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- 10 - 高松琴平電鉄・琴平線 高松築港駅~一宮駅

3日目


琴平>>善通寺>>多度津>>丸亀>>坂出>>高松>>高松築港【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

玉藻城こと高松城を訪れた四人は、10時15分発、一宮行きの列車に乗るため、高松琴平電気鉄道・高松築港駅の改札をくぐった。

高松港ターミナルとJR高松駅を結ぶ接続駅で、二面二線のホームを備えるが、駅舎は役割のわりに小さい。もっとも、琴電の実質的なターミナルは、ここから二つ先の瓦町駅に置かれている。


入口を入ると、正面には小さな改札口があり、そのすぐ先に頭端式のホームが見える。

その一番ホームには、1080形電車――上部が淡い白色、下部が黄色に塗装された車両――が出発の準備をしていた。黄色は、これから乗る琴平線のシンボルカラーである。

JRからの乗り換えの人なのか、買い物を済ませた人なのか、すでに乗っている人も多かった。


楓花は立ち止まると、ほとんど反射的にスマートフォンを構える。

それを横目で見た桜も、手際よく高級コンデジのファインダーを覗き込み、琴電の車両を写真に収めた。


「ここからやと、さすがに海は見えへんね」

ホーム全体を見渡しながら、ひまわりが率直に言う。


「うん。構造的に、視界は完全に遮られてる」

楓花は感情を交えず、淡々と答えた。


「でも、ね」

桜が一番ホームの奥を指さす。

「もうちょっと行くと、急に景色が変わる」

示された方へ歩を進めると、石垣の切れ目から、突然、水面が現れた。

高松城の内堀である。


ホームのすぐ脇まで迫る堀は、かつて瀬戸内海に面していた高松城の内堀だ。

水は潮の干満によって水位が変わる海水で、日本三大水城の一つに数えられる。

ちなみに、他の二つは今治城と中津城である。


「わぁ……ほんまに、すぐ横まで堀やん」

ひまわりが驚いたように声を上げる。


「見て。石垣に貝が付いてるでしょ」

桜が少し楽しそうに言った。


「タイとかフグも泳いでる。流れが少ないから、水はちょっと濁ってるけどね」

城と海との関係を、そのまま今に伝えるような光景だった。


カメリアは言葉を発さず、堀を見下ろしている。

やがて、静かに口を開いた。

「不思議だね。現在と近世。ふたつの時間が、同じ場所に重なってる」


その淡い青の瞳の先、堀の上には木造の橋が架かっていた。

先ほど四人が渡った「鞘橋」である。石垣や松の木と相まって、日本の城らしい風情をそのまま残していた。

鏡のように静かな水面には、橋と石垣が映り込み、鉄道駅のホームから眺めているとは思えない光景を作り出している。


「この駅って、この堀の跡に作られた駅なんだよ」

桜が説明する。

「城と海と駅が、ここまで近いのは、やっぱり珍しいと思う」


「この堀を海に見立てるなら」

楓花が続ける。

「ホームと水面の距離は、大三東駅や海芝浦駅と比べても、かなり近い部類に入る」


10時15分、定刻どおり。

高松琴平電気鉄道琴平線・一宮行きの列車は、起点である高松築港駅を静かに出発した。


左手の車窓に見えるのは、高松城の石垣と内堀。

右手には、オフィスや店舗のビルが立ち並び、現代都市の景色が広がっている。


列車は高松城に沿うような形で、発車してすぐ大きく左へとカーブした。

敷かれている線路そのものが、高松築港駅と同じく、かつての堀のラインを利用したものだからだ。


やがて城の角に差しかかり、石垣と堀、そして櫓が姿を現す。

艮櫓――現存する三重三階の櫓であるが、もともとは東ノ丸にあったものを、この太鼓櫓跡に移設したものである。


「お、また櫓やん」

ひまわりが窓に顔を近づける。


「これで、現存12三重櫓を見るのは四つ目ね」

桜は、少し嬉しそうに言った。


一日目の明石城の坤櫓と巽櫓、この列車に乗る前に見た高松城の月見櫓、そして、この艮櫓。

