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双子兄妹の悪魔学園記  作者: 黒雨みつき
 第6章 決戦前夜
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2年目12月「まずは前哨戦」


『明日の午前中に使いの者が迎えにいく。全員そろって準備をしておいてくれ』


 緑刃さんからそんな内容の電話があったのは昨晩。

 12月をちょうど折り返した金曜日の夜のことだった。


 神村さんに唯依のことを相談したのが10日ほど前のことだったから、思ったより遅かったなというのが正直なところだ。

 やはり向こうにも色々と事情があるのだろう。


 そしてその翌日、つまりは土曜日の午前中。


「こんなもんかな……」


 俺は緑刃さんに言われたとおり、出かける準備を整え終えたところだった。

 本日の天気は曇り。今にも雨が降り出しそうなどんよりとした空模様だ。


 時計を見ると、午前10時半だった。

 そろそろだろう。


(さて、どうなることやら)


 こうして俺たちを呼び出すということは、おそらくある程度いい方向に話を持っていけたのだろう。


 ただ、完全に安心して行けるかといえば、俺はそこまで楽観視もしていない。

 どうしても昨年の雪の事件が頭を過ぎってしまうし、当時からかなり状況が変わっているとはいえ、今回はその雪も一緒に連れて行かなければならないのだ。


 雪、それに唯依。

 ふたりを危険な目に遭わせないよう、警戒すべきところは警戒しておくべきだろう。


 ぐ、と、こぶしに力を込める。

 今日の調子は1割程度。正直あまりいいほうではない。


 もちろん力を使うような事態にはなって欲しくはないが――


 俺は自室を出て、まずは雪の部屋へ向かった。

 ノックをしたが返事はない。声をかけてからドアを開けたが、中には誰もいなかった。


 歩の気配もないし、瑞希は部活に行っている。どうやら2階には俺しかいないようだ。


 雪の部屋のドアを閉めて階段を下りていくと、


「あ、優希先輩」


 ちょうど唯依が和室から出てくるところだった。

 こいつには、もともと空き部屋だったこの1階の和室を寝泊まりに使ってもらっている。


「おう、唯依。準備はできたのか?」

「準備といってもこんな服しかなくて……」

「違う違う、心の準備だ。服なんてどうでもいいって」

「あ、は、はい。それは」


 うなずきながらも声がうわずっていた。


 まあ、緊張するなというほうが無理な話か。

 今日の話次第で彼らの運命がある程度決まるといっても過言ではない。

 俺だってこいつほどじゃないにしろ緊張はしている。


 こわばった表情の唯依を引きつれてリビングへ。


「あ、ユウちゃん」


 雪は台所で歩と一緒になにやらゴソゴソやっていた。

 俺は眉をひそめて、


「なにやってんだ、お前ら?」

「もちろんお弁当だよ」


 あっけらかんと笑顔で答える雪。

 こっちは緊張感のかけらもなかった。


「おい、ピクニックに行くんじゃねぇんだぞ」

「ピクニックじゃなくてもお腹は空くでしょ? 何時に帰ってこられるかわからないし」

「そりゃそうだけどさ」


 俺たちがあの悪魔狩りの本拠地で持参した弁当箱を広げるというのは、なんともシュールな光景だ。


 ……と、そこへ。


「あのー、優希さん……」


 ちょっと不自然な作り笑いを浮かべながら、歩が存在をアピールした。


「やっぱり私も一緒に――」

「ダメだ」


 最後まで聞くことなく拒否する。


「お前は留守番だ。昨日から言ってるだろ」

「で、でも。私にもなにかお手伝いをー」

「足手まといにならんように留守番してろ。それが一番の手伝いだ」

「そ、それはあんまりなお言葉ー!」


 と。

