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- 3 - JR伯備線 備中高梁駅~総社駅~JR桃太郎線 備中高松駅

2日目


佐用>>上月>>津山>>新見>>備中高梁>>【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

備中高梁駅を発った列車は、四人の女子高校生を乗せ、14時26分、夏の陽を正面から受けながら南へと走り出した。

JR伯備線のレールは谷間を縫い、高梁川に寄り添うように延びている。窓外には緑濃い山並みと、川面がきらめく光景が交互に現れた。

川幅は次第に広がり、列車は時折トンネルに呑み込まれる。暗と明の繰り返しが、旅情をいっそう際立たせていた。


列車は南へ、瀬戸内海へと向かっているのだ。


「……ほら、右手。高梁川がずいぶん近いや」

桜が声を上げると、楓花が冷静に応じる。


「伯備線は複線化のときにルートが分かれて、上りと下りで景色が違うの。今わたしたちが乗ってるのは上り線。川の眺めを楽しむなら、本当は下り一択なのです」


琥珀色の瞳を細めた楓花は、淡々と事実を告げる。

「実は、上りはトンネルが多いから、すぐ景色が遮られるの」


「トンネルに意味があるなら、それも悪くないよね」

カメリアが青い瞳を窓へ向ける。その無表情に見える視線の奥には、景色の一つひとつを記憶に刻もうとする静かな意志が宿っていた。

どんな場所にも、トンネルが掘られた理由がある――彼女はそうした痕跡を辿るのが好きなのだ。


「うちは、やっぱり川のきらきら見てたいわ~。どっちか言うたら、下りに乗りたかったわ」

ひまわりが頬杖をつき、おっとりした大阪弁で笑った。

列車の揺れに合わせるように、その声が耳に届く。


旅の情緒に浸る前に、まず腹を満たすのが順序というものだ。

桜が取り出したのは、備中高梁駅近くで買った小さな包みだった。


「じゃあ、分けよっか。二人前を四人で分けるから、ちょっとずつね」


包みを開くと、カレーの香りがふわりと立つ。

黄金色の麺に赤いトマトが散らされ、酸味と香辛料の匂いが食欲をそそった。


「インディアントマト焼きそば。昔、給食で人気だったカレー焼きそばに地元のトマトを入れたのが始まりらしいの」

桜が誇らしげに説明する。


「なるほど。郷土料理と呼ぶには浅いけど、B級グルメとしては完成度が高い」

楓花は麺を口に運び、冷静に評する。

「……悪くない。カレー粉のスパイスで油っぽさが抑えられている」


「……トマトの酸味が、後から追いかけてくるね」

カメリアも短く感想を述べ、青い瞳にかすかな光を宿した。


「うち、こういう味、好きやねん~。夏っぽいし、旅の途中にぴったりやわ」

ひまわりは笑顔を浮かべながら頬張る。


わずかな食事時間に、四人の個性がくっきりと表れた。


やがて列車は、総社駅に近づく。

「そういえば、鬼ノ城(きのじょう)がこの辺りやね」

桜が東側の山を見ながらつぶやく。


「日本100名城だから行きたいって言ってたけど、バス路線がなくてあきらめるしかなかったの」

楓花が淡々と説明する。

徒歩だと最寄り駅から城の入り口まで片道で約1時間半はかかるという。


鬼ノ城は、大和朝廷が大陸からの侵略に備えて築かれた古代山城だ。

史書にはほとんど記録がなく、この山に「温羅(うら)」という鬼が居城を構えたという伝説だけが残り、その名を受けて“鬼ノ城”と呼ばれている。

“きのじょう”ではなく、“おにのしろ”と読めたら、ひまわりも興味を持っただろう。ただこのときは、彼女は「木の城」とでも思っていたに違いない。


14時49分、総社駅に停車と同時に四人は手際よくホームに降り立った。

ここはJR桃太郎線や井原鉄道が接続する、交通の要衝である。


「乗り換えまで五分。駅前くらいは見られる」

楓花が時計を確認する。機械式の文字盤が、彼女の几帳面さを象徴していた。


駅舎は緑色の屋根を持つ和風建築で、駅前にはアーチ状のオブジェ「SOJAキビナリエ」が設けられ、陽光を受けて輝いていた。


「キビナリエ。キビとイルミネーションの造語やね。総社市らしい名前やわ」

桜が軽やかに解説する。

キビ――すなわち吉備の国。岡山の一帯は、古代にはそう呼ばれていた。鉄と塩の産地として栄え、良港を抱える地の利にも恵まれ、北部九州と畿内を結ぶ中継地として多くの人や物が行き交った。その“豊かな気配”は、今もどこかに息づいているようだった。


「総社って地名の由来はね」

カメリアが口を開いた。

「備中国の総社が置かれた場所だからよ。国内の諸社をまとめて祀るために建てられたのが總社宮。その名を取って『総社』になったの」


まるで辞書を読み上げているかのようだ。

一宮とは異なり、総社とはその国の格式ある神々を一堂に祀り、まとめて参拝できるように設けられた神社のことである。国府の近くに置かれることが多く、地域の神々を総括する役割を担っていた。


「そうじゃ、そうじゃ」

ひまわりが笑いながら手を打つ。露骨なおやじギャグだった。


桜は小さく吹き出し、「……ひまわりらしいや」と笑った。

楓花は眉をひそめるが、否定せず黙って歩いた。


もともとこの駅は「西総社駅」と呼ばれ、總社宮に近いのは桃太郎線の「東総社駅」であった。

しかし、利用客の多い西総社駅が後に「総社駅」と改称されたのである。


14時54分、JR桃太郎線岡山行きに乗り込む時間となった。


「桃太郎線って名前、やっぱり観光目当てなの?」

桜が首をかしげる。


「正式には吉備線。愛称を付けただけ。桃太郎伝説の地というのは、観光資源として価値があるの」

楓花は事務的に答える。


「ふーん……名前って、そんなもんなんだ」

桜が苦笑まじりにつぶやいた。


始発駅の利点で車内は空いており、四人は並んで座席に腰を下ろした。

窓外には田園と一直線に伸びるレールが広がる。東総社駅から服部駅を過ぎるあたりまで、線路は田畑を貫くようにまっすぐだ。


「……ここは、直線なんだよね」

カメリアがつぶやく。

「川と山に沿って曲がる伯備線とは対照的なんだよ」


中国横断自動車道の岡山総社インターが近いためか、大型の物流倉庫が点々と現れる。

やがて足守駅に到着した。


駅舎は掘っ立て小屋のように簡素で、改札だけがある。

すぐそばを流れる足守川は、のちに訪れる備中高松城の水攻めで用いられた川でもあった。


「そういえば、この路線の駅の看板、全部ピンク色やん。桃の色やろな」

ひまわりが指さす。確かに駅名標は桃色で統一されていた。

桃太郎と鬼退治を意識した配色だろう。


「遊び心って大事ということやね」

桜が微笑む。

「桃太郎って、ただの昔話じゃなくて、吉備の誇りやと思うし」


「史実である保証は、まったくないけど」

楓花は肩をすくめた。


「……でも、物語は史実以上に人を動かすんだよ」

カメリアの言葉は短くとも、静かな重みを帯びていた。


列車は夏の午後の光を浴びながら進み、15時9分、定刻どおり備中高松駅に到着した。

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