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君がいつかこのデスゲームを終わらせる主人公だと、僕たちだけが知っている  作者: 小柳和也


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一話 偶然魔女専用フリマアプリが入ったスマホを拾ったよ

 平岸高校の正面出入り口から出てきた神山かみやまシュウジは、校庭に落ちていたスマホを拾った。


 校庭に、新雪が降り注ぎ初めて数分後のことだった。下校中の生徒の姿はもうない。

 固まりにくい、ふわっとした粉雪にまみれたスマホを、神山は歩きながらも立ち止まることなく、軽く腰をかがめて拾った。


 スマホに降り積もっていた粉雪を軽く払う。防水機能のおかげか、まだ落として間もないからなのか、スマホは問題なく機能している。


 神山は黒革の手袋を外してスマホをタップする。

 指が少しかじかむ。ずいぶん不用心なスマホだった。顔認証、指紋認証はもとより、パスワードすら設定されていない。最新のiPhoneだ。ホームボタンはなく、裏返してみると、通称タピオカカメラがついている。


 歩きスマホをしながら、すでに自分のスマホのように神山は扱っていた。

 ホーム画面を開くと、すぐさま違和感が飛び込んできた。


 初期設定画面のような殺風景な風景画が、スマホの画面に広がっていた。


 アプリは一個しかなかった。

 メッセージも、iTunesも、カメラアプリすらない。

 初期設定壁紙らしき風景画に、アプリがたった一つだけ残っていた。

 示唆的であり、誘導的であった。


 神山は、そのアプリを、タップした。

 アプリ名は、pay子ちゃん。

 フリマアプリのようだ。


 フリーマーケットという自由市をネット上で展開するアプリだ。文字通り法令違反するようなものではない限り、なんでも自由に出品可能だ。限定販売品や限定的な無料配布品、高額品薄商品などが買占めされて出品され、一層社会的認識が強まった感がある。


 アプリ内を巡回したところ、そういうたぐいの有名フリマアプリのインターフェースをほとんどそのままパクって持ってきたようなアプリだった。初見ではあるが、使い方に困ることはない。


