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双子兄妹の悪魔学園記  作者: 黒雨みつき
 第6章 暮れの閑話祭り
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1年目11月「文化祭前半戦」


 毎年11月に行われる文化祭は風見学園最大のイベントである。


 前にも少し説明したと思うが11月初旬の土日を利用したこのイベントは、兄弟校である桜花女子学園と合同で開催される。

 外部の客も自由に出入りすることができて、おそらくはこの学園にもっとも人が集まる2日間だろう。


 いつも真面目そうなヤツらしか集まらない図書室では、事前に先生や生徒たちから寄付された古本が売られ、体育館では2年生の各クラスによる素人演劇、職員室は図書室と同じようなチャリティバザールと化す。

 外には出店も並び、普段地味な文科系の部がこのときとばかりに様々な出し物を行うのだ。


 おそらくはこの日、いつもどおりの姿を保っていられるのは山咲先生の常駐している保健室ぐらいのものだろう。


 さて、この文化祭。風見学園と桜花女子学園の生徒たちはそれぞれの学年に応じた出し物をする決まりとなっている。

 先ほども言ったように2年生は体育館で演劇、3年生は受験を間近に控えていることから各教室内での自由な出し物。


 そして俺たち1年生の出し物は軽食喫茶である。


 これが、それぞれの売り上げによる順位が後日発表されるとあって、各クラスともなかなかに熱が入る行事らしい。


 売り上げが自分たちの儲けになるわけでもないのだが、体育祭を見てもわかるとおりウチの学校にはそういうことに真剣になる連中が伝統的に集まるようで、他のクラスには負けないと意気込み、できるだけ客の集まりそうな喫茶店を計画するわけである。


 で、俺たちのクラスはというと――


「真正面からぶつかってもトップをとるのは難しい! ここは"奇抜な喫茶店"を合言葉にしていこうではないか!」


 ある人間のそんな主張がまかり通ってしまい、あーだこーだと議論した挙句"インド風喫茶店"とかいうわけのわからないものに決定してしまった。


 この時点でもうダメな気配が漂っているのがわかるだろう。


 さて、ではなにがインドなのかというと、メニューとしてナンとかスープカレーを出す……わけではなく、単に窓や壁にゾウの絵とかタージ・マハルの写真とかをペタペタ貼って、ウェイターやウェイトレスがインド人っぽい(あくまで"っぽい"だ)衣装を着ているというだけの、中身はごくごく普通の軽食喫茶である。


 バカバカしいと思うかもしれないが、これでもウチのクラスの連中は大半が本気だった。

 そして一応言っておくと、俺は本気"ではない"ほうのグループである。


 ……ああ、そうそう。


 先ほども言ったとおり、この文化祭は桜花女子学園との合同イベントのため、向こうの生徒たちもこちらの各クラスに振り分けられる。

 当然ウチのクラスにも何人かの生徒が割り当てられていて、放課後には学校のバスでわざわざこっちに来て準備を手伝ったりしているのだが、知っている顔も特になかったし、名前もあまり覚えてはいなかった。


