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君がいつかこのデスゲームを終わらせる主人公だと、僕たちだけが知っている  作者: 小柳和也


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二話 いじめられっ子を救ってみた

「救ってあげようか」

 相変わらず悲惨ないじめを受けていた斉藤さいとうさんに、神山はそんな言葉を投げかけた。

 頭からつま先まで、全身水浸しだ。

 慣れたもので、震えることもなくピチャピチャ音を発てながらそのまま歩いている。天気予報が正しければ、今日の気温は氷点下になるだろう。風邪をひいて肺炎を患ってしまうレベルだ。


 斉藤さんは神山を風景の一部とみなしているのか、そんな台詞にもなんの反応も示さない。

 動くことのない人形のような真っ黒な瞳をしている。

 他者になにも期待していない瞳だ。

 ただ確固たる意志が残っている瞳だ。

 自分になにも期待せず、ただ交戦的に睨むだけの瞳。


 斉藤さんは広義のいじめられっ子だ。

 クラスメイト全員の共通認識となっているし、担任含め他教員からも同様だ。


 彼女はいじめ行為に対して抵抗をしない。机に落書きされても、直接的に肩を殴られても、何もしない。

 代わりに、いじめっ子を非難するような、強い瞳で睨む。

 反撃しないあり様は、おまえらと同じレベルになるつもりはない、と語っていた。


 いじめっ子らも当初はそんな意図に気づかない猿頭だったが、何十回と繰り返しても抵抗せず、睨み続けるだけの斉藤さんの意思に、十数回を十数回繰り返す頃、さすがに気付いた。


 今ではそんなふうに無言の批難を浴びていることを察しながらも、いらいらしながら、猿みたいないじめを繰り返し、斉藤さんから睨まれ続けるという無限ループに陥っている。


 斉藤さんは意志強すぎて睨むことをやめられず、いじめっ子らにも猿山大将としての意地と維持のせいでいじめはやめられず、という最悪の構図だった。


 一応止めようとした教員らもいたが、

「やめてください、わたしはあの人らに、なにもされていないので」

 早朝のショートホームルームの場で、独り席を立ち、堂々といじめっ子らを指さして、斉藤さんはそんなふうに言い切った。新任教員がビビってなにもできなくなるには十分な立ち振る舞いだった。


 いじめっ子らもそれで臆してくれればよかったのだが、そんなふうにさらし者にされることに慣れていなかったいじめっ子らは、表面的に静かになった。

 結果、より陰湿にこっそりいじめ行為に走るという方向性へ変えてしまった。


 いじめっ子らがやりすぎて斉藤さんを殺してしまうか、斉藤さんが睨むだけでいじめっ子を殺せるようになる魔法を会得するまで、もしくは高校を卒業するまで、この連鎖は終わらない。


 ・


「救ってあげようか」

 そんな斉藤さんに、神山は二度目の声をかける。斉藤さんのぴちゃぴちゃは止まらない。

 他者になにも期待しない彼女の歩みは止まらない。


 斉藤さんは無反応だった。

 反応するという機能が壊れているのか、それともこんな甘そうな言葉はすべて自分を嵌めてくる罠に思えてしまうのか。

 どちらにせよ、悲しいことだ。

 神山は力を示すことにした。まずは魔法的ではない方の力だ。意志の力。

 物理的な力。


 具体的には、斉藤さんの手を掴む、ということだ。

 ギュっと握る。

 全身ずぶぬれとはいえ、冷えた華奢な手のひらだ。冷たい方が心が暖かい、なんて言葉を連想できない冷徹な手。肉感のない細い手。

 物理的に暖める。

 いじめられっ子の斉藤さんは当然抵抗しない。なすがままだ。

 例の瞳で睨んでくることはやめないが、されるがままだ。


 例えば、このまま制服を切り裂いて性的に襲ってみても、斉藤さんは睨むだけで、なんの抵抗もしないのだろう。

 もっとも斉藤さんの瞳で睨まれ続けて、続けることなんて並大抵の男子では不可能だ。神山は可能だろう、と思っている。そんなことはしないが。


 斉藤さんを無言で現場まで引っ張っていく。

 校舎の三階。化学準備室。

 事前に開けておいた特殊教室の窓辺から、そっと真下を覗く。


 校舎全体は防風林が防壁のように蔽っており、周辺からの眼を遮っている。

 悪いことや人に見られないことをするのに最適な風景だ。


 窓の下には、そんな壁に隠れるようにいじめっ子らがたむろって喫煙している昭和な風景があった。

 北海道の札幌近郊のイキリ崩れなど、こんなもんだ。時代が流れていることを認識できず、前時代の先輩が繰り返してきたことを令和の時代になっても繰り返す。


 悲しいことだが、関東周辺の暴走族が絶滅しないように、リスクを背負いながら校内で違法行為を満喫してしまうオモシロ高校生は、まぎれもなく実在する。動画撮影してSNS投稿して拡散するほうがダメージ高いかもしれないが、それでは目的と少しずれる。


