表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

第一章 白色の世界2

 一時間近く歩いただろう。俺の体感時計による計測だが、そう、約六十分は歩いた。だが、依然として景色は白一色。この場所の色という概念は崩壊しているらしい。雪国だったらおかしくないが。

 ……あれ、確か白色って沢山の色が合成して見える色って物理の授業でやったような……まあ、理系科目全般を諦めている俺にはこれが合っているかどうか分からないね。

 文句を言いながらも立ち止まらずに歩き続けている。だが歩いても歩いても白、白、白。こういう意味での変わらずの風景は嫌いだ。頭がおかしくなりそうだ。俺は本当に進めているのか?実はランニングマシーンの様に同じ場所を歩いていると言われても信じられるぞ。誰でもいい、俺を助けてくれ。もし助けてくれたら俺はあんたを唯一神として毎日崇めてやる。……本当に……本当に……誰か助けてください……

 

 「――――トッ!」


 上手く聞き取る事は出来なかったが、俺の耳が正常ならば、女性の様な高い声ではないが低すぎないちょい高めの声、つまり男の声が聞こえた。

 声?……誰かいるのか!?俺以外に。

 くそっ、何処からだった?

 前方か?それとも後方?

 ええいままよ!

 俺は幻聴じゃない事を祈りながら前方へと全力前進で駆け出した。

 前後左右を見る。

 何処だ。誰でもいいから居てくれ。俺が嫌っている山田、中西、谷口でもいい。

 「俺はここだー!」

 俺は叫んだ。これが後に悪手だったと気づいても後悔は無いだろう……!? 

 左の小路から男が俺の前へと現れた。

 全身紅色で統一されているハンサムフェイスでちょい高身長の男。緑髪センターパートで細身。

 「ここで大声を出すという自殺行為をしているのは誰だ?」

 そいつはやれやれ、と言わんばかりの呆れた表情で俺を見る。

 なんだ?こいつ。何で軍服みたいな服を着ているんだ?あと左に帯刀しているが本物か?まあ、人に会えて良かった。まだこれが幻覚じゃないと否定できる根拠がないが。待て、さっきこいつは俺に自殺行為がどうとかって言ってたよな?

 男は俺の全身を目で三往復すると、「ん?……って、リーダー!?」

 野郎は急に驚いた。まるで生き別れの兄弟と偶然街で遭遇したみたいな驚き方で。

 いきなり大声を出さないで欲しい。こっちもビックリするから。あと『リーダー』ってなんだ?

 俺は訝しげな声で、

 「お前、俺を知っているのか?俺は多分……お前の事を認知していない」と、言った。

 野郎は聞くやいなや、唖然とした表情になった。

 まずい、俺がこいつを覚えてない可能性が出てきたかもしれない。だが、俺の脳内検索にこいつに似た容姿の奴はヒットしない。そうだ、野郎が勘違いしてる可能性もあるんだ。そうであって欲しい。

 俺は野郎が勘違いしているということに一縷の望みを抱きかかえようとしたが他に重要なことを思い出した瞬間それは綺麗に霧散した。

 「俺がお前を知っているかどうかの事は今は要らない情報だ。教えてくれ。ここは何処なんだ?それと自殺行為っていうのはどういう意味だ」

 野郎は変わらずの呆れ顔。

 「冗談を言っているんですか?リーダーに限ってはそんな事を言うとは思っていませんでしたが……。となると、いや、もしかしてですが記憶喪失になっているとか……?」

 野郎の問いを聞いた瞬間、俺の全身が戦慄く。

 こいつ今何て言った?俺が難聴じゃなければこいつは記憶喪失と言っていた。

 冷や汗が止まらない。

 俺が記憶喪失……?

