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王子様になりたい私、勇者候補になりました?!2〜全ての虐待児に捧げる幸せな話〜  作者: ユメミ


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2/14

1. 勇者候補にならなくても良い生活


 満開の鈴蘭の花畑


そこでいつも彼女は踊っている


金髪の美女だ


傍らで歌うのは黒髪の男の人


二人は幸せそうに微笑み合う


美しい御伽噺のような光景をじっと見つめる黒髪の少女に話しかけた


漆黒の艷やかな髪は風と花弁を背景に美しくなびく


その瞳は花畑の御伽噺を虚無の色で見つめる


「らんちゃん。なんでそんな………瞳で見つめているの」


あれらは現実味のない美しい情景だ


二人はまるで《王子様とお姫様》だ。


御伽噺の主役に相応しい幸せを切り出したかのような二人


そんな二人を見つめる瞳があまりにもーーー


余所の恋人達をそんな恨めしそうに見つめるのは何故なのか 


『当たり前じゃない』


らんは呟いた


『あの人達は………………捨てたのだから』

「え?」

『捨てたのよ。私の宝物を』

「………らんちゃんの………宝物」


あの二人が?


二人とも他者を害するようには見えない


寧ろ他者など興味はなさそうではないか


正に《二人の世界》に浸っているように見えるから



『知らなくていいのよ。光に生きる貴女は』


また光が溢れた

今回も大して話せていない

何故夢でしか会えないのか

彼女を抱きしめたいのにいつもりんの指は空をつかむ


「らんちゃん!貴女も一緒にこっちに!」


『一緒?』


彼女はうっそりと美しく微笑む。

まるで聞き分けのないりんを諌めるように


『私は貴女のただの二重人格の意識なのに?』


「違う!貴女は!!」



あなたはーーーーー


あなたはーーーー私のーーーーー




「夢………」


 目が覚める。

それに気付いたように段々と明るくなる魔導照明をりんは見つめた。

月を模った(かたどった)それは今の時期の本物の月と同じ様に少しだけ欠けている。

目を瞬いた。

毎日見ていても美しくて飽きない天蓋だ。

本物の月の満ち欠けに連動しているのだ。

月の周りを彩る星座図も今は《皐月》の景色だ。


この特別な天蓋ベットはリリスお母様がりんのために造ってくれたものらしい。 

天体や星座が好きでよく空を見上げていたりんのために。

そんな些細な好みまで叶えようとしてくれるリリスお母様の過保護さはまだ慣れない。

彼女は一から十までりん至上主義気味なのだ。


星座図の北の空には北斗七星が輝いている。おおぐま座がひしゃくの形をして高い位置に輝き、その尻尾を伸ばすと《春の曲線》としてアルクトゥルス、スピカへとつながる。

代表的な《春の大三角》と呼ばれる星々の輝きだ。


天頂から南の空にはうしかい座の橙色(だいだいいろ)に輝くアークトゥルスと、おとめ座の青白いスピカが明るく輝く。


西の空には しし座のデネボラ。

それは時間と共に西に傾き、春の星座が沈み始める。


東の空には夏の大三角で有名なこと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブが昇り、夏の星座が姿を現す。


