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双子兄妹の悪魔学園記  作者: 黒雨みつき
 第6章 暮れの閑話祭り
48/239

1年目12月「ふたりの記念日」


「おーい! ビール持ってこーい!」

「おー、んじゃあたしは日本酒~!」

「ねーよ、んなもん! つかお前ら未成年なんだから少しは遠慮しろ!」

「いいじゃねーの、年に一度のことなんだし」

「そうだそうだ~!」

「うっせえ! てめえら絶対年に一度じゃねぇだろ!」

「……うー、雪ちゃ~ん! 不知火がいじめるよ~!」

「ダメだよ、ユウちゃん。女の子泣かせるようなこと言ったら」

「なんでだよ! 珍しく正論しか言ってねーよ、俺!?」

「いや、雪ちゃんの言うことは絶対だ! つまりお前が全面的に悪――いてッ! おまっ、今本気で殴りやがったな!?」

「あれれれ? 頭がなんだかフラフラにー……」

「あら? ……ちょっと誰よ、歩に変なもの飲ませたの」

「あ、さっき将太がなにか混ぜてたみたいだよ」

「ちょっ、直斗お前、余計なことチクってんじゃ――いてぇッ! おっまえな! さっきからポコポコポコポコ殴りやがって!」

「殴られるようなことしてんだろ! 直斗! お前も黙って見てないで止めろ!」

「ごめんごめん。止めようと思ったときにはもう飲んじゃっててさ」

「……あれ? どうしたのみんな、騒がしいね?」

「おお、戻ってきた。ユカっち~、ついでに酒とつまみ持ってきて~!」

「お酒? って、え? 美弥ちゃん、顔が真っ赤に……」

「おろろ? 不知火の顔が3つある?」

「……もういい。てめーはとっとと潰れちまえ」

「はい、美弥ちゃん。お水だよ」

「おお、さすが雪ちゃんは気が利くね~。ぶつくさ言ってるだけの兄貴と違ってさぁ」

「あー、はいはい。もう勝手にしてくれ……」

「……さすがのあんたもこのメンバーだと抑え役なのね」

「しゃーねーだろ。俺が止めなきゃ誰がこのふたりを……って!」

「あぅー、このお水、なんだか体がポカポカしますー」

「……だぁぁぁぁ! おい、雪! 歩からそいつを取り上げろ!」

「ほら、歩ちゃん。今ホントのお水持ってくるからね」

「たはは、ごめんなさいー」


 ご覧のとおり、ウチは今クリスマスパーティの真っ最中である。

 そしてご覧のとおり、収拾がつかない状態になっていた。


 原因ははっきりしている。

 オードブルを食べた後に唐突に出てきた、出所不明の"魔法の飲み物"のせいだ。


 もちろんそんな怪しい飲み物を進んで口にするやつがそうそういるわけもなく、顔を真っ赤にしているのは将太と藍原、それに騙されて口にしてしまった歩の3人だけだが、それでこの惨状である。


 まあ俺だって別に品行方正な優等生ではない。

 他人に迷惑をかけない範囲での飲酒まであーだこーだうるさく言うつもりはないのだが、こいつらのそれははっきりと(主に俺に)迷惑がかかっているのだ。黙っているわけにはいかないだろう。


