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- 14 - JR高徳線 八栗口駅~板東駅

琴平>>善通寺>>多度津>>丸亀>>坂出>>高松>>高松築港>>一宮>>栗林公園>>栗林【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

桜、楓花、カメリア、ひまわり――女子高生四人は、栗林駅から乗ってきた列車に、再び乗り込んだ。


12時8分、徳島行きの列車は八栗口駅を出発する。

左手から琴電の志度線が寄り添うように近づき、次の讃岐牟礼駅まで、国道を挟んで並走する。

志度湾をちらりと望み、志度駅を過ぎたあたりから、線路は緩やかな上り勾配へと入っていった。


この一帯は、東讃と呼ばれる地域だ。

讃岐平野の東端には小高い丘陵が点在し、その多くは遠い昔の火山活動によって生まれた。周囲の平野は、後から川が運んだ土砂が積み重なって形づくられている。


讃岐牟礼駅や志度駅はいずれも琴電と乗り換えができる。なかでも志度駅は、さぬき市役所の最寄り駅だ。

JRと琴電の駅の間には商店街があり、その先で、江戸時代、西は伊予国へ、東は阿波国へと延びた讃岐街道と交わる。さらに南へ進むと瀬戸内海に面したさぬき市役所に行き当たる。


さぬき市という名前は新しい。

津田町、大川町、志度町、寒川町、長尾町――大川郡の町々が、平成の大合併によって一つになって生まれた市だ。


「この町に平賀源内の生家があるんだ」

桜がいう“この町”というのは、さぬき市ではなく、志度町である。


「エレキテルの?」

楓花が確認する。


「うん」

桜がうなずいた。


どこまで楓花がイメージしているかは分からないが、エレキテルとは、江戸時代の博物学者・平賀源内が復元した発電装置のことだ。

木製の箱の中でガラスを擦り、静電気を起こす――そんな仕組みだったらしい。

当時の人々にとっては、触れればびりりと痺れるその現象そのものが、不思議で、少し恐ろしいものだった。




そして、列車は、オレンジタウン駅に到着。


「オレンジタウン。なんか、すごいハイカラな名前やね」

ひまわりが言う。“ハイカラ”という言葉自体が少し古いので、どこか皮肉めいて聞こえるが、本人にそんなつもりはない。

周囲はのどかな田園風景だが、その名前から、南欧風の街並みが広がっているような光景を、ひまわりは勝手に思い描いていたのだろう。


周囲は静かな郊外の風景だ。

その名前から連想されるような街並みは、ホームから見える範囲にはなかった。


「……想像してたのとは、ちょっと違うね」

ひまわりが、曖昧な言い方でまとめる。


列車は、何事もなかったように次の駅へ向かって走り出した。




讃岐津田駅の先で、左手に松林が見えた。

津田の松原――白砂青松という言葉が、そのまま当てはまる景色だ。


JR高徳線は、香川県の瀬戸内海側を通っているが、実は、車窓から海が見えるところはそれほど多くない。


与田川という、川幅のわりに水量の少ない川を越えて、12時50分、列車は三本松駅に到着した。

ここで、八分ほどの停車時間がある。高松行きの特急「うずしお」と行き違うためだ。


「降りよう」

三本松駅で途中下車。

わずかな時間でも「降りてみたい」というのが、桜の考えである。


「まったく、しかたがないな」

ひまわりが、楓花とカメリアの思いを代弁する。そう言いながらも、列車を降りる足取りは軽い。こういう旅も、悪くないと思っているのだ。


三本松駅は、赤い瓦屋根を載せた木造駅舎だった。昭和の初めから残る、歴史ある建物である。

だが、駅前は実に閑散としていた。商店街らしきものも見当たらない。


「三本松というからには、大きな松が三本あるのか?」

楓花がカメリアに聞く。駅名は知っていたが、由来までは知らない。こういうときは、つい彼女の知識に期待してしまう。


「そうだね……」

めずらしく、カメリアは言葉に詰まった。

三本松は東かがわ市の港町で、中世には、この辺りでは引田と並び、宇多津に次ぐ規模を持っていた――そこまでは知っている。だが、名前の由来までは曖昧だった。


「近くに神社があったような。そこに、三本の松が……あったような、なかったような」

桜が、これまた歯切れの悪い補足をする。


のちに楓花が調べたところによると、この町にある恵比寿神社には、かつて漁師や商人から信仰を集めた三本の老松があったという。それが地名となり、やがて駅名になったらしい。


