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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第2章 コーチ就任 編

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第16話 ラグビー部の指導

2018年3月14日㈬

 

 初めてラグビー部の練習に参加する日がやってきた。今日は挨拶とともに、あるテストを実施する予定があるため、僕はウインドブレーカー姿だ。


まずは、理事長である大舘さおりさんからラグビー部の現状を聞くことにした。


「理事長、ラグビー部の現状はどうなのでしょう?」


「今年度の戦績はそれほど悪くないわ。ただ……部員たちのコンディショニングが課題ね。大学としても指導方法を見直す必要があると考えてるの」


 特に怪我や故障が多発している点が問題だという。理事長の説明を聞きながら、自分が果たすべき役割の重要性を再認識した。


 現在4年生が卒業したことで部員数は63名。そのうち故障者が20名おり、実質的な活動可能人数は43名だ。一軍(23名)、二軍(20名)、そして故障者(20名)に分かれており、4月からは30名の新入生が入部予定とのことだった。


 僕はラグビーについてはルールも含めてほとんど知らない。事前に大学ラグビーの試合映像や東相大学ラグビー部の練習を確認していたが、それでも細かいところまでは理解が追いついていない。

ただ、映像を見た限りでは、特に「リロード」(倒れてから起き上がり、前線復帰するまでの動作)に時間がかかりすぎている印象を受けた。


 ラグビーは激しい接触と転倒が頻繁にある競技だ。倒れた選手が素早くリロードできなければ、その分数的に不利になり、ゲームの支配力が落ちる。一人の相手に対して二人、あるいは三人で対応する状況を作れれば、戦術的に有利になるのではないかと考えた。

リロードが遅い理由は、持久力や回復力の不足が原因かもしれない。これをテストする必要があると感じた。


 16時過ぎ、屋内トレーニング場に向かう途中、理事長が3人のマネージャーを紹介してくれた。なんと、3人とも男性(男子)だった。彼らはジャージ姿で、背丈は150cmを少し超えるくらいの小柄な体型。華奢で中性的な顔立ちは、思わず目を奪われるほどの美しさだ。

その中でも特に、福原優ふくはらゆう君という美少年は、まるで天使のような可愛らしさで僕を驚かせた。


「はじめまして、福原優ふくはらゆうです。てっ天馬兄さん……いつも姉がお世話になってます。それから……結婚おめでとうございます」


彼は丁寧にお辞儀をして挨拶した。優君の髪は耳にかかる栗色のショートで、セーラー服が似合いそうな美少女……いや、美少年だった。


「え……えーっと、姉って誰のことかな?」


思わず赤面しながら尋ねる僕。


「あっ! クリスねぇ……姉は甲斐田クリスです。父は大舘真人、母は福原希ふくはらのぞみで第8夫人です」


「えっ!? ヨッシーの息子さんなのか!……はじめまして、天馬です。今後ともよろしくお願いします」


驚きつつも、僕は頭を下げて挨拶を返した。そういえば、ヨッシーには25人も妻がいると聞いたな。息子がいても不思議ではない、と納得した。

この世界では男性の個人情報は非常にデリケートだ。クリスの実家で優君を紹介されなかったのも致し方ないのだろう。


 他の二人も自己紹介をしてくれた。「鶴田愛斗つるたまなと」「亀山未来かめやまみらい」と名乗り、それぞれ丁寧にお辞儀をした。彼らは3月に高校(東相大学付属高校)を卒業したばかりで、4月から東相大学に入学予定だという。ラグビーが好きで、自由登校になった2月からマネージャーとして部を支えているらしい。


 3人のマネージャーとともに屋内トレーニング場に向かうと、すでに部員たちが準備運動を始めていた。女性ばかりだったが、逞しい体格と圧倒的な迫力を持ち、まるで異世界系ラノベに登場する美しい女騎士たちのようだった。僕に向けられる視線には、興味と若干の警戒心が混ざり合っている


