わたくしを第一に考えない婚約者なんていりません。婚約破棄を致しました。
「この女は何よ」
ジュテリリアは、怒りまくった。
ジュテリリア・ハウゼン公爵令嬢、縦ロールが似合う17歳だ。
アフェル・ルド公爵令息と婚約を結んでいた。
アフェルは美男だ。金髪碧眼で鍛え抜かれた身体。
短く癖のある髪に、人懐こいその笑顔。
婚約を結んだ当初はよかった。
彼はジュテリリアに尽くして、プレゼントも頻繁に贈ってくれ、交流も上手くいった。
三年前に結ばれた婚約。互いにまだ14歳だった。
アフェルはジュテリリアに、
「一緒に、花を見に行こう。王都に素敵な庭園があるんだ。連れていってあげるよ」
「嬉しいわ」
馬車に乗り、手を繋いで庭園に花を見に行った。
色とりどりの花が咲き乱れて、とても綺麗で。
アフェルもとても素敵で、胸がときめいた。
初めてのデート。初めての‥‥‥
その時、ジュテリリアはアフェルに恋に落ちたのだ。
アフェルと婚約を結んで本当によかったと思えたのに。
それから二年間は幸せだった。
アフェルはハウゼン公爵家に通い、ジュテリリアを大事にしてくれた。
彼の事が好き。彼と婚約を結べて幸せ。
日に日にアフェルへの愛が溢れだして。
しかし、貴族が通う王立学園に通うようになってアフェルは、一人の女性と仲良くするようになった。
ユリアという平民の女だ。
いつもユリアと一緒に仲良く廊下を歩いて、話をしている。
ジュテリリアはイラついた。
貴方はうちに婿に来るのよ。もっともっとわたくしの事を大事にしなさいよ。
何で、平民の女を侍らせているの?女も女よ。わたくしが怖くないの。
ジュテリリアはアフェルが教室にいる時に声をかけた。
「今日のお昼はわたくしと一緒に食べましょう」
「ごめん。ユリアと食べる約束をしているんだ。ユリアは市井の娘で、いつも貧しい食事を食べているから、私がおごってあげる約束をしたんだ」
「ユリアですって?貴方はわたくしの婚約者。そんな女、放っておきなさいよ」
「ユリアが可哀そうだろう」
一緒に帰ろうと誘えば、
「ユリアが送って欲しいって。ユリアの家は遠いんだ。いつも歩いて通っているって。可哀そうだろう。だから私が送ってあげることにした。君は馬車が迎えに来るじゃないか」
万事、その調子でユリアという女を優先する。
ユリアという女を見かけた。
アフェルと楽しそうに話しているその女。
ジュテリリアは金髪碧眼で、自分が美人の自覚はある。
ユリアは茶の髪に緑の瞳で、それ程、綺麗という感じではなかった。
素朴な感じのぱっとしない女。
その女にアフェルは優しくしているのだ。
あまりにも自分をないがしろにするので、ジュテリリアはキレた。
ジュテリリアは思った。
学園に入るまでそんな事はなかった。ちゃんとわたくしを大事にしてくれたわ。
でも、なんて愚かな男になってしまったの。
現在、何を一番大事にしないといけないか、この男は解っていない。
これから一生、この調子なの?わたくしを一番、優先しなければならないのに。それすら解らないの?
勉学は出来ると思っていたけれども、こんな酷い男で大丈夫なの?
愚かな男で苦労するのは嫌。
ジュテリリアはユリアと食事をすると今日も言っているアフェルに向かって微笑んで、
「貴方、わたくしに婚約破棄をされたいのかしら?」
「いや、私は婚約破棄をされるような事をしていないはずだから、されたくはないよ」
「でも、ユリアという女を優先して、わたくしを優先していないじゃない」
「だってかわいそうじゃないか。だから私がお昼をおごってあげると約束を。君は豪勢な昼食を食べているだろう」
「そうなの。解ったわ」
すっと気持ちが冷めていく。
何でこんな男を好きになったのだろう。
政略の面もあってこの男と婚約をした。
優秀だと聞いていたのに。
確かに、勉学は優秀だ。でも、自分を一番に考えない男は駄目だ。
何を優先し、何を優先しないか。その判断が出来ないのは致命的である。
可哀想だから?約束をしたから?