この星座図をみるだけで外を見なくても朝が来たのだとわかる。

贅沢で摩訶不思議な天蓋ベットでの目覚めが今のりんの日常だ。


夢の中の月のような女の子を思い出す照明を見つめながらりんは目をパチパチと開いたり閉じたりした。

まだ夢見心地だった。


「夢じゃなかった………」


頬を触る。

涙の跡はない。

胸を抑える。

心拍は正常だ。


目を瞑り夢の中のお姫様にも声をかける。

話しかけてみても最近はなかなか現実には出てこない気位の高いお姫様に「おはよう。今日も楽しい朝だよ」と呟く。


返事は勿論ない。


 りんの中にはもう一人女の子がいる。

名前は「らん」。

彼女はとても美しく気高いお姫様なのだけど、恥ずかしがりやだ。

りんが弱ってる時には望まなくても話しかけたり表に出てきてくれるのに、りんが楽しんでいる時には夢の世界に溶け込むように気配を消してしまう。


現し世では医学的には「解離性同一性障害」「二重人格」なんて呼ばれていた。

それらで奇異な目を向けられることは慣れっこだった。

でもあの子が出てこない生活はなんだか現実味がないのだ。

あの子がいるからこそのりんであると思っている。

あの子は夢でも幻でもないと確認する。

りんの魂と呼べる所にいる小さな気配に耳を澄ませるのはもう生活の一部だ。


りんの朝はこの生活が夢ではないことの確認から始まる。


りんの寝室にはどこの貴族の御屋敷ですか?と思うほどの特大の天蓋ベットがあるだけではない。

廊下を通らず入れるバスルームもあるのだ。


癖毛で髪がくるくるしてしまうしよだれも垂らしてしまう。寝汚いりんの僅かにある乙女心には大変ありがたい設備である。

寝癖もよだれも朝のシャワーで一掃出来る。


リリスお母様も執事の白哉もたぶんこの取り繕わないりんを見ても呆れもしないし馬鹿にもしないだろう。

寧ろ嬉々としてお世話してくれる図しか浮かばない。

彼女達の愛も献身もありがたい。

でも。


ーーー人間全ての尊厳を明け渡すと駄目人間になりそうなんだよね。


困るのは《駄目人間》になったりんですら甘く愛でられてしまいそうなのが恐ろしい。


自立と尊厳。大事である。

りんはさっぱりした後ドレッサーの前に座った。


 こちらを見つめ返すナッツ色の瞳を覗き込んで目ヤニのチェック。

白哉やナタージャから貰ったスキンケア用品をたどたどしくもしっかり叩き込んだ。

清潔ならいいやと最低限の身繕いしかしてこなかったりんにはこの習慣はまだ慣れない。 

たぶん本来ならもっと丁寧に時間をかけてしなくてはいけないのを妥協され短縮化に短縮化を重ねてくれたお洒落番長達に心では謝りながらも手早く塗って終わりにした。


ブラシのボタンを押して髪を一撫で。髪の毛を乾かす機能の炎と風の魔術が刻まれた魔宝石が埋め込まれたものだ。

少しだけ前髪を巻くように捻ると完了。

現し世にあったらしいドライヤーもコテもあまり使ったこともないりんにはこの便利魔導道具はありがたい。技術がなくても綺麗は作れる。魔術万歳である。


汗止のパウダーを叩いて花の蜜のリップを塗ったら完成だ。

鏡には垂れ目の童顔が映り込む。


りんは自分の顔があまり好きではない。

目は大きすぎるし鼻は高すぎる。

瞳の色も髪の毛も色素が薄いから日本人ぽくないのだ。


妹弟達の艶々の黒髪にくりくりにも神秘的にもなる黒目がすごくすごく羨ましい。


でもそれは言ったら嫌味なのだ。

それだけ世間から見るとりんの容貌は整っているらしい。


どうせならもっと凛々しい眉が欲しかったし目も少し威厳のある涼やかさが欲しかった。

髪は直毛のほうがサラサラで美しいと思うしかっこいい。


「やっぱり、らんちゃんは私の理想なんだよなあ………」


内なるお姫様の《らん》の美しさを思い出す。

満月ような星空のような涼やかな神秘的な瞳はアーモンド型。

眉は細く知的。

簡単には笑わない唇は朝露に濡れた薔薇のように艷やかだ。

髪も直毛だ。サラサラのツヤツヤだ。


あの子と私のどこが似ているのだろうか?

