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- 2 - JR姫新線 上月駅~津山駅

2日目


佐用>>上月【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

6時41分。佐用駅からわずか一駅、五分の乗車を終え、列車は四人を乗せて上月駅に到着した。


JR姫新線の兵庫県最西端に位置する駅である。木造づくりの小さな駅舎は、どこか昔懐かしい温もりを残していた。

だが改札を抜けると、そこには「ふれあいの里上月物産直売所」が併設されている。まだ朝早く店は閉まっていたが、地元の人々が買い物に訪れる姿が目に浮かぶようであった。


「無人駅って聞いとったけど……なんか、思ったより大きい駅舎やねん」

ひまわりが目を丸くする。


「駅はJRの管理なんやけど、直売所があるおかげで、人の気配が途切れんのやろうね」

桜がやわらかい声で応える。視線はすでに山の稜線へ向いていた。


その隣で、楓花は腕時計をちらと見やり、切符を指先で確かめた。

化粧気のない顔立ちは、眼鏡の奥で冷静な光を宿している。

「次の津山行きは6時50分。戻る時間も含めて、あと九分です」


事務的な口調に、ひまわりが吹き出す。

「なんや、楓花、部活のマネージャーみたいやん」


桜が小さく笑い、話題を引き取った。

「それとね、ここ“上月”って書いて“こうげつ”って読むんよ。さっきの“さよ”と似た難読駅名やね」


「へぇ~。ほんまや、“かみつき”って読んでもおかしない感じやのに」

ひまわりが感心したように首をかしげる。


「上月氏っていう一族がいてね。ここに上月城を築いたんよ」

桜の声には歴史好きらしい熱がわずかに宿った。

「戦国の終わり、織田と毛利がぶつかった“上月合戦”の場所やね。山中幸盛、鹿介もここで捕らえられてしもうたんよ」


「……しかのすけ?」

聞き慣れない、どこかゆるい響きに、ひまわりが首をかしげた。


カメリアが静かな声で補った。

「山中鹿助。尼子氏を再興しようとした武将だよ。昨日の赤松円心と似ていて……郷土では名が残るけれど、全国的には大きな武将ではない。それだけのことだね」


「なるほど。ローカル線の駅に、ローカル史の名将ってわけですか」

楓花が淡々と皮肉を置く。だが口元はわずかに緩んでいた。


駅から徒歩十五分ほどの山に上月城址が残っている。

しかし寄り道する余裕はない。桜は一瞬だけ山を名残惜しげに見上げたが、すぐに肩を落として仲間に続いた。


やがて6時50分。津山行きのディーゼルカーが待っていた。


四人はボックスシートに腰を下ろし、再び旅が始まる。

列車はゆるやかに動き、兵庫と岡山の県境を越えていく。すなわち播磨から美作へ。かつて国境は戦乱の舞台となったが、旅人にとってはただ緑の稜線にすぎなかった。


窓外では清流がきらめき、朝の光を受けて銀色の帯のように流れていく。曇り空の切れ間から陽が差し、天気は着実に回復している。


楓花は窓際に姿勢を整え、スマホで時刻表アプリを確認した。数字と線路網を追う指先は迷いがなく、その様子は地図を読むより自然に見えた。それでも車窓の風景を逃さない。冷静さと器用さの同居した動作だった。


「ほんま、楓花は頼りになるわ」

ひまわりが素直に笑う。


「頼られるのは悪くありません。ただ、間違えると意味がないので、慎重になるだけです」

楓花の声はいつもの理屈っぽさに、わずかな責任感が混じっていた。


列車は林野駅へ差しかかる。駅舎は簡素だが、地方駅の風情を残している。

ホームから駅舎への通路が妙に長く延びていた。


「線路跡ですね。あの不自然な長さが証拠です」

楓花が即座に指摘する。


「なるほど……そういうところにも、歴史が残っとるんやね」

桜は静かに頷く。


観光看板には「湯郷温泉」の文字。ひまわりが見逃すはずがない。


「お、温泉あるやんか!」


「温泉までは徒歩三十分だね。残念だけど、今回は無理だよ」

楓花は淡々と結論を述べる。

ひまわりがしゅんとすると、その表情を見てわずかに口元がやわらいだ。


列車は山間を抜け、視界は開けていく。田畑、家々、盆地の穏やかな広がり。朝の曇天はすでに晴れ、光は力を増していた。


東津山駅を過ぎる。かつて交通の要衝だった名残を、広いホームや線路跡が静かに物語っていた。


それでも列車は一定のリズムで進み、郊外の町並みが近づく。

住宅、学校、コンビニの看板——山あいの静けさの向こうに、生活の匂いがゆっくりと満ちてくる。


7時52分。定刻どおり、津山駅に到着した。

ホームに降り立った四人の胸を満たしたのは、新しい町への期待と、これから始まる一日の旅路に対する静かな高揚だった。

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