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双子兄妹の悪魔学園記  作者: 黒雨みつき
 第1章 復讐
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2年目1月「燃える復讐心」


-----


 男は考えていた。

 自らの胸に燃えさかるこの恨みを、どうにかして晴らす方法はないものか、と。


 男が憎み続けている相手は10歳も年下の少年だった。


 10歳年下ということは、男が10歳のときに生まれた赤ん坊である。

 無力な赤ん坊だったのである。


 そんな赤ん坊に、なぜ苦渋を飲まされなければならなかったのか、と。


 そう考えると男の胸は悔しさで一杯になってしまうのだった。

 えり首でもとっ捕まえて、年上をもっと敬うべきじゃないかと説教したいぐらいである。


 しかし、残念ながらそれは叶わない望みだ。

 なぜなら、その少年は男よりも明らかに強かったのである。


 男は頭脳派を自負しており、いわゆる腕っぷしにはまったく自信がなかった。

 痛い思いをするのも苦手だ。


 そんな少年との因縁は1年以上前にさかのぼる。

 男がとある目的で動いていたとき、それを横から邪魔されたのが始まりだった。


 そして敗北を糧に、男は考えたのである。


 実力行使ではとても敵わない。

 頭脳勝負でもおそらくは痛みわけだろう。

 ならば、どういう方法を用いて復讐を成功させるべきなのか。


 そうして導き出された結論が、"間接的復讐"という方法だった。

 つまり少年本人ではなく、その周りに対して悪さを仕掛けてやろうというわけだ。


 にっくき少年にもきっと大事にしているものがひとつやふたつはあるだろう。

 その大事なものを奪ってやろうと、そう考えたのである。


 ただ。

 男はここでちょっとした思い違いをしてしまった。


(人間がもっとも大事にしているもの! それはもちろん恋人に決まっている!)


 黒のロングコートに身を包み、サングラスをかけたままの格好で男はこぶしを握り締めていた。


 親子連れがそんな彼に不審そうな目を向けながらすれ違っていく。

 貧相な体格の男にその格好はいかにもアンバランスで、ヘタをすればお笑いの出オチに使われそうな妙な着こなしになっていたためである。


 しかし、男は自分が周囲の視線を集めていることには気づいていなかった。

 基本的に物事を客観的に見るのが苦手なタイプなのである。


 まあ、それはともかく。

 男はこう考えたのだ。にっくきあの少年から恋人を奪い取り、それを復讐の代わりにしてやろう、と。


 といっても、微妙にチキンハートな男には、おそらく一般人であろう少女を殺すほどの度胸はなかった。

 一応幻魔である彼にとってそれは不可能なことではなかったのだが、無関係な女の子を殺してしまうのはさすがにちょっとしのびないなと、そんなことを考えてしまうわけである。


