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双子兄妹の悪魔学園記  作者: 黒雨みつき
 第3章 温泉に行こう
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2年目2月「似たもの同士」


『女の子は預かってる。ひとりで近くの滝へ』


「……優希くん? どうしたの?」

「!」


 メモを見て一瞬固まっていた俺は、勝美さんの声に我に返った。

 そして再びメモ用紙に視線を落とす。


 改めて考えるまでもない。これは歩を連れ去った何者かの指示だろう。


 歩が連れ去られた。

 ……誰に? いや――


 ひとまず考えることをやめ、俺は開いたままの窓から外の状況を確認した。


 すでに人の気配はない。

 ただ、窓の下の草むらに少し踏み荒らされたような跡があった。

 ここから外に出たと考えて間違いないだろう。


 窓から離れ、少し考える。


 犯行が可能だったのは、勝美さんと華恵が部屋を出てから、俺たちが戻ってくるまでのわずかな時間しかなかったはずだ。


 俺がロビーで勝美さんと話をしていた時間は、せいぜい10分から15分程度。

 つまり、連れ去られてからそれほど時間は経っていない。


 そこまで整理して、俺はようやく勝美さんを振り返った。


「勝美さん。あんたはとりあえず部屋に戻ってくれ」

「え……でも歩ちゃんは?」

「心配すんな。あいつはちょっと夢遊病みたいなアレがあってな」

「む、夢遊病……?」


 びっくりしたように目を開く勝美さん。


「俺が連れ戻してくる。だからあんたは部屋に戻ってろ」

「え……あ、う、うん……手伝わなくても大丈夫?」

「ああ。行き先の予想はついてる」

「……わかった」


 納得したのかどうかはわからないが、今はそんな彼女に構っている暇はなかった。

 土間から靴を拾い上げ、室内に戻って窓から外へ出る。


(滝、か)


 足跡は滝まで続く山道に続いていた。


 ここから滝までは歩いて10分程度。全力で走れば2~3分だろう。

 あっちが歩を抱えて移動しているのだとすれば、滝に到着する前に追いつけるかもしれない。


 足を早める。


(……しかし、な)


 そうしながらも、実は今回、俺の中にそれほどの危機感はなかった。


 その理由のひとつはメモ紙の文面だ。


 急いで書き殴ったような文章は、おそらくそれが念入りに計画された犯行ではないことを示している。

 文字の乱れからは、かなり緊張、あるいは興奮した状態で書いたらしいことがうかがえた。


 つまり、少なくともこういうことに慣れた人間の犯行ではない。


 さらにもうひとつ。

 どちらかというとこっちの要因が大きいのだが、相手が仮にまっとうな誘拐犯(?)だったとしても、歩はああ見えて"超常能力者"の端くれであるということである。


 普通の人間相手なら、よほど油断していない限り身の危険はない。


 そして――


 結局、俺は滝にたどり着く前に犯人に追いつくことができた。


 ……というより。


「優希お兄ちゃん!」


 暗闇の中に浮かぶふたつの人影。


 片方は旅館の浴衣姿の歩。

 体の自由を奪われ、苦しそうに俺に助けを求めて――いたりはしなかった。


 案の定、である。


「な、なんだ、これ……ッ! 体が、動かない……っ!」


 途方に暮れる歩の足もとに、男性らしき人影があった。

 直立した体勢で転がっているところを見ると、どうやら歩の念動力で全身を拘束されているようだ。


 見覚えのない男だった。


 ただ――


(……悪魔だったか)


