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- 7 - 淡路交通バス 洲本IC~洲本

1日目


高速神戸>>山陽明石>>明石港>>岩屋港>>淡路IC>>洲本IC【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

淡路交通の路線バスは、いったん高速道路を降りて、洲本インターチェンジのバス停に滑り込んだ。


前の便から乗り換えてきた乗客の足音が、舗装路に小さく響く。エンジンの低いうなりは、朝の島の空気にゆるやかに溶け込んでいく。

四人は、ここで降りて、次のバスへと乗り換える。


次に乗り込む洲本バスセンター行きの路線バスが、静かにロータリーに停まっていた。発車は8時35分。思ったより接続はすんなりしていて、四人の足取りに焦りはなかった。


「さて、次はいよいよ洲本やね?」

ひまわりは窓際の座席に腰を落とし、嬉しそうに顔を向ける。


楓花は前方を見据え、淡々と告げる。

「ここは短い区間。十五分くらい」


桜は座席に鞄を置き、窓の外に目を向けて、どこか楽しそうに言う。

「ふふ、ちょうどいい。短いと、気づいたら景色が変わってて……そういうの、意外と好きなんだ」


楓花は少しだけ眉を上げる。

「のんびりしてるね。十五分なんて、あっという間だよ」


桜はくすっと笑い、からかうように続けた。

「そう言いながら、ちゃんと見るでしょ? 楽しむは、鉄道の車窓だけでないはずよ」


楓花は一瞬だけ視線を窓にやり、素っ気なく返す。

「悪くはないかもね」


カメリアは静かに頷き、鞄の持ち手を握り直す。

言葉は少なくとも、気持ちは同じように高まっているようだった。


「洲本に行くのは、はじめてなのよ」

桜がぽつりと言った。

明石海峡や北部の“淡路花さじき”、南部の鳴門海峡には行ったことがあるけれど、洲本はまだだった。


洲本は、古くから淡路島の行政と経済の中心だった場所だ。

古代には国府が置かれ、中世には守護や領主の拠点として港町も栄えた。戦国時代には細川氏や三好氏などが城や拠点を構え、江戸時代には徳島藩の支配下で洲本城を中心に物流や漁業が発展した。

そして今も、洲本市は島の中心地として機能している。


考えてみれば、一国の中心が古代から現代まで、ずっと同じ場所であり続ける例は、そう多くないのだ。


それでいて縁が薄いのは、淡路島に鉄道が走っていないからかもしれない――と桜は思った。

かつてはあったらしい。洲本市の洲本駅から南部の福良駅までを結んでいた、淡路交通の鉄道路線だ。1966年に廃線となったが、島内では長らく重要な交通手段だったという。




バスが発車する。


道路沿いには、ドライブスルーのファストフード店やレストラン、ガソリンスタンドなど、インター前らしい建物が点在している。

まだ朝早く、開いている店は限られ、通りは静かだった。


「おっ、コンビニや。少し都会っぽくなったなあ」

ひまわりが窓越しに声を弾ませる。

これまでは高速道路を走っていたから、こうした街道沿いの景色が新鮮に感じられた。


「まわりは丘陵が広がるけど、このあたりは平地も多くて、海も近い。縄文時代から栄えてきた土地だね」

カメリアは淡々とした口調で説明を加える。その声には知識の裏打ちが感じられ、旅の道すがらの空気に静かに溶け込んだ。


「なるほどなあ……島の中心地に来たって感じや」

ひまわりは納得したように頷いた。


桜は少し身を乗り出し、窓の外を眺めながら口を開いた。

「古事記に“国生み”の物語があるの」

話しを続ける。

「まだ天と地が固まっていなかった神話の時代、伊邪那岐(いざなぎ)伊邪那美(いざなみ)という二柱の神が、矛で海をかき回した。その矛の先から滴り落ちたものが、最初の島――オノコロ島になったって話」