 現在お試し版をテスト配信中、と表示が画面上部に出ている。

 出品されている商品は、数点しかなかった。アニメ漫画やアパレル、アクセなどの商品タグもない。


 商品名が表示されているだけだった。

 ファイアーボール(使用回数制限魔法)。サンダーボルト。アイス。

 概要欄を読んでみる。


ファイアーボール【炎球】

【地獄の業火で憎っくきあいつも一発で焼き尽くす! いまならお試し価格でお試し版なので回数増量中!】


サンダーボルト【電矢】

【嫌いなあいつのスマホも一発破壊が可能! なお人体には軽い電圧マッサージレベルの効果のみ!】


アイス【氷結】

【瞬間氷結っ! あったか肉まんも一秒後には解凍前の状態に様変わり! さあクレームだっ!!】


 などのテキストが並んでいる。

 出品者はすべて【豊平区の魔女】とある。


 豊平区。見慣れた名前だ。神山も豊平区在住だ。

 札幌市豊平区。人工二桁万人。豊平川という河を挟んで札幌市内中心部に隣接している区なので、都心部までのアクセスは吉であり家賃は気持ち安価。


 豊平区の魔女という名詞から想像する。

 エゴアピール。自己主張。自己主張の分かりやすさから、豊平区住まい、拠点がある、と推察できる。それ以上でも以下でもない。妄想でしかない。


 マイページをひらく。

 登録者情報に、ネーム表示、とあった。

 知らない名前が登録されていた。

 日本全国どこにでもあるありふれた苗字に、ありふれた名前が表示されていた。


 クラスメイトや知り合い、見知った教員などではない。ユーチューバ―や芸能人、アニメ漫画のキラキラネームでもない、苗字と名前。

 ネーム表示と書かれた一文に添えるように、魔法付与利用者名とあった。

 メールアドレスの登録欄もある。登録しないと「魔法」は使えないということだろう。


 神山は、魔法付与利用者名を、神山シュウジに変えた。

 利用メールアドレスも自分のスマホのメアドへ変更する。

 誘われているのだ。

 乗ってあげることも必要だ、という判断だった。


 ・


 平岸高校から駅まで、神山はずっとスマホアプリと睨めっこしていた。

 入念にスマホを洗っていく。


 電話帳や調べられる履歴なども掘ってみたが、無論白紙だ。G5接続。無料Wi-Fiにつないでアプリをダウンロードしてみたが、何の収穫もなし。

 唯一残っていたアプリには、しっかり魔法の付与利用者名が残っているのだ。

 個人情報が残っている。

 スマホの中に唯一残っていたアプリに、だ。

 示唆的であり、意図的だ。


 神山シュウジは、無鉄砲ながら行動力があると評価されていた。

 判断は任せるが、あまり危ないことをやるなよ、と親から釘を刺される十五年の人生を歩んでいた。

 十五年の人生において、神山が学んだことは、非合法なことをするときは、バレないようにやれ、だった。


 露呈しない犯罪はなにもしていないことと一緒だ。やってはいけないことを行う者の、礼儀でもある。

 犯してはいけない領域に踏み込んでいる。

 責任が生じる。その責任を背負う覚悟だけは忘れない。

 神山の考えだった。


 スマホアプリにはポイントが一万ポイント残っていた。ちょうど出品されている魔法を、どれか一つだけ購入できるポイントだった。

 今、そこに踏み込んでいる。


 これが、異世界ファンタジー要素マシマシの現実によって構築された、悪意の塊であれ、ただの予算と人員を割いた、手の込んだドッキリ企画であれ。


 どうであれ、実際にやってみるしかない。

 神山はコンビニでガラナを買い、飲み歩きながら南北線の平岸駅まで歩きつつ、スマホアプリの購入ボタンを押した。何度か本当に購入しますか、という確認タブがでたが、迷うことなく「はい」を押した。

 制服の胸ポケットに入れておいた神山のスマホにメッセージが届いた。

 登録変更しておいた神山のスマホのメッセージアプリに、だ。


【ご購入ありがとうございました、神山シュウジ様。ただいま「ファイアーボール(使用回数制限付き)略」の使用手続きを行っております、しばしお待ちください】


 連絡先や代表社名などの表記はない。

 ただ「pay子」そして「豊平区の魔女」の表記だけあった。

 神山はいつも乗る地下鉄東豊線中の島駅を通りすぎた。

 中の島通りから幌平大橋を渡り豊平川を超える。南風が強くなる。漆黒色のカシミアのマフラーで口元まで覆う。札幌市内へ向かう。いざとなったとき防犯カメラが大量に設置されているであろう地下空間よりも、徒歩のほうがリスクが少ないだろう、との判断だった。


 少し前までは、お祭りやイベント事が、毎年のように行われていた中島公園をぶらぶらする。子連れの奥様や、高齢者カップルが行き来する都心の真ん中にあるタイプの巨大な公園なので、悪いことをしていてもさほど目立たない。

 あてもなく歩きスマホをしながら散策していると、【炎球の付与が完了しました】とメッセージが届いた。

 メッセージの受信と同時に、右手に確かな力が届いたことを、神山は直感した。

 右手の掌に、あり得てはいけないほどの熱を感じる。

 熱湯をかけられたような、慌ててしまうような熱ではなく、肌の内側からたぎってくるような異常な高温。

 そしてそれはすぐに収束するように神山の内側へ消え去っていく。

 数秒も経たずにそんな異常は収束した。

 日本という、地球という、当たり前に生きてきた世界の常識では、あり得てはいけない力の付与を、神山は実感した。


 これは。

 力だ。


 これは紛れもなく、人に害をなせる、殺しうる力。

 手のひらに感じた熱が、それを訴えていた。直感が教えてくれる。この力は、火炎球は人を殺傷しうる力がある、と。

 スマホにメッセージが届いていた。【残り使用回数は二回です】となっていた。

 数万円でヒトを二回は殺害しえる暴力を手に入れてしまった。

 お手軽すぎる。ウーバーイーツなどの誰でも簡単にこなせるバイトを土日にこなすだけで手に入れられる力だ。証拠も残らない。魔女が販売する魔女の能力の付与。

 どこまでの汎用性を手に入れることが可能なのかわからない。それでもこれはチャンスだ。神山は決断する。この力を使い切る、と。


 神山に今すぐ殺してしまいたい相手は、いなかった。

 そういう意味では、人を殺し得る炎球は不要だ。


 ただし、知っている。

 今すぐ特定の誰かを、殺してしまいたいクラスメイトなら、何人か知っている。

 学校生活とは、学園とは、社会の縮図である以上、集団を小部屋に押し込んで長期間の生活している以上。人に恋し友愛を満たす事がある以上。

 殺してしまいたいほどの感情が渦めくことだって、当たり前のようにあるのだ。

 ないほうが不自然だ。ないほうが切ない。


 神山は改めて販売魔法の説明文を読み返していた。

 お試し期間中となっているが、大丈夫だろうか。

 動くのは早い方がいいだろう、と判断し、サポートセンターに、メッセージを送った。

 早急に知るべきことは二点。


 この炎球が殺傷能力を秘めているだけの威力を保持しているのか。

 他者に魔法効果を譲渡することは可能なのか。


 前者はおそらく大丈夫だろう、と確信している。試し打ちは必須だ。使える能力が、コンビニに売っている線香花火程度なのか、火炎放射のそれなのか、知る必要がある。

 重要なのはもう一方の方だ。受け渡しの可否。これが不可であれば、神山自身が、他人が殺したい人物を殺すことになる。

 それでも構わないが、本質的な意味が変わってしまうので、できれば、本人にやってもらうことが一番だ。


 メッセージは余計な挨拶などせず、質問のみを送った。

 スマホアプリ利用者以外の人間に魔法能力を付与することは可能ですか?