「……ったく」


 床に転がった空き缶を拾い上げ、少し静かになったリビングを見回す。


 ソファでは顔を真っ赤にした歩が、これ以上ないほどに緩んだ表情で気持ち良さそうに転がっていた。

 目を閉じているが、寝ているのか休んでいるだけかはわからない。


 テーブルでは将太と藍原が酒だかジュースだかわからないものを飲んでいる。

 直斗と瑞希がそれぞれ話し相手になっていたが、よく見ると適当に相づちを打っているだけのようだ。


 由香は殊勝にも使い終わった皿を洗い始めている。


 そして雪は――


「あ、ユウちゃん」


 姿が見えないなと思っていたら、部屋に戻って着替えていたのか、厚手のコートにマフラーという防寒装備で雪がリビングに戻ってきた。


「なんだお前。どっか行くのか?」

「うん。洗剤切らしちゃって」

「ああ……」


 台所を見ると、由香がちょっと困った様子でこっちを見て笑っていた。


 そのまま視線を窓の外に移す。

 外はもう真っ暗だった。


 俺は拾い集めていた空き缶をゴミ箱に放り投げて、


「ちょっと待ってろ。俺も用意してくる」

「え? ……あ、うん」


 少し驚いた顔をしてから、雪は嬉しそうにうなずいた。

 俺はすぐに部屋に戻り、厚手の上着を羽織って、瑞希に一言かけてから一緒に外に出た。


 駅前の方角へ足を向けると、ちょうど空から白いカケラがちらちらとこぼれてくる。


「ホワイトクリスマス、ってやつか」


 駅前通りに出ると、この時期にだけライトアップされるイルミネーションが、暗い夜空に舞い散る雪の結晶を幻想的に輝かせていた。

 その下を、多くのカップルが肩を寄せ合いながら歩いている。


「いいクリスマスイブだね」


 雪も手の平を夜空にかざしながらそう言った。

 俺は相づちを打って、


「だな。けど、こんないい聖夜に隣を歩いているのが、こともあろうにただの妹とはなぁ」

「ただの妹じゃないよ。可愛い妹。でしょ?」

「うっせぇ」


 雪の額を指先で軽く小突いてやる。

 こいつにしては珍しく浮かれた冗談だった。


「あ、そうだ。ユウちゃん」


 そうして目的地のスーパーへ向かう途中、とある店の前で雪が立ち止まった。


「せっかくだから、こっちも済ませちゃおっか?」

「ん?」


 雪が足を止めたのは小さなCDショップの前だった。


「前に欲しいって言ってたよね。んー、なんだったかな。ナントカっていうグループの……」

「ナントカって1文字も合ってねーよ。そもそも英語だし」

「うん。そのナントカさんのCD」

「だから1字も合ってねーって。つか、言っただろ。金が無いから次の小遣い待ちだって」

「だから、ほら」


 雪はそう言って俺の口元に人差し指を向けると、


「誕生日プレゼント。だよ」

「……ああ」


 そういえばそうだった。

 今日は12月24日のクリスマスイブ。

 そして明日25日はクリスマスであるとともに、俺とこいつの16回目の誕生日なのである。


 こっちも済ませる、というのはそういう意味だったらしい。


「けどいいのか? 3枚組のベスト盤でDVD付きだからかなり高いぞ?」


 と、俺は尋ねた。


 家計を握っているとはいえ、互いの誕生日プレゼントは自分たちの小遣いから出すのが決まりだ。

 俺の欲しいCDはこいつの1ヶ月分の小遣いを越えてしまう値段である。


 ただ、雪は事もなげにうなずいた。


「うん。年に1回のことだもの」

「……まー、お前がいいなら俺はありがたいけどさ」


 結局、その言葉に甘えることにした。


 ふたりで店に入り、目的のものを買う。

 ただ、レジでそのまま商品を受け取ろうとしたら、雪に怒られてしまった。


「ちゃんと明日だよ。そのために綺麗にラッピングしてもらったんだから」

「あんま意味なくねーか、それ?」

「意味なくても面倒そうでも、形って大事なんだからね」


 たしなめる口調だったものの、雪はいつも以上に機嫌がよさそうだった。


「じゃあ次はお前のな。いつもの店でいいのか?」

「うん」


 俺たちが次に向かったのはその近くにある女の子向けのファンシーショップだ。

 もちろん選ぶのは雪本人である。


「ユウちゃん、これでいい?」


 雪が手に取ったのは小さなペンダントだった。

 色は銀一色。シンプルといえば聞こえはいいが、あまり工夫のない地味なデザインだった。