 ちなみに将太のヤツは初日の段階で、全員のプロフィールを例のメモ帳に追加したらしい。

 いわく"新たなスーパー級の女子はいなかった"そうだ。


 そんなこんなで。

 今日はそんな文化祭の1日目である。


「……やれやれ、やっと終わったか」


 俺はそれまで身に着けていた妙な衣装を脱ぎ、頭にかぶっていたターバンらしきものを外すと、うぅーん、と小さく背伸びをした。

 隣で着替えていた直斗がそんな俺を見て、


「それほど大変じゃなかったね。お客さんも少なかったし」

「少なかったな」


 まあ予想通りである。


 9時から11時半まで、というのが、俺たちに割り当てられた喫茶店のお勤め時間だった。

 ちなみに明日の午後にも勤務時間が割り当てられているのだが、そっちはそっちで終了間際の時間だからやはり大した数の客は来ないのだろう。


「やることないのにボーっと突っ立ってなきゃいけないってのは、それはそれで苦痛なもんだな」

「確かにね。……これからどうする?」

「まずは適当にぶらつこうぜ」


 制服のポケットを叩いて財布が入っているのを確認してから教室の出口へ向かう。


「……だいぶにぎわってきたな」


 廊下にはかなりの人が歩いていた。

 例年どおりだとこのぐらいの時間から客が増え始め、午後3時ぐらいまでその状況が続くらしい。


 だから俺たちがウェイターをしていた時間帯は客が少なくて当然で、別にウチのクラスの喫茶店が圧倒的に人気がなかったと決まったわけではない。

 結果が出るのはこれからなのである。


 とはいえ――


「そういえば4組の喫茶店だけど、すごいことになってるらしいね。……ううん。すごいことになりそうだね、のほうが正しいのかな」

「ん?」

「ほら、4組って雪がウェイトレスやるからさ」

「……ああ」


 それは俺にもある程度予想できていた。


 他の中学から来た連中はともかく、中等部から上がってきたヤツらの中で雪のことを知らない生徒はまずいない。それは先輩方についても同じことで、それこそ中等部時代の雪は生徒会長よりも知名度の高い生徒だったのだ。


 しかもそれはウチの学校だけでなく、ある程度は近隣の学校にも及んでいて、その辺りの事情を考えれば4組の喫茶店が一番繁盛するであろうことは簡単に想像できるのである。


 ちなみに将太が『真正面からぶつかっても勝ち目がない』と主張したのはまさにそこで、他の連中がそれに同意したのも同じ理由なのである。

 つまり、これは最初から負け戦だったのだ。


 なんて。

 わかったようなことを考えながらも、どんなもんかと様子を見るため、俺と直斗は4組の喫茶店へと向かった。


 そして、案の定。


「……おかしいんじゃね? こいつら」


 その光景を目の当たりにして、俺は思わずそうつぶやいていた。


 正直、俺の想像以上だった。

 4組の教室前には大行列。軽く50人ほどはいるだろうか。

 大半は男子だったが、女子もそこそこに混じっている。


「だから、すごいことになりそうだって言ったでしょ?」


 呆然とする俺の顔を見て、直斗が苦笑しながら言った。


「いや……ここまでとは思わんだろ、フツー。アイドルのサイン会場じゃねーぞ、ここは」

「当たらずとも遠からずかな。雪はアイドルみたいなものだったから。……で、どうする? 僕たちも並ぶ?」

「バーカ。並んでられっか、こんなもん」


 即答である。

 なにが楽しくて毎日顔を合わせている妹に会うためにこんなにも並ばなきゃならないのか。


 4組には歩もいるし、雪にも『顔を出してね』と言われていたので一応様子を見には来たが、この状態ではさすがに無理ってもんである。


「でもま、これは雪だけの力じゃないと思うけどね。牧原さんも一緒でしょ?」

「……あー、あいつも見てくれだけはいいからなー」


 認めたくはないことだが。

 というかむしろ、1割ほど混じっている女子はアイツが目当てだったりするのかもしれない。


 そんな、瑞希に聞かれたらまた蹴り飛ばされそうなことを密かに考えていると、


「あら? あなたたち……」

「ん?」


 立ち去ろうとした後ろから声をかけられて、俺と直斗はほぼ同時に振り返った。


 そこにいたのはなんともタイミングの悪い。

 たった今話題に上った牧原瑞希その人だった。


「や、牧原さん。久しぶり」


 直斗が無難な挨拶をする。

 瑞希もそれに微笑み返して、


「夏休み以来かしら? ホント久しぶりね。……なに? じろじろ見て」


 俺の視線に気付いた瑞希が露骨に嫌そうな顔をした。


「いやお前、その格好……」


 俺たちがインド風衣装でウェイターをやったように、他のクラスも当然それぞれにコンセプトを作ってそれに沿った衣装をまとっている。


 そんな瑞希が着ていたのは学校の制服だった。


 セーラー服ではない。

 学生服、つまりは男子生徒の制服である。


 俺はまじまじと瑞希を見つめて言った。


「似合いすぎだろ、お前。いつ性転換したんだ?」


 ゴツンッ!


