第一章 色の無い世界その5
まずは俺から二番目に近い男に話しかけるとするか。当然のことだが一番近いのは神村さんだ。
俺はその男の正面に辿り着くやいなや、初対面の人に悪い印象を与えないような柔和な表情かつ幼稚園児に話しかけるときのような優しい声で、
「あのー、差し替えなければお時間いただいてもよろしいでしょうか?」
「おわっ!?」
俺に気付いていなかったのかそいつは急に大声を出してオーバーリアクションで驚いた。
「うわっ!?」
それにつられて俺も情けなく驚いてしまった。いきなり大声は出さないでくれ。こっちもビックリするから……さっきも似たようなことがあったな。斉ケ原……。
斉ヶ原のことを追想していると、男は申し訳なさそうな表情で、
「す、すまん。己の頭で熟考していて周りに目を配っていなかったが故に君を認識できていなかった」と、言った。
筋骨隆々で大柄。両腕は電柱と見まがえても相違ない程の太さ。学ランの中に冷蔵庫を入れているんじゃないかと訝ってしまう程の厚い胸板。それが故に動くと学ランがはち切れるんじゃないかと心配してしまう程パツパツ状態である。もちろんだが下半身もムキムキである。思ったんだが、上半身はムキムキだけど下半身はチキンレッグっていう人は本当にいるのか?ラグビー、アメフト選手を彷彿とさせる精悍な顔つき。これほどまでに漢という言葉が相応しい男はそうはいないだろう。強いぞこいつは。
俺は出来ているかどうかは分からない神村さんを参考にした笑顔をしながら、
「いえ、大丈夫ですよ。俺が様子を気にしなかったのが問題ですから」
「そ、そうか」
漢は頷き、怪訝な表情で、
「俺になんの用だ?この世界からの脱出方法は頭の悪い俺には分からんぞ」
「いえ、俺はあなたに自己紹介をしようと……」
「む、そうか。神村に言われたのか?『他の人にも自己紹介して』ってな」
「ま、まあそんなところです」
俺は口角を上げ、漢と握手をするために片手を差し出し、
「俺は涼盛夏希です。東高校の二年生です」
漢は俺が差し出した手を握り、
「ああ、よろしく」
漢は苦い顔になっている。どうしたんだ?そういえば神村さんも俺が自己紹介した時暗い表情になってたな。この狂った世界にいるからだと思っていたがもしかして違うのか?俺の名前が原因なのか?それとも高校が?わからんな。
数十秒の沈黙の後、
「申し訳ないが俺は自己紹介が出来ない。……許してくれ」
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