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第一章 白色の世界

 「ここはどこだ……?」

 見渡す限り不安を覚えるような白濁一色の風景。濃霧などにより白く見えているのではなく、建物、空、地面の全てがその色。人の気配は無い。建物は西部劇に出てきそうな木造建築だが総じて朽ち果てている。太陽、月は見えない。曇っているときみたいに少し暗い。寒い。それは温度の所為ではなくて、恐怖からよるもの。静寂。

 「なんで俺はこんな所にいるんだよ……」

 夢なのか……?いや、夢だと鮮明に見えないし、考える事も出来ないはずだ。

 じゃあ俺はさっきまで……あれ?思い出せない……?いや、思い出せなきゃおかしいだろ。思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ……



 「行ってきます」

 玄関ホールにいる母親に向かってそう言いながら扉を開け、太陽の光と微風を全身で感じながら外へと歩み、扉を閉めた。

 変わらずの学校への道を昨日の夜に暗記した英単語を頭の中で反芻しながら歩いていると、

 「オッス、涼盛!」

 俺の背中を後ろからバシン と、叩いた男が笑顔で横に並ぶ。

 「ん、浜中か」

 俺が気づいた途端に、浜中はピエロのような気色悪い笑みへと変化させながら、

 「なぁ昨日の結果をおしえてくれよ。どうだったんだ?」

 「何の話だ」

 浜中は変わらずの表情で、

 「おいおい、昨日の晩にしたんだろぉ。松風さんによぉ、告白をよ」

 「知らん」

 「しらを切るなよ!まっ、お前の表情と口調から察するに芳しい結果は得られなかったようだな。辛いよなぁ、好きな人に振られると凄く悲しい気持ちになるからよ」

 浜中は同情的な眼差しで俺の横顔を見つめる。

「だが、いつまでもくよくよしてちゃ駄目だ。そうだ!お前にラグビー部レギュラーであるこの浜中が未来を切り拓く三つの要素を教えよう」

 「……」

 「一つ目は何事にも揺るがない不動の信念!」

 「……」

 「二つ目は悪い運命から逃げない覚悟!」

 「……」

 「三つ目は気合だああああああ!!!」

 「……」

 昨日の記憶がフラッシュバックする。

 ……ああ、したさ。放課後の教室で俺は夕日で紅くなっている松風さんに告白した。だが浜中の推理通り、俺の恋が叶うことは無かった。断っておくが、松風さんは俺が送った手紙に書いてあった指定場所に時間通りに来てくれたし、告白も茶化したりせずに最後まで真剣な面持ちで聞いてくれた。俺の告白を聞き終わった後、松風さんは真面目な表情とトーンで、「気持ちはすごくうれしいです。ですが私は他にお付き合いしたい好きな人がいます。ごめんなさい」と、言った。その後のことはあまり良く覚えていない。これ以降で覚えていることと言えば晩飯と英単語だけだ。それ以外は脳が不必要だと判断したからだろう。


 ……そうだよな、くよくよしてちゃ駄目だよな。

 俺は横で歩いている浜中の鼓膜が破れるかのような声で、「浜中、俺は元気だぞ!」

 「おわっ!?急にどうした!?昨日の結果が原因で情緒不安定になっているのか?」

 浜中は面喰らった表情から心配そうな顔つきへと変化した。

 「ははは!いや、本当に大丈夫だ。ありがとな、声かけてくれて」

 困惑顔になっている浜中は、「そ、そうか?だってよぉ俺、お前の気持ちを考えずに聞いちまったからさぁ」

 俺は首を横に振る。

 お前が思い出させてくれたから俺は立ち直る事が出来た。もし、あのまま記憶の奥底に眠らせていたら数年後ごろには精神科に通院していただろう。

 学校への道はいつもと変わらずの風景。

 さっきまではこの風景に業腹だったが、この変わらずの風景は俺を悪い方向へと行くのを防いでくれていたんじゃないかと考えても相違ないんじゃないかなと思う。

 さーて、今日も――って――かな!

 暖かい微風が――背中――押し――――……



 

 思い出せた。だが、最後の方は曖昧だったというか思い出せなかった。つまり、この後に何かあったことになる。だけど、どうなったらこんな場所にいることになるんだ?……わからない。けどここで立ち止まっていては駄目なのは分かる。

 いや待て、助けを呼べばいいのか。俺はズボンの右ポケットをまさぐる。あれ、無い……?俺が携帯電話を入れるのは右ポケットだぞ。じゃあ左か?ねぇ……あっ、腕時計もねぇ。てか所持品全てが無い。くそっ、マジで何があったんだよ。

 俺はこの奇妙な風景を嫌でも視界に入れながら大通りを歩み始めた。



 

 

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