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あべこべ世界でのランナー ~マラソン日本記録保持者が女性過多で貞操観念も逆転した世界線に転移し無双する~  作者: アサノ霞
第2章 コーチ就任 編

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第15話 コーチ就任と挨拶

2018年3月12日㈪


——東相大学での出向初日——

 僕の仕事は、陸上部のコーチ兼長距離選手としての活動に加え、ラグビー部のフィジカルトレーナーも兼任することになる。

 正直、かなりの多忙が予想されるが、新しい環境での挑戦に胸が高鳴っていた。


 北川さんと護衛たちと共に東相大学を訪れ、まずは理事長や役員の方々と挨拶を交わし、諸々の手続きを進めていく。

北川さんが間に入って調整してくれたおかげで、ラグビー部の指導は週一回、水曜日のみという契約にまとまり、僕は陸上部のコーチ業務に集中できることになった。


 選手としての活動時間を確保できるのは、大きな利点だ。

なお、陸上部への正式な挨拶は本日中に行い、ラグビー部への挨拶は14日㈬に行う予定となっている。


 4月1日付で、大学陸上部は組織改編が行われる。「短・中距離」と「他競技」がそれぞれ独立し、クリスが率いる長距離・駅伝部門は、新たに「陸上長距離・駅伝部」として再スタートを切る。


 ここ数年で「短・中距離部門」は全国大会で好成績を残しており、大学としても多くの予算を投じる方針を決めたらしい。

一方で、かつては全国屈指の強豪だった長距離・駅伝部門は、近年の低迷が響き、大幅な予算削減を余儀なくされた。


 幸いにも、僕と部に対しては「ミナーヴァ」と「沖ホールディングス」からスポンサー収入が提供される。とはいえ、それだけでは夏合宿や遠征費を賄うには心許ない。

 

 活動資金を増やすには、やはり全国大会で結果を出すしかない。


 しかし、前回実施した部員たちの5000m走のタイムを見れば、現時点で全国区には到底届かないのが現実だった。

この世界における大学トップクラスの選手は、5000m走で15分台をマークしている。今の部員たちとは1分近い差がある。

僕のトレーニング理論を導入すれば確実に底上げはできるが、それでも追いつくには時間が必要だ。


「⋯⋯やっぱり僕が大会で結果を示す! それしかないな!」


 コーチ自らが出場し、結果を残してスポンサーを募る。その金を大学の長距離・駅伝部に寄付して活動資金に充てる。無茶な理屈だが、今の部を救う手立ては他に思いつかなかった。


 そう腹を括り、さっそくネットで3月中に出場可能な大会を探す。そこで目に留まったのが、3月25日㈰開催の『スプリング・トラックゲームス・2018』というローカル大会の5000mだった。


 参加資格は男女不問。しかも陸連公認の大会でありながら、陸連登録がなくても参加可能で、記録は公認として登録される。僕はまだこの世界で陸連登録をしていないので、未登録でも出場できるという条件は、まさに渡りに船だった。


 更に5000m走には参加標準記録もなく、記録証明も不要となっている。転移後、まだ公式大会に出ていない僕でも問題なくエントリーできる。


 隣にいた北川さんに相談すると、彼女は即座に動いた。男性保護庁の立場を明かした上で、日本国陸連と大会主催者へ連絡を取り、男性参加の可否や警備体制まで含めて確認してくれる。


 そして、わずか15分後、会場での護衛と警備体制に問題なしと北川さんは判断した様で、エントリー手続きだけでなく、僕の陸連登録まで、すべて完了していた。


 そのあまりの手際の良さに感動し、思わず僕は北川さんに抱きついてしまった。


「北川さん! 本当にありがとうございます!」


「⋯⋯!ごちそうさまです!」


北川さんはとろけたような表情で僕を抱き返す。その様子を見ていた周囲の女子学生たちは、驚きと歓声を上げていた。


 この世界の男性は筋力が弱く、スポーツに関わること自体が稀だ。競技は原則として男女混合で行われているが、男性が参加することはほとんどなく、仮に参加しても女性には全く歯が立たないという。