特急「うずしお」が三本松に到着するというアナウンスが流れる。

四人は、高松方面から来た列車へと戻った。


高松と徳島を結ぶ特急「うずしお」も、もちろん気動車だ。

この区間では、一日三十数本が往復しており、気動車特急としては、かなり本数が多い。


三本松の駅舎を横目に、列車は出発した。


やがて、工場の建物が目立つ区間に入る。

三本松から讃岐白鳥にかけては、東讃地方、つまり香川県東部では数少ない工業地帯で、手袋の生産地としても知られている。




そして、列車は引田駅に到着する。

ここでも、わずかな待ち時間があったので、駅舎を見るためにいったん途中下車する。

もっとも、駅舎自体は建て替え工事の真っ最中だった。


駅前の風景は、田舎の商店街がそのまま延びているような趣で、こちらもまた閑散としている。

引田は中世の港町で、自然石を積み上げた野面積の石垣が残る引田城を持つ。東讃地方の中心となった城だが、江戸時代初めの一国一城令によって廃城となった。


確認するまでもなく、そこまで歩いて行く時間など、まったくない。


列車は13時18分、引田駅を出発した。

田園地帯、丘陵地、そして海岸沿いを交互に走ってきたこの列車は、讃岐相生駅を過ぎると、高徳線最大の難所――大坂峠越えにかかる。


「ここから、25パーミルの急勾配と急カーブが続く区間だよ」

楓花が説明する。


「パーミル?」

ひまわりが、聞き慣れない単位を聞き返した。


「1000メートル進むごとに、25メートルの高低差があるってこと」


「そうなんや」

ひまわりは相槌を打ったが、おそらく完全には分かっていない。


登り勾配に差しかかると、左手に瀬戸内海が開け、松島、通念島といった無人島が見えてくる。

このあたりは、高徳線のなかでも、とりわけ景観のよい区間だ。


桜は、単焦点レンズをつけたカメラを構え、窓越しに一枚だけ、静かにシャッターを切った。




そして列車はトンネルへ入り、讃岐国から阿波国へと国境を越えた。

ここからは徳島県である。


勾配は下りに転じ、列車は阿波大宮駅に停車する。

ほどなくして、線路は吉野川沿いの徳島平野へと入っていった。


13時15分、板野駅に到着。

わずかな待ち時間があったので、四人はここでも駅舎を見るために列車を降りる。

三分ほどの停車時間しかないが、こうなると桜は、もはや意地になって途中下車をしているようだった。

運転手も、さすがに呆れて言葉を失ったように感じた。


駅舎は、特別に古いわけでも、新しいわけでもない。

ホームは木造で、わずかに味わいがある程度。


再び板野駅を出発すると、左手には住宅地、その背後に讃岐山脈の山並みが続き、右手は田畑が広がる。

そうした風景が、淡々と流れていく。


一駅過ぎて、13時46分。列車は板東駅に到着した。


「この駅で降りるね」

楓花が言う。


「長かったね」

桜が、正直な感想を口にした。

11時51分に栗林駅を出て、いくつかの途中下車を挟みながらの、二時間あまりの鉄道旅である。乗ってきた車両にも、いつの間にか愛着が湧いていた。


「うん。そうだね」

カメリアも応じる。ただし彼女自身は、長い車窓の風景や途中下車のひとつひとつに、飽きを感じることはなかった。


ひまわりは――ようやく落ち着ける、と思ったに違いない。

ただし、彼女はまだ、この先の行程を知らなかった。

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