「ずいぶんはえーな」

「うん。実はおととい下見に来てたの」

「ふーん」


 一応受け取って値札を見ると、値段は315円。


「……まあ、お前が気に入ったんならなんでもいいぞ。ほら、金」


 財布から400円を出して渡す。


 そして俺は、雪がレジに行っている間に、かなり前に欲しがっていた少し高めのハンカチを別に買っておくことにした。


 あいつがいつも金欠な俺の懐事情を考慮してくれるのはありがたいが、さすがに甘えっぱなしというわけにもいかない。


「じゃあこれも明日、ね」


 と、ラッピングされた袋を俺に差し出す雪。

 安物のペンダントなのだが、それでも雪は充分に嬉しそうだった。


(……ま、こいつの場合はなにをつけてもそれっぽく見えるみたいだし、これでもいいのか)


 そういえば文化祭の男装女装喫茶で着た学生服も周りからは案外好評だったらしい。

 明らかに似合ってはいなかったはずなのだが、そのミスマッチでさえプラス要素にしてしまうのだから、同性からすればうらやましい限りだろう。


 ちなみに歩は、そのとき体中に包帯を巻いて"ミイラ男"をやっていたそうだ。

 それは男装じゃなくて仮装だろと思ったが、そこはあえて突っ込まなかった。


 天才の考えることは凡人にはよくわからない。


「ね、ユウちゃん。そのペンダント、私に似合うと思う?」

「は? 似合うと思ったから買ったんじゃないのか?」

「うん。そうだけど、ユウちゃんから見てどうかなって」

「あー……まあ値段分ぐらいは似合うんじゃねーの?」


 男の俺からすると、兄妹でこういう話をするのはどうも照れくさい。

 なので、適当に素っ気なく返したつもりだったのだが、


「ホント? じゃあ、やっぱりそれにしてよかった」

「……お前、もしかして今のが褒め言葉に聞こえたのか?」


 すると、雪は近い位置から見上げるように俺の顔を見つめて、


「うん。違った?」

「……」


 確信を含んだ雪の返しに、俺は言葉もなく。


 ……こいつはいつもこうだ。

 いつも俺の本心を見抜いているかのような態度を取る。


 そして大体の場合、それは図星なのだ。


「勝手に勘違いしてろ。ほら、急ぐぞ。将太と藍原がまたいつ暴れ出すかわからんからな」


 俺がそう言って早足になると、雪は小走りになってそっと腕を絡めてきた。




 ……何年か前。

 こんな雪の反応をうっとうしいと感じた時期があった。


 中学1年生の前半。

 たいして長くもない俺の人生の中で、思い出すことがもっとも苦痛な暗黒期。


 中学に入学して3ヶ月もしないうちに、俺は不登校になった。


 といっても、家に閉じこもっていたわけではない。

 学校に行かず、家にもほとんど帰らず。知り合ったばかりの悪友や先輩の家を渡り歩き、時には野宿しながら日々を無為に過ごしていたのだ。


 毎日のように他校の生徒とケンカをし、家から勝手に持ち出した幾ばくかの金を無駄遣いしたりもした。


 別にそういう生活がしたかったわけじゃない。

 学校がどうしようもなく嫌だったわけでもないし、ケンカすることが楽しかったわけでもない。


 ただ、俺は雪に会いたくなかったのだ。


 無条件に俺を信じきるあいつの眼差しから逃れたかった。

 放蕩することによって、その信頼を裏切ってやりたかったのだ。


 もともと俺は小さいころから妹を守るのは自分の役目だと強く感じていて。

 だから自分はその期待と信頼に、常に100パーセントで応えなければならないと思っていた。


 そしてそのまま思春期を迎えた俺は次第に理想と現実のギャップに気づき、あいつの前で理想の自分を演じることができなくなってそこから逃げ出したのだ。


 9月から10月にかけては、学校にも家にもまったく顔を出さない時期が続いた。


 警察沙汰になるのが面倒だったので電話だけは毎晩かけていたが、『今日は帰らない』と一言告げるだけで、電話の向こうの雪の質問にはいっさい答えなかった。

 その間をずっと他人の家に厄介になるわけにもいかなかったので、後半は夜のほとんどを駅のベンチや公園で過ごしたのを覚えている。


 もちろんガラの悪い連中や酔っ払いに絡まれることもたくさんあったが、そのころの俺はすでに悪魔の力に目覚めていたし、自暴自棄になっていたこともあってそれを使うことに抵抗もなかったから大きな問題は発生しなかった。


