- 14 - JR赤穂線・山陽本線と智頭急行 播州赤穂駅~上郡駅~佐用駅
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20時32分。JR播州赤穂駅のホームに停まっていた新快速野洲行が、警笛を鳴らして扉を閉じた。
四人を乗せた列車は、赤穂線の沿線を闇に沈めながら滑り出す。窓外に広がるはずの景色は、真っ暗な夜に包まれ、遠くの住宅地の灯りが小さく瞬くだけだった。
「夜の車窓……真っ暗だね」
カメリアがぽつりと漏らす。声は低く、感情は淡い。
「そのぶん、静かで旅っぽいんよ」
桜は窓に顔を寄せ、ぼんやりと外を眺めた。歴史のことを考えつつ、闇に潜む町の息づかいを感じ取ろうとしているようだった。
列車は定刻通り20時43分、相生駅に到着。四人は階段を駆け下り、山陽本線のホームへと急ぐ。そこにはすでに岡山行の列車が静かに停まっていた。
「次は21時10分、上郡ですね」
楓花が短く告げる。そして小さな溜息をつきながら、
「青春18きっぷじゃないので途中下車できません。ここで足止めですね」
と、不満を漏らした。
接続待ちの25分があれば、駅前を少し散策できるかもしれない。
少しでも時間を有効に使いたいところだが、正直なところ相生駅の周囲にはホテルくらいしかなく、この時間に目立ったものがあるわけでもない。そう考える楓花の表情は、計算高くもどこか諦めたようだった。
「駅の外、出たらコンビニくらいあるんやねんけどなあ」
ひまわりが肩をすくめて笑う。駅構内のコンビニはすでに閉まっていた。結局、四人はホームのベンチで時間をやり過ごすしかなかった。
「上郡ってことは、智頭急行に乗り換えるのかな」
カメリアが静かに確認する。
「そうなんよ」
桜が答え、
「そういう旅程なんですね」
と楓花も続けた。静かに、しかし確実に旅程は進む。
20時58分、列車は相生駅を出発。二駅の短い区間、窓の外は闇に沈み、車内の蛍光灯に照らされる自分たちの顔だけが映る。揺れに身を任せ、四人は思い思いの沈黙を味わった。
やがて21時10分、上郡駅に到着。四人はホームに降り立ち、改札を抜けると、せっかくなので駅前へ出てみることにした。夜の空気はひんやりと冷たく、街灯が数本立つだけで、店も人影もない。
「……ほんまになんもないなあ」
ひまわりが呆れたように見回す。
駅前の片隅、案内板に「白旗城」と記されているのを見つけ、ひまわりが声を上げた。
「お、“白旗城”って書いてあるで! これ、有名なん?」
桜は目を輝かせ、説明する。
「赤松則村の山城なんよ。新田義貞の軍に攻められても、よう耐え抜いた堅城やね」
「……則村? 義貞? 誰それなん?」
ひまわりは首を傾げる。
カメリアが短く補足する。
「赤松則村……“円心”と呼ばれた武将だよ。足利尊氏が挙兵したとき、味方した一人だね。新田義貞は後醍醐天皇に従った武将なのかな」
「円心? もう、歴史の授業は勘弁してほしいわ~」
ひまわりは両手をひらひらさせ、案内板から離れた。
四人は笑いながら駅に戻り、智頭急行の改札を通った。
21時29分発、大原行がすでに停まっている。赤と白の塗装が蛍光灯に映え、静かに息を潜めていた。
「智頭急行って? JRとは違うんやねん?」
ひまわりが首をかしげる。
楓花は待ってましたとばかりに説明を始めた。
「もともとは国鉄智頭線として計画された路線でしたが、民営化後に第三セクターとして建設されたものです。山陰と関西を結ぶ新しいルートですね」
「へぇ~、さすが解説係なんよ」
桜が笑う。
四人は車内に腰を下ろす。発車時刻になると、列車は静かに走り出した。
智頭急行の線路は、ずっと高架とトンネルが続き、直線的に伸びていく。
窓の外は深い闇に沈み、映るのは自分たちの顔と、停車駅ごとに浮かぶ駅名だけ。
小さな揺れと規則正しい音が、車内に淡く響いていた。
しばらくして、ひまわりが指を差す。
「見てみ! “河野原円心”駅やって! “円心”って、さっき出てきたやつやん!」
「そう。赤松則村の法名だね」
カメリアが頷く。
法名とは、仏法に帰依した証として授けられる名前で、他宗の「戒名」にあたる。
こういう知識を、彼女はさらりと口にする。
「さすが円心なんよ。今も地元で慕われとるんやろね」
桜も微笑む。
昼間なら、ここから白旗城の影が見えただろうが、夜はただ闇が広がるだけ。
城好きの桜には少し物足りなかった。
「ふ~ん……まあ、有名なんは分かったわ」
ひまわりは眠たげに目をこすった。
「駅名に人物名がそのまま使われているのは、意外と珍しいのですがね」
楓花がつぶやく。
列車は闇を抜けて走り続け、やがて時計の針は21時52分を指す。
「佐用、佐用」
車内アナウンスが流れ、列車は静かに減速してホームに滑り込んだ。
楓花は腕時計をちらりと見て、口角をわずかに上げる。
「予定どおりですね」
「……またその笑みなんや」
ひまわりが小声でつぶやいた。
四人は夜の佐用駅に降り立ち、肩の荷を下ろすように深呼吸した。
今夜はここで宿泊。
疲れた体を休め、明日以降の旅に備えるため、短い静かな夜が始まろうとしていた。