合わせて四つ目の三重櫓ということになる。


「え、もしかしてやけど」

ひまわりが半ばあきれたように言う。

「現存天守だけやなくて、その三重櫓も全部回る気なん?」


「さあね」

桜は、肯定とも否定とも取れる笑みを浮かべた。


楓花は前方――運転手側の車窓へと視線を向ける。

線路が大きく右に折れ、瀬戸大橋通りとフェリー通りという二つの大きな通りを、踏切の上でこの複線の線路が交差する。その光景を、眼鏡越しに観察するような目で見ていた。


「さすがは鉄道マニアだね」

桜がからかうように言っても、楓花は無言のまま前方を見続けていた。


列車は片原町駅に停車し、何人かの乗客を乗せて再び走り出す。

左右に見えるのは片原町商店街のアーケードで、鉄道は東西に延びる商店街を横切るような形になっている。




そして、瓦町駅の駅ビル――コトデン瓦町ビルの建物の下をくぐるような形で、列車は瓦町駅のホームへと滑り込んだ。


「うわ、人多っ」

ひまわりが率直に声を上げる。


さすがは琴電で一番の乗客数を誇る駅である。

それもそのはずで、東へ向かう志度線と長尾線、そして西の琴平を結ぶ琴平線の三路線の乗り換え駅でもあるからだ。


「ここがターミナル駅なんやなぁ」

ひまわりが、改札の向こうに広がる人の流れを見渡して、しみじみと言った。


「そうだね。近世ではね、高松城が行政の中心だったけれど、この辺り――丸亀町あたりは、商業や交通の中心だったんだよ」

ひまわりの感想に応えるように、カメリアが説明を添える。


「それが高松中央商店街だね。日本一長い商店街」

桜がそう言うと、

「天神橋筋商店街では?」

楓花がすかさず反論する。

たしかに、大阪の天神橋筋商店街は全長およそ二・六キロで、日本一長い商店街として知られている。


「高松中央商店街は、それより百メートル長いはずだね」

ここでもカメリアが、さらりと雑学を披露した。


高松中央商店街というのは、兵庫町、片原町の西部と東部、ライオン通、丸亀町、南新町、常磐町、田町――八つの商店街の総称で、それらを合計すると全長は約二・七キロになるという。


「周辺の商店街を全部足したら、なんでもありやん」

ひまわりは、楓花の肩を軽く叩きながら、応援するように言った。

もっとも、そのとおりで、東京でも「日本一の商店街」を名乗るために、四つの商店街を足し合わせて全長三キロだと喧伝しているという。




琴平線は、高松築港から瓦町までの曲線的な線路とは違い、瓦町を過ぎてからは、ここまでほぼ一直線だ。

ローカル線らしい風景ではなく、どちらかといえば、ただ住宅地を通っているような景色が続いている。


せめて途中の栗林公園駅で栗林公園が見えれば、と期待したのだが、駅から見えたのは、山の稜線として遠くに感じられるだけで、車窓から直接その姿を見ることはできなかった。


そして、列車は仏生山駅に停車する。

これまでの駅とは違い、いくつもの線路が分岐し、その奥には車両車庫が見えていた。


「この駅からは、かつて塩江温泉鉄道が分岐していた」

楓花が説明する。


「塩江温泉?」

あまり聞きなじみのない温泉の名に、ひまわりは思わず聞き返した。


「なんでも、行基さんが源泉を発見して、弘法大師さんも、その湯で修業の汗を流したそうなんだよ」

桜は、あくまで伝承であることを含ませながら説明した。

宿の数も十軒ほどしかなく、地元の人か温泉好きでなければ名前も知らない、まさに知る人ぞ知る温泉なのかもしれない。

ただ、讃岐国はもともと温泉資源が乏しい土地柄だけに、この塩江温泉が随一の温泉街となっている。


琴平線は、仏生山駅を過ぎると、右へ――すなわち西へと進路を変える。

空港通り駅――文字通り空港通りの高架道路の真下にある駅――を過ぎ、列車は終点の一宮駅へと到着した。


10時36分。

定刻どおりの到着だった。

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