 陸上競技に関しては、女性の世界記録を見ても、元の世界線と大きな差はない。つまり――競技レベルそのものは、元の世界線と大差はない。


 転移後、まだ本格的な追い込み練習は始めていないが、現状の走力でも5000m走の世界記録更新は難しくない。

この世界の2018年時点での日本記録は14分53秒で世界記録は14分11秒だ。

だが、僕は先日のタイムトライアルで13分55秒を記録している。


 現状でも世界記録の更新は十分に可能だ。


 正直……女性に勝ってどうする、という思いがないわけではない。だが、男女の立場が完全に逆転したこの世界線では、その感覚こそが異端なのだろう。


 この大会で結果を出し、僕の名を全国に知らしめる。スポンサー収入を増やし、活動資金を確保し、陸上部と共にさらに高みを目指す。


 胸の奥が、自然と高鳴る。


「スポーツは健全であるべきだ」との声もあるが、そんな綺麗事だけでは現実は変えられない。


 なお、僕が5000m走にエントリーし、陸連登録まで済ませたと知った大会主催者と日本国陸連は、揃って大きな衝撃を受けていた。男性が公式大会に出場するのは前例がないらしい。


 電話越しに伝えられたのは、驚きと戸惑い、そして――わずかながらも、確かな「期待」の声だった。


 そして、僕がレースに出場することをメッセージアプリを通じて妻たちに連絡したのである。

当日、妻たちは応援に来てくれるそうだ。


◆◆◆◆


 昼頃、大学の食堂でクリスと合流した。周囲はほとんど女子学生ばかりで、僕を見るなり嬌声を上げたり、硬直して赤面したりする者ばかりだった。

そんな注目を集める中、クリスと一緒に食事を取りながら陸上部の現状について話し合った。


「天馬、陸上部の活動費の調達、本当にありがとう! 部費が少なくて困ってたから、感謝してもしきれないわ……」


クリスが深々と頭を下げてお礼を言う。

そんな平身低頭な彼女に、僕は小声で注意した。


「(ちょっとクリス! 学生たちが見てるって!このままだと示しがつかないから、とりあえず頭を上げて。それから、これから言うことに合わせてね!)」


 ここは大学構内だ。ましてクリスは研究員の身であり、将来は教授を目指す立場でもある。多くの学生が見守る中、男性に頭を下げるのは外聞が悪く、示しもつかない。ここは、夫婦間の痴話喧嘩ということにしよう。


 クリスの頭を上げさせると、僕はわざと周囲に聞こえるような声で彼女に別の注意をする。


「だから~! なんで揚げ物食べてるの! 血圧上がるでしょ! ただでさえ数値高いんだからもっと自重して! もう自分だけの“カラダ”じゃないんだからさ! 明日から僕のお弁当にするからね! わかった?」


そう言い放ち、クリスに向けてウインクを送った。口裏を合わせるための演技だったが、クリスは硬直し、数十秒ほどフリーズしてしまった。周囲で僕らのやり取りを見ていた北川さんや護衛、さらには女子学生たちも一様に静まり返った。


「えっ! お、お弁当……! 作ってくれるの?! は、はい! わかりました!」


 再起動したクリスは赤面し、蕩けた表情で驚いていた。その様子を見ていた女子学生たちもざわつき始めた。


「ウソッ! カラダって!!」「お弁当!?」 「おとこの手作り弁当!?」「 愛夫弁当!?」「 羨ましい!」 「なんであんな年増が!?」「 私にもチャンスあるかな?」


 この一連の出来事は後に妻たちに知られることとなり、僕は妻たち全員に通った際お弁当を作ることになった。それだけでなく、何故か?北川さん(同行した場合)と日中担当の護衛2名にも毎日分のお弁当を作る羽目になった。

