第7話 引っ越し
1月28日㈰
ついに引っ越しの日を迎えた。午前10時頃、男性保護庁の北川さんと、他に2名の女性職員が病院に来てくれた。
退院手続きや役所に届ける書類は、すべて北川さんが整えてくれたので、僕はそれらに目を通してからサインをした。
新居への引っ越しといっても、僕の荷物は少なく、スーツケース1つと段ボール2つほどで済んだため、引っ越し業者に依頼する必要はなかった。荷物はすべて男性保護庁の職員2名が迎えに来たワゴン車に積んでくれた。
奈月と朱里は既に新居への荷物の運び入れを終えていて、奈月は今日から5日間の「結婚休暇」に入るとのことだ。
この世界では「結婚休暇」という制度があり、婚姻届を提出後、希望した日程で5日間の有給休暇が与えられる。これは法律で定められており、会社は本人から希望を告げられたら必ず休暇を付与しなければならない。違反した場合、会社には多額の罰金が科せられるという。
朱里は奈月の休暇が終わった翌日より「結婚休暇」へと入る日程だ。
つまり……その期間は「励め!」ということなのだろうか。
奈月と朱里が僕の病室に来て、僕の腕を軽く引き外へと促した。外に出ると冷たい冬の空気が肌にしみ込むようだったが、新しい生活の始まりに胸が高鳴っていた。
僕たちが病院を後にする際、たくさんの医師と看護師が見送りに来てくれた。僕が深々と頭を下げてお礼を言うと皆涙を流していた。
黒塗りの護衛車に案内され、僕と奈月と朱里は後部座席に乗り込んだ。護衛の女性2名が運転席と助手席に同乗した。北川さんと他2名の男性保護庁職員はワゴン車に乗り込み、新居に向けて出発した。
護衛車での移動なんて大げさだと思ったが、北川さんによると、この機に乗じた誘拐などを防ぐための安全措置とのことだった。
車が走り出して僅か2分ほどで新居となるマンションに到着した。
マンション前に車が停まると、奈月と朱里が先に降りて僕を促した。マンションの外観は、近代的なデザインのタワーマンションではあるが、近隣と同じような造りだ。男性居住者が数世帯いるため、女性居住者の身元はしっかりと確認されており、セキュリティも万全とのこと。
「ここが甲斐田さんの新居です。これが鍵です」
と、北川さんが小さく笑いながら僕にカードキーを渡してきた。
僕は少し驚きながらも、その重みを感じつつ、カードキーを受け取った。新しい生活が本当に始まるのだという実感が、じわじわと湧き上がってきた。これまでの生活とは違う、しかしどこか心地よい新たな一歩を踏み出そうとしていた。
エントランスには2名の若いコンシェルジェがおり僕に挨拶をする。僕も挨拶をしてからエレベーターに乗り込むと、奈月と朱里が両脇に並んだ。エレベーターの静かな音が響く中、奈月がふと口を開いた。
「天馬、これから色々あるかもしれないけど、私たちならきっと大丈夫よ。一緒に乗り越えていこうね」
「うん、ありがとう。二人がいてくれるなら、何でもできる気がするよ」
僕はその言葉に力をもらいながら応えた。
3階でエレベーターのドアが開き、僕たちは新居のフロアに足を踏み入れた。タワーマンションなのに低層階なのが少し不思議だったが、北川さんの説明では、本来なら男性は上階に住むものの、僕の場合は特殊案件のため、有事の際に速やかに避難できるように低層階にしたとのことだった。
カードキーで玄関を開け部屋に入ると、広々としたリビングが目に飛び込んできた。既に家具は設置されていて8LDKと部屋数の多さと広さに圧倒される一方、これで家賃が免除されるという事実に、どこか申し訳ない気持ちが湧いてきた。
国の法律では、男性の居住先には第二夫人まで(子供を含む)しか同居が許されていない。そのため僕はここを生活の拠点にしながら、今後増えるであろう妻宅へ赴くことになるだろう。
一通り部屋を見回っていると、呼び出し音が鳴った。カメラには北川さんの姿が映っていたので、僕は玄関を開けた。
1階フロントで諸手続きを終えた北川さんと、僕の荷物を運んできた女性職員たちが入室してきた。
「お疲れさまでした、これで手続きは完了です。何かご不明な点があれば、いつでもご連絡ください」
と北川さんが笑顔で言った。
「ありがとうございます。引っ越しもこんなに手厚くしていただいて……」
僕は改めて感謝を述べた。
「いえ、これは私たちの義務ですから」
と軽く言いながら、北川さんは退室しようとした。しかし、朱里が顔を紅く染めながら小声で話しかけた。
「北川さん、その……明日は?」
その問いに、北川さんは柔らかな笑みを浮かべながら朱里に向き小声で話す。
「明日も“手練手管”のサポートを……取らせていただきますよ」
と答えた。
「よろしくお願いします」
と、朱里が軽く頭を下げると、北川さんと職員たちは笑顔で部屋を後にしようとした。
“手練手管”といったキーワードが気になったので、僕は北川さんに尋ねる。
「北川さんちょっとよろしいですか?」
僕は北川さんの手を引き、朱里から離れた所で小声で確認してみた。北川さんは僕に手を引かれた事に赤面していたが、耳を傾ける。
「手練手管って……夜の営みの手ほどきですか?」
僕は匂わせながら質問する。北川さんは驚きつつも赤面し僕の問いに応える。
「……あの……その…はい…。お二人とも、男性との……その、経験がないものでして…資料を見ながら、その手ほどきをと……」