 理事長が監督とコーチたちを紹介してくれた。監督は30代くらいの女性で、名前を鶴田浩子つるたひろこという。


「初めまして、監督の鶴田浩子です。よろしく」


「甲斐田天馬です。よろしくお願いいたします」


僕は右手を差し出したが、監督は一瞥するだけで無視した。その様子を見ていた男子マネージャーの鶴田愛斗つるたまなと君が、監督のお尻を軽く叩く。


「お母さん! なに無視してんの! みっともないからやめて!」


お母さん? 愛斗君は監督の息子だったのか。突然の事実に驚く間もなく、監督は慌てて謝罪した。


「ごめん、愛斗。甲斐田さん、本当にすみません。選手たちに気を取られてしまって……どうかご容赦ください」


監督の弁解に軽く頷き、改めて握手を交わす。そのやりとりを冷静に見守る二人のコーチも自己紹介をしてきた。


「初めまして。ヘッドコーチの若山登美子わかやまとみこです。よろしくお願いいたします」


「戦術担当の勝田真紀かつたまきです。甲斐田さんのトレーニング理論を読ませていただきました。とても素晴らしい内容でした!」


若山さんと勝田さん、それぞれと握手を交わす。彼女たちは見た目こそ30代くらいに見えるが、その落ち着いた雰囲気から、実際の年齢はもう少し上なのかもしれない。


 理事長が部員たちを集め、僕を紹介してくれた。僕は深々と頭を下げて挨拶する。


「初めまして、ご紹介にあずかりました甲斐田天馬です。この度、皆さんのフィジカルトレーナーとしてご指導させていただくこととなりました。ラグビーは全くの素人ですが、身体能力の強化とケガの予防に全力を尽くします。どうぞよろしくお願いいたします」


顔を上げると、戦術担当の勝田さん以外は明らかに戸惑いと疑念の表情を浮かべている。ラグビーの経験がない上に男性である僕がトレーナーを務めることに対して、まだ受け入れられない様子だ。監督やヘッドコーチも僕のトレーニング理論に懐疑的なようで、あるいは僕の資料にまだ目を通してないのかもしれない。


 そんな微妙な空気の中、僕は予定していた『YO-YO(ヨーヨー)間欠性持久力テスト』を実施することにした。


「皆さんの試合を視聴致しました。激しいぶつかり合いでとても迫力があります。只……素人目に気づいたことを述べさせていただきますね。あくまでも素人目ですので、反論はご容赦ください」


皆驚きと同時に怪訝な表情を浮かべる。僕は話を続ける。


「試合をみた感想なのですが、相手チームも含めて、ぶつかって倒れてからリロードするまでの時間が掛かり過ぎてます————」


リロード……つまり倒れてから素早く起き上がり、前線復帰するまでの時間が長くかかっている点を指摘した。


 勝田さん以外はマネージャーも含めて、皆目を見開いて驚愕の表情をする。そして僕はこれから『YO-YO(ヨーヨー) 間欠性持久力テスト』を実施することを説明した。

初めて聞くテストに部員たちの反応は予想通り驚きに満ちていたが、興味を持っているのも確かだ。


男子マネージャーの協力を得て、テストの準備を整える。屋内トレーニング施設には既にマーカーを設置しており、僕はテストの目的やルールを説明する。

(マーカーは、スタート地点と20m地点とスタート地点の後方5m地点の三か所に設置)


「このテストは、休みなく長い距離を走る全身持久力、動きの中で短い休息が含まれる間欠性持久力、短いスピードを回復させる間欠性回復力の3つを測定するものです———」


 僕は実際に動きながらルールを説明し、部員たちの不安を取り除いた。彼女たちは徐々に真剣な表情になり、実施を待ちきれない様子だ。

この世界線では同テストは存在しないし、当然のことながらアプリもシグナルもない。従って男子マネージャーに協力してもらい、ストップウォッチとホイッスルで代用する。かなり大変なのだが快く引き受けてくれた。

 

 実行者は合図と共にスタートし、最初のシグナル(ホイッスル、40mゴール制限の半分のタイム)で20m先のマーカーに着くように走り、20m地点のマーカーを過ぎた地点でターン(折り返し)して、次のシグナル(ホイッスル)までに最初のマーカー(スタート地点)に戻る。スタートラインに戻ってから10秒かけて実行者は5m先のマーカーまでジョギングで移動し、ジョギングでスタートラインまで戻る。これで1本となる。


 要するに実行者は、20m先の地点まで走って折り返し、制限時間までに復路20m先のゴール地点に戻り、10秒休息後にリスタートを繰り返すといったものである。

これをオールアウト(限界が来るまで)するまで実施するのである。

テストとはいえ、とてもキツいし良いトレーニングにもなる。


 ルールとしては、限界で走るのを止めたときと、2回制限時間内にゴール地点に間に合わなかった時点で計測終了となる。

 注意事項としては、フライングの禁止と20m先のマーカー手前で折り返さないこと、走る速さは自身で調整し、速くゴールに到着し長めに休息はとらない事。等である。

速くゴールするのを防ぐため、制限時間の半分のタイムが経過したらホイッスルが鳴り、実行者はこれを目安にスピードを調整してゴールする事とした。

 