 男の耳は大きく尖っていた。

 一瞬、俺や唯依たちを襲った連中のことが頭をよぎったが、赤い瞳でないところを見ると夜魔ではない。


 無関係だろうか。

 あるいは夜魔以外にも仲間がいたということか。


「……で?」


 俺はひとまず歩に説明を求めた。

 すると歩は困惑した様子で、


「わ、私もわかんないの。寝ぼけてて、気がついたらこの男の人に担がれてて……」

「……なるほど」


 拉致されて、ここまでそれに気づかなかったというのはなかなか優秀なボケっぷりであるが、歩が嘘をつく理由はないのでそれが真実なのだろう。


 仕方なく、俺は転がっている男のほうに視線を移した。


 明らかに年上だが、まだ若い。おそらくは20代だろう。

 よくよく見ると額に小さな角のようなものが見えるので、どうやら亜矢と同じ雷魔のようだ。


「あんたは?」

「うぐぐ……」


 問いかけると、男は動かない体で必死にこちらを見上げた。

 メガネをかけている。見た目はいかにも真面目そうなごく普通のサラリーマンといった感じだ。


 ますます動機がわからなくなった。


「な、なんなんだ、君たちは! どうして体が動かないんだ!?」


 逆に聞き返してきた男に、俺は少し声を低くする。


「質問してんのはこっちだぞ、コラ。言っとくけど、相手が悪魔ならこっちも容赦しねーからな」


 そう言って男の顔の近くにしゃがみこみ、近づけた手の平に炎を灯す。

 すると男は驚いたように息を呑んだ。


「き、君たちは……僕と同じような力を持ってるのか……」

「……」


 その言葉を聞いて、俺は確信した。


「歩、拘束を解いてやれ。どうも警戒するほどの相手じゃないらしい」

「え? あ、うん」


 歩が念動力を解除する。


「……う、動く」


 やはり男は驚いたような反応を見せ、それからゆっくりと上半身を起こした。


 演技のようには見えない。

 おそらくは本当に俺たちの力を知らなかったのだろう。


 ただ、一応釘を刺しておくことにした。


「先に言っておくけど妙な動きはすんなよ? 今度は拘束じゃすまない。握りつぶされてミンチになりたくなきゃ大人しくしてろ」

「そ、そんな残酷なことしないよー……」


 歩が即座に抗議の声をあげたが、男はそれでも青い顔になっていた。

 そして俺は質問を再開する。


「で? なんのためにこいつをさらおうとした?」

「っ……」


 男は顔を歪めた。

 少し悔しそうに唇をかみ締めて。


 ……そして。


「う、ううっ……うわぁぁぁぁぁぁんッ!」

「……は?」


 いきなり泣き出してしまった。


 あっけに取られる俺。

 歩もなにがなんだかわからないという顔をしている。


 そんな俺たちを完全に無視して、男は何度も鼻をすすりながら叫んだ。


「もうお終いだ! この世の終わりだぁっ!」

「お、おい、ちょっと落ち着け――」

「ダメなんだ! もうダメなんだよぉっ! 僕は愛する人がピンチのときにもなにもしてやれない、究極のダメ男なんだぁぁぁぁッ!」

「……」


 意味がわからん。

 意味がわからんのだが――


「……おい、歩」


 俺は渋い顔で歩を振り返り、言った。


「つい最近、俺はこの男によく似た性格の女性と知り合った気がして仕方ないんだが……お前はどうだ?」

「あ……あはは……」


 乾いた笑い。

 たぶんそれが歩の答えだ。


 そして俺はこの時点でようやく。

 自分たちがとんでもない茶番劇に巻き込まれたのだということに気づいたのだった。




 

 

「勝美!」

「克己さんっ!」


 旅館の前で再会し、ひしっと抱き合って愛を確かめ合うふたり。

 感動のシーン。……なわけはない。


 そんな彼らから少し離れた場所でその光景をながめていた俺は、隣の歩に問いかけた。


「……なあ、歩。俺はあいつらを本気で1発ずつ殴っても許されるよな、きっと」

「や、やめたげてー」


 最後の最後まで歩はフォロー役だった。


 さて、この状況だけではいまいちよくわからない人もいるだろうと思うので、事の一部始終について一応補足しておくことにしよう。


 まず、歩をさらった雷魔の男。

 こいつが久米克己という、勝美さんの話に出てきた彼氏その人である。


 いわく、この温泉旅館はふたりにとって思い出のある場所らしく、彼が今日この旅館にやってきたのは勝美さんを追ってきたわけでもなんでもなくて、本当にただの偶然だったらしい。

