恥ずかしかったら、こいつだけは絶対カンベンってのでもいいからさ」


 その提案に女性陣はやはり微妙な反応だったが、これも一応文句は出なかった。


「じゃあ私はねえ……」


 将太の提案を受けて、真柚がクルッと俺たちのほうを振り返る。


「唯依くん! 私、絶対に唯依くんのクジ引くからね~!」

「えっ……」


 案の定、唯依は困った顔をした。


 真柚が再び将太のほうに向きなおって、2~3回迷ったあとクジを引く。


「おっと! まだ誰が当たったかは言わないでくれよ! 楽しみが半減するからさ!」

「あ、うん」


 口を開きかけて止め、真柚が元の場所に戻っていく。

 なにやら妙な表情だったので、もしかするといきなりハズレを引いてしまったのかもしれない。


「では、次は私が」


 続いて舞以が出ていく。


「ほいほい。で、ご希望は?」


 将太の問いかけに舞以はニッコリと微笑んで、


「もちろん唯依さんです」


 その笑顔は、どう見ても唯依が困っているのを楽しんでいるようにしか見えなかった。


 亜矢が小声で隣の唯依に話しかける。


「モテモテね。私もあなたにしようかしら」

「やめてよ、頼むから……」


 唯依はますます困った顔をしてしまった。


 真柚と違ってパッとクジを決めた舞以は、割り箸の先を見て、やはり真柚と同じような表情をしながら戻っていった。


 次は雪の番だ。


「おっ、中等部のアイドルのご登場ですな! 雪ちゃんのご希望は……いや、ハズレ目当てとかだったら嬉しいんだけどなー! 割とマジで!」

「ごめんね。私、ユウちゃんのがいいな」

「……だ、だよねー」


 誰も驚かないし、正直なところ俺も予想してた。


 将太が大げさにため息をついて、


「ダメだぜー。雪ちゃんせっかくかわいいんだからさぁ。少しはあのアホ兄貴以外の男にも目を向けないとー」

「誰がアホだ、こら。……つーか、雪。引くなよ。絶対引くなよ」

「どうかな?」


 雪が楽しそうにそう言いながらクジを引く。


 が、割り箸の先を見て少しきょとんとした顔をすると、そのまま戻ってきた。

 どうやら違ったっぽい。


「私も優希さんがいいですー」


 ぴょこぴょこ飛び跳ねるように出て行った歩が、元気よく手をあげながらそう宣言する。


「……おーい。まだ唯依と優希の名前しか出てねーぞ。人類皆平等じゃなかったのかー」


 クジを差し出しながら将太が不満げにそう言うと、直斗がすまし顔で、


「平等なんじゃない? 日ごろの行いに対して素直に結果が出てるわけだし」

「おまっ……余裕ぶってるけど、お前だって出てねーんだからな!」

「だから日ごろの行いだってば」


 本気なのか冗談なのかよくわからない笑顔で直斗はそう言った。


「ちくしょう! 優希! あとで覚えてろよ!」

「知らねーよ! つか、お前ら勝手なこと言ってっけど、俺なんか実の妹と守備範囲外のお子様だかんな!? 羨ましがられる要素ひとつもねーよ!」

「そ、それはひどいよ、優希さんー!」


 ブーブー言いながら歩がクジを引く。


 割り箸の先を見て、一瞬チラッとこっちを見た。

 まさか俺のクジを引いたのだろうかと思ったが、それにしては反応が小さい。演技のできる器用なやつではないから、おそらく違う誰か。


 横目で隣の唯依を見る。

 あの視線の動きを見る限り、たぶんこいつだろう。


「えっと……私は直斗くんか優希くんで」


 由香もほぼ予想通り。


 そして最後に出て行った亜矢は、こっちにいたずらっぽい笑みを向けて、


「じゃあ私も便乗して優希先輩で」

「……」


 やっぱりアイツはちょっと苦手だ。


 そうして女子6人全員がクジを引き終わった。


 結果はというと――


 最初に引いた真柚と舞以がいきなりハズレ2本。

 そのほか、雪が京介、歩は唯依、由香は直斗で、


「……マジか」


 俺の相棒はこともあろうに亜矢だった。


「ちょっと先輩? 露骨に残念そうな顔しないでください。こないだ描いた絵に呪いかけますよ」

「人の絵をしょーもないことに使うな!」

「ふふっ……冗談です」


 そこへ将太が大きな声で、


「あー、はいはい。みんな騒ぎたい気持ちはわかるけどそろそろ始めよーぜ。まずは言いだしっぺの俺から行くから、5分おきに1組ずつ入ってくってことでよろしく。イチャイチャすんのはいいけど、おはじきの取り忘れには注意な!」


