- 13 - 赤穂城
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19時24分、新快速は定刻どおり播州赤穂駅に滑り込んだ。
扉が開くと、海に近い町特有の湿った夜風が、四人の頬を撫でていく。潮の香りを含んだ風は、昼間の喧騒を遠ざけ、落ち着いた空気を漂わせていた。
駅舎の階段には、赤穂事件で名高い赤穂四十七士を描いた「誠忠義士伝双六」が飾られている。
駅を出ると町は夜の顔に変わり、控えめな街灯が通りを照らす。飲食店や居酒屋の灯が点々と浮かんでいた。
歩道を進むと、道端に並ぶ「あんどん」が目に入った。白地の木枠に義士の姿が描かれ、ぼんやりと闇に浮かび上がる。
「……真っ暗やのに、よう歩くわ」
ひまわりが肩をすくめ、小声でつぶやいた。
「でも、“義士あんどん”やで。赤穂浪士の姿が見えるなんて、壮観やん?」
桜は足取りを緩めず、目を輝かせる。歴史好きの彼女にとって赤穂は憧れの地だ。
さらに南へ進むと、三の丸の大手隅櫓と櫓門が姿を現した。石垣の上に立つ白壁は夜の闇を背景に淡く浮かび、街灯に照らされてほのかに輝く。昼とは違う幻想的な趣があった。
「わあ……すごい。夜の城って、昼より雰囲気あるかもしれん」
ひまわりが目を輝かせ、思わず足を止めた。
楓花は溜息混じりに言う。
「桜、明日も朝から予定ぎっしりやのに……。こんな暗い中で城攻めとはね」
「だって“日本100名城”やで。見ないなんてあり得へん」
桜の口調は熱を帯びる。
カメリアは肩をすくめる。
「まあ、桜が見たいなら付き合うけど……私は地図で位置が確認できれば十分だね」
「私は完全に付き合いやけどな」
ひまわりも微笑んで応じる。
四人は櫓門を抜け、本丸へ続く石畳を進む。白壁と水堀がうっすら見えるが、本丸門は重厚な木の扉を閉ざし、長方形の枡形を守っていた。
案内板には「開園時間9時~16時30分」とあり、夜間立ち入りは不可能だ。
「やっぱり閉まってるか……」
桜は名残惜しそうに手を添える。
「当然やろ。こんな時間に開けてたら危ないわ」
ひまわりが即座に突っ込む。
「でも、外から見られただけで十分だね」
カメリアは静かに言う。桜の瞳には扉の向こうの景色が広がっていた。
仕方なく引き返すが、桜の勢いは止まらない。
「せっかくだし、大石神社にも行こうや」
「えっ、まだ行くん!?」
ひまわりは半ば悲鳴を上げる。
「もうホテルで休みたいわ。ご飯もまだやし」
「だって大石内蔵助を祀る神社やで。赤穂に来て参拝せんなんなんて……」
桜の熱意に、楓花は呆れ顔で返した。
「桜の予定詰め込み病、ほんまに重症やな」
楓花は肩をすくめ、さらに言葉を続ける。
「それと、ひまわりに残念なお知らせ。今日は、まだ赤穂で終わらへんで」
「……鬼や」
ひまわりがぽつり。
薄暗い街灯に導かれながら参道を歩く。
昼なら参拝客で賑わうはずの道も、今は人影なく静まり返っている。やがて鳥居が見えてきたが、社務所の灯は消え、境内は閉ざされていた。
「残念、やっぱり閉まってるね」
桜は鳥居の前で立ち止まり、唇を噛む。
参道脇に並ぶ義士の石像は暗闇の中でおぼろげに浮かび、ひまわりには幽霊の群れにしか見えなかった。
「まあ、こんな時間やし。お化けでも出そうやな」
ひまわりが冗談めかして言い、場を和ませる。
「でも、夜の神社って……これはこれで趣があるわね」
カメリアは鳥居越しに闇を見つめ、静かに言葉を落とした。
「そろそろ限界や。駅に戻るで。急げばからくり時計に間に合う」
楓花が呼びかけ、桜も踵を返す。
「からくり時計?」
ひまわりが問いかけながらも足を進める。
四人は小走りで夜道を急ぐ。背後に櫓門が淡く浮かび、楓花は三人をせき立てた。駅へ戻る途中、からくり時計の広場に到着する。
「よし、間に合った」
楓花が小さく喜ぶ。
数名の観光客が集まり、からくり時計“義士あんどん”は20時ちょうどに動き出す。
音楽が流れ、人形が現れ、忠臣蔵の「松の廊下」や「はやかご」「勝どき」の場面がナレーション付きで再現された。
「これだけでも、赤穂に来た価値あるね」
桜が小さくつぶやく。
「さて、急ぐよ。電車に遅れる」
楓花は余韻を切り上げ、赤穂駅へ進む。
「そこまで詰め込まなくても……」
珍しくカメリアが不満をこぼす。
四人は歩を速め、赤穂駅に戻る。ホームには20時32分発の新快速野洲行きが待っていた。
「はあ、はあ……」
ひまわりが息を切らし、座席へ倒れ込む。
楓花は時間に間に合ったことを確認して、にやりと笑った。




