- 13 - JR予讃線 坂出駅~宇多津駅、ゴールドタワー
2日目
佐用>>上月>>津山>>新見>>備中高梁>>総社>>備中高松>>吉備津>>備前一宮>>岡山>>岡山駅前>>城下>>岡山>>倉敷>>岡山>>坂出【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】
岡山駅を出発したJR快速マリンライナーは、瀬戸大橋をわたり、定刻どおり20時51分、坂出駅に滑り込んだ。
女子高生四人—桜、楓花、カメリア、ひまわり—は、琴平行きへの乗り換えを控え、列車を降りた。
「乗り換えまで、少し時間あるね。改札、出てみようか」
桜が声をかける。
「21時発ちょうどだから」
楓花が釘を刺しつつ、頷く。
夜の坂出駅は静かで、人通りも少ない。
薄緑色の屋根をもつ高架駅は独特の意匠で、南口広場には高さ十二メートルほどの柱の上に、鳩を模したブロンズ像が載るモニュメントが立っていた。
「なに、あれ? うどん?」
ひまわりが首を傾げて見上げる。
「たしか“ユニティ”というもの。鳩の形で、世界平和と東西文化の融合を表現しているんだよ」
カメリアは静かに説明した。
讃岐うどんの誘惑は次回の楽しみにし、予定どおり21時ちょうどの列車に乗り込む。
夜の予讃線は静かに西へ走り、車窓に映るのは街灯と信号の点滅だけ。四人は言葉少なく、その短い区間の時間を噛みしめた。
列車は21時05分、宇多津駅に到着する。
扉が開くと、ひんやりとした夜風が流れ込む。ホームに立つと、意外に人が多く感じられた。
高架駅の下には駐車場の明かりが広がり、国道のネオンが遠くに滲む。静かな夜のはずが、都市のざわめきが混ざっていた。
「ゴールドタワーに行くね」
桜が告げる。
「入場は21時30分まで。徒歩でも十分間に合うけど、次の列車もあるし、ちょっと急ごう」
楓花の声に、三人は顔を見合わせる。
駅前の通りを抜け、イオンタウン宇多津店の看板を横目に、アスファルトの匂いを踏みしめる。港に近い地域ゆえ、車道の幅も広く、夜空に金色の塔がひときわ目立ってそびえていた。
「うわ……あれがゴールドタワー?」
ひまわりが息を切らせ、見上げる。
「まるで星を逆さに立てたみたいね」
桜が微笑む。
「外壁に6917枚の黄金のハーフミラーを使用。一見、高層ビルのようでも、展望階より下の中間層には何もないんだよ」
カメリアが淡々と告げる。
「張りぼての塔ね。まさに“バブル”の遺物」
楓花は皮肉を添えた。
1998年建設のこの塔は、展望台以外に見どころがなく、2001年に一度閉鎖された。
「大きな灯台みたいやな。かっこいいやん」
ひまわりの声は、金色の光に溶けるようだった。
夜のため、ハーフミラーは見えず、ライトアップの光が高くのびるだけだ。
桜は、タワーが好きだ。
それぞれの都市にあって、シンボルとなり、町の顔にもなる存在である。行けるのであれば、できるだけ足を運びたいと思っている。
代表的なものを挙げれば、東京タワーやスカイツリーがある。
地元の関西でいえば、京都タワー、通天閣、神戸ポートタワーが代表格だろう。
厳密にはタワーと呼ぶべきか迷うところだが、奈良の興福寺五重塔なども、桜にとっては同じ範疇に入っていた。
香川県でいえば、高さ百五十八メートルのゴールドタワーと、坂出市の瀬戸大橋タワーが思い浮かぶ。
もっとも、瀬戸大橋タワーは文字どおり瀬戸大橋の麓に立つ、高さ百三十二メートルの展望タワーだが、閉館時刻が17時と早い。そのため、今回の旅では、最初から候補から外れていた。
やがて四人はゴールドタワーの入口に着き、天空のアクアリウム“ソラキン”の受付を済ませる。
入館料は1500円。高めに思えたが、目の前の演出にそれは忘れられた。
1階エレベーターホールでは、3Dマッピングのアクアリウムショーが広がる。
宝石のような金魚が浮かぶ光景に、四人は息を漏らす。
「これ、めっちゃ綺麗やん!」
ひまわりが声を弾ませた。
エレベーターのドアが閉まり、数字が上昇する。
「地上120……3、4、5……」
電子音に合わせ、心臓も高鳴る。扉が開くと、展望階の空間に四人は息を呑んだ。
そこは光の水の世界。金魚が鏡張りの壁や天井に反射し、空を泳ぐように見える。赤と白の尾びれが青い光に溶け、光が生きているかのように煌めいた。
「これ……金魚なん? やっぱ、すごいね」
ひまわりが呟く。
「“人が作った生きた芸術”ね。光と水の中で、宝石みたいに輝く」
楓花の声は静かだが、感嘆が混じる。
「光が、生きているみたい」
カメリアの瞳は、微かな電子音に溶けていた。
「見て。瀬戸大橋」
桜が窓際へ歩き、夜景に息をのむ。
四人が寄り添い、海の向こうに光の帯が伸びる。
橋脚が整然と並び、影が海面に揺れる。工場地帯の灯が遠くに滲み、橋の上を走る車の光が星屑のように瞬く。
「……あの橋、渡ってきたんやなぁ」
ひまわりが小さくうなずく。
「列車で通ったけど、この角度からの夜景は見れないからね」
桜が理由を添えた。
「構造と詩情は、紙一重なんだよ」
カメリアが続ける。
「橋も塔も、人が空を見上げた証拠」
静寂が降り、遠くの風と水の響きだけが残る。
桜は金色の光に照らされ、小さくつぶやく。
「本州から四国へ渡る橋。でも、本当に越えているのは場所ではなくて――心の境界なのかもしれない」
誰も返事をせず、金魚の尾びれが光を切り、四人の頬を淡く染める。
エレベーターを降りると、夜風が肌を撫でた。背後でゴールドタワーは静かに輝く。
2020年開業の四国水族館も塔のすぐ近くにあるが、この時間は、もちろん閉館中だ。
「次は……温泉、行こな」
ひまわりの明るい声に、桜は笑う。
「そっか。旅はまだ続いているからね」
四人の影が夜の歩道に並び伸びた。
宇多津駅に戻り、21時57分発の琴平行を待つ。




