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双子兄妹の悪魔学園記  作者: 黒雨みつき
 第4章 海に行こう
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1年目8月「なぜそれでうまくいくと思った」


「……あれが、お前の連れてきた"女の子"か?」


 "みんなで白い砂浜に2泊3日で行こうツアー"の初日はあいにくのくもり空だった。

 天気予報によると雨が降り出すようなことはなく、明日明後日と回復傾向にあって、最終日には憎らしいほど絶好調な夏のお天道様を拝めるとのことだが、ぶっちゃけ今はそんなことはどうでもいい。


「おうよ。なにか文句でもあるか?」


 改札を済ませた駅のホーム。

 約5分後に到着する電車を待つ俺たちの元へ、このツアーの主催者である将太は一番最後に現れた。


 俺と直斗、雪に瑞希、そして将太ともうひとり。


「おっすお待たせー。不知火、やっほやほー」

「文句しかない。というか連れて帰れ。今すぐにだ」


 将太の連れてきた"女の子"は、どこからどう見ても知ってる顔だった。

 藍原である。


(……ま、予想してなかったわけじゃねーけど)


 女好きを公言していながら女の子と一度も付き合ったことのない将太が、この短期間の間に見知らぬ女の子と知り合いになって、しかも2泊3日の旅行に連れてくるなんて、普通に考えてありえないことなのだ。


 ただ、ほんの少しだけそれ以外の未来を期待していたことも確かだから、がっかりしなかったかといえばそれは嘘である。


 結局、瑞希がいることを除けば、いつものメンバーになってしまったわけだ。


「んなことより。ほら優希。紹介しろよ、紹介」

「ん? ああ」


 将太に急かされて思い出す。


「そういやお前は初対面だったな。じゃあ紹介するぜ。あいつは俺の昔っからの友人で神薙直斗――」

「そっちじゃねーよ!」


 もちろんわかっている。


「あっちは俺の義理の妹の雪だ。よろしくな」

「だからそっちじゃ――って、え! お前ら本当の兄妹じゃないの!?」

「んなわけねーだろ」


 信じるほうがどうかしてる。


「おーい、瑞希ー」


 仕方なく瑞希を呼んでやることにした。

 少し離れたところで列車を待っていた瑞希は、振り返って将太と藍原の姿を発見すると、すぐに俺の意図を理解したのかこちらにやってくる。


「うぉ……ファッションモデルみたいじゃん……」


 小さくそうつぶやいたのは将太ではなく藍原である。


「はじめまして。従姉の牧原瑞希です」


 初対面でさすがの瑞希も少しかしこまっていた。


「どもー。藍原美弥っす。敬語はなしでいきましょー」


 藍原が軽く応じると、瑞希もすぐに藍原の性格を理解したようだ。


「わかった。だったら美弥ちゃんでいいかしら?」

「問題なしっす」

「おい、藍原。お前キャラがブレてないか?」

「そんなことないっす。キャラが定まってないのがあたしのキャラっす」

「……そいつは新しいな」


 いずれにしろ、どうでもいい話である。


「それと――」


 瑞希の視線が将太のほうを向く。

 将太はハッとして、


「ふ、藤井将太でございます! 本日はわたくしめのつまらぬ企画に御同行いただきまして、恐悦至極に存じます!」

「……」


 どうやらもっとブレているヤツがいたようだ。






「……うわっ、すごい人!」


 藍原が反射的にそう叫んでしまったのもわかる気がした。


 電車に揺られ、乗り継いで合計1時間半。降りてから歩くこと10数分。

 ようやく視界に映った海岸はそれほどに多くの人で埋め尽くされていた。


「将太の親戚の旅館だっつーから、もっとマイナーなさびれた海だと思ってたが……」


 肩から提げた荷物を抱えなおしながら振り返ると、将太は得意げな顔をしていた。


「そんなはずはなかろう。俺様の計画に間違いなどないわ!」

「……どうでもいいが」


 俺はそんな将太を冷たい目で見て、


「大丈夫か、その荷物」

「……問題ない」


 額に脂汗を浮かべながら答える将太は、両手から両肩まで抱えた荷物で一杯だった。


「ねえ、将太くん。やっぱり無理しないほうがいいよ。私たち自分で持てるから」


 雪が心配そうに言った。

 そう。将太のヤツはなにを血迷ったのか自ら女性陣全員の荷物持ちを買って出て、電車を降りてからずっとこの状態で歩いてきたのである。


(荷物の量を見ただけで無謀だとわかりそうなもんだが……)