ひまわりは首をかしげ、覚えにくそうに繰り返す。

「イザナ……ギ? イザナ……ミ? ちょっとややこしいな。でも、その一滴から日本が始まったんやな。ロマンやん!」


「そう。この神話の最初に生まれたのがオノコロ島」

桜は微笑んでうなずく。


「へえ……オノコロ島? 岩屋の絵島のときに言うてたやつやんな。それが“はじまりの島”なん?」

ひまわりは目を丸くして、素直に驚きを声に乗せた。


カメリアはゆるやかに丘陵へ視線を流し、感情を挟まずに言う。

「オノコロ島の場所は、はっきりしていない。淡路島全体だとする説もあるし、特定の小島だとする説もある。絵島も、その候補のひとつ」

少し間を置いて、静かに続ける。

「大事なのは、どこか、ではないんだよ」


桜はその言葉を受け取るようにうなずき、柔らかくまとめた。

「うん。場所が分からなくても、伝承の力は残っていくと思うね。古代の人たちは、この淡路島を“特別な島”として、ずっと語り継いできたから」


カメリアは、ややこしくなるのであえて口を閉じたが、彼女の頭の中には、オノコロ島の有力候補として浮かんでいる島があった。


淡路島南西にぽつんと浮かぶ沼島である。


淡路島本島ができたのは約八千万年前。だが、沼島は約1億年前にできたとされ、本島よりも古い島だ。さらに地層も異なり、三波川変成帯の結晶片岩で構成されている。それが中央構造線上にある地層であることは分かるが、細かいことは専門的すぎて、さすがの彼女も詳しく語れる自信はない。

この島には1億年前の地球のしわを示す「さや型褶曲」が残されており、地殻の動きを知る上で、世界的にも貴重な場所だという。


――いつか、実際にこの島を訪れてみたいものだ、と、ひそかに思った。




バスは住宅街を抜け、ゆるやかに曲がる道路を進む。屋根瓦の赤と塀の白が点々と連なり、背後には丘陵の緑が広がる。


ひまわりは目を輝かせ、窓を指さした。

「見て! あの畑、きれいに並んでるわ。緑のじゅうたんみたいや」


桜は柔らかく微笑み、頷く。

「土地が豊かね。古代の人々がここを“食の宝庫”と考えたのも納得できる」


ひまわりは首をかしげ、曖昧な記憶をたぐるように言った。

「あれやんな、前にカメちゃんが言うてた……みつけの国? ちゃうな、みけつの国やったっけ?」


カメリアは窓の外から視線を外さず、淡々と訂正する。

御食国(みけつくに)だよ。淡路島は、魚も、米も、野菜も揃っていた。だから大和へ、海を通って運ばれた」

少し間を置いて、付け足すように。

「ここは、古代には食糧庫でもあったんだよ」


楓花が、考えがまとまった事実だけを切り出す。

「だから、守る価値があった。失えば困る場所だった、というだけの話ね」


その短さに、三人は自然と楓花を見る。

だが彼女はそれ以上説明せず、再び視線を窓の外へ戻した。


ふと、カメリアが疑問を口にした。

「ところで、伊弉諾(いざなぎ)神宮って、たしか洲本とは反対方向だよね」


淡路国一宮である伊弉諾神宮を訪れるのは旅の目的に合っている。だが、洲本へ向かうのは少し筋が違うはずだった。


「それは桜に聞いて」

楓花はそう言いながら、淡々と続ける。

「せっかく淡路島に行くなら、洲本にも寄りたいって言うんだ」


それを聞いて、桜はからかうように苦笑した。

「楓花には感謝してる」




バスは進み、商店の看板や小学校の校舎が姿を見せる。路線は町の中心へ近づき、車窓の景色は少しずつ賑わいを増していく。


「ほら、海や!」

ひまわりが声を上げる。


窓の向こうに、陽光を浴びた海がわずかに見えた。波のきらめきは朝の光と溶け合い、町並みの間に切れ目を作っていた。


桜は微笑んで頷く。

「神話の物語と、こうして実際に見える風景が重なると、不思議と心に響くのよね」


バスは市街地に入り、通りの人々の足音や自転車の姿が増えていく。

8時50分、到着予定の洲本バスセンターはもう間近である。


四人はそれぞれに窓外を眺め、静かに息を整えた。

短い区間ながら、淡路島の歴史と生活の断片が流れ去り、旅の次の舞台を予感させていた。

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