身体はりんのはずなのだけどあまりに違う。


「らんちゃんと一緒にお洒落するなら楽しそうなんだけどな〜」


無謀な望みだ。

自分の《二重人格の意識》と隣り合いたいなんて。

みなの前では決して出せないことも自室なら呟き放題だ。

りんはこの部屋を手に入れてから独り言が多くなった気がする。


チャコールグレーの特注の制服を着込む。

何着も洗い替えがあることもいつの間にか綺麗に洗濯されトルソーに出されていることの贅沢を噛み締めながら腕を通す。

本当は白哉は甲斐甲斐しくりんの着替えまで手伝いたいようだ。

執事としての仕事でもあるのだろうけどりんにとってはリリスお母様と同じくらい大切な家族だ。

朝からお世話になりっぱなしはりんの心が死ぬことを丁寧に丁重に話したら諦めてくれた。

そのかわり朝食が豪華になるらしい。

等価交換にならない気がするけど白哉にとって働かないことこそストレスになる執事の性らしい。


りんは寝室から開き戸で出られる《ベランダ》にでた。

りんが《バルコニー》の存在を知らなかった庶民的な間違えをリリスお母様が《建築用語改正案》を出してまでバルコニーをベランダにしようとしてくれた《ベランダ》だ。

法改正はされなかった。

親バカで簡単に法改正はしないで欲しいとりんが言ったからこその取り下げだ。危うく《元勇者一行の偉人リリス。愛娘のために無謀な法改正!!悪逆の限りに法務省泣きっ面》みたいな新聞が幽玄異郷新聞に載るところだった。

