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- 8 - 神姫バス 一の宮伊和神社前~山崎

高速神戸>>山陽明石>>明石港>>岩屋港>>淡路IC>>洲本IC>>洲本>>志筑>>竹屋>>伊弉諾神宮前>>高速舞子>>舞子公園>>山陽姫路>>姫路>>播磨新宮>>新宮駅前>>山崎>>一の宮伊和神社前【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

16時21分、四人を乗せた山崎行きの神姫バスは、一の宮伊和神社前のバス停を静かに出発した。


黒髪のロングを肩の下で揺らす桜、ミニボブの楓花、銀色から淡い金色に変わる腰までの長い髪のカメリア、茶色のポニーテールを弾ませるひまわり――それぞれの髪型と仕草に個性が表れていた。車内の一列に並ぶ姿は、どこか旅慣れた空気さえ漂っている。


これから再び山崎へと戻ることになる。


沿線には信号も少なく、渋滞の気配もほとんどない。だからこそ、路線バスは時刻表どおりに進むことが多いのだろう。


窓の外には曇り空の光を受けて淡く揺れる揖保川が広がる。午後の柔らかな空気に包まれ、川面は穏やかに反射していた。


バスは道をゆるやかに曲がり、左手には杉と広葉樹が混ざった斜面を抱く河岸が続く。


「ねぇ、あの川、魚おるんちゃう?」


ひまわりが窓に手をつき、目を輝かせた。物怖じしない明るさは、旅の間じゅう場を和ませている。


楓花は銀灰色のスクエア眼鏡をそっと押し上げ、腕時計をちらりと見た。几帳面な気質が、秒針の動きを自然と追わせる。


カメリアは青い瞳を外へ向けたまま、静かに口を開く。


「この川、上流の方は岩が多くてね……流れも複雑なんだ。だから、魚の隠れ場所もたくさんあるのだと思うよ」


どこか講義のようでいて、押しつけがましさのない落ち着いた声音だった。


「へぇー、やっぱりお魚いっぱいおるんやね」


ひまわりが目を丸くすると、カメリアは指で木々の稜線をなぞるようにして続けた。


「林はね、針葉樹と広葉樹がゆるやかに混ざっているの。ブナやイヌブナも、まだ息づいている……。川だけじゃなくて、森そのものが、生き物たちの居場所になっているんだよ」


楓花は流れる景色を見つめ、小さく息を漏らした。


「こういう渓流は流速が速い場所も多いですし、歩くのもかなり大変です。釣りに来る人なら、準備と時間の計算くらいは最低限必要ですね」


理詰めの言い方が、いかにも彼女らしい。


「そやけど、ここまで自然が残っとるんは、やっぱりうれしいやん?」


ひまわりがくすっと笑うと、桜が視線を窓に向ける。


カメリアは穏やかにうなずいた。


「人の手が入らないと森は荒れてしまうけれど……この区間には、まだ“手つかずの静けさ”が残っているね。眺めているだけでも十分に面白いよ」


バスが揖保川を渡ると、彼女はぽつりと続けた。


「そういえば、“揖保”という名は、“粒”の字を“いひぼ”と読むことに始まるらしいよ」


――揖保川の名は、神が川をさかのぼる際、飯の“粒”がこぼれたことに由来するという。播磨の国神・伊和大神と天日槍(あまのひぼこ)の神話の時代の話である。


歴史好きの桜でも、この話題には触れていなかった。


桜は御朱印帳を開き、ゆるく息を吸って窓の外を見た。


「自然の中で、全部がつながっとる感じがするんよ……」


楓花はわずかに口元を緩める。


「今日はもう時間外ですけど……桜が集めているんですし、明日以降もなるべく時間内に着くように計算しておきます」


その声は淡々としていながら、気遣いが滲んでいた。


桜は肩の力を抜き、微笑む。


「御朱印集めはスタンプラリーやないんやし、無理せんでええんよ。まあ……そう言ってくれるんはありがたいけどね」


一宮の数をざっと数えると、旧国の数は淡路国や播磨国をはじめ六十八国。つまり、一宮も六十八か所。しかし、一国に必ず一か所とは限らず、複数の一宮を名乗る神社もある。


――どの神社を一宮とするか、国が統一的に定めた資料は残っていない。自称の一宮もある。どこを割り切るかは、桜と楓花が相談しながら決めていくしかない。


「見て見て、水の流れが模様みたいや」


ひまわりが指を伸ばす。


カメリアは横顔をほんのり和らげた。


「自然の造形って、いつも予想もしない美しさを見せるものだね」


桜は御朱印帳を閉じ、静かにうなずく。


「ここに来るとね、御朱印もただの収集やなくて……道のりごと残る記録になっとる気がするんよ」


楓花は前方へ視線を向けた。眼鏡の奥で琥珀色がわずかに揺れる。


「旅の楽しみ方は人それぞれです。どうやって目的地へ向かうか考えるのも、その一つですね」


ひまわりは体をひねり、得意げに笑った。


「ほら、バスからも楽しめるんやで。景色を御朱印の一部やと思えば、一緒に歩くんも悪くないやん。まあ、そろそろ名物食べたり、温泉にも入りたいけど」


三人も自然と笑顔になる。


やがてバスは山崎の市街地に入り、川沿いの静けさとは対照的に家々の影が近づいてきた。


カメリアは最後まで窓外を見つめながらつぶやく。


「自然も人も……記録も、どこかで響き合っているんだね。曇り空の午後の川沿いを行く、この静かな旅も」


16時41分。バスはほぼ定刻どおりに終点・山崎のバス停に到着した。

降り立った四人は、川のせせらぎと湿った土の匂いを胸に、次の目的地へと歩き出した。

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