 気持ちを整理するのが目的だったようだ。


 そんな克己さんが婚約を引き伸ばした理由が、先ほど俺たちが目の当たりにした彼の正体。

 つまり、その体に流れる濃い悪魔の血(4分の3混血)だった、というわけである。


 つい先日、木塚の件があっただけに、そんな彼の悩みは今の俺にとってもタイムリーなもので、心境を理解できなくもなかったのだが――


「……俺が傷心女性の隙に付け込もうとした悪質なスケコマシ野郎だ……っていう突拍子もない勘違いが、俺にはどうにも納得できん」

「あ、あはは……それはたぶん、優希さんがハンサムさんだったからではー」

「む……」


 こいつにしては気の利いたフォローだ。後でなにか買ってやることにしよう。


「けど、だからって話をするために人さらいまでしようとするとか、いったいどういう思考回路だよ」

「そ、それは、気が動転しちゃったんだろうとしか……」


 さすがの歩も、その点はフォローしきれないようだった。


 結局のところ、あの彼氏は危なかっしい勝美さんを支えるしっかり者などではなく、まったく同じような特性を持った似たものカップルだったというわけだ。


 まあ、それはそれでお似合いといえるのかもしれない。

 彼らの行く末まで心配してやる義理はさすがにないだろう。


 そしてしばらくして、克己さんだけがこちらにやってきた。


 俺と歩に向かってぺこりと頭を下げる。


「今回は本当にすみませんでした。僕の早とちりでとんでもないご迷惑を……」

「……もういいよ。それよりさ」


 歩に勝美さんのもとへ行くよう指示し、ふたりきりになったところで俺は克己さんに尋ねた。


「あんたの正体、彼女に明かすつもりなのか?」


 すると、克己さんは悩ましい表情になって、


「……はい。実は僕も悩んで色々な人に相談したんですけど……最終的には、彼女ならきっと本当の僕を受け入れてくれるだろうと思って。それに隠しごとがヘタなので、あとでバレるよりは今のうちのほうがいいだろうと」