 なにやら冗談っぽくやってはいるが、このやり取りも昨晩から数えて6度目で、こいつが一緒にきたがっているのは本当だろう。


 歩も今回の一件が命の危険を伴うものだと勘付いている。

 だからこそ、ひとりだけ蚊帳の外に置かれるのが納得できないのだ。


「皆さんのサポートだけでも、どうかー……」

「必要ない」


 俺はしつこく食い下がる歩をふたたび一蹴した。


 気持ちは充分にわかるが、今回の件、こいつは本当に足手まといになる可能性がある。

 危険な目に遭わせたくないというのはもちろんだが、先日この目で見た女皇の力を思い出すと、歩の超能力程度ではあまりにも力不足だ。


 俺に余裕のある状況なら俺が守ってやるが、今回はきっとそういうわけにもいかない。

 だから、断固拒否なのである。


「だいたい、お前にはちゃんと大事な役目があるんだぞ」

「え?」

「今回は下手すりゃ夜中に家を空ける必要も出てくるかもしれねーんだ。お前までここを離れちまったら、瑞希のやつをごまかす人間がいなくなっちまうだろ」


 すると、歩はハトが豆鉄砲を食らったような顔になった。


「わ、私が瑞希お姉ちゃんをごまかすの?」

「そうだ。頑張れよ」

「う……」


 自信なさそうだった。

 頭はよくても、嘘をつくのは苦手なのである。


 ただ、それでも俺が与えたささやかな任務に、歩はここに残ることを納得してくれたようだ。

 方便だということもおそらく気づいてはいるが、そこは空気を読んでくれたのだろう。


 そこへ、ちょうど玄関のチャイムが鳴った。


「俺が出る」


 動きかけた雪を制して玄関へ向かう。


 休日のこの時間、我が家に普通の客が来ることはあまりない。

 とすると、ドアの向こうにいるのはなんらかの勧誘か、あるいは緑刃さんの使いの者だろう。


(……さて、どんなやつが来るやら)


 そんなことを考えながらドアノブに手を伸ばそうとすると、もう一度チャイムが鳴った。

 どうやらせっかちなやつらしい。


 さらに間髪いれず、もう一度。


「……」


 俺は思わず手を止めてしまった。


(……いくらなんでもせっかちすぎだろ)


 最初のチャイムが鳴ってからまだ10秒あまりしか経っていない。

 その間にチャイムが3回である。


 ……なにかいやな予感がした。


 ピンポーン。

 ピンポーン。


 ピピピピピピピピピピピピピ――!!


「だああああ! うっせぇわッ!」


 怒鳴りながらドアを開ける。

 すると、


「あ、どーもー」

「どーもー、じゃねえッ!」


 なんとなく予想はしていたが、そこにいたのは――


「お久しぶりっす! 悪魔狩りのみんなのアイドル、歌って踊れる隠密こと美矩ちゃんでぇす!」

「またお前かッ! どんだけ人材不足なんだよ、悪魔狩りッ!」


 今年の3月、暴走した妖魔を退治した事件で俺や神村さんと行動を共にした美矩みのりだった。

 今日は前みたいな忍者のコスプレ(?)ではなく、普通の格好をしている。


「また私でした。よろしくお願いしますねぇ、優希兄様」

「……」

「ユウちゃん、どうしたの?」

「……優希先輩?」


 先ほどまでの緊張感は完全に吹っ飛んでしまい。

 代わりに俺は、少しだけ頭が痛くなってきてしまった。






 時計が午前11時を指すころ、美矩が乗ってきた白いファミリーカーに乗せられて、俺、雪、唯依の3人は悪魔狩りの本拠地、その入り口である神社へとたどり着いていた。


 この時期、さすがに人影はない。


「どうぞ、こっちでーす」


 美矩に案内され、境内社の脇を抜けて奥の林へ入っていく。


(……見られてるな)


 その辺りから急に視線を感じるようになった。

 具体的にどこから見られているのかまでは特定できないが、確かに人の気配がある。


 雪と唯依は気づいているだろうか。

 表情からはうかがえない。


(……ひとまず俺が警戒しておくか)