でもりん達の《おうち》では相変わらずベランダと改名されたままだ。

おうちルールなるものらしい。法律も役人さんにも迷惑がかからないなら良いと思う。


そのベランダの眼下に広がるのは初夏の気配だ。

広大な迷路のような庭園の一角には現し世仕様の素朴な花壇が造られた。

リリスお母様と白哉と子供達と皆で現し世の花々や野菜や果物を植えたのだ。

季節感を出そうと旬なものを取り寄せてくれているのだ。

桜の花は終わり新緑の季節が始まった。

今は薔薇とカーネーションが咲き乱れツツジの甘い蜜の香りがする。虫と雨と土の香りが排気ガスの匂いと混ざらず新鮮だ。


豪華な部屋。

壮観な庭園。

これらは現し世でも裕福なら味わえただろう。

でもこの景色は現し世では決してないのだと教えてくれる。


魔素を過分に含んだ空は水色の空色ではない。 

ここ幽玄異郷(ゆうげんいきょう)では空色は《紫色》だ。

雲は白くなく紫紺(しこん)色。

空飛ぶ小鳥もよく見ると角も牙もある。

キラキラ輝く鱗粉を撒き散らしながら小さな妖精な子供達がその小さな魔鳥をつついたりして悪戯している。

少し目線を横にスライドすれば蝶々や蜂を食べる花と何故か目が合うし野良猫には羽根がある。

白いふわふわした綿毛は意思を持ちふわりと弾けたりする。時折懐くようにりんの頬を撫でたりする。


太陽の動きも時間の流れも季節も星も月も動きは日本と変わりはない。

だからかこは日本なことはわかるのだけど《階層》が違う異世界なのだ。


ここは幽玄異郷(ゆうげんいきょう)。

天国と地獄と霊界と神の世界の狭間。

全ての次元の理が混ざる所。八百万の種族と妖怪と空想の生き物がひしめき合っている所。


そして。  

今はりんはそこの住人である。


佐藤 りん。14歳。

現し世。日本生まれの日本育ちの孤児院育ちだ。

1年以上前の記憶はないのだけど身体に染み付いた習慣や学力は問題ない。

普通の中学生だ。


少し普通じゃなかったのは傷害事件通算9回。自主退学5回の犯罪者予備軍だったこと。

《解離性同一性障害》の人格が現し世では異端だったこと。

あと。

女の子なのに《王子様》を目指していること。

少し書物オタクで速読が得意なこと以外は特には特技はない。

それと戸籍のない《闇っ子》が集められた孤児院にいたこと。


それ以外は凡の中の凡。

キングオブ凡だと思う。


そんな私は何故か白い紳士《御嶽 慎一郎(みたけ しんいちろう)》さんに現し世で《勇者》に興味がないかと問われた。


勿論興味はなかった。

りんは家族が一番だった。それは孤児院にいた23人の子供達。弟妹達を置いての養子縁組を断ったつもりだった。


でも断ったはずなのにここに来た。

現し世で友達だった男の子も孤児院無子供達も建物もプレゼントも一緒に移住したのだ。


たぶんそれは《異世界転移》と物語では呼ばれるのかもしれない。

でも特別な対価らしいものも契約もしていない。

何かを捧げたわけでもない。

「ただ生まれたところを間違えただけよ」とリリスお母様が笑いながら言うからそうかもしれないと最近は思う。


《勇者候補》が条件の異世界転移だと思っていた。

でもこの幽玄異郷は平和だった。


《勇者候補》は子供達に《立派な大人になれるよ》みたいな褒め言葉なんだそうだ。

「や。元気に子供してる?」「青春してる?」「勉強頑張ってる?」「ご飯ちゃんと食べてる?」みたいな子供限定の挨拶みたいなものだと。


勇者不憫コンテンツが乱立している現代日本人の子供には分かりづらい挨拶だ。


だからりんは御嶽さんから「勇者候補にならないかい?」と問われた時。

孤児院の子供達を人質に取られた契約だと思った。

覚悟した。


王子様様になりたいなんて甘っちょろいことじゃない。

勇者でも魔王でも悪魔でも神にでもなってやろうって思った。

子供達のためならなんでもする気でいた。


でも。


「普通に幸せになるために連れてきたって言われてもなあ………」


りんは今。

絶賛《|存在意義を見失っている《燃え尽き症候群》》である。


「こんな摩訶不思議な所で《普通の幸せ》ってなんだろ」


りんは今。

絶賛弟妹を構い倒し中である。

朝早くりんとリリスお母様が住む別棟にある屋敷《ユートピア》で弟妹達との触れ合いの時を過ごしていた。


「それで早朝にここ来たの?暇なの?りんねぇ」

「毎日来てるじゃん。たまには自分の時間大切にしなよ」

「恋人いないの?」

「りんねぇぼっち?」


りんにこねくり回されながらも賢い弟妹達の言葉は朝からキレキレである。元気でよろしい。


「君達が癒しなんだよ〜。この時間は譲れないよ〜」


りんは背後からそろりと近づいてきた子を捕まえて頬スリスリの刑を執行していた。

捕まるのが早くて拍子抜けした。だって三人も捕獲できてしまったのだ。しかも大きめの男の子達だ。

なかなかの収穫である。

今日は何故か男の子達が大人しい気がするのは気のせいだろうか。

頬が耳が赤いのだ。


「あれ。どした」


「りんねぇが………」

「ふわふわ………」

「待って。禁断の何かが目覚めそうで怖い」


いつもなら男子年長者トリオがお茶らけてりんとプロレスをする流れだったはずだ。

空気が固まった。

トリオはすすすとりんから距離を取り出したのだ。


「え。どした」


りんは小さい子達に埋もれながら手を伸ばす。

トリオはどんどん離れていってしまいもう部屋の隅っこだ。

そこにりんの肩を叩いたのはおねぇさん枠の女子三人だ。


「りんねぇ。家族にも適切な距離感があるの。

特に10歳以降の男の子は多感だから抱きしめたりキスしたりするのは控えましょう」


「え」


「控えましょう」


「ええ〜〜〜〜!?」


りんの悲鳴が屋敷に轟いたのだった。

すごすごりんは屋敷を後にするしかなかった。

タイムオーバーだったからだ。

お腹が減っては何もできない。



 「りんちゃん〜〜おはよ♥」


「お母様!!おはようございます!」


体をくねくねんと震わせながらりんを抱き込んで顔中にキスの嵐を降らせる美女。リリスお母様。りんの幽玄異郷での養子縁組先のお母様だ。


彼女は驚くべきことに100年前の《元勇者御一行》の生き残り。

魔王討伐を果たした《賢者》にして《偉人》。生きる伝説なのだ。因みに《ダークエルフ》(エルフと間違えると何処かの集落と内戦が始まるみたいで注意が必要なのだとか)である。

 漆黒の艷やかな肌色。絹のような銀髪。濃紺の瞳は銀色のまつ毛に品よく隠されている。

静かに佇んでいると神秘的でミステリアスな極上の美女だ。

化粧を落としてズボンを履くと中世的な美男子にもなれる正しく《美の化身》。


 そんなすごい人がりんにデレデレである。

イメージのためにこの姿は世間にはあまり晒せないなあと思ってしまうけど。

リリスお母様はそんな世間の評判などどこ吹く風のゴリ強メンタルなのだ。

「下世話な話も目線もカリスマでデコピンすれば粉砕出来るのよ〜」

と精神論なのか筋肉論なのか、はたまた権力者の余裕なのか。

よくわからないけど有象無象は気にしない質らしい。

勿論フィジカルも勇者、魔王、聖女がいない幽玄異郷では最強。

自慢のお母様である。


「りん様おはようございます」

「おはよ〜白哉さん!!」


 爽やかな声がして振り返るとたくさんの召使いを引き連れて彼女はお辞儀している。蒼い執事服の上からフリフリのエプロンをして《家事本気モード》の白哉が流れるようにりんを食卓と呼ぶには大きいダイニングルームに誘う。