「そうか」


 危険な賭けではある。

 ただ、隠し通す自信がないというのなら、今のうちに明かしてしまったほうがダメージが少なくていいという考え方もあるだろう。


 その辺りは本人が決めることだ。


 俺はそれについてはなにも言わず、


「けど意外だな。あんた、そんなことを相談できる相手がいるのか?」

「あ、はい。実は彼女との付き合いについても学生のころからずっと相談に乗ってもらってて……見てのとおり、優柔不断なものですから助かってます」

「ふーん」


 見たところ悪魔狩りと関わっているようには思えないし、また別の相手なのだろう。


 その時点では俺も特に深くは考えず。

 こうして、迷惑なカップルによる騒動はあっけなく幕を下ろしたのだった。






「……でも、大変だよねー」


 歩がそんなことを言い出したのは、ふたりのカツミさんと別れて自分たちの部屋へ戻る途中のこと。


「私は小さいころから知ってたけど、勝美さんはそんなことぜんぜん知らずに育ったんだよね。……大丈夫かなぁ?」


 どうやらあのふたりの今後についての心配らしい。


「どうだかな」


 それに対して、俺にもはっきりとした回答ができるはずもなく。


「俺たちにはどうにもできないことだ。考えてもしょうがないだろ」

「うん……そうだよね」


 それでも歩は、しばらく難しい顔をしたまま。

 悪魔と人間のそういう関係について、こいつにもなにか思うところがあったようだ。


 なんだかんだと時間は23時を大きく回り、間もなく日が変わりそうだった。


 そうして、部屋の前まで戻ったところで――


「……あら? こんな時間にお散歩です?」

「おぅ」


 俺たちの部屋から出てきた華恵とはち合わせた。

 今日の仕事が終わった後なのか、仲居服から着替えてごくごく普通の洋服姿だ。


「ちょっとな。お前こそこんな時間にどうした?」

「寝る前に歩さんの様子をうかがいに来ただけですわー。鍵もかかってなかったのでちょっとのぞかせていただきました。でも、そのご様子だともう平気みたいですね」

「ご心配をおかけしましたー」


 申し訳なさそうに歩がそう答えると、華恵はニコニコしながら、


「それはよかったです。……では、ゆっくりとおやすみくださいませ。明日の朝食は8時です。その少し前に布団を片づけにうかがいますのでよろしくですわー」


 相変わらずの中途半端な敬語でペコリと頭を下げ、立ち去っていく華恵。

 そんな彼女の背中を横目で見送りつつ、俺は土間に入って外履きを脱いだ。


「優希お兄ちゃんの場合は……」


 背中に歩の声。


「ん?」


 振り返ると、歩は思いなおしたように口をつぐんだ。

 その表情に俺はピンと来て、


「別にいいぞ、気を遣わなくても。俺は今んとこ困ってねーから」

「でも……お兄ちゃんだって、いつかはあのふたりみたいになる可能性もあるんだよね」

「そんときはそんときだろ」


 そもそも相手が普通の人間かどうかもわからないのだ。

 今から悩んでも仕方ない。


「で、でも、瑞希お姉ちゃんとか由香さんも普通の人だし……あ、瑞希お姉ちゃんは雅司伯父ちゃんが説得してくれるのかな」

「……あのな」


 妙なことを言い出した歩に、俺は渋い顔を向けた。


「身近なやつに限定しすぎだろ。それともなにか? 俺にはこの先、新しい出会いがひとつもないって言いたいのか?」

「た、たとえばの話だよー」


 と、歩は頬をふくらませた。


 まあ、こいつのことだ。一応は本気で俺のことを心配してくれているのだろう。

 ただ、そんなことで今からしんみりしても仕方がない。


 俺は冗談にまぎらせて、


「つーか、100歩譲って由香はともかく、瑞希とか絶対ありえねーだろ。文字通りそこが人生の墓場になっちまう」

「そうかなあ。瑞希お姉ちゃんってお料理もできるし、面倒見もいいし。しっかりしてるからいいお嫁さんになると思うけど……」

「欠点すべてに目をつむればな」


 鼻で笑って土間から部屋の中へ。

 勝美さんがやってくれたのか窓は閉まっていて、部屋の中は暖かくなっていた。


 ただ――


 一歩足を踏み入れた途端、俺は思わず足を止めてしまう。


(……なんじゃ、こりゃ)


「あ、でも……」


 そんな俺の反応に気づかず、背後の歩が靴を脱ぎながら冗談っぽく話を続けた。


「いよいよダメだったら、私がお兄ちゃんのお嫁さんになろうかなー。……なんて。私がただずっと甘えたいだけなんだけど……」

「あー……待て待て、歩」

「はい?」


 途中で言葉をさえぎられ、不思議そうな顔をする歩。

 俺は部屋の入り口で立ち止まったまま、なんともいえない表情で振り返った。


「その話、もうやめにしないか? 状況的にあんまり笑えないっつーか。いや、別に深い意味はないんだが……」

「?」


 歩がますます不思議そうな顔をした。

 そして俺が部屋に入るのをためらっていることに気づき、後ろから中をのぞき込む。


 そして、凍りついた。


「あ、あれ……部屋、間違えた……?」


 歩が動揺してそうつぶやいたのも当然だろう。


 テーブルの上に置かれた鮮やかなピンク色のランプ。

 部屋の中に漂うアロマらしき香り。


 そして、ピッタリとくっつけられた布団の真ん中には、ハートマークのカバーがかけられた大きな枕がひとつ置いてあった。


 まるでラブホテルのような雰囲気である。

 いや、本物のラブホテルがどんなものか見たことはないのだが。


(……あの野郎。手の込んだことしやがって)


