表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/70

- 3 - 津山城

2日目


佐用>>上月>>津山【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

朝、JR津山駅に列車が滑り込み、四人はゆっくりとホームへ降り立った。


駅舎は現代的な造りでありながら、赤い屋根がどこか和風の趣を添えており、城下町の情緒をかろうじて伝えていた。


四人は大きな荷物を素早くコインロッカーに預け、身軽になった。駅前には広いバスターミナルが広がり、姫新線・因美線・津山線の接続駅として地域の交通拠点を兼ねている。

隅には蒸気機関車C11形八十号機が静かに佇み、昭和の鉄道網を支えた遺産を今に伝えていた。


桜は肩から小さなショルダーバッグを整え、軽やかに北口広場へ出る。

黒髪のストレートロングが肩で揺れ、切れ長の瞳に柔らかく光が宿る。含みのある笑みは、三人を相手にするといっそう冴えわたった。

楓花は背すらりとした細身の体躯に、つり目の琥珀色を光らせ、鈍く銀灰色の細いスクエアの眼鏡越しに周囲を冷静に観察する。眼鏡はまるで観察のフィルターのようで、無駄口は少なく、事実や指摘を淡々と述べるのが得意だった。


「C11形蒸気機関車です。昭和七年に鉄道省が設計したタンク機関車で、通称“シーのチョンチョン”です。戦後も長く各地で走り、そのうちの一両がここ津山に保存されているのです」

楓花は抑揚少なく解説する。


「え、あだ名ついとるん? かわいいやんか!」

ひまわりは茶色のポニーテールを揺らしながら目を丸くした。


「楓花の知識さえあれば、ガイドいらんで助かるわ」

ひまわりが笑顔を向ける。


レンタサイクル「ごんちゃり」の前に立つ。赤い電動アシスト自転車が整然と並んでいた。


「登録は済ませていますか?」

楓花が念を押す。


「めっちゃ苦労したわ、アプリとか弱いねん」

ひまわりが苦笑し、スマホを振った。


「大丈夫、ちゃんと登録されているみたいやね。では、行くよ」

桜が笑顔で答える。


自転車は軽やかに発進した。吉井川に架かる今津屋橋を渡ると、川面に逆光の光がきらめき、赤茶けた鉄骨の向こうに、石垣と櫓を備えた津山城の輪郭が木々の緑にかすかに浮かぶ。


「津山城……」

カメリアが低く呟く。青い瞳が石垣をなぞる。


「津山城の入場は8時40分からです。少し早いですので、旧城下町を先に見ていきましょう」

楓花が無駄なく告げる。


「桜、早く城に行こや!」

ひまわりが声を弾ませる。


桜はくすくす笑い、カメラを片手に橋を渡る足を止めて柔らかく告げた。

「聞いとった? 津山城より先に旧城下町を回るんやね」


出雲街道沿いを進み、城を左手に眺めながら宮川を渡る。旧城下町「城東町並み保存地区」に入ると、建物の軒や虫籠窓、長大な造り酒屋の間口が次々と目に入る。


「屋根の煙突出しや鍛冶屋の袖壁など、細かい装飾が残っているやね」

桜は声を漏らした。


「昔の商人町ですか……曲がりくねった路地や小通りにも名前があり、役割が想像できます」

楓花は淡々と指摘する。


町並みを抜け、津山城の入口へ。

城の前には津山郷土博物館が立ち、重厚なレンガ色の外壁はかつて旧市庁舎であったことをとどめている。

鶴山に築かれた津山城は、日本三大平山城の一つで、もちろん日本100名城にも選ばれている。

川と丘陵を巧みに利用し、当時は77棟もの櫓が建ち並んでいたという。

今は石垣以外の建築群は失われているが、姫路城よりも多くの櫓が立ち並んでいたことを想像しながら、

桜は息をのむ。


「残っていれば戦火を免れ、もっと壮観だったね」

その黒髪が肩で揺れ、微かに切なさを帯びる。


津山城は、明治になってから天守・櫓・門・土塀のすべてが破却された。

現在は壮大な石垣と、平成に木造復元された備中櫓が残るのみで、鶴山公園として市民の憩いの場となっている。


「森蘭丸の弟、森忠政公の築城で、天守は小倉城を模したの」

桜は説明し、壮大な石垣を見上げる。

「幕府に目を付けられた理由も納得やね」


その天守は五重であったことを知った幕府に警戒され、詰め寄られた当時の藩主は、とっさに「四重である」と抗弁した。疑った幕府の使者が訪れるより先回りして、天守の四重目の屋根瓦を破棄し、「あれは庇であって、この天守は四重である」と言いきったという。

こうして藩主は難を逃れたと伝えられている。


桜は備中櫓を見上げ、声をひそめる。

「内部も公開されています。畳敷きで茶室や上段の間もある。古い城の居住性を伝える貴重な例なのです」


「居住性を持たせた復元は少ないんだよ」

カメリアは静かに頷いた。


桜はカメラ越しに光と影を切り取り、瞳を輝かせる。

「天守台の資料が揃えば木造復元も可能……想像するだけでワクワクするや」


桜は深呼吸し、城を背景に微笑む。

「城郭をじっくり見ると、ただの観光ではなく、歴史や人々の努力も感じられます。だから旅はやめられません」


ひまわりも笑顔で頷き、カメリアは静かに目を細めて壮大さを焼き付ける。

四人は曲輪を巡り、幾重にも折れ曲がった石段を登って天守台へ足を進める。

なんとなくだが、楓花が3人に早く進むように圧をかける。おそらく次のスケジュールが迫っているのだろう。


さすがに日本三大平山城というだけある。

櫓や壁はすでに失われ、残るのは石垣のみだが、その規模は、同じく日本三大平山城である姫路城にも引けを取らない。

大小さまざまな曲輪が山肌に連なり、石垣は谷を隔てる崖のようにそびえていた。

幾重にも重なる石段を上るごとに、視界が少しずつ開け、城下町の屋根や川の流れ、遠くの山並みまでも見渡せる。足元の石畳と崖の高さが、城の威容を体感させる。


ようやく天守台に立った桜は、小さく息をつき、歴史の流れと城を守ってきた人々の痕跡を肌で感じた。

目の前に広がる景色は、過去と現在をつなぐ時間の層のようで、自然と胸が高鳴る。


ふと、ひまわりが案内看板を指さす。

「ハートの石やって。探そや!」


天守台の石垣の一角にハート型の石があり、「恋が成就する愛の奇石」と記されていた。


「成就したいのですか?」

楓花が淡々と尋ねる。


「まずは相手探すところから」

ひまわりが即答した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