「……ってぇ!」

「言うと思ったわよ……」


 こぶしを握り締めた瑞希が怒りをこらえた表情で言った。


「いてて。冗談ぐらい理解しろよ……ったく」

「明らかに悪意がこもってたでしょうが。……だいたいあんた、私にしかそういうこと言わないじゃない。雪ちゃんや歩ちゃん相手だったら言わないでしょ」


 言われてみて、少し考える。


「雪になら言うかもしれんが……下手なこと言うと、よくわからんうちに逆に俺が女装する展開になってそうでなあ」

「……あり得るわね」


 それについては瑞希も同意見だったらしい。

 雪ワールド、おそるべし。


 そんな俺たちのやり取りに直斗は笑いながら、


「でも本当に似合ってるよ、牧原さん。いつも女性っぽい服装が多いから気付かなかったけど、そういう服も意外と似合うかも。役者さんだったら色々な役ができそうだ」

「そう? ……ありがと」


 瑞希は素直に嬉しそうな顔をした。


「……」


 言ってることは俺とそんなに変わらないような気がするのだが、なんだろうか、この結果の差は。

 どうも納得できん。


「けど、それって4組の衣装なんだろ? 4組の喫茶店って全員学生服なのか? もしかして応援団的なアレか?」


 俺の問いかけに瑞希は少し呆れた様子で、


「男子が学生服着たって面白くもなんともないでしょ。要するに逆。女子が男装して、男子が女装するの。制服に限らないわ。私はただ、身近にそういう服がなかったからこの格好をしてるだけ」

「あー……そういやさっき4組から、スカート履いた地球外生命体が何匹か飛び出してきてたっけ」


 しかしまぁ男装はともかく、女装はいったい誰が喜ぶんだろうか。

 全員学生服のほうがまだなんぼかマシだと思う。


「……って、ちょっと待て」


 そこで俺は気付いた。


「気のせいか? お前が着てるその制服、どうも俺の中等部時代のものと似てるんだが……」

「そうよ。だから言ったでしょ、身近にあったって」


 瑞希があっさり肯定すると、


「あ、そういえばそうだね。ほら、右の袖のところ、ちょっとだけ焦げた跡が残ってる」


 直斗がワンテンポ遅れてそう言った。

 俺は頭の中の記憶をたどりつつ、


「少なくとも俺は貸し出しを許可していない……というか、許可を求められた記憶すらないのだが、これは俺の記憶が間違っているのか?」

「だって言ってないもの。いいじゃない、減るものじゃないし」


 それはそう、というか、中等部時代の制服が残っていたことも今初めて知ったぐらいなのだが、人の着ていたものを借りるのだから一言ぐらい断りがあってもいいと思う。


「まあいいや。熱狂的な俺のファンに剥ぎ取られないように気をつけてくれよ」

「そんな子がいたらむしろ喜んで譲るわ。あんたにとっては数少ないチャンスでしょうから」


 相変わらずの憎まれ口を返し、瑞希は腕時計に視線を落とした。


「あ、そろそろ当番の時間だわ。じゃあね、直斗くん」

「うん。機会があったらお店に行くから」

「……オススメしないけどね」


 行列をチラ見して苦笑すると、瑞希はそのまま4組の教室の中へと入っていった。

 直斗はその後ろ姿を見送って、


「優希、どうする? やっぱり並ぶ?」

「冗談だろ」


 俺は再度その意思がないことを表明し、そのまま反対の方向へ歩みを進めた。

 直斗がすぐ隣に並んでくる。


「じゃあ図書室にでも行ってみようか。古本とか売ってるみたいだけど」

「古本ねぇ。今は別に欲しいものないしなぁ」

「外の出店は?」

「腹減ってない」

「だったら体育館で2年生の演劇でも見ようか?」

「知り合いもいないのに見てもしゃーないだろ」

「……」

「……」


 直斗が困った顔をしたが、俺も困ってしまった。


「文化祭って、意外と暇なもんだな……」


 最終的に導き出した俺の結論に、直斗は呆れ顔で小さくため息をついたのだった。






 午後。


 あれから俺と直斗はあてもなく回りまわって、結局は自分たちのクラスへと戻ってきていた。

 もちろんウェイターではなく客として、である。


 時間は午後1時。

 なんだかんだで2時間ほどは校内をブラブラしていたようだ。


 ……さて。

 先ほども説明した我がクラスのインド風喫茶店。


 誰が書いたかわからない稚拙なゾウの絵が壁や天井いっぱいに半ばヤケクソ気味に貼り付けられているだけでも充分に怪しいのだが、加えて天井の蛍光灯をピンクのセロファンで覆っていて、それがよりいっそう怪しい雰囲気をかもし出していた。