「それなら心配要りませんよ。こう見えても僕は経験豊富ですし、二人をリードしますよ」
「・・・・・?!」
それを聞いた北川さんはフリーズしてしまった。
数十秒後に再起動した北川さんは、朱里に明日のサポートは中止の旨を伝えると同時に朱里に歩み寄り、耳打ちしてから僕に一礼し退出した。
耳打ちされた朱里は赤面し数十秒程フリーズした後に、奈月に耳打ちした。同じく奈月も赤面し数十秒程フリーズしてしまった。
玄関のドアが閉まると、未だ顔を赤く染めて、体をもじもじとしている二人を放置し、荷物の整理をし始める。
お昼の時間となって、僕は昼食に海老天そばを作り三人で食した。二人ともとても感動しながら食していた。
その後は各々の部屋で荷物の整理をしてから、夕飯の時間となり僕は冷蔵庫にあるもので簡単なものを作って二人に振る舞った。二人とも僕が料理ができることに驚きと共に感動していた。
「こんな……美味しいものを食べられるなんて! 幸せ」
奈月は蕩けた表情をしながら食す。
「う~~、美味しい~~、ダーリンの料理は世界一です!」
朱里は涙を流し感動していた。
~~~~~~~
そして夜を迎えて僕は二人を部屋に呼んだ。二人同時に相手にしたのだが、二人とも僕の激しくも積極的な行為と、何度も求めて来た事にとても驚いていたが、二人とも快楽の渦に溺れ、最後は失神しヘロヘロ状態となった。
僕も久々の行為に満足し互いにwin winであった。
◆◆◆◆◆◆◆
翌朝、僕は朝チュンを迎える前に目を覚ました。隣で眠っている奈月と朱里の穏やかな寝顔を見ながら、僕はベッドから静かに抜け出し、リビングに向かった。
広いリビングの窓からは、冬の済んだ朝日が差し込み始めている。昨日までの慌ただしさが嘘のように今はだだ静かで心地よい朝だ。
僕は台所に向かい朝ごはんの支度をする。
朝ごはんを作り終えてテーブルに並べた頃に奈月が起きてきた。気怠そうな表情をしていたが、並べられた朝ごはんに目をこすり驚いた表情で一気に目覚める。
「えっ!……朝ごはん?! あっ!おはよう天馬。もう起きてたのね」
「うん、早く目覚めちゃってね。朝ごはん用意できたよ」
昨夜の激しい夜もなんとやら、僕は淡々とした表情で出迎える。奈月は未だ疲れが残っている様子。
「ありがとう……、朝ごはんまで……昨夜も凄かったし……凄いね」
奈月は頬を染める。
「こちらこそ、昨夜は良かったよ。 素晴らしい夜をありがとう」
僕はにこやかに応えてからキスをする。奈月は俯きながらも頷く。普段はキツめで完璧女性な奈月だが、僕の前では“恋する乙女”な表情にギャップ萌えである。
すると朱里も起きて来た。奈月同様並べられた朝ごはんに驚いた表情をする。
「!?……ダーリンが作ったの?!」
僕は頷くと、朱里は一気に目覚めたのか、両手を口元に当て目を潤ませながら僕を見つめる。
「幸せ~~~」
その表情はとても可愛かった。
奈月と同じ様に朱里にもキスをした。すると朱里は数十秒程フリーズした。
3人でテーブル席に座り、僕が作った朝食を食す。3人で静かな朝を共有する時間が流れた。
奈月と朱里は、昨夜の褥を思い出したのか……時折顔を紅く染めながら蕩けた表情をしていた。
僕が掃除洗濯など一通り家事を終わらせた後に、10時過ぎ頃までテレビを見ながらダラダラと過ごしていたのだが、僕のスマホにメッセージが受信される。送信者は北川さんで、又々説明しなければならない事項があるとの事で、これからこちらへ訪れるとの事だった。僕は了承し、北川さんが来るのを待つ。
30分程で北川さんが訪れ、僕は迎え入れた。
「こんにちは、甲斐田さん、旦那様方。 休日中に大変申し訳ないのですが、昨日申し上げる事が出来ませんでしたので、簡単な生活サポートのご案内と、いくつかの追加手続きについてお話しさせていただきます」
と、北川さんは丁寧に挨拶をしながら、手に持っていた書類を広げた。
「お願いします」
と僕は頷き、北川さんの説明に耳を傾けた。
「まずは新居のセキュリティについてです。このマンションは最新の防犯システムを採用しており、外部からのアクセスは厳しく制限されております。更に、甲斐田さんの特殊な立場を考慮し、何かあればすぐに対応できる仕組みになっております。1階には護衛専用の詰め所を設けました」
北川さんの説明は続いて、今後の生活で必要な注意事項や手続きの詳細が説明された。どうやらこの先、僕はただの「男性」ではなく、この世界で特別な存在として扱われるらしい。
説明がひと段落した後、北川さんは少し表情を和らげ、頬を紅く染めながら、思わせぶりな口調で言った。
「甲斐田さん、旦那様がとても綺麗になってますね。昨夜は……お楽しみいただけたご様子……あっ! すっすみません」
北川さんは直ぐに深々と頭を下げた。
僕は静かに頷いてから答えた。
「僕の妻たちは最高の女性です。今後も奈月と朱里がいるので、なんとかやっていけそうです」
奈月と朱里は俯きながらも、その言葉に微笑んだ。
「そうですか、それは良かったです」
と北川さんも頷いた。
「では、これで本日の手続きは以上です。何かあればいつでもご連絡ください。すぐに対応いたしますので」
北川さんが去った後、今後の生活について考え始めた。新しい家、新しいルール、そしてこれから迎える新しい日々――すべてが未知の領域だったが、不思議と不安はなかった。
この世界で最も信頼する奈月と朱里がいる。そう思うと、どこか安心感があった。




