- 12 - JR山陽本線・赤穂線 竜野駅~播州赤穂駅
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すでに日は沈み、空の端にはわずかに名残の朱色が残るだけだった。
町並みは夜の顔に変わり、家々の窓明かりや街灯がぽつぽつと浮かぶ。窓外に映るのは、闇に滲む光ばかりである。
18時48分の定刻から少し遅れて、バスは竜野駅前のロータリーに滑り込んだ。
薄暗い駅前広場は、照明に照らされた舗道と植え込みがあるだけで、人影はまばらだ。
地方駅らしい落ち着きが漂っていた。
JR竜野駅の駅舎は、城の雰囲気を模した新しい建物で、大きなガラスから漏れる蛍光灯の光が夜の闇を押し返している。人工的な光が、かえって闇の深まりを強調しているようでもあった。
「……なんか、思ったより静かやねん」
ひまわりがぽつりとつぶやく。
その視線の先、ロータリー奥には「カラアゲ研究所」と書かれた看板がぽつりと光っていた。
冗談めいた名前だが、煌々とした電灯に照らされ、そこだけ小さな賑わいを保っている。
「なんやあれ、“研究所”? からあげの?」
ひまわりは目を丸くした。
「お店の名前のようだね。揚げ物を研究しているわけではなさそうだけど……少し変わっているよ」
カメリアは肩を竦め、静かに言った。
「電車の出発まで、時間あるよね?」
ひまわりが期待を込めて振り返る。
「十九時七分発。まだ少し余裕があります」
楓花は腕時計を見つめながら淡々と答えた。
ひまわりは顔を輝かせ、ふらふらと店先へ引き寄せられるように歩く。
小さな窓口からオーダーを告げると、奥から油のはぜる音が響き、香ばしい匂いが夜気に混じって漂ってくる。
数分後、白い発泡容器に盛られた揚げ立てのからあげが手渡された。
五個並んだそれは、どれも拳ほどの大きさで、衣はきつね色に輝き、湯気を立てている。
「アツアツや!」
ひまわりは嬉しそうに声を上げ、指先でつまみ上げると熱さに跳ねて手を振った。
「どうせ電車の中で食べるつもりでしょ」
楓花は少し呆れ顔で言うが、ひまわりの笑顔は止まらなかった。
横目で見ながら、桜は駅前の案内板に目を留めた。
「ねえ、ここに“神戸神社”ってあるけど……竜野なのに神戸って名前なんやね?」
「竜野駅のすぐ北側ね。たぶん“かんべ”って読むんだろうけど、字面だけだと“こうべ”と間違えそうだね」
カメリアが地図を覗き込み、静かに言った。
「せっかくだし、行ってみようや。すぐそこみたいやし」
桜は足取りを緩めず、好奇心をにじませる。
「もう……仕方ないな」
楓花は怪訝そうに息をつきつつも、了承した。
四人は急ぎ足で駅舎の北へ向かう。
時刻は19時前。発車まで10分余りしかない。
夜の町は真っ暗で、道を照らすのは街灯だけだ。
闇の中を足早に進み、息を切らしながら辿り着いた境内には、弁財天を祀る小さな社が静かに佇んでいた。
境内には夜の湿った空気が漂い、社殿脇には金運のお守りの売り場が設けられている。
閉ざされたガラス越しに、龍の絵が灯りに浮かび上がり、桜は思わず感嘆した。
「ほんまに龍の絵……竜野にぴったりやね」
もちろん、この時間に売り場は開いていない。
「まあ、仕方ないやね」
桜は小さく笑った。
「そろそろ戻らないと。電車、行っちゃうよ」
楓花は腕時計を覗き込み、わずかに眉を寄せる。
四人は小さな神社に手を合わせ、駆け足で駅へ戻った。
改札を抜け、ホームに立った瞬間、19時7分発の新快速がヘッドライトを光らせて迫る。
播州赤穂行きだ。
息を弾ませたまま四人は飛び乗り、混み合った車内でどうにか並んで腰を下ろす。
列車は闇を切り裂きながら西へ疾走する。
窓外には夜の町の灯りが点々と流れ、やがて相生駅に差しかかる。
ここで路線は山陽本線から赤穂線へ分岐した。
車体が緩やかに曲がると、窓外の風景はさらに暗さを増し、田畑や住宅地の黒い影が続くだけとなる。
「ここからは赤穂線だね」
カメリアがぽつりとつぶやく。
ひまわりは発泡容器を膝に抱え、蓋を開けて湯気と香りを漂わせた。
「このタイミングで食べるからこそ美味しいんや!」
唐揚げを頬張り、熱さに涙目になりながらも満足そうだ。
窓の外には、点々とした灯が流れる。
その合間を埋めるのは濃い闇で、街の輪郭さえ曖昧に溶けていた。
桜はその闇を見つめ、小声でつぶやく。
「ほんまに夜の旅になってきたなあ……」
やがて闇の底から、町並みの光が少しずつ姿を現し始める。
19時24分、列車は終点の播州赤穂駅に到着。
ホームに降り立った瞬間、四人の頬を夜風が撫でる。
階段を上がると、赤穂の町の灯りが穏やかに広がっていた。
海に近い土地特有の湿った風が吹き抜け、どこか遠くへ来た実感を胸に運ぶ。
ここからがまた、新しい物語の始まりだった。




