- 8- JR岡山駅・岡山電気軌道 岡山駅前~城下
2日目
佐用>>上月>>津山>>新見>>備中高梁>>総社>>備中高松>>吉備津>>備前一宮>>岡山【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】
17時05分。桜、楓花、カメリア、ひまわりの女子高生四人を乗せた列車は、JR桃太郎線――つまり吉備線を走り、岡山駅のホームに滑り込み、静かに停車した。
岡山駅は、山陽新幹線およびJRの在来線八方面――山陽本線(神戸方面・福山方面)、伯備線、瀬戸大橋線、宇野線、津山線、赤穂線、そして吉備線――に加え、路面電車の岡山電気軌道東山本線・清輝橋線が結節する、中四国最大のターミナル駅である。
ホームに降り立った瞬間、楓花は足を止め、あちこちに視線を巡らせ、耳を澄ました。目に見えるものだけではない。案内アナウンス、発車ベル、扉の開閉音、車輪が線路を踏む微細な振動――すべてが彼女を夢中にさせる。
「到着も定刻どおり。乗り換えは八分ほど、余裕ね」
楓花は小声でつぶやいた。その声には、理屈どおりに物事が進んだ満足感がにじんでいる。
JR岡山駅から路面電車の岡山電気軌道「岡山駅前」への乗り換え。
初めての旅行客なら、構内の広さや人の流れに戸惑い、八分という時間に少し焦るだろう。
だが楓花の頭の中には、すでに動線が組み上がっていた。地下道を使わず、駅前の空気を感じながら外を歩く――そんな余裕さえ計算に入っている。
岡山駅のホームには、いくつもの列車が停車している。
隣に立つ桜が、くすっと笑った。
「……また車両、見てるん?」
ひまわりはすぐに気づいて、楽しそうに言う。
「楓花、ほんまに顔ちゃうな。電車の前やと別人やん」
「観察しているだけだよ」
楓花はそっけなく答えたが、否定しきれない楽しさが表情に残っていた。
改札を抜け、駅ビルを出ると、岡山中心街の風景が一気に広がった。
夏の夕陽が西に傾き、駅前広場をやわらかな金色に染めている。駅に寄り添うように立つ桃太郎像は、犬、猿、キジを従え、夕光を浴びてくっきりと浮かび上がっていた。
その背後では、岡山高島屋をはじめとするビル群の窓が、きらきらと光を返している。
「わぁ……岡山って、ちゃんと桃太郎の町なんやん」
ひまわりが素直に声を上げる。
桜は少し笑って、からかうように言った。
「写真、撮りたいんじゃない?」
カメリアは駅前の様子を淡々と見渡している。
広場では路面電車の乗り入れ工事が進んでいた。計画どおりなら、2027年にはJRと電停の距離が大きく縮まる。
「工事が終われば、乗り換えはもっと分かりやすくなるよね」
小さく、独り言のように言った。
岡山電気軌道の電停は、JR岡山駅の東側、大通りを挟んだ向かいにある。
四人は信号を渡り、岡山駅前の電停へ向かう。
桜は歩きながら、電停の構造を眺めていた。
「乗るホームと降りるホーム、分かれとるんやね。ちょっと迷いそう」
楓花はすでに、電停へ滑り込む車両に目を向けている。
“MOMO(9200形)”と呼ばれる超低床式電車。近未来的な外観と、木を多用した温かみのある内装が特徴だ。
「あれは、水戸岡鋭治さんのデザインだ」
カメリアが続ける。
「そうだね。JR九州の車両を多く手がけた人。たしか、出身は、吉備津のあたりだったはず」
「……え?」
楓花は思わず目を見開いた。岡山出身と知ってはいたが、ついさきほど訪れた吉備津とつながるとは思っていなかった。
ひまわりは路面電車と行き交う人の流れを眺めながら言う。
「電車と人が、同じ場所に自然におる感じやな。なんか落ち着くわ」
「ひまわり、こういうの好きなんでしょ」
桜が笑う。
東山本線の路面電車の車両に乗り込む。
もちろん四人だけではなく、買い物帰りの人や仕事終わりの会社員など、さまざまな乗客が続いていた。
車両が動き出すと、街の景色が驚くほど近い距離で、すぐそばを流れていく。
「うわ……夕方の光、きれい」
ひまわりが窓に顔を近づける。
カメリアは必要最小限だけ説明した。
「路面電車は街の中を通るから、移動が分かりやすい。電気で走るから、環境負荷も小さいはず」
17時14分発、東山本線。
路面電車は、桃太郎大通りに沿ってゆっくりと走り出した。
広い歩道と街路樹、その向こうに商店やオフィスビルが続く。
「……乗ってみると、案外いいものね」
桜が静かに言い、ひまわりも頷いた。
楓花は車内設備を、カメリアは街路の配置を、それぞれ黙って観察している。
西川緑道公園筋を横切り、緑の帯のような細長い公園を抜けると、西川緑道公園の電停。
さらに進めば、ひときわ大きな交差点に柳川の電停が見えてくる。
「ここで線路、分かれるんやね」
桜が窓の外を見ながら言う。
「清輝橋線との分岐だね。私たちはこのまま東山本線」
楓花が自然に答えた。
電車は分岐を越え、岡山城の方角へと進む。
車と並走しながら、街の中心部を通っていることがわかる。
「なんか……街の中を縫うみたいに走るんやなぁ」
ひまわりが感心したように呟く。
直線の線路なのに、不思議とその表現がぴったりに思えた。
「路面電車は、街そのものと一体だからね」
カメリアは淡々と応じた。
町の様子が見えない地下鉄よりも、路面電車のほうが、彼女の感覚には合っているのかもしれない。
やがて速度が落ち、車内アナウンスが流れる。
「城下、城下」
楓花は立ち上がり、いま一度、扉の位置を確認する。
桜が小声で言った。
「次はいよいよ岡山城やね」
「……楽しみではあるよ」
短くそう返した楓花の胸には、計画どおりにたどり着いたという静かな達成感が広がっていた。
電車は停車し、四人は城下の電停に降り立つ。
夕陽に染まる街並みが、これから始まる岡山城の時間を、静かに予告していた。