白哉はリリスお母様の執事。

オレンジの虎獣人の美女である。 

魅惑的なふわふわな尻尾と耳をピクピクさせながらもいつま表情筋が死んでいるすごでき執事さんだ。


やんちゃな子供達を死なない程度に世話するズボラな家事スキルのりんよりも遥かに上級の家事スキルを持っている。


彼女は召使いの姿をした式神(人形)(現し世のロボットみたいなもの。意思や自我がない)を操りながらも一人で20人分くらいの家事家政を一手に引き受け、リリスお母様の補佐も護衛も熟す。


そこにひょっこり家族になったりんと子供達の世話までしてくれている。

いつねむっているのか心配になるくらい多忙のはずなのにいつも生き生きしている。

お母様曰く、

「獣人は生涯《主》と決めるとその人に尽くさないと生きていけない種族なの。

だからあまり遠慮しすぎないであげて?彼女らにとっては侍ることは《愛情表現》なのよ」と。


 その《愛情表現》がテーブルに現れた。

卵料理はいつも日替わりで三種類。

オムレツか目玉焼きか、スクランブルエッグかだし巻き卵か。オムレツとだし巻き卵にも何種類も種類がある。

本日の卵料理は《チーズオムレツ、目玉焼き、だし巻き卵》。それらが一つ一つ大きい皿にてんこ盛り。

普通の鶏の卵ではない。魔鳥の卵だろう。

現し世では食べたことのない美味しい味がするし目玉焼きが普通の十倍大きいから。


サラダも三種類。

和風、中華、洋風が日替わりドレッシングト共に森のようにもりもりと食卓を彩る。

その野菜達も丁寧に《飾り切り》されていて花や猫やうさぎや蝶々など多種多様の芸術的サラダだ。

でもうさぎに角があるのが幽玄異郷らしい。


果物も彫刻のようにガラスの器に盛り付けられている。

朝からパフェが作れそうなほど。


ご飯、パン、シリアル。

それらも大体三種類ほど日替わりだ。

本日は霊山松茸ご飯、クロワッサン、玄米シリアルだ。


りんはそれを大体五杯ずつ食べる。


「りんちゃんは相変わらず幸せいっぱいに食べるわね〜♥」

「作り甲斐があります」


《食い汚い》


孤児院の施設長に言われた言葉はこのおうちでは存在しない。

人よりは確かに食いしん坊だ。

本は大好きだけど《食》に特化した分野が多い気もする。

友達は《野生の美食家》なんて素敵な二つ名をくれた。

驚かれることもあるけどりんの《個性》だと心配はされても貶されることはない。


「ん!美味しい!

ありがとう!白哉さん!幸せ!お母様!」


「ん〜♥私も幸せ♥」

「私もでございます。りん様」


普通を目指すなど贅沢だ。

今りんは普通以上の幸せなおうちと家族があるのだから。



でも。


ーーーらんちゃんの宝物を取り戻せるのは。

やっぱり勇者よりは王子様なんじゃないかな。



らんはりんにとってお姫様なのだ。

夢の世界のお姫様。


りんより遥かに美しく強いはずなのに。

いつも彼女から薫るのは悲しみの涙の匂い。


りんはらんの笑顔が見たいのだ。

お姫様の笑顔が。



りんは城のような家を手に入れた。

強さも愛もある家族も手に入れた。

子供達を守れる環境も手に入れた。


王子様の条件は殆んど達成したはずだ。


でも。


身近な大事な女の子の笑顔を守れないならまだりんは王子様にはなれていないのだろう。


りんはやはり勇者よりも王子様になりたいのだ。

りんにとって大事な女の子を救える王子様に。


なら。


「もっと強くなるためにはごはん!」


「どんどんお食べなさいなぁ〜♥」


「はい!」



りんは今日ももりもりごはんを平らげるのだった。

勇者候補にならなくても良い自由な学園生活が始まるのだ。




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