もともと料理をするのは好きだから苦ではないし、特に問題はない。お弁当を手渡したときの幸せそうな笑顔を見るのが、僕にとって何よりの喜びだ。


◆◆◆◆


 クリスとの打ち合わせで、4年生が引退したことでマネージャーを含む6名が抜け、現在の部員数が20名になったと聞いた。特に引退した4年生は先日の5000mタイムトライアルで上位を占めていた主力メンバーだった。


 残った部員らのタイムは頭打ち状態で、調子が良くないのもおり、全国レベルでは通用しない現状だそうだ。

確かに、先日のタイムトライアルの走りを見た限りでは、全体的にラスト2周(800m)での失速が目立ち、フォームも崩れていた。現部員の走力を上げるには少し時間がかかりそうだ。


4月からの新入生に期待したいところではあるが、有力選手が入部する予定はなく、全く期待出来ないとのこと。


 この現状を立て直すのはかなり厳しいが、何とかするしかないな。

僕が思うに、今一度皆初心に帰って、走ることを好きになってもらうことから始めた方が良さそうだ。

そうクリスに提案したら、驚いていたが了承してくれた。


 昼食を終えてクリスと別れた後、僕は北川さんと護衛らと共に総合運動公園へと移動し、自主トレーニングをすることにした。僕は陸上長距離・駅伝部のコーチを務めているが、練習開始時間までは自由な時間だ。この時間を有効活用して、単独でトレーニングを行うことにした。


 15時30分にトレーニングを終え、スーツに着替えて大学へ戻り、16時30分に体育館で部員たちに就任の挨拶をした。体育館ではクリスと20名の部員が待っていた。何度か一緒に練習をした顔ぶれなので、特に緊張はしなかった。


「みなさん、改めましてコーチに就任しました甲斐田天馬です。これから一緒に成長し、素晴らしい結果を目指してサポートしていきます。宜しくお願い致します。……なんてね!」


部員たちはざわついた。僕はウインクした後、話しを続けた。


「監督とも話しましたが、結果なんてどうでもいいんです。ここはプロ養成所ではありません。だから無理はしないでください。走ることを楽しんでくれたら、それだけで僕は嬉しいです。ただ、自分がどれだけ頑張ってやり遂げたか、その達成感は社会人になったときに役立つはずです。僕の方針は“スマイルラン”です。楽しくゴールすること。それを目指して頑張りましょう!」


そう言って深々と頭を下げると、部員たちは驚きと戸惑いの表情で硬直していたが、数十秒後には盛大な拍手が湧き上がった。彼女らの目には期待と興奮が浮かんでいた。


 「ミナーヴァ」からのシューズ提供やスポンサー収入がある以上、全国大会で一定の成績を求められていることは理解している。しかし、僕は大学の部活動はあくまでも教育の一環だと考えている。無収入の部員たちに無理をさせ、大怪我を負わせるわけにはいかない。それよりも、「ランニングは楽しい」と思って巣立ってくれることの方が大事だと思っている。


 なので、全国大会での実績は、僕がすればいいことである。


 勝利至上主義ではない僕の考えがコーチとして正しいかはわからないが、部員たちの将来を思えば、この方針が最良だと信じている。


 挨拶を終えた後、部員たちの現状を確認するため、全員を座らせて身体の状態をチェックすることにした。

僕は一人ひとりと向き合いながら話を聞き、股関節の痛みや他に痛みがないかを尋ねた。

また、本人の了承を得た上で、シンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)の有無を調べるため、膝から下のスネの内側部分を直接触れて確認した。

これを確認するには、直接触れる必要があるためだ。


 元の世界では、この行為はたとえ了承を得ていてもセクハラとして問題視されるのだが、この世界では部員たちの反応はまるで正反対だった。彼女たちは驚きつつも、顔を赤らめて呆けたような表情を浮かべながら、僕の質問に答えていた。


 その結果、6名の部員が軽度のシンスプリントを抱えていることが判明した。この症状は、脚のスネ内側に鈍くズキズキとした痛みが生じるもので、適切な治療をしないと疲労骨折に至る危険がある。幸いにも、6名とも軽症であり、完治には1カ月程度で済む見込みだ。


 残り14名の部員についても、脹脛ふくらはぎの張りが目立ち、このままでは肉離れを引き起こす可能性があった。そのため、全員に3月いっぱいは軽いジョギングを中心とした練習メニューを課すことに決めた。シンスプリントを抱える部員たちには、別メニューのリハビリトレーニングを提案した。


 それにしても……今までどのようなトレーニングをしてきたのだろうか?