 だいたい女性陣の荷物は俺たちよりも明らかに多いのだ。

 それが3人分。


 これも将太がよく言う"ポイント稼ぎ"なのかもしれないが、現状を見てわかるとおり、それが功を奏したことは一度もなかった。


「だ、大丈夫だよ、雪ちゃん。ハハハ……」


 その笑いはさすがに乾ききっている。


「……根性ね」


 瑞希が俺の耳元でささやくようにそう言った。


「バカなだけだろ。……おい、将太! 大丈夫ならさっさと旅館まで案内しろって!」

「うん! 早く荷物置いて泳ぎに行こうよ~!」


 と、藍原。


「あ、ああ……」


 ハァハァと息を切らせながら将太が恨みがましい目で俺を見る。

 もちろん知らん顔をしてやった。


 そうして海岸沿いをさらに歩くこと約10分。

 ようやく将太の親戚の旅館に到着した。


「へえ……いいところじゃねーの」


 海水浴場ということもあって、周りにはいくつもホテルらしきものが建っているのだが、たどり着いた建物は"ホテル"というより"旅館"という雰囲気の建物だった。

 とはいえ、決してボロいわけではない。小ぎれいな風情のある旅館だ。


 他の面々も、表情を見る限りは好印象だったようだ。


 将太に連れられて旅館の中へと進む。

 手続きはすべて将太に任せ、俺たちはロビーの中でとりあえずくつろぐことにした。


「ねえ、ユウちゃん。あれ、見て見て」


 雪がやってきて俺のそでを引っ張る。


「なんだ? ……クマ?」


 入ってきたときは気づかなかったのだが、入り口のすぐ横に大きなクマの人形、というか剥製? が置いてあった。


「クマって近くで見たことないけど、結構可愛いんだね」

「可愛いかどうかは知らんが、なんでクマ?」


 この辺りは別にクマの名産地(?)ではない。

 縁もゆかりもないはずだ。


「言われてみれば……なんでかな?」


 俺の言葉に雪は不思議そうな顔で小さく首をかたむけてみせる。


 そんな雪の仕草を見て、俺は唐突に小学校のころのことを思い出した。


 あれは……確か5年生のときだったろうか。

 男子の間で"女子を動物に例える"という話題で盛り上がったことがある。


 そのとき雪が例えられたのがハトだった。

 よく不思議そうにしながら首をかたむける仕草がハトっぽいというのが理由だったらしい。


 それを聞いて俺は妙に納得したのを覚えている。


 さらに当時の男子連中に言わせると、この仕草はどうやらものすごく可愛く映るらしく、一時期わざと不可解なことを言って雪にこの仕草をさせようとする連中がいたほどだった。

 ただ、本人にはそれが癖である自覚はないようで、一度直接言ってやったときは『え、そうかな?』なんて言いながら、不思議そうにやはり首をかたむけていたものである。


「……ユウちゃん?」


 そして今。

 ボーっと考えごとをしている俺を見て、雪がまたも不思議そうに小さく首をかたむけていた。


(うっ、可愛い……!)


 ……と、いう感じなのだろうか。

 俺にはよくわからない。


「にしても、将太のやつおせーな」


 見ると将太はまだカウンターでなにやら話をしていた。


 退屈になって周りを見回すと、ちょうど別の客が旅館に入ってきたところだ。

 大学生だろうか。単車のヘルメットを手にしたふたり組だった。


 今は正午を少し過ぎた辺り。

 チェックインするには早めの時間だから、本格的に客が来るのはこの後だろう。


 さらに視線を横にスライドさせると、直斗と瑞希、藍原の3人が旅館内の小さなみやげ物屋をのぞきながら談笑していた。


(瑞希のやつ、あっさり溶け込んだな……)


 別に心配していたわけでもないが。

 と。


「困ったことになった……」

「……ぬぉ」


 突然目の前に現れた将太のドアップに、俺は思わずのけぞってしまった。


「だからお前、突然のアップはやめろっての……」

「それどころではない。緊急事態だ」

「緊急?」

「どうしたの?」


 と、雪が尋ねる。

 直斗たちも集まってきた。


「実は……」


 全員が集まったのを確認して、将太は説明を始めた。


「部屋のことなんだが、本当は3人部屋をふたつ取ってもらうつもりだったんだ。男3人、女3人だからな。ところが……」

「どうなったんだ?」


 俺が聞くと、将太は力なく首を振って、


「言葉の行き違いがあったらしくて、ふたり部屋を3つ取ってたみたいなんだ。どうにか替えてもらおうと思って粘ったんだが、なにぶんこの時期で部屋は全部埋まってるらしい」

「……」


 将太以外のメンバーが顔を見合わせる。

 将太は残念そうにため息をついて、


「まあ、こうなった以上は仕方ない。ここは公正にあみだくじで部屋割りを決めるしかないと思い、すでにくじを作っておいた」


 そう言いながら将太はポケットから紙切れを出す。


「まあ女の子たちはちょっと不満かもしれないけど、一緒の部屋になったからって変なことをしようとするヤツは俺らの中にはいないからさ。悪いけど我慢して――」

「ちょっと待て」


 変に早口になって事を進めようとする将太にストップをかける。

 ……なお、その直前には、将太以外の5人の間で"お前が止めろ"的な視線のやり取りがあったことを申し添えておこう。


「なんだ、優希?」


 将太は張り付いた笑顔でこちらを見た。

 頬の筋肉がピクピクして、なにやら懸命に目配せしている。


 おそらくは余計なことを言わないでくれ、という意味なのだろうが、もちろんそんな将太の意図を汲んでやる気はさらさらなかった。


「部屋のことは仕方ねーよな。けど、それなら俺と雪が一緒でいいだろ。で、お前と直斗、瑞希と藍原。それでなんの問題もない」

「僕もそれでいいと思うよ」


 と、直斗。


「あ、そっか。そうだよね~」


 気付いていなかったのかとぼけているのか、藍原がポンと手を打つ。


「くっ……」


 あっさり野望を打ち砕かれた将太は、端から見てもわかるほど落胆した顔で、


「で、でも、ほら! 雪ちゃんだって、優希と一緒よりは女の子同士のほうがいいだろ? だからここは公平にくじ引きでだな――」

「? 私、ユウちゃんと一緒の部屋がいいよ?」


 雪がトドメの一撃を放った(もちろん悪気はない)。


「うぐっ……」

「これで解決だな。よかったよかった」


 俺はそう言って足元の荷物を抱え上げる。

 だが、将太はなおも食い下がって、


「ま、待て! そんなことして、もしもお前らに間違いがあったらどうするんだ!」

「なんだそりゃ。俺と雪がダメなら他の組み合わせなんて論外だろ」

「うぐ……」


 ついに言葉を失った将太の背中を、藍原がぽんっと叩いて、


「藤井。お疲れさん!」


 そして将太はがっくりと肩を落としたのである。


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