 そんな、特に楽しかったわけでもない生活が1ヶ月ほど続いたころ。

 俺はとうとう手持ちの金をすべて使い果たし、仕方なく家に戻ることにした。


 そのときの俺が考えていたのは――ああ、今にして思えばバカげている。


 雪がどんな顔で俺を出迎えてくれるのか、ということ。


 怒るのか。

 それとも泣きじゃくるのか。


 そのどちらも想像することができて、そしてどちらだったとしても俺が信頼に値する人間なんかじゃないってことを証明できるだろうと思っていた。


 そうすることでようやく解放される。

 長年積み重なった苛立ちから逃れることができると思っていたのだ。


 ただ、そんな俺の愚かな希望はあっさりと裏切られる。


 俺を出迎えた雪の反応は最悪だった。

 少なくとも、そのときの俺にとっては。


『……ユウちゃん』


 玄関のドアを開けて顔を見せた雪は憔悴しきっていた。

 いつも身だしなみには人一倍気を遣っていたはずなのに、目の下にはくっきりと隈が浮かび、前髪は目にかかるぐらいに伸びてまったく整っていなかった。


 ……だけど。

 その憔悴しきった顔で、雪は怒るでも泣くでもなく。

 1ヶ月前と変わらない笑顔を浮かべて言ったのだ。


『おかえりなさい』


 と。


 ……ああ、思い出したくもない。


 予想もしていなかったその対応に、頭に血が上ってしまったのだ。

 もうなにがなんだかわからなくなって。


 どうしてそんな笑顔で俺を見るのか。

 どうして非難してくれないのか。


 本当になにがなんだかわからなくて、それが腹立たしくて。


 俺はその日、生まれて初めてあいつを殴ってしまった。


 なにごとか怒鳴りながら。

 なにを言ったのかは正直なところ覚えていない。

 ただ、そのときの手の平の感触は今でも鮮明に残っていて、その感触とともに思い出すのだ。


 床にうずくまって泣きじゃくる、あいつの姿。


 その光景は、俺が戻ってきたときに望んでいたものだった。

 ……望んでいたはずなのに。


 胸に湧き上がるざわめき。

 めまいと吐き気。

 静寂の中に響くすすり泣き。


 そのときの俺にあったのは、重い信頼の枷から逃れられたという解放感などではなく。


 後悔と絶望。


 取り返しのつかないことをしてしまったという後悔と。

 これで、信頼とともに向けられていた笑顔もなくなるのだろうという絶望。


 まったく気づいていなかったのだ。

 俺を苛立たせてきたはずのそれらが、そのときの俺にとって、生きる目的にも似たとても大切なものだったということに。


 そして俺はその光景に背中を向け、再び逃げ出した。


 金もないのに飛び出してどうするのか、なんてことは考えてもいなかった。

 いや、そのまま餓死してしまうのならそれでもいいと頭の隅で考えていたかもしれない。


 今思えば、どうしてそれほど思いつめていたのか。

 いや、あの当時の俺に聞いたところで、きっと明確な答えは返ってこなかっただろう。


 ただ、そのときはとにかく、自分が引き起こしてしまった最悪の場面から一刻も早く逃れたくて。

 それだけのことをしてしまったような気がしていたのだ。


 だけど――


『……ユウちゃんッ!』


 家の門を飛び出したところで俺の足は止まった。


『お願い、行かないで! 私は大丈夫だから!』


 俺が泣かせてしまったあいつに。

 俺が俺の都合だけで長いこと苦しめた妹に、背中から必死に抱きしめられて。


『……』


 硬直した俺の頭はまだ熱に侵されていた。


 振り解こうと思えばいつでもできただろう。

 それほどにあいつの力は弱々しかった。


 だけど、俺は指先ひとつ動かすことができなかったのだ。