 返信はすぐだった。即レスだった。魔法かよ。


【こんにちは、豊平区の魔女です。ご質問に回答いたします。スマホアプリ利用者以外の人間に魔法能力を付与することは、「可能」です。具体的な方法としては「他者に魔法効果を譲渡する魔法」をご購入ください。専用ページをもうけますか?】


 夏休みに平岸街道沿いのマックでバイトしていたときの貯金が残っていた。

 人間関係の円滑な構築と、ささやかな社会勉強が目的だった。

 バイト代にはいっさい手をつけていない。

 毎月お財布には数万が、スマホに自動チャージされるお小遣いという制度が導入されているゆえだ。

 この金銭は、自由な金ではない。

 使用目的の説明や、毎月利用残高の確認が義務づけられている。実質こういうものの購入にはつかえない。残高も定期的かつ予告なしにチェックされている。

 マックで得た金銭は文字通り、神山が自由に使えるお金だった。現金で管理しているし、これに関してのチェックはしない、と言質されている。

 お金で困ったことはないが、自由に使えるお金は同世代の中でも抜きんでて極小であった。

 コンビニのATMからスマホを経由して課金した。

 現金がすぐにアプリへチャージされたのを確認してから、神山は他者へ魔法を譲渡する魔法を購入した。


 フライヤーテキストは【想い人へのプレゼントに最適っ!? これが想い人の想い人もぶっ殺せ!!】となっていた。魔法名はシンプルに【譲渡】となっていた。リアルタイムで作成し、名付けているのだろうか。


 それも含めて、このアプリを運営管理しているであろう豊平区の魔女には興味がわいた。このアプリの実体をすべて掌握し、すべからくすべてを奪ってしまいたくなる程度に、神山は興味をそそられていた。


 市場のページに、他者への魔法効果譲渡の魔法が追加されていた。

 神山シュウジ様専用ページとなっている。神山以外は購入不可の商品。

 他の利用者に、専用ページの存在を、購入者の名前を露呈する行為。

 リスクはある。

 そして、これで一歩、ほかの利用者よりも前に立ったのだ。

 名前を晒したことで一歩。専用ページでさらに一歩前に立った。

 代わりに差し出したのは、苗字名前という個人情報。

 リスクはどの利用者よりも背負ったかわり、神山は一歩以上、誰よりも状況を制していた。


一話裏 偶然魔女専用フリマアプリが入ったスマホを拾った5分後の僕


 偶然なんて出来事を、僕は当然信じていない。

 拾った当初は、他人のスマホを拾ってしまった興奮があった。校舎から、誰かに見られているかもしれないという高揚感に浸っていたが、冷静に頭を切り替えた。

 僕は信じていない。

 特殊能力を一時的にとはいえ付与してくれるような特殊なアプリが入ったスマホを偶然拾うことなんてこと、信じていない。


 他者の意図が介在している、と考えるべきだ。

 僕にこのスマホを拾わせようという意図だ。

 僕は拾うべくして、この魔女専用フリマアプリが入ったスマホを拾わされたのだ。

 それを深く自覚する。

 アプリの開発者である魔女であるのか、それともまた別の第三者による意志なのか、それはまだ分からない。


 偶然こういう類のものを拾うことは、あり得ない。

 確かに十数年生きていれば、偶然財布を落とすことは、ままある。僕の父親も配達中にたまたま免許証を落としたことがあるが、全力で探した結果、数時間後に配達ルートの玄関先でみつけたそうだ。大切なものを偶然損失することはままあるし、それが拾われることも、交番へ届けられることもありえないことではない。


 だから、偶然たまたま、魔女専用アプリが入ったスマホを拾う可能性だって、ありえないことではないのだろう。

 僕はそういう偶然が世界中で頻発していることを把握したうえで、僕が魔女専用フリマアプリの入ったスマホを拾った事実に、懐疑的だ。

 根拠はない。

 僕は強い疑問を頂きながら、これから行動する。

 無垢な少年のような顔をして生きているようにみえるかもしれない。

 でも僕が少なからず、世界に対して疑問を持っていることだけは、覚えておいてほしい。

 欺瞞と受け入れがたい真実ばかりが目に付く世界で生きている以上、それは最低限度身につけておかなければいけない作法なのだから。


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