クリスを責めるつもりはないが、部員たちの筋力が不足しているのは明らかだった。基礎トレーニングが十分でない状態で無理な練習を続けていたのだろうか。


 総合運動公園へと移動し、部員たちの練習を見守りながら、僕はクリスに今後の計画について話を切り出した。


「クリス、部の年間スケジュールとこれまでの練習メニューを見せてもらえる?」


「うん、わかった。家のパソコンに保存してあるから、帰ったらメールで送るね」


クリスは少し驚きながらも答えた。


「いや、今日と明日はクリスの家に行くから、そのとき直接見せてくれない?」


僕が小声でウインクすると、クリスは顔を真っ赤に染めて俯いた。


「はっ……は…い…」


クリスは何かを期待したのか、顔を紅く染めて俯く。


 諸々の練習を終えてから全員僕指導の下、ストレッチをして十分体を解してから本日の練習を終了とした。

僕は妻と北川さんにメッセージアプリのグループチャットにて、今日明日はクリス宅に泊まることを伝えた後に、護衛を伴い一緒にクリス宅へと向かった。


 20時頃クリス宅(実家)に帰宅する。未だ実家敷地内の僕とクリスの新居は建設中であるため、クリスは実家住まいだ。

義両親(ヨッシー、優美さん、ミアさん)は撮影のため、ひと月ほど留守にするそうだ。


 クリス宅で食事と入浴(一緒に)を済ませた僕たちは、彼女の部屋で陸上長距離・駅伝部の今後について打ち合わせを始めた。

クリスから見せてもらったこれまでの練習メニューには驚かされた。


「まるで長距離走黎明期のトレーニングみたいだな……」


 とにかく距離を走ることに特化したもので、月間走行距離は1200kmにも達し、ポイント練習は週に4~5回。400mのインターバル走を50本以上こなす内容など、信じられない負荷だった。部員たちの故障が絶えないのも無理はない。


 更に、彼女たちが目指している大会が「箱根駅伝」だと聞き、僕は苦笑いを浮かべた。現在の部員たちの実力では、予選を突破するのは到底無理だ。これまでの古い練習方法を全面的に見直し、新たな計画を立てる必要がある。

この世界線では「R式トレーニング」も「Ⅾ式理論(VDOT値)」も「体幹トレーニング」も「TBTプロトコル」も存在してないので仕方ないか。


「クリス、僕が年間スケジュールと練習計画を立案してもいいかな?」


「もちろん! お願い!」

クリスは満面の笑みで僕に答えた。


 2日間、クリスと協力しながら、新しいトレーニング計画を練り上げることにした。


 基礎固めとして「R式トレーニング」に沿った計画を立案作成する。

その中には、ランニングフォームの改善とラン効率の向上を目指した筋力トレーニングや、柔軟性の向上も重視したメニューが含まれていた。

しっかりと期分けもされていて、今後の部員らの成長を見ながら柔軟に対応しよう。


 そして、翌日に僕は部員たちをもう一度集め、彼女たちに自分の考えを伝えることを決意した。


「みんな、これからは無理な練習ではなく、効率的に成果を上げるトレーニングをしていこう。目指すは箱根駅伝だけど、そのためには一歩ずつ着実に力をつける必要がある。僕と一緒に楽しく頑張ろう!」


部員たちは目を輝かせて頷き、新たなスタートを切る意志を見せた。

この先、彼女たちと共に目標を達成していくための道のりが始まるのだ。


◆◆◆◆


 因みに……クリス宅(実家)での二日間は、クリスの期待通り避妊をしつつ大いに捗った。相変わらずクリスは……ムッツリス〇ベだな。




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