こもれ日屋さん
うららかな休日の昼下がり。
昼食の後、何とはなしに、ぶらぶらと散歩をしていたら、ふと、1つの看板に目がとまった。
『こもれ日屋さん』。
「さん」という響きがやわらかくて、茶目っ気がある。
もしかして、お日さまのSUNとかけているのだろうか?想像がふくらむ。
それだけでも十分興味をひかれるのだが、看板には少し小さい字で、こう書いてあった。
「猫さんも、猫さんでない方も、お気軽にどうぞ」
入ってみたい。入ってみたいけれど。
何を売っているお店なんだろう?
爽やかな白壁の小さな店には、木枠に囲まれた、曇り硝子の窓がついている。
草木でつくったブーケが飾られている扉も木だ。
中の様子は、わからない。
絵本か何かのお店かな。
でも、猫は絵本を読まないよね。
あ、猫も入れるカフェかな?
私はお店の前に立って、しばらく迷っていたが、思い切って木の扉を開いた。
「いらっしゃいませ」
若くひょろっと背の高い、さらさらとした長い黒髪の男性が、エプロン姿で棚にガラス瓶を並べていた。
「あの、このお店は何屋さんなんですか?」
「木漏れ日を売る店ですよ」
「木漏れ日?」
「この瓶の中に入っているんです」
男性が棚から1つガラス瓶を取って、手渡してくれた。
レトロな印象のガラス瓶は手にしっくりくる大きさだ。
瓶の中で、ほのかに黄色く光っている灯りが見える。
よく見ると、木の枝や木の葉も一緒に入っているようだ。
ああ、こういうハンドメイド品を売っているお店なのね。
気に入ったな。
1つ買っていこうかな。
私は男性に瓶を返して、棚に並べられたガラス瓶をゆっくり見て回った。
1つ1つ灯りの感じが違う。
色々と見ているうちに、どこか懐かしい気分が心をよぎって、1つの瓶を手に取った。
手のひらの中が、ほんのり暖かい。
「これにします」
「お買い上げ、ありがとうございます」
男性は丁寧にガラス瓶を箱に詰め、袋に入れた。
「どうぞ」
私は袋を受け取って会計を済ませると、店を出てすぐに家に帰った。
自宅に戻って、どこに飾ろうかと考えながら、そそくさと箱を開くと、瓶の脇に1枚の紙が入っていた。
「蓋を開けて、お楽しみください」
アロマ、か何かかな?
そうっと瓶の蓋を開く。
途端に、ふわっと暖かい光と、木々の匂いが私を包んだ。
懐かしむように目を閉じる。
目を開くと、子供の頃、よく遊んだ公園に立っていた。
あの時。
私は木陰に座って、紙芝居屋さんから貰った赤い風船を手に持っていた。
木漏れ日がのんびりと辺りに落ちて、かすかな風が木々を揺らしていた。
ぴゅう、と強い風が吹いて、風船をさらっていった。
風船は空高く飛んで行って、見えなくなった。
あの日、あの時のこと。
木陰の暖かい光と、木々の匂いに包まれて、
私は、かすかな風に吹かれながら佇んでいた。




