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- 4 - 中山神社

2日目


佐用>>上月>>津山【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

津山城の天守台から降りるとき、タイムキーパー担当の楓花が短く告げた。

「時間、ちょっと押しています。急いで下りるよ」


桜、カメリア、ひまわりは、その真剣な表情を見て、あわただしく石段を駆け下りた。


「次、中山神社行くよ」

レンタサイクルを選んだ理由は、この神社へ行くバスの接続が合わなかったからである。


「美作国の一宮ね」

桜が軽やかに言葉をつなげる。


「神社まで、あと何分くらいなん?」

ひまわりが振り返る。


「自転車で二十分や」

楓花が即答した。


「電動アシストやし、余裕やなあ」

ひまわりはおっとり笑う。


「いや、この二十分をいかに削るかがポイントです」

楓花が淡々と切り捨てるように言うと、ひまわりは肩を落とし、

「ひえ……やっぱそうなるんか」

と小さくうめいた。


四人は再び「ごんちゃり」に跨った。駅前で借りた赤い電動アシスト自転車である。

鶴山通りの商店街を一直線に駆け抜ける。この辺りが津山城の城下町にあたる。

両側には商店やホテルが並び、午前の早い時間帯ゆえに人影は少ない。


やがて郊外によくあるチェーン店が現れ、中国自動車道の高架下をくぐる。

ここまで直線だった道は、やがて宮川沿いに折れ、木々の緑と水面の反射光が旅人を迎えた。


信号にほとんど遮られなかったこともあり、四人は十五分という早いペースで神社の鳥居前へ到着した。


中山神社。美作国の一宮にして、主祭神は鏡作神(かがみつくりのかみ)

参道は真っ直ぐ奥の拝殿へと続き、大きなムクの木が根を張って訪れる者を見下ろす。花崗岩で造られた大鳥居は高さ十一メートル。木鼻のない珍しい形式で、全国的にも稀少とされる。


「うわあ、柱めっちゃでっか! ほんまに石でできとるんや」

ひまわりが目を丸くして声を上げる。


桜は頷き、涼しい目元に微笑を浮かべた。

「ここ、美作の一宮やしね。地元の人の誇りなんだよ」


本殿は檜皮葺の入母屋造妻入、いわゆる「中山造」と呼ばれる形式である。地方色の濃い構造は、美作国内の神社建築に強い影響を残したとされる。

戦国時代、尼子晴久が美作を攻めた際に社殿は焼失したが、彼自身の手によって再建された。

ちなみに境内の神門は、もともと津山城二の丸の四脚薬医門であり、明治期の廃城令で城が破却された際にここへ移築されたものだという。


カメリアが淡々と付け加える。

「主祭神は鏡作神――鏡作部の人々の神様ね」


声音は平板ながらも、重みを帯びていた。鏡作部とは古代、銅や鉛を扱い鏡などの祭具を製作した技術者集団である。鏡は、古代の世界では単なる道具ではなく、権力と呪術の象徴でもあった。

ちなみに津山の隣にある鏡野町がそうであるように、また鏡だけでなく、香々美や加賀美といった“かがみ”という地名は全国に散見される。もとをたどれば、鏡作部が住んでいたことに由来しているのかもしれない。


四人は参道を進み、拝殿で手を合わせ、さらに奥へ。最奥には猿神社がひっそりと建ち、今昔物語に登場する「中山の猿」の霊を祀るとされる。現在は猿田彦神として信仰され、牛馬の安産を守る神としても親しまれていた。

境内には奉納された子猿のぬいぐるみがずらりと並び、どこか温かな光景を作り出していた。


「なんやこれ、めっちゃかわいいやん」

ひまわりが目を細める。


「たしか……牛馬の安産の守護、って書いてたね」

楓花が淡々と口にする。


「土地に根付いた信仰というわけ。農家にとっては切実なことだからね」

カメリアの声は冷静で簡潔である。


桜は子猿を一つ見やり、そっと手を合わせた。

「……旅先で、こうやって祈るのもいいと思うけど」


参拝を終えた三人は境内に腰を下ろし、山間から吹き抜ける風に身を任せてひと息ついた。

そのあいだ桜は御朱印を受け取る。「中山神社」と墨書きされた、飾り気のない素朴な印である。


しかしその余韻も長くは続かない。

「さて、駅戻るよ。急ぐよ」

楓花の声が、風の休息を終わらせた。


「軍隊みたいな言い方やなあ……」

ひまわりが不満をもらすが、楓花が作った分刻みのスケジュールの下で動かねば列車に間に合わないのは理解している。


再び自転車を走らせ、津山駅へ戻ろうと、来た道の商店街を駆け抜ける。


「……あ、河童の像や」

ひまわりが歩道のオブジェに目をとめた。先には高瀬舟に乗った河童の姿がある。


「行きにもあったけど、やっぱ気になる。ちょっと撮っておきたいかな」

桜は自転車を止め、カメラの単焦点レンズを向けた。これは商店街の通りの名前をとって「ごんご河童像」と呼ばれ、吉井川に伝わる河童伝説にちなむものだ。

カメリアはその由来を当然知っていたが、口を開かなかった。楓花がちらりと時計の針を気にするのを察しての、静かな配慮である。


吉井川にかかる今津屋橋を渡り、津山駅へ戻る。レンタサイクルを返却した時点で、列車の出発まで残り三分だった。


「急ぐよ!」

楓花が声を上げる。


「待って! あのB’zの看板も撮っておくね!」

桜は焦りながらも、駅名標より大きく掲げられたB’zのロゴへとカメラを向けた。

看板の中央には、稲葉浩志さんと松本孝弘さん、二人の写真が大きく並ぶ。津山はボーカル・稲葉浩志さんの出身地。駅舎の風景にはやや場違いに映っても、地元の誇りを象徴する光景である。


「もう……いいわ。コインロッカーの荷物、忘れず取り出して」

楓花が突き放すように言う。


JR姫新線・新見行き9時53分発の列車は、すでに発車を待っていた。

桜は小走りに駆け込み、すでに乗り込んでいた三人と合流した。

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