 喫煙している同級生を見下ろしながら、無意味な時間が過ぎ去るのを待つ。

 いじめっ子らは煙草の吸殻を空き缶に落とし、空き缶も丁寧にビニール袋にしまうと、その場からいなくなる。


 斉藤さんを手をギュっと掴んだまま、現場へ降りる。

 こっそり喫煙するだけあって、空き缶の中に吸い殻を消化している。空き缶もきちんとゴミ箱に処理している。

 神山は鞄の中からレジ袋を取り出す。いじめっ子らの数日前に吸っていた吸い殻がはいっている。

 レジ袋から吸い殻を、無造作に地べたへ落とす。


「ボヤを起こそう。力を示そう」


 斉藤さんが光の失った、漆黒の瞳で見つめてくる。

 興味はあるようだ。あるようにみえないが。


 光を失った彼女にそれを与えることも自分の仕事なのだろう、と神山は理解した。

 残酷な未来へ向かって真っすぐ伸びているレールへ、彼女を引っ張り込むことになったとしても。


 一次的な避難措置だとしても。見せかけの逃れ道だとしても。

 この一瞬だけは、まぎれもなく救いを与えている。

 この一か月だけ、一日だけ、一週間だけの救いかもしれない。

 でもそれって多分意味があることなんだと、思うんだ。

 だから斉藤さんを、救う。


 空き缶に狙いを定める。

 右手に意識を集中。

 意識を集中させていると、必殺技の呼び名を叫ぶことへの必要性を感じさせてくれる。より自らがこれから何をするのか、無いものを有るものにするために、意識的に声をあげることの意味合いはあるようだ。少年漫画の主人公らは、意味なく叫んでいるわけではないのだ。


 神山はボソっと「ファイアーボール」とつぶやいた。

 同時に、右の掌に、バスケットボール程度の炎球が出現する。

「熱っ」

 そばの斉藤さんが熱に当てられ、後ずさる。神山は斉藤さんを左手で掴んだまま、離さない。

 意志強な彼女の瞳が少しだけ揺らいでいる。

「見てて」

 炎球は真っ直ぐゴミ箱へ飛んでいき、一瞬背丈よりも高く火柱が上がったあと、火の塊ができあがった。


 あっという間に小火状態だった。

 勢いの強すぎる焚火が出来上がっていた。周囲に草木や防風林が茂っているので、少し燃え移りの危機感を感じる風景だ。


 ただ、消防車のサイレン音がすでに、響いている。

 数分前に公衆電話から連絡済みだ。

 物証の煙草と、物色済みのいじめっ子らの私物はたまたまそのあたりに落ちている。すぐに鎮火されれば、証拠も残るだろう。


 様々なサイレンが連鎖的に響いている。

 警察消防、ついでに救急車までやってきた。

 とりあえず斉藤さんの目下に降り注いでいた障害は取りのぞけたはずだ。


 使用制限魔法の能力と、威力調査にもなった。

 お試し期間中の魔法という事で威力はだいぶ抑えられているが、すぐに消防が来なかった場合は、周囲の建物に延焼していたことは間違いない火力がある。威力調整が解除された際はどうなるか、想像するだけでも恐怖だ。


 斉藤さんはぼんやりした瞳で、神山を見上げている。すでに好戦的かつ暴力的な瞳ではなかった。

 文字通り神様でも見つめるようだった。

 今すぐ全裸になって踊ってみて、とお願いしても、彼女は迷うことなく服を脱ぐであろう。そういう子であることを理解していたからあえて彼女を選び、彼女を救い、彼女に力を与えたのだ。

 神山に罪悪感はなかった。

 自分の行動の結果に納得した。


 神山は掴んだままの手をより強く握る。少し寒くなっていたのだ。

「証明した。君の障害を一旦排除は完了だ。しかしこれで完全ではないだろう。性格の終わっている彼女らのことだから、今回の通報を、君がやったと疑うかもしれない。危険が完全に排除されたわけではない。だから君に力を授けよう。もちろん無償ではない。これは君と僕の対等な取引だ」


「なんで、救ってくれるんですか」


 口ではいくらでも言いつくろえる。

 対等感なんてまったくない。精神的な支配の完了だ。教祖と信者の関係性の構築をしているのだ。


 我ながら非道なことをしていると思う。

 それでも斉藤さんは救いの神を見つめるように見上げてくる。


「いじめっ子らと本質は一緒だよ。彼女らは、君をいじめるということでストレス解消という名の利益を得ている。僕も君を通じて利益を得たい。いじめっ子らのような猿紛いな行為ではなく、あくまで仕事仲間としての報酬として、だけどね」


 ずぶ濡れのまま。寒そうにしながら。

 彼女は。祈るように、すがるように、その場にしゃがみ込み。神山を見上げた。

「あなたがそう望むなら。望む通りにします。なので、そばで使ってください」


 こうして斉藤さんとの奴隷契約が完了した。

 譲渡魔法にて、制限回数残り二回となった炎球を渡す。

 順々な従者が生まれた瞬間だった。

 魔女専用フリマアプリ利用者ゲームにおいて、魔法が使えて手駒として動かせる存在があることは大いなる利点だ。他の利用者同士が結託していない限りにおいて、このアドバンテージは大きい。


 神山に斉藤さんを救う気はない。いじめっ子らとはやり方が違うが、利用しているという点においては同じことをしている。


 いじめっ子らは辱め、自らの虚栄心を満たすためだけに斉藤さんを下位におく。

 神山は自らの目的のために、斉藤さんの現状を打破するための手段を提供する。

 彼女を利用することに変わりはない。

 結果的にみれば同じだが、彼女がそうは感じることはない。

 これが重要だ。利用されていることを気づかせない。感謝の念すら与える。

 いやじつは気付いているかもしれない。


 それでもそうではないと願ってしまう精神状態へ置く。積極的な依存を促す。

 精神的に支配する。

 より掘り下げればどちらが残酷であることは明白だ。

 結果として目の前に提示される情報としては、いじめっ子らは辱め、神山は現状打破を与える。わかりやすい目の前の情報は大事だ。取り繕うことは重要だ。

 結果的に救う。これも重要だ。


 雪が降り積もった世界の中。

 パトカーや消防のサイレンが鳴り響く。どこか悲鳴にも似た音が鳴り響く。雪がそれらを吸収してしまうのか、どこかあっさり音色は消えてしまう。

 世界は静かだ。そして残酷なのだ。まだ残酷な世界を、神は。

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