 おそらくは先ほど部屋から出てきた華恵のイタズラだろう。


「……あ、ああああの!」


 これで一緒にいたのが雪だったなら、冗談のひとつでも口にしながらさらっと流してくれたのだろうが、歩にはまだそこまでのスキルはなかったようだ。


「お、お嫁さんと言っても、わ、私、別にそういう意味で言ったわけではー!」

「よし、落ち着け。つか、わかってると思うが俺がやったわけじゃねーからな?」


 歩の頭をポンポンと叩いて落ち着かせ、まずテーブルランプの電源コードのコンセントを抜いた。

 くっつけられていた布団を離し、中央に置かれていたハートマークの枕を部屋の隅に放り投げる。


 アロマの香りは……どうしようもないのでこのままだ。

 これ単体ならむしろ安眠効果とかありそうだし、放っておいてもいいだろう。


 そして振り返る。

 歩は真っ赤な顔で部屋の入り口に棒立ちのままだった。


「ほら。いいぞ、歩」


 白いカバーの枕をポンと投げてやる。

 歩はようやく我に返ってそれをキャッチすると、


「う、うぅー……」


 枕を胸の前で抱きしめ、おずおずと部屋の中に入ってきた。

 なんだか俺が悪いことをしているみたいな気分になってくる。


 ……疲れた。

 今日はとにかく疲れた。


 ふぅ、と、俺は大きくため息をついて。

 まだぎこちない態度の歩に背を向けるようにして布団に転がったのだった。




-----




「……ふふふーん。あのふたり、今ごろびっくりしてるかしらー」


 鼻歌を歌いながら旅館の廊下を歩くひとつの影。

 肩口まで伸びたウェーブの髪を人差し指でくるくると弄びながら、少女は上機嫌に従業員用のロッカーへと向かっていた。


 と、そこへ。


「……華恵。お前も来てたのか」

「あらまあ。亮お兄様」


 立ち止まり、目の前に現れた青年を見上げる華恵。


 その青年、身長180センチ以上はあるだろうか。細身の体に少し神経質そうな顔。縁なしのメガネをかけていて、いかにも知的といった雰囲気を漂わせている。


 年齢はおそらく20代半ば。

 背広姿だが、首には華恵がしているものと似たようなチョーカーをつけていた。


「お兄様はなぜここに? せっかくのお休みでしょうに」

「ああ、ちょっと人から相談を受けててな。その関係でここに来てたんだ」


 そんな兄の言葉に華恵は少し考えて、


「ああ。もしかして勝美さんという女性の――」

「なんだ。お前も知っていたのか」


 華恵はクスッと笑って、


「知っていたといいますか……偶然関わった人とたまたま知り合いだっただけですわー」

「……? よくわからんが、とにかくそういうことだ。色々あったようだが、ひとまず気持ちの整理はついたらしい」

「うまくいけばよろしいですわね。そして願わくば協力者になってもらいたい――、というのがお兄様の本音でしょう?」


 そんな妹の言葉に亮は苦笑した。


「俺はそんなにさもしい人間か? 本人がその気になってくれれば拒否する理由はないが、それを強要したりはしないよ。……まあ」


 そこで少し真剣な顔になる。


「今、少しでも協力者が欲しいのは確かだ。あの磐石だった"御門"の影響力が急激に弱まってきている。それにあわせて不穏な動きをしている連中もいるからな」


 そんな兄の言葉に華恵は髪を弄ぶのを止め、右手で左腕を軽くつかみながら視線をななめに落とした。


「……もどかしいですわね。わかっていてもどうにもできないというのは」

「俺たちは悪魔狩りとは違う。できるのは万が一に対して備えることだけだ。……そうならないことを願っているが」

「私も……できる限りのことはしたいと思っております」

「いざというときには、わかってるな?」

「はい。お兄様」


 顔を上げ、華恵はまっすぐに兄の顔を見つめた。

 右手を首元にやって軽くチョーカーをなぞる。


 そうして、その夜は更けていった。


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