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- 2 - 姫路

1日目

高速神戸>>山陽明石>>明石港>>岩屋港>>淡路IC>>洲本IC>>洲本>>志筑>>竹屋>>伊弉諾神宮前>>高速舞子>>舞子公園>>山陽姫路【桜、楓花、カメリア、ひまわりの現在地】

13時01分、山陽電鉄の特急列車は終点の山陽姫路駅に滑り込んだ。車内のざわめきに混じって立ち上がる四人。改札を抜けると、そこは山陽百貨店の二階に組み込まれた駅構内だった。

商業施設の一角にある駅舎は天井が低く、やや古めかしい雰囲気を残しているが、通路の先から差し込む外光が明るさを与えていた。


「ふぅ、ここで乗り換えやな」

桜は黒髪のストレートを軽く揺らしながら、地図を見るふりをしてJR姫路駅方向に足を向けた。常に微笑を浮かべるその横顔は、冗談を仕掛けるときと同じ柔らかさを含んでいた。


楓花は、眼鏡のレンズを光らせ、にやりと笑う。

「連絡デッキで直結。階段なしでJR姫路駅まで行ける」

カメリアは静かに付け加える。

「人の流れに無理はないわ」


連絡デッキから下を見下ろすと、大手前通りが真っ直ぐ姫路城へと伸びていた。

整然と並んだ並木通り。休日らしく人通りも車の往来も多い。

神姫バスの、淡いオレンジを基調して、白や赤のラインが入った車体が、いくつも見える。

駅から城まではおよそ1.5キロ、徒歩で20分ほどの距離だが、遠く正面に白鷺城の輪郭がしっかりと見える。


五重の大天守と三つの小天守が優雅に連なり、白漆喰の壁は曇天を背景に柔らかく光を反射していた。。


「……おお」

ひまわりが立ち止まり、口を丸くする。遠目越しでも、城の威容と美しさが十分に伝わってくる。


桜が視線を外さずにぽつりと呟く。

「何度見ても……やっぱり完成度高いなぁ」


「桜、感動してんの?」

楓花が片手を腰に当てて、軽くからかうように言った。


ひまわりもそれを見て、肩をすくめつつ微笑む。

「ほんま、好きやなぁ」


桜は目を輝かせながら少し笑い、「うるさいな」と小声で返す。

普段はからかう側の桜が、城への興味を向けすぎて、軽く突っ込まれる形になった。


楓花は片手を顎に添えて、めずらしく桜の前で城について語る。

「日本100名城、現存十二天守のひとつ。国宝で、世界遺産。まさに肩書のオンパレードだ」


桜はくすっと笑いながら首を傾げる。

「ふーん? そうやな。こうして遠目で見ても迫力あるし……何度見ても飽きんわ」


「角度によってもバランス崩れんし……やっぱり計算されとるな」

楓花も目を細める。


「真正面の構図は整っているの。大天守と三つの小天守の連立天守を、渡櫓がつなげて全体の均衡を保っているわ」

カメリアが、まるで近くで見ているかのように、淡々と付け加える。その目には感情の揺らぎは乏しいが、観察の深さは誰よりも確かだ。


実際に駅から見える小天守は、西小天守と乾小天守。残りの東小天守は、大天守の裏に隠れているが、それは知識と想像力で補うことができる。


「確かに、どの角度から見ても絵になるけど……」

ひまわりがうなずき、「でも駅からでもこれだけはっきり見えるんやね。近くまで行けたらもっと迫力あるんやろな」と素直に感想をこぼす。


桜は視線を外さずに言った。

「行きたいけど、今日は時間が足りん。城まで行くとなると往復で四十分やし


「うん。だから見てるだけで我慢やな」

楓花が軽く手を広げて同意する。

回数は違えど、4人全員が訪れている姫路城。

今回は遠目越しで城をみるだけの計画とした。


桜がカメラを下げて言う。

「そういえば、この駅ビル、夜は巨大なパネル照明が点灯するんや。昼とはまた違う雰囲気で、見応えあるで」


「へぇ、知らんかったわ」

ひまわりは首を傾げ、夜景の姿を想像してわずかに目を輝かせた。


四人はその場にしばし佇んだ。数分ほどの短い時間だが、JR姫路駅の駅ビルの半地下に設けられた石垣をイメージした空間は、自然の緑や開放的な構造と相まって街並みに溶け込んでいた。


そして駅の外に目をやると、大手前通りの正面、その突き当たりに姫路城が姿を現していた。白漆喰の天守は、街を見守るかのように堂々と立っていた。


やがて楓花が腕時計を見て口を開く。

「……さて、そろそろ移動せなあかんね」

乗り換え時間はそれほど長くない。


名残惜しげに桜がファインダーを下ろし、カメラをそっと手に持ち直す。ひまわりが「また来ればええやん」と笑うと、桜は静かに「そうやね」と応えた。


JR姫路駅の駅舎はガラス張りで洗練された印象を受け、広々としたコンコースが旅人を迎え入れていた。兵庫県西部の交通の要衝でもあり、新幹線や山陽本線、姫新線、播但線が行き交う鉄道の要衝となっている。


「こっちは近代的やねん。明るくて開放的やわ」

ひまわりが感想をもらす。


「姫路駅の整備計画を読んだことがあるの。高架化によって、在来線の駅ビルも駅周辺も大きく変わったわ。姫路の新しい顔を目指しているのかしら」

カメリアが淡々と語る。


「そうそう。2008年に工事は終わっとるけど、周辺の開発はまだまだ続くみたい」

鉄道マニアの楓花が、軽く対抗心をのぞかせつつ補足する。


桜が改札で切符を確認し、楓花が横で小声で計算する。

「……舞子から播磨新宮まで、JR一本やと1170円だけど、今回は山陽電鉄経由で1200円。30円高いけど、18きっぷはまだ使えへんし、JRを使うと損した気分になる。車窓の景色も楽しめる分、こっちの方が得」


「え、細かいとこまで考えてるん?」

ひまわりが笑う。


桜は肩をすくめて、「ねぇ、旅は損得じゃなくて楽しみでしょ」と静かに言った。


13時25分発の播磨新宮駅行きに乗り込む時間が近づいていた。四人は視線を前に戻し、それぞれの思いを胸に、次の目的地へ向かう準備を整えた。

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