 まるで金縛りにあってしまったかのように。

 背中に当たる、あいつの温もりに。


 泣いてしまいそうだった。


『大丈夫だから。ユウちゃん……』


 そして雪は、俺の背中に耳を当てて言ったのだ。


 涙声で――






 ……すぅっと、後ろから腕が回される。

 背中には華奢で柔らかな体の感触。


 冷たく吹き抜けていく冬風の中、その部分にだけは確かな温もりを感じて。


 俺は思わず立ち止まった。

 そしてほとんど無意識に、胸の前に回された雪の冷たい手を軽く握る。


「ユウちゃん」


 小さくて細い指。

 背中に耳が軽く押し当てられる。


 そして雪は言った。


「ちゃんと聞こえてるよ。ユウちゃんの本当の気持ち、いつでも私に届いてる……」

「……」


 そのときに俺は心に誓ったのだ。


 それは兄としての義務なんて、そんな大層なものじゃなく。

 ただ、こいつが与えてくれる温もりへの、ささやかなお返しとして。


 なにがあっても、こいつだけは絶対に俺が守っていくのだ、と。


「……なんだよ。急に」


 少しの沈黙のあと、俺は雪の手を離して顔だけを後ろに向けた。


「つまりアレか? 本当はすげぇ似合ってるって、俺がそう思ってるとでも?」

「さあ、どうだろ?」


 と、雪は俺の顔を見上げて悪戯っぽく微笑んで見せる。


「なんだそりゃ。……あー、どうでもいいけど離れてくれ。こんなとこ学校のやつらに見られたらどうなることか」

「どうなるの?」

「嫉妬に狂った連中から、よくて半殺し、悪けりゃ全殺しの目に遭う」

「兄妹なのに? 変なの」

「よそから見たら変なのはお前のほうかもな。……ま、とにかく離れろ」


 もう一度言うと、雪は素直に離れて俺の右隣に並んだ。

 そして夜空を見上げる。


「来年も、いい年になるかなあ?」

「来年もってことは、今年はいい年だったのか?」

「うん。今年もずっとユウちゃんのそばにいられたから」


 だけど、未だにわからない。

 実の兄とはいえ、どうして俺みたいな人間にそこまでの信頼を寄せることができるのか。


 今となっては、その理由なんて特に気になることではないものの――


「バカだな、お前。そういうセリフは兄貴に向けるもんじゃねーって」

「でも、私にはそれが一番だから」

「おいおい。もう高校生だぞ、俺ら。子どもみたいなこと言いやがって」

「うん。私はまだ子どもだから。今はそれでいいよね?」

「……勝手にしろ」


 俺が再び早足になると、やはり雪は小走りになって腕を絡めてきた。

 自然、歩く速さが元に戻る。


「来年もいい年になるよね、きっと」

「お前が俺の小遣いを少し増やしてくれればな」

「それはダメ。ユウちゃん、あったらあっただけ無駄遣いするから」


 こういうところは本当にしっかりしている。

 将来はきっといい嫁になることだろう。


(……嫁、ねえ)


 今はまだ想像もできない。

 そういう意味では、俺もこいつと同じでまだまだ子どもなのだろうか。


「……あ、また降ってきたみたい」


 雪が夜空に手をかざす。

 俺はその姿を見て、ふと思いついた。


「お前ってホントに雪が好きだよなー。雪だけに」

「うん。好きだよ」


 くだらないダジャレを突っ込まれるかと思いきや、雪は意外にも普通に答えてきた。

 そして逆に聞いてくる。


「ユウちゃんも好き?」

「あ? ま、どっちかっつーとな」

「そう。よかった」


 そうして買い物を済ませたあとも雪はずっと上機嫌で。

 そして、この年の暮れはそのままなにごともなく平穏に過ぎていったのだった。


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