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- 15 - 佐用の夜

高速神戸>>山陽明石>>明石港>>岩屋港>>淡路IC>>洲本IC>>洲本>>志筑>>竹屋>>伊弉諾神宮前>>高速舞子>>舞子公園>>山陽姫路>>姫路>>播磨新宮>>新宮駅前>>山崎>>一の宮伊和神社前>>山崎>>龍野>>龍野橋東詰>>竜野>>播州赤穂>>相生>>上郡>>佐用【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

21時52分。智頭急行の列車は静かに減速し、佐用駅のホームに滑り込んだ。


コンクリート造りの駅舎を抜けた四人は、思わず息を呑む。あたりは闇に沈み、駅前通りに人影はなく、出雲街道沿いの商店街はすべてシャッターが下りている。

通りを挟んだ佐用町役場さえも真っ暗だった。


「……ほんまに、何も灯りないなあ」

ひまわりがぽつりとつぶやく。


「これぞ、地方の町の夜って感じやね」

桜は肩をすくめた。


ただ幸いなことに、駅前すぐに宿があった。木造二階建ての建物で、看板の明かりだけが心細げに灯っている。宿泊施設というより、小さなイベントや打ち合わせのスペースを兼ねているような雰囲気だ。

桜があらかじめ予約していた宿で、本来のチェックインは21時頃までらしい。しかし列車の都合で間に合わないと分かっていた桜が、電話で無理をお願いし、特別に受け入れてもらっていた。


「ほんとに駅の目の前ですね」

楓花が感心したように言う。


「商店をリノベーションした建物だね」

カメリアが淡々とつぶやいた。


玄関を入ると、小さな受付に管理人が待っており、簡単な説明を済ませるとすぐに姿を消した。

どうやらここは、夜になるとスタッフが不在になる仕組みらしい。

鍵はリモコンキーで、必要最低限ながら整然とした設備がそろっていた。宿泊客は自分たちだけとのことだった。遅い時間まで待っていてくれたことを思うと、四人は少し申し訳なさを覚える。


案内されたのは二階の和室。八畳ほどの広さに文机と小さなテレビ、せんべい布団を四組敷けるスペースがあった。畳の香りがほのかに漂い、急な階段とあわせて、どこか懐かしい田舎の家を思わせる。


荷物を置くと、四人はすぐに食料調達に向かった。宿の裏を流れる佐用川を渡った先に、深夜まで営業しているコンビニが一軒だけぽつんと光を放っている。


「せっかくの旅先やのに、結局コンビニ弁当かぁ……」

ひまわりが弁当棚を眺めて嘆息する。


「見ての通り、駅前は真っ暗やし、選択肢はこれしかないんよ」

桜が肩を竦める。


「途中で駅弁を買っておけばよかったかな」

カメリアが静かに指摘する。


「まあまあ。今は腹が満たされればそれでいいです」

楓花はおにぎりと缶のお茶を手に取った。


それぞれ弁当や惣菜を買い込み、再び宿へ戻った。


一階の共有スペースには木のテーブルと椅子が並び、簡易キッチンや冷蔵庫もある。四人は自然と同じテーブルを囲み、買ってきたコンビニ弁当を広げた。


「じゃあ、一日目お疲れさま」

桜が声を上げる。


「かんぱーい!」

ひまわりが缶のお茶を掲げ、他の三人も笑ってそれに倣った。


弁当を口に運びながら、今日の移動を振り返る。


「早朝に神戸を出発して、明石海峡を渡り淡路島へ。洲本城、伊弉諾(いざなぎ)神宮。それからまた明石海峡をバスで戻って、播磨の伊和神社、龍野城、赤穂城。で、ようやく佐用で宿泊」

楓花が理路整然とまとめる。


「途中で明石城、姫路城も見たしな」

桜が笑いながら返した。


「城と神社づくしやわ。ほんま、疲れたわ〜。明日はもう、神社ばっかりはええから、温泉行きたいな」

ひまわりが提案する。


「“全国一宮と世界遺産をめぐるフィールドワーク”が今回の旅のテーマ……いちおうね」

カメリアが淡々と指摘する。


「忘れとったわ」

ひまわりが即答して笑いを誘う。


「明日からは、いよいよ青春18きっぷを使いますよ」

楓花が楽しげに言った。頭の中で鉄道の接続を組み立てている様子だ。


「カメリアさんの話、聞いとったん?」

桜が楓花を軽くたしなめる。


会話は絶えず、笑いも混じった。けれど時計の針が23時を回ろうとする頃には、さすがに疲労の色が濃くなってきた。


「そろそろ順番にシャワー浴びよか」

桜が提案した。


浴室はシャワーボックスだけだが、掃除が行き届き清潔だった。順番に汗を流し、湯上がりのすっきりした顔で共有スペースに戻ってくる。


最後に上がってきたカメリアが、濡れた髪をタオルで拭きながら小声で言った。

「十分だね」


四人は部屋に戻り、布団を並べて横になる。畳の上に敷かれたせんべい布団は薄いが、下には電気カーペットが敷かれ、じんわりと温かい。


「なんか修学旅行思い出すなあ」

ひまわりが天井を見ながら笑う。


「確かに」

桜も頷く。


「でも明日はまた、長い移動になりますよ」

楓花が冷静に告げる。


「今日は……ここまでだね」

カメリアは短く言い切り、布団を頭までかぶった。


自然と笑いが収まり、四人は静かに目を閉じる。外は相変わらず闇に沈んでいたが、川のせせらぎが遠くに聞こえるような静けさがかえって心地よかった。


こうして旅の一日目は、ゆっくりと幕を下ろした。

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