 だから男が計画したのは、単純にその恋人を掠め取ってやろうと、まあそういうことであった。


 ただし、微妙にチキンでピュアハートな男には、自ら少女に声をかけるというのはちょっと難しい。


 そこへ、だ。

 まるで神の啓示のようなひらめきとともに、とある別の少年の後ろ姿が視界に入ってきたのである。


 自分でやるのが無理ならば、他の人間にやらせればいい。

 幸いなことにその別の少年は少女に対して好意を抱いているようであり、それならばあとは簡単。

 幻魔である彼の力をもって、感情をちょちょいと増幅してやればそれで仕込みは完成である。


 好意を増幅された少年は少女に求愛し、少女も増幅された少年の好意に心を打たれ、相手を乗り換えるに違いない、と。


 男はそんな展開を思い描いていたのだった。


 ……根本的な勘違いをいくつかしている上に、色々と突っ込みどころの多い計画ではあったが、とにもかくにも。


 こうして、男の計画は始動していたのであった。




-----




「あー、疲れた……」


 直斗や将太たちと合流し、カラオケやらなにやらで遊んだ後、久しぶりに外食して自宅に帰ってきたのは夜の8時過ぎのことだった。


 辺りは当然真っ暗。

 住宅地のほうには人影すらほとんど見えなくなっていた。


 そんな時間帯。


「ただいまー」


 この時間にしては珍しく鍵のかかっていない玄関のドアを開け、誰に言うでもなくつぶやきながら靴を脱ぎ捨てる。


 すると、それほど間をおかず、いつものように歩がリビングから飛び出してきた。


 ……が。

 いつもと少し様子が違う。


「あ、瑞希お姉ちゃん! お兄ちゃん帰って来たよー!」


 少しドキッとする。


 なぜ瑞希を呼んだのか。

 身に覚えはないが、なにかしらの鉄拳制裁が待っているのだろうか、と。


 しかし、歩の後ろから顔を見せた瑞希の態度は想像とは違っていた。


「あ、優希。おかえりなさい。遅かったわね。……いえ。そんなことより、ちょっと」

「なんだ? なにかあったのか?」


 こいつのこういうしおらしい態度は、あまり縁起のいいものではない。

 案の定、瑞希の口から出てきたのはやや不吉な言葉だった。


「あなた、雪ちゃんからなにか聞いてなかった?」

「はあ? なにを?」


 眉をひそめ、そしてリビングに他の気配がないことに気づく。


「あいつ、もしかしてまだバイトから戻ってないのか?」

「あ、違うの。バイトからは帰って来たのよ。ただ晩ご飯の後でちょっと出かけてくるって言って」

「なんだ」


 俺はホッとした。


「自分で出て行ったんなら心配ないだろ。あいつだってプライベートな用事のひとつやふたつあるだろーし」

「そうだけど……」


 だが、瑞希は心配そうな表情を崩さなかった。


「家の前で男の子が待ってたっていうから。……ね、歩。そうでしょ?」

「男?」


 歩に視線を向けると、歩は2回ほどうなずいて言った。


「2階の窓からちょこっと見えたの。たぶん高校生ぐらいの男の人。雪お姉ちゃんを待ってる感じだった」

「ふーん」


 確かに珍しい光景ではある。

 そしてふと、昼間のことが頭をよぎった。


「その男って、ちょっと茶髪っぽい頭の、これといって特徴のなさそうなやつか?」

「え? ううん……特徴がないかどうかはわからないけど、髪は少し明るかったかなあ。暗かったし、街灯の明かりしかないから自信ないけどー……」


 なるほど。

 同一人物の可能性はありそうだ。


 しかし、どういうことだろうか。


 昼間の状況からして、雪があの客の存在を歓迎していたとは思えない。

 それともそれは俺やバアさんの勘違いで、話しかけられて困っていたわけではなく、本当にただ話し込んでいただけだということだろうか。


 たとえば同意の上で遊びに行ったのだとしたら、それは俺がどうこう言うようなことでもない。


 玄関の壁時計に目をやると、午後8時半。


「もう少し待ってみたらどうだ? もしかしたら時間を忘れて遊んでるだけかもしんねーし」

「あんたねぇ」


 瑞希の声色が少し呆れた調子になった。


「あんたと違って雪ちゃんはそんな子じゃないわ。そうならそうで私たちに言ってから行くだろうし」

「そりゃそうだが」


 脱ぎかけだった片方の靴を脱いでリビングへと入る。


「急に彼氏ができたとかなら、ちょっと家族に隠してみたりするかもしれないだろ?」

「それこそありえないわよ。あの子に彼氏なんてできるはずないもの」

「お前、なにげにひどいこと言ってないか?」


 瑞希はため息をつきながら、


「そういう意味じゃなくて……ああ、もう。とにかくそれはない。だからこうして心配してるんじゃない。捜しに行こうにも行き先に検討もつかないし。一応由香ちゃんと直斗くんのところには電話で確認したんだけど知らないって」


 少しイライラしている。


 俺よりこいつのほうが過保護なんじゃないかと思うのだが、どうだろうか。

 もしこいつが男だったら、雪とはかなりのベストカップルだったに違いない。


 しかし、さて。

 どうしたものか。


 瑞希の言うことには一理あるし、俺だってあいつに彼氏ができたなんて本気で考えているわけじゃない。

 実際には、他のなにかしらの事情があって出て行ったのだろう。


 ただ、誰にも言わずに行ったってことは、それはおそらくあいつひとりで解決できる問題なのだ。


 あいつは気を遣う性格ではあるが、それでも俺に頼ることに関してはそこまで遠慮しない。

 よほどの特殊なケースを除いて、自分の手に負えないことは素直に助けを求めてくるはずだった。


 ……いや。


(迷惑だったらいつでもやめるよ……か)


 ふと、昨日あいつと交わしたそんな会話が頭の中によみがえった。

 あのときは結局そでをつかんだまま離さなかったが、兄離れ云々と言った俺の意図をくんで、密かに実践し始めた可能性もあるだろうか。


(けど、危ないときまで頼るなとは言ってねーぞ……)


「優希? どうしたの?」


 急に黙り込んだ俺に、瑞希が怪訝そうな顔をしている。


 俺はもう一度時計を見た。


 午後8時35分。

 外は真っ暗闇。


「あー……」


 頭をかきむしる。


 面倒くさい。考えるのは面倒くさい。

 そして、あんなこと言わなきゃよかった、と、後悔した。


 そもそも過保護だからいったいなんだというのか。

 互いに唯一の兄と妹なんだから、別に過保護だっていいだろうに。


 だったらもう、考えるだけ面倒くさい。


「……しゃーないな。ちょっと捜しに行ってくるわ」


 いっそさっさと行動してしまったほうが気が楽だ。

 あいつのことだから身体的な危険はまずありえないと思うのだが、万が一ということもある。


「あ、それじゃ私も行くわ」

「いや」


 俺は手を出して瑞希を制する。


「お前と歩は家で留守番してろ。雪から電話があるかもしれないからな」

「それなら歩だけで充分じゃない。ふたりで手分けして捜したほうがいいに決まってるわ」

「いや、ダメだ。こんな状況で女の子をひとり歩きさせて、本当になにかあったら伯父さんに言い訳できねーからな」

「……こんなときだけ女の子扱い?」


 不服そうな瑞希に、俺は少し笑ってみせる。


「心配すんなって。あいつは自分から危険に突っ込んでいくようなバカじゃない。そんなことお前だってわかってるだろ?」

「……わかったわよ」


 納得した様子ではなかったが、それでも瑞希は素直に引き下がった。

 こういうときのこいつの意外な聞き分けのよさは俺にとっては非常にありがたい。


「じゃ、留守番頼むぞ。それと、雪が先に帰っても俺が捜しに出たことは内緒な」

「ホント……あんたって雪ちゃんには優しいんだから」

「お前ほどじゃねーよ」


 そんな瑞希に憎まれ口を返して。

 そうして俺は再び夜の町へと出かけていったのだった。


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