 否定出来ない……思い当たる節があるからだ……

 俺がここにいること、告白した翌日以降の出来事、そしてこいつのことも。全てを俺は覚えていない。

 首を縦に振ることしか出来ない説得力を帯びたこいつの発言にただただ黙ることしか出来なかった。

 「そう悲観しなくても大丈夫ですよ。いずれ戻ると思います。気長に待ちましょう」

 俺は頷いた。

 「そうだな。……あ、お前の名前を聞いてもいいか?もしかしたら思い出せるかもしれないからさ」

 記憶とは脳内に無数にある引き出しに入っているもの。一度覚えたものは必ず引き出しの中に入っている。思い出せないのはその引き出しの鍵を無くしたからだ。でも引き出しの鍵って意外と簡単に見つかるものなんだよな。その引き出しに入っている言葉を聞くと鍵が「こんにちは」て出てくるんだ。そして思い出す。

 男は頷き、微笑みながら、

 「僕は斉ケ原直――」

 ぶしゅ。

 俺の顔に生温かい液体が付着する。

 即座に手で顔を触る。

 何だこれ……血……?

 な、何が起こった……?

 俺は正面を見る。

 ?????

 そこには斉ケ原の生首が浮ていた。

 首から下は直立している。

 生首の下から血が大量に滴る。

 は?

 ど、どうなっているんだ!?

 わ、訳が分からない。

 「斉ケ原、冗談だよな……?ドッキリだよな、これ。おい、答えてくれ」

 斉ケ原の生首は依然として笑顔。

 ゆ、夢なのか……?

 は、ははは。

 あれ?

 斉ケ原の両側頭部に紅色の指のようなもの計五本見える。

 指?

 「I wanna see you」

 え……?

 老婆のように弱々しくてかすれた声が俺の耳に入った。

 斉ケ原の声じゃねぇ……だ、誰だ……?

 会いたい……?

 What?

 全身が戦慄する。

 「I wanna see you」

 ま、まただ。

 この身の毛がよだつような声は何処から来ているんだ。

 いや、前から聞こえた。それも近い。ま、まさか!?

 俺は斉ケ原を凝視する。

 !?

 斉ケ原の顔無し身体に何かが潜んでいる。

 そう、何かが動いたんだ。

 「I wanna see you」

 何回目だよ。

 さっきまでの俺の恐怖は怒りへと昇華していた。

 俺は苛立ちながら、「会いたいなら早く出てこい。『ドッキリ大成功!』のプラカードを持ってな」と、言った。

 潜む者は俺の問いかけに反応したのかさっきよりも動きが増す。動きというより蠢きといった方が正しいか。

 くちゃ……くちゃ……

 咀嚼音のような音が微かに聞こえる。

 「お、おい!何をしているんだ早く出てこい!」

 早く俺を安心感で包ませて欲しい。

 くちゃ……くちゃ……

 鳴り止まない音は俺の怒りゲージを限界まで引き上げた。

 そっちが来ないなら俺が行く。

 俺は大股でずかずかと斉ケ原に向かう。

 斉ケ原の背後を見るや否や俺は、

 「おい、何やって――!?」

 ヤンキー座りをしている白色の化け物がいた。ホラーゲームにいるような化物。一見骨だけの人間のように見えるが薄い筋肉がついている。両腕の長さは普通の人間の数倍近くはあるだろう。白内障を連想させるような大きな白濁色の双眸。耳は見当たらない。そいつは何かを右手で貪り喰っていた。何かは直ぐに分かった。斉ケ原だ。斉ケ原の背中の肉が剥ぎ取られていたのとそいつの口周りに紅色の液体がベッタリと付いていたからだ。斉ケ原の生首が浮いていた理由も分かった。こいつが左手で生首を掲げていたからだ。

 俺に気づいたのか、化物は斉ケ原を貪り喰いながら俺を白い目でまじまじと見る。

 そいつは不気味な満面の笑みを浮かべた。

 「I wanna see you」

 俺の全細胞が戦慄く。 

 体内にある生命危機センサーがさっきとは真逆を示している。

 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい

 俺は無我夢中で走り出した。化物から逃げるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