 この演出を考えたやつは、絶対にインドを別のなにかと勘違いしているに違いない。


 そして当然の帰結。

 それなりに混む時間帯であるにもかかわらず、我がクラスは閑散としたままだったのである。


「やっぱ単に奇抜な発想だけじゃダメってことだよね」


 直斗が当然のことを口にした。


 まあ、わかっていたことだ。

 最下位になることが決定的となった今、逆に気が楽になったともいえるだろう。むしろ静かでゆっくりできる空間が確保できて万々歳である。


「いらっしゃいませー」


 俺たちが席についてから30秒ぐらいで、ウェイトレスがやってきた。


「……って、お前か」

「うん」


 やってきたのは、少しはにかみながら銀色のトレイをお腹の前で抱えた由香だった。


「お疲れ様、由香。うちのクラス、女子の衣装は結構うまくできてるよね」


 と、直斗が言った。


 由香が着ているのは"インド人っぽい女性の衣装"といえば大半の人が同じものを想像するであろう、いわゆるサリーと呼ばれる民族衣装……っぽい雰囲気のまがい物である。

 しかしまがい物といっても、直斗が言うように本物じゃないかと思えるほどのクオリティで、いかにもやっつけで作った男子の衣装とはレベルが格段に違っていた。


 由香はまるで自分が褒められたかのように嬉しそうな顔をして、


「うん。柿原さんがこういうのものすごく得意でね。デザインからみんなの指導まで全部やってくれて」

「柿原? そんなやつ、ウチのクラスにいたか?」

「あ、ほら。桜花女子から来てる、眼鏡をかけた小柄な子だよ」

「あー……」


 考える素振りをしてはみたものの、まったくわからなかった。

 直斗が苦笑して、


「優希に言っても無駄だよ。とにかく人の名前と顔を覚えられない人なんだから」

「それじゃ俺がバカみたいじゃないか」

「僕は言わないけど、それを他人に言われたら否定はできないかな。いくら親友でもね」

「おまえなあ……おい、由香」


 由香がおかしそうにクスクスと笑っていたので軽くにらんでやると、


「あっ、じゃ、じゃあ注文はどうしようか……お客さん、だよね?」


 由香は慌てて取り繕った。


「あー、んじゃメロンソーダ」

「僕はホットココアをもらおうかな」


 そう言って、生徒全員に配られる飲食用のチケットをちぎって渡す。


「かしこまりました」


 ちょっとぎこちない口調でそう言って、由香がそそくさと奥に引っ込んでいく。


 それからしばらくして。


「お待たせー」


 由香が持ってきたのは直斗が注文したココアと、なぜかメロンソーダがふたつだった。


「お客さんほとんど来ないから、休憩してていいって」

「……ピークを過ぎたとはいえ、悲惨な状況だな」


 そう言ってガラリとした教室内を見回す。

 直斗ではないが、女子の衣装のできが非常にいいだけに、基本コンセプトの部分で大すべりしてしまったことが非常に悔やまれる結果である。


「そういえば今日、雪ちゃんと会った?」


 メロンソーダの入ったコップを両手で包み込むように持ち、ストローで少しずつ飲みながら由香がそんなことを聞いてきた。


「会ったぞ」


 当たり前だろ、という顔で俺が答えると、


「あ。朝じゃなくて、学校で……ってことだよ?」

「会えたと思うか?」


 今度は逆に聞いてやると、由香はそれだけで状況を察したようだ。


「やっぱりそうなんだ? 私、お昼はずっとここでウェイトレスやってたからわからなかったんだけど、クラスのみんなが4組すごいよーって話してたから……」

「交通整理が必要なレベルだったな」

「ふーん。やっぱり雪ちゃんすごいなぁ。でも……」


 と、由香は形のいい眉をちょっとだけ不可解そうにひそめた。