 特に誰からも異論が出ることはなく。


 ただ、俺はやはり少し引っかかっていた。


(……あいつなんか企んでんな、きっと)


 このままなにもせずに終わるとはどうしても思えない。

 そう疑ってみると、最初にクジを引いた真柚と舞以がいきなりハズレクジを引き当てたのも少し不自然な気がした。


(先に入って得をすること、か……)


 なんとなく企みの正体が見えたような気がしたが、とりあえず放っておくことにした。

 想像どおりだとしたらあえて止めるようなことでもない。まあせいぜい頑張ってくれと心の中でエールを送るだけだ。


 将太のあとの順番はじゃんけんで決められ、最初が直斗・由香組、2番目が歩・唯依組、次に俺と亜矢、最後に雪・京介組、という順番になった。


 まあ、そんなこんなで。

 とりあえず、名目上はなんの変哲もない肝試しが始まったのだった。




-----


 このままではいかん!


 旅行3日目の朝を迎えたとき、将太はふいにそんなことを感じていた。


 去年もそうだったのだが、この旅行、イベンターとしての自分の存在感がいまいち発揮できていないことに気づいたのである。


 今年もナンパは1件も成功しなかった。

 まあそれは彼にとっても想定の範囲内だったのだが、新しく知り合った後輩の女の子と親しくなれたわけでもないし、一緒に来た連中に新カップルが誕生した気配もない。


 そこで将太は考えたのである。

 せめて最後のイベントぐらいは成功させて、自分の存在をアピールしなくては、と。


 そうして旅行の3日目を、またナンパしに行くと偽ってその下準備に費やすこととなった。


 肝試しといっても、鎮守社のそばに置いたおはじきを取って帰ってくるだけのイベントだ。

 本当なら少しでも仲良くなった女の子と一緒に行けるように細工して、さらに親交を深めようという目的のイベントになるはずだった。


 が、しかし。

 脈のありそうな女の子がひとりもいないという展開になってしまったからには、それはもう望めない。


 ならば、せめてみんなが楽しめるように。

 つまり肝試しであるから、ビックリして悲鳴のひとつあげさせるぐらいの演出を行わなければならないだろう、と。


 動機は多少不純であれ、将太はそんな殊勝なことを考えていたのである。


 そのために、どうするか。


 ただ脅かし役を作るだけでは面白くない。

 誰かが脅かすとわかっていれば心の準備ができてしまうし、今どきそんな安っぽい演出で驚く女子など、せいぜい由香と歩ぐらいのものだろう。


 そこで将太が考えたのが、この作戦だった。

 つまり脅かし役がいることは伝えず、一番最初に進むフリをして後から来る人間を待ち伏せするというものだ。


 ただ、この作戦には協力者が必要だった。


 そこで、まずは一番乗ってきそうな真柚に協力を依頼したところ、彼女は面白がって二つ返事で了承し、さらに舞以を仲間に引き込んでくれた。


 つまり彼女たちふたりが最初にハズレクジを引いたのは、優希が予想したとおりあらかじめ示し合わせたことだったのだ。


 そうして計画どおり最初に中に入った将太は、前もって林の中に隠しておいた仮想用の衣装(といっても調達する時間がなかったため、目のところが開いた黒い布を被るだけだ)を身に付け、道の脇の茂みに隠れて準備完了である。


 仕掛けは簡単。


 誰かが通り過ぎた後、布を被った将太が後ろから物音を立てながら近付き、恐怖が最高潮に達したところで全力で後ろから追いかける。

 さらにその先の木の上では真柚が糸にぶら下げたコンニャクを手に待機していて、逃げてきて混乱しているふたりの顔や首筋あたりにピタッ……という、いかにも古典的なものである。


 舞以は、なにか不測の事態が生じたときのための連絡役で、とりあえずは真柚の近くに待機していた。


(……さぁ、準備は万端だ! どんときやがれ!)


 気合充分の将太が茂みの中で待ち受ける中。

 その最初の獲物である直斗と由香が、林の中に足を踏み入れていた。


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