 テストは「レベル2」で実施としたので、スピードレベル11(13㎞/h:40mを11.08秒で走る)で始まり、徐々にシグナルとシグナルの間の時間が短くなることでインターバルのスピードが増加していく。

10本目でスピードレベル19(17㎞/h:8.47秒)、15本目でスピードレベル20(17.5㎞/h:8.23秒)、20本目でスピードレベル21(18㎞/h:8秒)、30本目でレベル22(18.5㎞/h:7.78秒)、36~40本目で23(19㎞/h:7.58秒)とタイムが縮まり速度が速くなっていくのである。


 このテストのコツとしては、スタート直後は速いペースで走り、ターン(折り返し地点)地点の手前でしっかり減速する。折り返し地点では、なるべく脚への負担を減らすため各本数毎に左右の脚を使用する様にする。右足でターンしたら次は左足でターンするなど極力脚に負担をかけないようにする。折り返し後もハイペースで走り、ゴール手前で減速してなるべく回復時間を長くするようにする。

以上のコツを僕が実践して詳しく説明した。


 先ずは2軍の部員(20名)と1軍部員(2名)の計22名がテストを実施した。残りの部員(1軍21名)と僕が実施者にそれぞれ付いて計測の補助をする。


 テストが始まると、部員たちは予想以上に善戦したが、30本を超えたあたりから脱落者が出始め、最終的に1軍の部員2名が36本でオールアウトとなった。

続いて1軍の残り21名がテストを受けることになり、僕も久しぶりに実施者として参加した。


 ユニフォーム姿になった僕に対して、部員たちの視線が刺さるように熱いのを感じつつも、集中してテストに臨む。


 流石1軍の主力選手! 彼女たちは男性である僕に負けまいと全力で挑んできたが、35本を過ぎても何とか喰らいついて来てはいる。だが……ここからが本番だ!

僕は皆を叱咤激励する。


「ここからが本番だ! みんな頑張ろう!」


全く返事がなく、皆余裕はない様だ。

36本目で殆ど脱落し、最終的には38本目でキャプテン腕章を付けた部員がオールアウトとなり、僕一人が最後に残った。

キャプテンは未だ紹介されてないので氏名はわからないが、身長が180cmほどもある金髪ショートで女騎士の様に美しい。とてもクリスに似ていたので、もしかするとクリスの親族かな?


 その後も僕はテストを続け、余裕はあったが40本で終了した。監督含めて選手らも僕のテスト結果に驚愕の表情をする。

僕的にはオールアウトまで行きたかったので、とても残念だ。


 テストをしてみた感想としては、やはり持久力と回復力が足りてないのは明白であった。分析結果は後日報告するとして、その後は体幹トレーニングの指導と、「ワニ歩き」を指導した。故障中の部員らについては、「TBT式トレーニング」での「マウンテンクライマー」と「HIIT」を指導した。

選手らには僕の指導したトレーニングを練習後に週3回実施する事と、故障中の者には、毎日実施する事もしっかりと指導した。


「まず、今日はここから始めましょう。小さな積み重ねが大きな成果を生むんです」


 YO-YOテストの結果が、異次元だったのであろうか、当初は怪訝な表情を見せていたラグビー部員たちは僕の指導に真剣に耳を傾け、取り組む姿勢を見せた。


 その日の練習が終わる頃には、部員たちの表情に明らかな変化が見られた。最初の不信感は薄れ、わずかではあるが信頼の芽が育ち始めていると感じた。


 因みに義弟(福原優)よりキャプテンを紹介された。

氏名は「大舘リリカ」で3年生(4月より4年生)。クリスの母親である「ミア」さんの次女でクリスの妹である。

義妹でありながら初顔合わせとなったのだが、クリスの夫と聞いてからとても驚き、目をキラキラとさせながら、僕に対する尊敬の眼差しを向けるのであった。


~~~~~~~~


 その日の夜、僕は自宅で練習プランを見直しながら、ふと新たな目標を思いついた。この大学を起点にして、日本のスポーツ界全体を底上げするようなプロジェクトを立ち上げられないだろうか?


「今はまず目の前のことに集中しよう。それが未来への布石になる」


そう自分に言い聞かせながら、僕は再び資料に目を通した。



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