そうなの、解ったわ。
ジュテリリアは両親に訴えた。
今までいかに自分がないがしろにされてきたかも共に。
両親はジュテリリアの訴えに、
「我が公爵家を馬鹿にしている」
「そうね。そんな愚かな男だったなんて」
と、怒りまくって、ジュテリリアとハウゼン公爵夫妻は、ルド公爵家に婚約破棄を宣言しにいくことにした。
ルド公爵夫妻は話を聞いて謝って来た。
「市井の女に現を抜かしているとは、申し訳ない」
「婚約破棄を受け入れますわ。本当にジュテリリア。申し訳なかったわね」
そこへ、アフェルがやってきて、ジュテリリアに、
「私は婚約破棄をするような事をしていない」
「いいえ。わたくしを優先しないで、ユリアという女を優先していたでしょう。婚約者としてあり得ませんわ。婚約破棄を致します」
「私の何が悪かったんだ?ユリアが可哀そうだから、食事をおごってあげて、家まで送ってあげていたんだ。君は豪華な食事を食べているし、馬車が迎えにくるだろう?」
「なら、貴方は、結婚しても、ユリアが可哀そうだから、お金をあげたり、親身になってあげたりするのかしら?貴方はハウゼン公爵家に婿に来るのよね。ユリアという女の為に使うお金なんてないわ」
「でも、ユリアが泣いて訴えるんだ。お金がないからお昼もろくに食べられない。毎日、片道1時間かかって王立学園に通っているんだって。見ていられなかった」
「他にも困っている生徒はいたはず。何故、貴方はユリアだけに親身になってあげていたのかしら?」
アフェルが言葉に詰まるのを見て、頭に来た。
恋をしているんだわ。ユリアに。それを認めないのかしら。
アフェルは、
「でも、ユリアが可哀そうだったから」
「だったら、ユリアと結婚したらいいわ。わたくしは貴方と婚約破棄を致します。わたくしを第一に考えない婚約者なんていりません。どうぞ。ユリアとお幸せに」
そう言って、ジュテリリアは背を向けた。
わたくしだって貴方に恋をしていたのよ。
でも、もう、心が砕けたわ。
わたくしを優先しない貴方なんていらない。
地獄に落ちるがいいわ。
翌日、王立学園で、一人の女子生徒が教室に訪ねてきた。
ジュテリリアの顔を見ると、床に土下座した。
「申し訳ございませんでした。アフェル様が婚約破棄をされた原因は私ですよね。私はアフェル様につい頼ってしまって。親切にして下さったものですから。それが原因でお二人の仲が壊れたなんて。ごめんなさい。申し訳ございませんっ。私が悪かったのです。ですから、どうかお許しを。命ばかりはお助けを」
そう言って床に頭を擦り付けた。
ジュテリリアはユリアに向かって、
「いいのよ。アフェルがいけないのだから。顔をお上げなさい」
涙でぐちゃぐちゃの顔のユリアに向かって、
「反省しているのなら、貴方に対しては慰謝料は請求致しません。二度と、貴族の男性に頼るような事はしないで欲しいわ」
「解っております。本当に申し訳ございませんっ」
泣きながらユリアはその場を去って行った。
でも、後から調べさせたら、ユリアは友達に、
「私の演技って抜群でしょう。これで慰謝料は請求されないわ。されても払えないけどね。うち貧乏だしさ。アフェル様も馬鹿よねーー。ちょっと頼ったら、色々と私の為にやってくれちゃって。婚約破棄された男なんて次の婚約者も決まらないでしょうね。笑えるわよね」
と言っていたらしい。
強かな女ユリア。
許せないと思った。
でも、ユリアの家族は花屋をやっていてとても貧乏である。
だから、慰謝料はユリア自身にしっかりと払って貰おう。
強かに貴族の婚約破棄の原因を作ったのだから。
学園長に言って彼女を退学させた。
貴族の家同士の婚約破棄の原因を作ったのだ。退学させろと圧力をかけた。
退学をしたユリアに慰謝料を請求した。
払えないユリアの身を鉱山へ売った。
彼女は借金の為に働いて、戻ることは出来ないだろう。
学園で再び、アフェルと顔を合わせた。
アフェルはジュテリリアに向かって、
「悪かった。婚約を再びしてくれないか?私は肩身が狭い。新しい婚約が決まらないんだ。君だってそうだろう?今から探すのは大変だろう?」
「ご心配なく。第二王子殿下エレント様がうちに婿入りしたいと言ってきましたわ。わたくしは受け入れようと思っております」
「エレント殿下っ???王家が?」
「ええ。婚約者が不貞を働いたとかで、あの方も婿入り先を探していたのですわ。だからうちはどうかと打診をしたのです。この間、お会いしましたけれども、とても紳士的で素敵な方ですわ。何よりも、わたくしを優先して下さいます。何を優先すべきかよく解っておいででしたわ」
そう、この男と違って、何を優先すべきか?わたくしを一番に優先する事をしっかりと解っていらっしゃるエレント第二王子殿下。
貴方とは大違いだわ。
あのどうしようもない市井の女が可哀そうだと、色々と優先してあげた貴方と大違い。
「ですから、二度と、わたくしに関わらないで下さいませね?そうそう、慰謝料を請求致しますので忘れずに。わたくしをないがしろにした罪はとても重いという事をしっかりと認識して下さいませ」
「私は不貞を働いていた訳では」
「一緒にお昼を食べていたのでしょう?一緒に馬車で帰ったのでしょう?そこでキスをしなかった。手を握らなかった。何もなかったとわたくしが信じると思っておりますの?」
「それは‥‥‥馬車の中は二人きりだったし」
「お昼は個室でしたものね。わざわざ個室で二人で食べるだなんて」
アフェルは黙り込んだ。
今更ながらに腹が立つ。キスの一つでもしていたのかしら。
そこへエレント第二王子がやってきた。
「アフェル・ルド公爵令息。私の婚約者に何の用だ?」
「いやそのあの‥‥‥」
「一緒に、お昼を食べようか。ジュテリリア」
「ええ、一緒に食べましょう」
この方なら安心して全てを任せられる。
アフェルとは大違い。
愛しいエレント第二王子とその場を後にするジュテリリアであった。
アフェルに慰謝料を請求した。
アフェルは払いきれないと解って、とある騎士団へ誘われて就職したらしい。
でも、お金は送られてこない。
どこへ稼ぎにいったのかしら???
代わりにアフェルの両親がお金を払ってくれた。
もう、アフェルの事は忘れよう。
わたくしを優先しなかったあの男の事を。
愛しいエレント第二王子と共に空を見上げるジュテリリアであった。
とある変…辺境騎士団
「そこのお兄さん。よい働きぐちがあるよ。お兄さん程、綺麗なら稼げるよ」
「さぁさぁ。こちらへ。入団手続きを」
「馬車はこっちに止まっているよ」
「どうぞどうぞ。遠慮なく」
アフェルはその日以来、姿を消した。
人々は変…辺境騎士団?まさかねぇ。と。でも、屑の美男だしな。と噂したらしい。




