- 6 - 神姫バス 山崎~一の宮伊和神社前
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山崎の町は、周囲を山に抱かれた小盆地に広がっている。
揖保川がその脇を流れ、曇り空の下で鈍い光を返していた。町並みは商店と住宅が混じり合い、地方の中心としての顔と、山里の落ち着きを併せ持っている。
神姫バスが山崎の停留所に到着したのは、ほぼ定刻どおりの14時55分。次の便まで15分しかない。
四人が停留所近くで一息つこうとしたとき、楓花がスマートフォンを覗き込み、小さな声を上げた。
「……徒歩三分で、“しそう夢鉄道”という鉄道ジオラマ館があります。時間は十五分しかありませんが、五分でも見に行く価値はあるはずです」
その瞬間、彼女の目は輝いた。普段は冷静沈着に見える楓花も、鉄道となれば話は別である。
桜も即座に頷いた。
「ふーん。短い時間でも、足を運ぶ価値はあるや」
しかし建物の前に立ち、入口を見ると、そこには小さく「入館料四百円」と書かれていた。ひまわりが目を細めて苦笑する。
「入館料か……。時間も短すぎるし、うちはパスやねん」
カメリアは黙って肩をすくめる。無言の態度には、これ以上予定を詰め込み過ぎることへの半ば呆れた思いが滲んでいた。
結局、館内に足を踏み入れるのは桜と楓花だけだった。
町屋を改装した建物の内部は、宍粟の名を冠する鉄道ジオラマで満たされていた。宍粟には現実には鉄道は走っていない――だからこそ、この「夢鉄道」という名に、地域の人々の想いが込められているのだ。
ミニチュアの線路を列車が駆け抜け、街並みや山、川を縮小した風景は、宍粟に鉄道がもし存在していたらという“もう一つの現実”を描き出している。
楓花は釘付けになった。走る列車を目で追い、信号機や車両基地の細部にまで注目する。
「これ、思ったより本格的です……。五分でも十分、価値ありますね」
桜も嬉しそうに頷いた。歴史に関心を寄せる彼女だが、鉄道の魅力にも自然と目を奪われる。
「ほんまやね。歴史ばかりやと思っとったけど、鉄道も面白いわ」
館内を一巡する間、ひまわりは入口付近で時間を気にしながら待つ。
「ほんま、詰め込みすぎやで……」と小声で漏らし、カメリアは淡い微笑を浮かべつつ無言で立っていた。
五分足らずでの鑑賞はあっという間に過ぎ去り、桜と楓花は後ろ髪を引かれる思いで館を出る。
四人は急ぎ足で停留所へ戻った。ちょうど間に合った安堵の吐息とともに、待機していた神姫バス・エーガイヤちくさ行きのバスに乗り込む。15時10分、車内はゆっくりと動き出した。
窓外の揖保川は相変わらずゆったりと流れ、堤防の緑が柔らかく車窓を染める。曇天の光に水面は鈍く反射し、カモが泳ぎ、アオサギが静かに佇む姿が点景として散らばる。
ひまわりはつい窓に顔を近づけ、川面に揺れる光と水鳥の動きを目で追った。
「“エーガイヤ”って、どんな意味なんやろな?」
ふとバスの終点の名前が気になったようだ。
楓花はスマートフォンで調べる。
「温泉とフィットネス、それにレストランを備えたふれあいサロンのようですね」
ひまわりは目を輝かせる。
「ここにも温泉があるんか……ちょっと入りたいな。無理やろけど」
桜は次の目的地、播磨の一宮・伊和神社に思いを巡らせる。
「ここまで鉄道にバスと乗り継いで、ようやく一宮、伊和神社ね。本来は車で行くような場所やし」
ひまわりが問いかける。
「一宮って、淡路で行った伊弉諾神宮と同じとちゃうん?」
桜は静かに答える。
「そうやね。昔は国ごとに一番格式の高い神社を一宮って呼んどったんよ。今の県とは区画が違うけど、地域の信仰の中心やったんやね」
カメリアがそっと付け加えた。
「一宮の名は、国司が巡拝する順序に由来していると書かれていたの…かしら。今では、神は平等なはずだけれど、第一の神社としてその名を残しているのだろうね」
桜は目を丸くしつつ感心した。
「よく神社のことも知っとるんやね」
楓花は頷きながらまとめる。
「つまり、この旅は、鉄道を使って全国に散らばる一宮を巡るということですね」
鉄道は一宮を巡るための手段であるはずなのだが、彼女にとっては、その手段こそが第一であった。まさに主客転倒というべきことである。
曇り空の揖保川を横目に、バスはゆるやかに曲がりくねった堤防沿いを進む。川岸には草花が彩りを添え、カモやアオサギの姿が静かに点景として溶け込む。四人はそれぞれの目で、景色と歴史の時間を心に刻みつつ、次の目的地への到着を待った。
15時28分、バスは一の宮伊和神社前に到着する。降り立った四人は、伊和神社へと足を踏み出した。