「雪ちゃんってあんなに人気あるのに、どうして男の子は誰も告白しないのかなぁ?」

「……」

「……」


 由香の言葉に、俺と直斗は黙って顔を見合わせる。


「え? なに?」


 空気を察して、由香が不思議そうな顔でこっちを見た。

 そんな由香に、直斗が苦笑しながら答える。


「その疑問は根本的に間違ってるね。僕も優希も、中等部のころはよく告白の仲介をお願いされてたから」

「俺なんか一時期、アイツ宛てラブレターの専門配達員と化していたぞ……」

「え、そ、そうだったんだ……。知らなかったよ、私。雪ちゃん、そういう話全然しないから」

「毎日のように妹にラブレターを届けなきゃならない兄の気持ちも察して欲しいもんだ」


 俺はテーブルに片肘をついて、メロンソーダの底をストローで軽くかき回しながら言った。


「けどま、人気あったサッカー部の先輩が玉砕してからは少し数が減ったかな。俺にとってはありがたいことに」

「その先輩って、もしかして――」

「本人の名誉のために実名は伏せておく」


 といっても、中等部時代に人気のあったサッカー部の先輩といえば、たぶん俺たちの中ではひとりしか思い浮かばないはずだ。


 雪にフラれた傷を癒すため、卒業後は遠くのサッカーが盛んな高校に行ったとか言われていたが、原因はたぶん後から誰かが適当に付け加えたものだろう。


「あの先輩、私の周りにもいっぱいファンがいたよ。……そう考えると雪ちゃんって不思議だよね。男の子と付き合ったりする気ないのかな?」

「本人に聞けよ」


 当然のようにそう答えると、直斗が突然思い出したように、


「そういえば一時期うわさが流れたよね。雪があまりにも断り続けるものだから、もう誰か付き合ってる人がいるんじゃないかって」

「最有力候補はお前だっただろ、直斗」


 そう言うと、由香はちょっと驚いた顔をする。


「そんなうわさあったんだ……私、それも全然知らなかった」

「ま、あの話はほとんど男子の間でしか流れてなかったからな」


 由香が知らないのも無理はない。


「僕の場合、雪と一緒にいることが優希の次に多かったってだけだからね。優希と由香が付き合ってるってうわさになるのと一緒だよ」

「あー」


 それはよくわかる。

 この時期の男女間の友だち付き合いってのは色々と面倒なものだ。

 付き合ってるうわさだけならそれほど大きな被害はないのだが、ときどきそれを前提とした下世話な話題を振られたりするのが困りものだ。


 と。

 俺たちがそんな高校生らしい(?)話題に花を咲かせていたところへ、


「あッ! いたッ!」


 非常にやかましい声が教室内に響いた。


「不知火! 大変たいへーんッ!」


 あまりの大声に、直斗や由香も一斉に振り返る。

 声の主は確認しなくともわかっていた。


「おい、うるせーぞ、藍原。他の客の迷惑になるだろ。……っても、ま、客なんてどこにもいないけど」

「冷静に自虐ネタを披露してる場合じゃないってば!」


 駆け寄ってきた藍原がバンッとテーブルを叩く。

 コップの底に残っていた氷がカラカラと音を立てた。


「どうしたの、藍原さん?」


 と、冷静に尋ねる直斗。

 対照的に興奮した様子の藍原が続けた。


「不知火の妹! 雪ちゃんだよ、雪ちゃん! 雪ちゃんが大変なの!」

「雪がどうかしたのか?」

「どうかしたのか、じゃないってば! 雪ちゃんがガラの悪そうな男にどっか連れていかれちゃったんだよ!」

「ええッ!?」


 由香が目を見開いて驚く。


「ガラの悪そうな男……? おい藍原、詳しく聞かせろ」

「うん。あのね――」


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