 美矩が一緒だし、少なくともいきなりだまし討ちされるようなことはないだろう。


 それからしばらくの間、俺たちは木々に挟まれたグネグネの道をかなりの時間歩くことになった。


 やがて。


「あれ?」


 美矩が立ち止まる。

 理由はすぐにわかった。


「よぅ、来たみたいだな」


 進行方向から歩み寄ってきた人影がひとつ。


 長身に少し軽薄そうな笑み。

 見覚えのある顔だった。


「青刃様じゃないですか。どうしたんです?」


 と、美矩が不思議そうに言う。


 そう。

 緑刃さんと同じく神村さんの護衛をしている悪魔狩りのひとり、青刃さんだった。


「ご苦労だな、美矩ちゃん」


 青刃は片手をジーンズのポケットに突っ込んだままそう言うと、こっちを見てもう片方の手を軽く上げる。


「よっ。君らもご苦労さん」


 面識のない雪と唯依は、それぞれに、こんにちは、どうも、などと頭を下げた。


「青刃様、もしかしてまた美琴姉様に怒られて逃げてきたんですか?」

「あー、いつもがいつもだけに反論できんが、今回は違うな」


 と、青刃さんは苦笑しながら、


「今回はその美琴から言われてな。この先の案内を任されたんだ」

「あ、そーですか。それじゃお任せしまーす」


 軽い調子でそう言って、美矩はくるっと俺たちの方に振り返った。


「じゃあそういうことで! また会う機会があったらよろしくー!」


 どういうことかと俺が事情を尋ねる間もなく、美矩はひらひらと手を振ると、飛び跳ねるようにして木々の間へと消えていってしまった。


 さすがは自称隠密というべきか、冗談抜きで素早い。


「さて、そういうわけで」


 突然の展開にややあっけに取られていた俺たちに、青刃さんはゆっくりと歩み寄ってきた。


「久しぶりだな、優希くん」

「どうも」


 軽く頭を下げる。


 苦手なタイプだという認識は以前から変わらない。

 ただ、神村さんがかなりの信頼を置いているらしいところをみると悪い人ではないのだろう。


 そこからは青刃さんに連れられ、木々に囲まれた道をさらに数十分歩いていくと、ようやく奥のほうに大きな屋敷が見えてきた。

 その前には簡素な門があって、門番らしき男がふたり立っている。


「すごい。立派だね」


 雪が後ろでそうつぶやいた。

 確かに、あの神社の奥にこれだけの施設が隠れているなんてなかなか想像できないかもしれない。


 周囲は山、山、山。

 町のほうからはもちろんのこと、空か見たとしてもこの施設を発見するのは困難だろう。


 しかもこの辺りの森は深く、毒蛇が出るとかなんとかで立ち入り禁止になっているはずだ。

 登山客が訪れることもないし、来ることがあるとすれば遭難者ぐらいのもの。


 だから、この場所が一般に知られていないのも当然なのである。


(……監視も厳しいらしいし、な)


 ここに来るまでに感じた視線のことを思い出す。

 おそらくは関係者以外が不可抗力で近づいた場合も、なんらかの方法で追っ払ってしまうのだろう。


「青刃」


 門を通ってすぐ、正面にある建物から見知ったひとりの女性が近づいてきた。

 先ほど話題に上った緑刃さんだ。


 青刃さんが軽く手を上げる。


「よっ、妹よ。出迎えご苦労さん」

「……妹? なんだそれは?」


 緑刃さんが立ち止まって腰に手を当てると、青刃さんは後ろにいる俺たちを親指で指し示して、


「いや、兄妹だっていうからな。俺たちも対抗してみようかと思ってさ」


 ため息。


「バカなこと言ってないで、お前はすぐに本殿で準備を始めてくれ」

「はいはい」


 面倒くさそうに言って、じゃあまた、と、青刃さんが去っていった。


「……ったく」


 緑刃さんは再びため息をついてそれを見送ると、すぐに気を取り直した様子でこっちを見る。


「よく来てくれた。優希くん、雪くん……それに唯依くん」


 小さく一礼すると、緑刃さんはすぐに背中を向けた。


「早速だがついてきてほしい。少し打ち合わせをしておきたい」


 ゴクリ、と、背後でのどの鳴る音が聞こえた。

 おそらく唯依だろう。緊張しているのだ。


 しかし無理もない。

 ここがどんな場所なのか最低限のことは教えてあるとはいえ、右も左もわからない状態なのだから。


 俺はそんな唯依の緊張を少しでもほぐしてやろうと、緑刃さんの後に続きながら質問した。


「今日は、俺たちはここのお偉いさんたちと会う、ってことでいいんですよね?」

「ああ、そうだ。君たちが仲間であることをその場で示す必要がある」

「いきなり交渉決裂、なんてことは?」

「そうならないための打ち合わせだよ。大丈夫だ」


 と、緑刃さんは言った。

 それは俺たちを安心させるための言葉なのだろうが、その口調から、やはり100パーセントの成功が保証された状態でないらしいことを俺は察した。


 もちろん口には出さなかったが。


(さて……)


 近づいてくる本殿。

 3月に一度だけ訪れたことがあったが、それでも悪魔狩りのお偉方――特に悪魔排除派の連中に直接会うのはおそらく初めてだ。


(なにが出てくることやら……)


 軽い緊張感に包まれたまま。

 俺たちは、神村さんの待つ悪魔狩り本拠地の本殿へと足を踏み入れたのだった。


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